前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本敗戦史(55)A級戦犯指定・徳富蘇峰の『なぜ日本は敗れたのか』⑦敗戦の禍機は蘆溝橋事件にある一満州国と日本の関係は・」

      2015/04/10

終戦70年・日本敗戦史(55)

マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る

『なぜ日本は敗れたのか』

 

「大東亜戦争敗戦の禍機は蘆溝橋事件にある一満州国と日本の関係は・・」

<日本の力で満州を統治するだけでも、荷が重過ぎるのに、さらに手を支那(中国)本土に伸ばすなどという事は、もっての外の料簡違い。

蘆溝橋事件では子供に火遊びさせて、火事がおきても、消防する事をせず、手を付けぬままで、大火事を引き起して、それでも平気でいるなどという事は、政治家としては、実に無能力、無責任、無頓着の骨頂である>→(現在の1000兆円を突破する国の債務借金に無頓着なのは,これに似ていないか)

  

前回、15年戦争では一定の計画、一貫したる経論、徹底したる筋書のない事を挙げたが、更らにその例として、挙げねばならぬ事は、1937年(昭和12年7月7日の蘆溝橋の一件である。歴史的にみれば、敗戦の禍機は、正しくここに胚胎している。

私一個の意見では、満洲国は、弱き日本政府、愚劣なる日本政治家、経倫なき日本軍人などの手腕では、むしろ出来過ぎたものと考えた。それで日本のために考えれば、この満洲国を、後生大事に生長させて、ここに大きい日本の国礎、資源を蓄積し、世界の大乱に備えるのが唯一の大策であると考えた。今さら何れの国も、日本から満洲国を取返すというだけの力はない。支那(中国)はもちろんである。

力があるとすれば、ソ連より他にはない。しかしソ連も、軍がくるまでに万里かかる、満洲まで攻め込んで、日本をおい払うには、その後背を衝かれる危険が、十二分にある。今さらソ連も、両面戦争を敢てするほどの大胆さと無法とは持っていない。米英に至っては、おい出したいのは山々であるが、到底、計算に合わない仕事と考え、計算高い彼等なのでば、口ではかれこれ苦情を言い、面倒なことをいうが、事実上は、手をこまねいて、成行を傍観する外はない。

 

諺に「人の噂も七十五日」という事がある。何れの国も、日本が満洲に確固として動かない勢力を築き、植民地とすすることは、既成の事実と、認めざるをえない。

満洲には、石炭はいうまでもなく、鞍山、本渓湖などの鉄の製造も、相当のものである。さらに満洲の水利は、松花江、鴨緑江その他で、すこぶる有望。満洲が農業国としてばかりでなく、工業国になることの資格も、充分備えている。これに加え、北朝鮮と満洲とは、水利、海運は切離せない関係がある。従って、ほとんど手つかずの日本海を、最大限度に有効化し、満洲、朝鮮、日本を一丸として、日本は事実上世界の大国として、なんら恥ずる所はない。それで米英その他のしゃくにさわる干渉やイタズラも、しばらく隠忍して、わが力を養う事が、日本の長期戦略であると考えた。

 「滴洲対策におけるわが宿論」

日本の力では、満州を整理するだけでも、荷が重過ぎるほどである。その地盤が未だ固まらない前に、手を支那(中国)本土に伸ばすなどという事は、もっての外の料簡違い(考え違い)である。しかしその場所にある者は、我が縄張ばかり考えて、一般の釣合などは、一切無頓着である。わが縄張さえ拡張すれば、それでよいものと考えている。これは何れの世、何れの国、何れの場所、何れの時でも、まずこの通りと心得ねばならぬ。それを正しく裁いて取捨し、余るものを削り、足らないものを補い、一般の調子を保って、その釣合を失わないようにするは、当局者の責任である。

故に第一の注意は、間違いなき事である。第二の注意は、かりに間違っても、直ちにこれを打消し、元に引戻すのが、当然の責任である。

ところが子供に火遊びさせて、火事がおきても、これを消防する事をせず、やがては手を付けられぬまでの、大火事を引起して、それでも平気でいるなどという事は、政治家としては、実に無能力、無責任、無頓着の骨頂である。

すでにこの事については、語った事もあるが、私は昭和12年7月7日(蘆溝橋事件の起きた日)から、山中湖畔の別荘に赴き、そこでこの事を聞いて、楽しまざること数日、たまたまま私の別荘と数百歩の近くにある本庄〔繁〕大将の来訪に接し、この事を語ったところ、本庄大将は徹頭徹尾、私と同感で、ただ「大将は、多分これは局部的に、解決がつくであろう」と語り、そのために私も、その事を信じたが、尚な不安の念を、全く去る事は出来なかった。

話は元に戻るが、満洲に当初から、大きな野心を抱いたのは、ロシアであって、その次には米国であったかも知れぬ。支那(中国)は、満洲には別段の関心を持たなかった。日本は、ロシアがこの方面に進出する事を懸念し、征韓論の破裂以前、西郷隆盛は、この方面に池上四郎、別府晋介、樺山資紀、土佐人・北村重頼などを派遣して、調査させた事もあった。まことに、孫文一派の革命派においては、支那(中国)内地より満洲人を、満洲におい戻す事が、先務であって、満洲を利用するとか、開拓する事には、手が回らぬばかりでなく、その心も回らなかったようだ。

私の友人の山本条太郎は、孫文から、何かの交換条件で、満洲全部を日本に渡しても、さしつかえないというような文書をくれたという事であった。つまり日本人が孫文を助けて、満洲政府を一掃し去る時には、満洲は日本の手に入っても、なんら異存はないという事であろう。私はその文書は見なかったが、山本は確かに持っているという事を話した。それで、いずれにしても、黙っていれば、満洲はロシアの物となったに相違ない。ただ日本が日露戦争で、ロシアの満洲占領の熱を、ストップしために、満洲はようやく名義上、支那(中国)の領土の内に存在する事になったのである。

この歴史を知っているわれわれは、日本が満洲に対して、如何なるクレームを持っているかという事、また持ち得るかという事については、充分に自信を持っている。それで日本が、満洲政治に全力を注いで、余計な手を他の方面に、出さずにいたならば、かりに犬の遠吠え位はやまなかっても、積極的に武力を以て、日本と満洲とを争う者は、決してなかったと信ずる者である。そこでまず満洲第一というよりも、唯一という位に、満洲に力を出して、そぞろに世界の変を待つべしというが、私の宿論であった。また宿望であった。ところでこれが根本的に、蘆溝橋事件の1件で、破壊された事は、私にとっては終天極地(驚天動地)であった。

昭和22年1月16日午前、晩晴草堂にて)

 

 - 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」-「日英同盟の影響」⑭ 1902(明治35)年11月8日『米ニューヨーク・タイムズ』 ●日露戦争開戦2ゕ月前『満州を条約をうまく利用して占領、開発したロシア』★『嫉妬深い日本ですら,ロシアの領土支配に武力で立ち向かおうとはしないだろう。ロシアの支配権はそれほど確立しているのだ。』

     ★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟の影響」⑭ 190 …

『世界史を変えるウクライナ・ゼレンスキー大統領の平和スピーチ』★日本を救った金子堅太郎のルーズベルト米大統領、米国民への説得スピーチ」★

    2017/06/23 &nbsp …

no image
終戦70年・日本敗戦史(124)日清戦争(1993)から10年、「侵略をやめない」膨張ロシアと対決、日露戦争(明治37・1904)開戦へ踏み切った

終戦70年・日本敗戦史(124)                   <世田谷市 …

no image
日本メルトダウン( 990)–『トランプ次期米大統領の波紋』● 『[FT]世界貿易の現実に直面するトランプ氏 貿易主導、中国は力不足』★『アジア太平洋情勢:米国と中国のロマンス? (英エコノミスト誌11/19)』●『トランプ次期米政権も南シナ海の「主導権」追求へ、中国が分析』★『トランプ政権が日本に突きつける「2%」の試練』●『コラム:米国でヘイトクライム急増、トランプ氏は何をすべきか』●『迷走する原発事故の賠償・廃炉費用の負担 無責任体制を断ち切り原発を「一時国有化」せよ(池田信夫)』●『君の名は。 タイ、香港でも興収首位 アジア4冠達成』

日本メルトダウン( 990)–『トランプ次期米大統領の波紋 』 [F …

no image
村田久芳の文芸評論『安岡章太郎論」③ 「海辺の光景へ、海辺の光景から』

                                    …

★『Z世代のための日本政治史講座㉒』★『歴代”宰相の器”とな何か!』★『日本の近代化の基礎は誰が作ったのか』★『わしは総理の器ではないとナンバー2に徹した西郷従道』★『なんでもござれと歴代内閣に重宝されて内務大臣三回、海軍大臣七回、陸軍大臣(兼務)一回、農商務大臣などを歴任、縁の下の力持ちに徹し、有能人材を抜擢した』

     2012/09/09 &nbs …

no image
日本リーダーパワー史(839)(人気記事再録)-『権力対メディアの仁義なき戦い』★『5・15事件で敢然とテロを批判した 勇気あるジャーナリスト・菊竹六鼓から学ぶ②』★『菅官房長官を狼狽させた東京新聞女性記者/望月衣塑子氏の“質問力”(動画20分)』★『ペットドック新聞記者多数の中で痛快ウオッチドック記者出現!

日本リーダーパワー史(95) 5・15事件で敢然とテロを批判した 菊竹六鼓から学 …

no image
再録『世田谷市民大学2015』(7/24)-『太平洋戦争と新聞報道』<日本はなぜ無謀な戦争を選んだのか、500年の世界戦争史の中で考える>③

『世田谷市民大学2015』(7/24)- 戦後70年夏の今を考える 『太平洋戦争 …

no image
 世界、日本メルトダウン(1013)- 「地球規模の破壊力示したトランプ」★ペイパードライバ―・トランプ大統領の『無謀運転』がグローバリズムに新たな中国流『万里の長城』を築くというアナクロニズム(時代錯誤)を強行』★『市民の抗議運動に「感銘」、オバマ氏が入国禁止令で声明』●『  トランプの不法移民対策、みずから「壁」にぶち当たる可能性』●『 トランプ政権の黒幕で白人至上主義のバノンが大統領令で国防の中枢に』

   世界、日本メルトダウン(1013)- 「地球規模の破壊力示したトランプ」★ …

『Z世代のための日本リーダーパワー史(380)」★『児玉源太郎伝(3)『 ●『日露戦争でドイツ・ロシアの陰謀の<黄禍論>に対して国際正義で反論した明治トップリーダーの外交戦,メディア戦略に学ぶ』★『<英国タイムズ紙、1904(明治37)年6月6日付記事>』

              前坂 俊之(ジャーナリスト) 『日本は膨張または征服 …