終戦70年・日本敗戦史(71)大東亜戦争開戦の「朝日,毎日新聞紙面」-「その朝、ラジオは軍艦マーチ高らかに」「株式相場は買い一色」
2015/05/04
終戦70年・日本敗戦史(71)
大東亜戦争開戦の「朝日,毎日の新聞紙面から」ー
「その朝、ラジオは軍艦マーチ高らかに」「株式相場は買い一色」
「全国に防空実施を下令」「汪兆銘、日本と協力の決意表明」
「その朝、ラジオは軍艦マーチ高らかに」〔1941年(昭和16)12月9日東京日日(夕刊)〕
いつもの朗らかな朝のラジオ体操のメロディに代わって、八日朝のラジオは歴史的な重大ニュースを聴取者たちに送った。午前七時、同十八分、同四十一分、八時三十分……とひっきりなしに、
「大本営陸海軍部発表」
と緊張した放送員の声が朝の.食膳におくられ、また出勤途次のサラリーマンの耳を打った。
「いよいよ始まった!」決意はきまっていても、国民の感慨はまた
新しいものがある。「スイッチは切らないでそのままお待ち下さい」 -緊張の連続である。ニュースとニュースをつなぐ音盤放送も「軍艦マーチ」「愛国行進曲」など勇ましいメロディばかり、二億国民の士気はいやが上にも鼓舞された。
AKの活躍
電波陣をがっちりとひき受ける声の殿堂、日本放送協会AKでは1階上に戦時放送本部を特設、伝令は放送スタジオと本部との間を飛ぶように走る。臨時ニュースは刻々に放送されるのだ。「いまからでも遅くはない」の名瀬子で謳われた「兵に告ぐ」の中村元放送員(現告知課長)も、きょうは1放送員に返って詔書捧読放送に活躍、勇壮なる行進曲のレコードはレコード室から全部動員され、放送の合間合間にかけられる。
見えざる近代戦の花形武器として縦横に活躍する海外電波の国際部では午前七時、日、独、伊、英、仏、支、タイの七ヵ国語を以って大本営発表を東亜共栄圏、欧洲に向け放送、続いせ中南米1北米全土、ハワイと次々に爆撃電波を送る。J・Z・I・J・Z・-と米国に呼びかける放送員の呼出符号の口調も、身のひきしまる思いだ。(中略)
沸き上がる万歳の連発
開戦の詔書が渙発された八日昼の本社前は、次々に貼り出される特報に群衆が去りもやらぬ混雑振り、青バス、市バスも立ち往生の雑沓だが、だれの表情も隠忍に隠忍を重ねた国民的鬱憤がこのハワイの爆撃行となったかのように、「我慢していれば良い気になって……日本の兵隊は英米のチョコレート軍隊と違うんだ」と口々から洩れる。
突然群集の宙から国民服の「人が躍り出て、「皆さん、戦捷を祝して万歳を三唱したいと思います」と唱導、万歳万歳の声は小春日和の有楽町界隈に轟き渡った。
「株式相場は買い一色」〔昭和16年12月9日 朝日(夕刊)〕
ついに来たるべき秋が来て、太平洋の波涛にこだます戦火の火蓋は切って落とされたので市場は戦時色横溢のうちに立会い開始、万雷の拍手のうちに短期新東株は20銭高の百九円九十銭に寄り付き、あとマバラ買方の利喰い急ぎに八円台を覗いたが、それも束の間、見る見るうちに踏みに新規に買物殺到して、後場に入って買気はますます加わり、ついに前週末より十四円高を演じ百二十四円台へ爆発、全く対策を必要とせぬ・独自の強調振りを示し、つれて雑株も軒並み昂進して、全く場面は様変わりの人気となって、さながら現状打破を歓迎する国威発揚相場の観があった。また生糸市場もわずかに三、四銭安と下渋り、微動だにもせぬ人気を反映していた。
「全国に防空実施を下令」〔昭和16年12月9日 毎日(東京日日)〕
太平洋の開戦に即応し国土保衛の万全を期するため、内務省では八日、直ちに全国に対し現行防空法による防空実施命令を発令した。さらに第七十七臨時議会において決定を見たる改正防空法の施行勅令を数日中に公布、防空実施に対する実費弁償、防空従事員への給与等各種経費を1括し、通常議会に士ハ年度追加予算として提出することに決定した。
これにより全国一斉に防空監視隊を動員、さらに各地方の状況により適宜応急捨置を取り、万全を期することになった。
(大本営陸海軍部発表八日午後一時十分)
本日、必要の区域に防空の実施を下令せられたり。
(大本営陸海軍報道部長談)本日、必要の区域に防空、実施が下命されたが、現下の状況は次のごとくである。
わが陸海軍航空部隊の精鋭は今や勇躍銀翼をつらねて、広く西太平洋方面の広大なる地域に亘り敵空軍艦船施設の徹底的撃滅、破壊を期して果敢なる攻撃を敢行中である。
しかして敵国目下の航空勢力及び航空基地より判断すれば、帝国の中心部はいを直ちに優勢なる敵空軍の空襲を受くる惧れは少なく、その上帝国要地にはすでに完璧の防空陣が配置され、敵機必墜の決意に.燃えている。万全の準備を完了している次第であるが、航空作戦の本質上、時々わが防空陣一の間隙を縫うて敵機の飛来することあるは予期せねばならぬ。
油断は絶対に禁物である。弱敵たるとも侮らず、大敵たるとも恐れない大勇と、来たらざるを恃まず、待つあるを恃の覚悟とが最も肝要である。
敵機襲来の場合は国民各位は厳に周章狼狼を戒め、協力一致、防空準備を整え、冷静沈着に各自の持場を固守して被害を最低限度に食いとめて、敵機の空襲企図を挫折せしめることが肝要である。
とともに一方、長期化すべき対米英戦の本質に鑑み、その勝利への要訣は結局国力の充実にあることに思いを致し、過度の人員配置や必要以上の措置を戒め、当局の指示するところに基づき敵状に呼応し適切、妥当に行動し、もって堅忍持久、未曽有の聖戦目的完遂に真に義勇奉公の誠を致されんことを衷心より切望する。
空襲の用意はいいか、さいはついに投ぜられ、今ぞわが陸海軍の電撃作戦により敵性米英軍膺懲の秋は来たのだ。国民は軍の力に絶対に信頼して銃後を固く固く護ろう。食糧は農林省が万全を期している。府県、市町村の当局も出来るだけのことをしよう。
足らなくとも乏しくとも、国民は軍部と官庁に信頼していっさいの不平を捨てよう。空襲に備える用意はいいか。灯菅の準備は出来ているか。水の用意は、防火の用意は。一国民の一人一人が「時宗」となって、祖国のために戦いかつ
護る時なのだ。
「汪兆銘、日本と協力の決意表明」〔昭和16年12月9日 毎日(東京日日)〕
〔南京本社特電八日発〕
「国民政府は八日、臨時中央政治委員会議を開催、.汪主席以下各委員出席、右会議において汪主席は日・米英開戦に関すみ経過および意義について説明、
国民政府今後の態度につき、日華基本条約並びに日満共同宣言の精神に基づいて、飽くまで日本と難苦をともにすることを、左のごとく中外に闡明した。また国民党も八日、南京、上海においてそれぞれ臨時党大会を開催し、国民政府の指向するこの最高の方策に努力すべく全党員の団結と奮起をはかり、友邦の難苦を相ともに分かつの気概を示した。
日本と英米の間に戦争発生せるも.国民政府は条約を尊重し、東亜新秩序建設の共同目的を実現せんがために、確固不抜の糖神を以って難局に臨むことに決定せり。国民は中国の安危と東亜の安危との不可分なることを認諭し、暫時の困難を忍従し、もって終局目的の貫徹をはかるべし。この時に際し随時、随所、日本と協力し、この目的の完全なる達成を期すべきなり。
現在独伊などの各国は西方に奮闘し、日、清、支三国また東亜共栄のため最大の努力をいたしつっあり。東亜永久和平の前途及び世界和平は既に無限の光明を顕示せり、吾人は国民革命の精神に基づき国父の大アジヤ主義の遺志を遂行し、和平、反共、建国の使命を完成するはこの一挙にあり。
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