前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『オンライン/2022年はどうなるのか講座➄』★『過去に固執する国に未来を開くカギはない。不正な統計データの上にデジタル庁を築いても砂上の楼閣』★『厚労省の不正統計問題(2019年2月)」は「不正天国日本」を象徴する事件、2度あることは3度ある<ガラパゴスジャパン不正天国病>』★『太平洋戦争中の<ウソ八百の大本営発表と同じ>」★『昭和の軍人官僚が国をつぶし、現在の政治家、官僚、国民全体が「国家衰退、経済敗戦」へ転落中であることを自覚していない』

   

 日本リーダーパワー史(969)記事再録

「厚労省などの統計不正問題」

前坂俊之(ジャーナリスト)

一九四一(昭和十六)年十二月八日午前七時、ラジオで臨時ニュースが流れた。陸軍報道部長大平秀雄大佐が「大本営陸海軍部午前六時発表、帝国陸海軍は今八日未明、西太平洋上において米英軍と戦闘状態に入れり」と緊張した声で読み上げた。真珠湾攻撃の発表でこれが大本営発表第一号だった。

午前十一時四十分には「米英国に対して戦を宣す」との「宣戦の大詔(たいしょう)」が換発された。

こうした大本営発表は太平洋戦争中に計八百四十六回もあった。最初の半年間は戦果や被害の発表はほぼ正確な数字だった。半年後のミッドウェー海戦(1942年6月7日)では虎の子の空母4隻、航空機約300機を失う大敗北を喫したが、損害は空母1隻喪失、同1隻大破のみと過少に発表された。惨敗を隠すため生き残った兵士たちは口封じのために監禁され、激戦地に送り込まれた。これを境に戦局は一挙に敗北に傾き、日本海軍は壊滅したにもかかわらず、ウソ八百の勝利と誇張した戦果を最後まで流し続けた。

太平洋戦争の全期間を通じて、戦果は米戦艦、巡洋艦では一〇・三倍、空母六・五倍など、戦闘艦艇では五・三倍、飛行機約七倍、輸送船は約八倍も水増しした発表が行われた。(富田謙吾著「大本営発表の真相史」自由国民社 1970年)

この結果、国民は大本営発表を信じて疑わず、最後まで戦い続けた。

1945年(昭和20)8月15日敗戦。国土は焦土と化した。この年は冷夏と台風によってコメ収穫量は平年の6割に激減し深刻な食糧難で餓死者が続出した。翌年5月には戦後初めての「食糧メーデー」(米よこせメーデー)が皇居前広場で25万人が集結して開催かれた。吉田茂首相はGHQ(連合軍総司令部)のマッカーサー元帥に食糧物資の援助を要請した。「四五〇万トンの食糧輸入がないと、餓死者がさらに増える」と農林省の統計に基づいて陳情したが、実際は七〇万トンで何とかしのげた。数字のデタラメさに気づいた同元帥が怒ると、吉田がケロッとして答えた。

「わが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、また戦争に勝っていたかもしれない」。これにはマッカーサーも大笑いして、それ以上責めず、食糧放出を認めた。マッカーサーと外交上手の吉田はこれ以来、肝胆相照らす仲になった。吉田首相は大内兵衛(マルクス経済学者、財政学)の「戦後経済復興のためには政府統計の充実が必要だ」とのアドバイスに従って大内を大蔵大臣に起用しようとしたが、断られたため英国流の統計法を制定した。

統計、統計学は英語では「statistics (スタティスティクス)」という。「state(国家) 」の客観的な状態、その国勢を数学的、科学的に調査、分析するのが統計学である。国の政治経済政策、予算の編成、その他、もろもろの政策策定の基礎資料がこの統計データ、ビックデーターなのである。いわば、この情報統計データの正確さがその国の信用性、民主度、国力、経済力、科学技術力、情報公開度などの判断指数となる。世界競争力ランキングからあらゆる分野で順位を低下させている事実、最近連発する企業の不正、大学入試の水増し不正、政府が連発する情報隠し、不正事件の連鎖反応は、この国が先進国から後進国に転落している証拠である

さて、今、国会に目をうつすと「厚労省などの統計不正問題」で大揺れだ。厚生労働省の「毎月勤労統計」と「賃金構造基本統計」に不正、数字のごまかしが見つかり、雇用保険などで、もらうべき金額をもらえなかった人が実に2000万人超という一大事件に発展した。
「毎月勤労統計」の補正に使う基礎資料のうち平成16年から23年分の一部を廃棄・紛失していた事実も判明した。「毎月勤労統計」は賃金や労働時間に関する統計で、調査結果はGDP(国内総生産)の算出にも用いられる重要な政府の基幹統計の一つ。この統計が正確でないと、労働者の賃金の上下や、残業の増減など、いわゆる労働環境の変化について正しくは把握することができない。安倍政権の「アベノミクス」「働き方改革」の評価の根幹にかかわる問題で、その数字がデタラメであったというだから。アベノミクスの信用性はまるつぶれだ 。ところがメンツをつぶされた首相がカンカンに怒って、厳罰にしないのが不思議でたまらない。

 

今回のケースは従業員500人以上の事業所は全数調査をすべきなのに、2004年から東京都だけ一部調査に勝手に変更していた。その場合は通常は調査した割合の逆数を掛けて、全体の数字の合計を復元・膨らまさなければならないのにそれもしなかった。しかも、その初歩的なミスがチェックできず、15年にわたって誤った数字の上に統計が出し続けられたというとんでもないお粗末ぶり。

当該の厚労省統計部局は、10年間で担当職員は約2割削減され、予算縮小と人手不足、経費の削減などが原因と弁明しているが、日本の旧態依然たる政治、官僚制度で政治家、キャリア官僚、中央官僚を含めて全体的に知的劣化、モラル低下がひどくなっている。その背後に政財官(政界、官界、財界)の鉄のトライアングルで、国も国民も「因循姑息」(いんじゅうこそく=古い習慣ややり方にとらわれてなかなか改めようとせず、その場しのぎに終始するさま)して、日本の制度疲労も極限に達している事の表れだ。

このままでは、昭和の軍人官僚が国をつぶしたように、現在の政治家、官僚、国民全体が「国家衰退、経済敗戦」へ転落中であることを物語っている。

 - 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

◎『動画ハイライト!地球温暖化で海は今や死滅寸前,5年前の鎌倉海がなつかしいよ』★鎌倉カヤック釣りバカ日記(2/7)「海上天然生活」イージーゴーイング(easygoing)じゃ、

  2015/02/08 鎌倉カヤック釣りバカ日記 …

日本リーダーパワー史(533)安倍首相は「土光臨調」で示した田中角栄の最強のリーダーシップを見習えー『言葉よりも結果』

 日本リーダーパワー史(533)   『アベノミクスの土壇場 …

『私の会ったステキな女性・宇野千代(98歳)生涯現役作家研究』★『明治の女性ながら、何ものにもとらわれず、自主独立の精神で、いつまでも美しく自由奔放に恋愛に文学に精一杯生きた華麗なる作家人生』

『可愛らしく生きぬいた私の長寿文学10訓』2019/12/06 記事再録&nbs …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(23) 参院選・民主党敗北と政治不信- メディアの報道姿勢も検証

池田龍夫のマスコミ時評(23)   参院選・民主党敗北と政治不信&#8 …

『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか>の講義』②<日本議会政治の父・尾崎咢堂が政治家を叱るー『売り家と唐模様で書く三代目』②『自民党の裏金問題の無責任・C級コメディーの末期症状!』●『80年前の1942年(昭和17)の尾崎の証言は『現在を予言している』★『『 浮誇驕慢(ふこきようまん、うぬぼれて、傲慢になること)で大国難を招いた昭和前期の三代目』』

     2012/02/24&nbsp …

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日本の新聞が伝えた日英同盟」②『極東の平和維持のため締結、協約の全文〔明治35年2月12日 官報〕 『日英協約 日英両国政府間に於いて去月三十日、左の協約を締結せり』

★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日本の新聞が伝えた日英同盟」②   …

no image
 日本リーダーパワー史(768)『金正男暗殺事件にみる北朝鮮暗殺/粛清史のルーツ』福沢諭吉の『朝鮮独立党の処刑』(『時事新報』明治18年2月23/26日掲載)を読む②『我々日本の人民は今日の文明において治にも乱にも殺戮の毒害を見ず、罪を犯さざる限りはその財産、生命、栄誉を全うしているが、隣国の朝鮮を見れば、その野蛮の惨状は700年前のわが源平の時代を再演している』

 日本リーダーパワー史(768) 『金正男暗殺事件にみる北朝鮮暗殺/粛清史のルー …

no image
クイズ『坂の上の雲』(資料)『ニューヨーク・タイムズ』の『日・中・韓』三国志⑤ 東学党の乱と日本の態度

   クイズ『坂の上の雲』(資料) 『ニューヨーク・タイムズ』の『日・中・韓』三 …

no image
日本メルトダウン脱出法(711)「安倍談話に沈黙する北京と対中懸念強めるワシントン」「 日本企業「中国撤退」のきっかけに!? 天津「爆発事故」の被害で」

日本メルトダウン脱出法(711)   安倍談話に沈黙する北京と対中懸念 …

no image
『対中戦略の回顧』ー記事再録/日本リーダーパワー史(631)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(24)『荒尾精の日清貿易商会、日清貿易研究所設立は 「中原正に鹿を逐ふ、惟に高材疾足の者之を獲る」

      2015/12/31/日本リ …