速報(184)『日本のメルトダウン』☆『3/11福島原発の半年後の真実に迫る-―小倉志郎、後藤政志氏との座談会(中)』
速報(184)『日本のメルトダウン』
☆『3/11福島原発の半年後の真実に迫る-
―小倉志郎、後藤政志氏との座談会(中)』
季刊「日本主義」2011年冬号(11月15日発売)
福島原発事故から半年――
リアリズムと文明論の複眼を持て(中)
あらゆる工業製品は、耐性実験、破壊実験を経て商品化される。原発は、それができない。いわば巨大なシミュレーション、バーチャル実験の産物であり、失敗を前提としない商品である。私たちは、今そうしたシステムを存続すべきか否か――文明論的な選択の岐路に立っている。
《座談会出席者》
小倉志郎(元原子炉格納器設計者)
梶原英之(経済ジャーナリスト)
後藤政志(元原子炉格納器設計者・評論家)
前坂俊之(ウェブジャーナリスト)
渡辺幸重(科学ジャーナリスト)
(50音順。敬称略)
ベントしたのに水素爆発が起きたのは?
梶原
最後は賠償に関わる問題ですから、本当に国会が国政調査権を議決して発動する命令には、東電は抵抗できないですよね。国の方も、いつまでに冷温状態に達するのかというのは、お金に関係しますから重大問題です。完全に冷温状態に収まってしまえば、賠償についても、国家を運営している人たちの恐怖心も収まりどころがある。そうすると、残るは事故原因の究明です。これはいくら隠そうとしても時間の問題で、東電は耐えられないですよね。
小倉 そうですね。裁判もありますから。
梶原 そういう意味で、先ほどの冷温停止のタイムリミットという話ですが、年末とか来年の初めには、まあまあ国民が納得出来る、というところへ達するのか、その辺りはどう思われますか。
小倉 今、9月6日の時点での状況として、1号機の原子炉圧力容器の底の核燃料が溜まっていると思われる場所の温度が約85~86℃、2号機の原子炉圧力容器のいちばん下のところが113℃、3号機が約98℃と、大体100℃近辺ですね。
本誌 冷温停止というと、公式には100℃以下と言われていますよね。
小倉
ええ。通常、100℃以下ならば、容器や配管の内圧が外圧(=大気圧)と等しくなり、内圧による破壊の恐れや、大量の漏洩の可能性がなくなるから、システムが安全な状態に入ったというそれなりの意味があります。ただ本当の意味で、冷温停止というのは、常温で安定しているということなのです。
前坂 常温というのは何度くらいでか。
小倉
常温というのは、30℃とか、ちょっと高くても40℃とか、まあそのぐらいですね。なぜかというと、例えば、事故時ではなく、正常に原子炉が止まり、そして蓋を開けて燃料を交換しようとする時に、水が100℃に近い温度では、燃料交換なんかできません。
常温になったときに、やっと燃料交換ができる。つまり冷温停止になってから燃料交換ができる。だから、常温状態が冷温停止ということです。今の状態を見ると、100℃前後、だからまだ冷温停止とは言えない。
ところで、この数字は、どこが発表しているかといったら、東電に違いないですね。問題はどうやって測っているかということです。
原子炉が溶けた核燃料で破られたということは、炉内は1000℃以上でしょう。実際はもっと高いはずです。あれだけの分厚い鉄の入れ物が溶けて穴が開くということは、逃げる熱もあるはずです。
それを、どんどん熱を逃がしながらも溶かしているとすると、猛烈な温度、多分2000℃ぐらいになったのではないでしょうか。そうしたらサーモカップルなんか全然使えない。だから、この温度をどういう方法で測っているのか、それすら分かっていない。そういうところまで説明してもらわないと本当のところは納得できない。新聞記者の方は、そこまで確認して記事を書いているのでしょうか。
本誌 東電の説明は、全て、後付け(結果が出てからの推定弁明)と、「想定外」の話ばかりですね。
小倉 核燃料が溶けるなんてことは、本当に許されない事態なんですね。ペレットを包んでいる被覆管が壊れて、中身が露出するというようなことを許さないというのが、安全審査の大前提なのですが、今のシビアアクシデント対策というのは、燃料が壊れた後のことをどうするかなどと言っている。これこそ、原発建設の設置許可をする際に行った安全審査が役に立たなかったということの証拠です。
前坂
結局、電力会社には平時の運転マニュアルはあっても、そういうシビアアクシデントなんか想定外、ありっこないということが前提ですから、「シビアアクシデント・マニュアル」なんていうものはないんでしょう? だから事故原因を出しようもないし。うっかりそんなものを出すと責任追及されて損害賠償になるから。
小倉
前提条件にすることが許されないこと(燃料破損)を持ち出しているのです。そういうことは、もうやってはいけないことです。
渡辺
マニュアルと言えば、報道によれば、ベントのマニュアルがなくて、設計図だとかを検討してベントの操作をしたというふうに書いてあるのです。それと関連して、「水素爆発は現場では予測していなかった」とも報じられている。それについて東電の社長も大失敗だった、と言っているというのですが、本当にベントのマニュアルはないのでしょうか。
後藤
ベントというのは、普通の設計上であるものではないのです。格納容器というのは、設計上、放射能を閉じ込めるものであり、今回のように炉心溶融して格納容器自身が壊れてしまってどうしようもない、という事態を想定しておりません。ですから、そういうときにベントする、というのは後から分かった話なのです。
設計してつくっているときには、全くそんなことは考えていない。あとから「実は格納容器はやばいよ」と分かって、ベントしないと爆発すると分かったので、非常用、緊急用にあのようなラインを付けたのです。そのときに、当然操作マニュアルはあるべきなんだけれども、きちんとしたマニュアルになっていなくても全然おかしくないと思います。だって、格納容器で水素爆発が起こることなどと思っていないわけですから。
普通の化学工場でしたら、法的にそのようなことは許されないのですが、原発においては確実にあり得ないのだから、考慮する必要がないと、でも念のために自主的にベントに備えておいてくださいという話だったのです。だから東電は念のために自主的にベントをやった。もちろんそのためには何らかのマニュアルがあるでしょうけれども、多分それは間に合わなかったのではないか。だから必死で、ああだこうだと手探りでやったのではないかというふうに、私は推測しています。
渡辺 ベントしたのに、なぜ水素爆発が起きたのですか。
後藤 水素爆発がどう起こったか、二つの可能性があります。一つは、ベントのやり方が間違って、あるいはその最中に思わぬ形でアクシデントがあって、水素が出た。もう一つはそんなことではなく、ベントしなくても格納容器の圧力温度が上がっていますから、蓋から漏れている水素が爆発した。私はそちらだと思います。
小倉 フランジのところ。
後藤 はい。格納容器の蓋のフランジですね。
小倉 蓋のフランジが、シールが効いていれば問題ないのだけれども、圧力が設計圧の2倍ぐらいになったから、そこでシールが効かなくなって、シューシューと出たと。
後藤
2倍くらいだと漏れない可能性もあるのだけれども、かなり周囲の温度も上がっている可能性がある。300℃あったらガスケットが確実にやられますから。そうすると、そこから漏れてもおかしくない状態ですね。
渡辺 窒素も一緒に漏れないのですか。
後藤 漏れます。けれども、ただ、水素がやはり、いちばん漏れやすいです。どうしても軽くて分子量が小さいので水素が先に出やすい。
菅前首相の評価
渡辺 東電は撤退をしようと言って菅首相に止められたということがありますが、撤退のマニュアルはないですね。
後藤 そこまではないんじゃないでしょうか(笑)。
梶原 あのときの、「撤退」という言葉の概念はどういうことだと考えておられますか。原子力業界での決まり、テクニカルタームといったものがあるのでしょうか。
後藤 よく分かりませんけれども、本当に危機的などうしようもないときは……。
梶原 逃げちゃう。それでは危機管理マニュアルがないのと同じですね。
後藤
そういう意味で使ったのか、そうではなくて、一時厳しくなったときに一回引いて、それで様子を見ながら、もう一度入るという意味で言ったのか、まあどちらもあり得る話だと思います。多分菅さんが受け取っておられることと、東電側の受け取ったこととのズレが当然あったのでしょう。そこは何とも私は申し上げようがない。
結局は、その現場にいた人間しか分からないことがある。今撤退しとかないと全滅だぞといって撤退することはあり得ます。危機感を持ったら、とにかく撤退したいんだと言ってもおかしくない。
でも菅さんの立場から言ったら、東日本が壊滅しちゃうじゃないか、冗談じゃないよと本気で怒る。それもよく分かる。菅さんは、その後もいろいろ発言されているけれども、政治家の中で(マスコミに流れた情報の範囲内での話ですが)唯一彼だけが原発の危機を感じた人間だと、私は思っています。
経産省の役人とか経済産業大臣とか、失礼ながらまったく理解されていない。理解していたら、これまでのような対応はあり得ない。危機感がない、原発に対する危険性の認識が全くないと思います。菅さんは、そこが分かっていた。
渡辺 菅前首相の言っていることは、逆に批判されていますよね。「東日本が、東北がなくなってしまう、そんなことを言うのか、首相が」、と言って。
後藤 私から言わせると、菅さんに対する批判は全くおかしい、と思います。なぜかというと、原子炉の事故の厳しさを「最悪の事態」とよく言うじゃないですか。普通シミュレーションでは100%は想定しません。せいぜい数%か10%、そのぐらいで留めているけれど、最悪の事態とは単純で、全放射性物質が外に撒かれる状態です。これがいちばん最悪の事態です
今回の例でいくと、東電が言うように、仮に相当早い時点で炉心メルトダウンした。それで冷却のされ方によって、水蒸気爆発を起こして、圧力容器や格納容器がふっ飛ぶ状況を考えると、誰も近づけなくなるから4基全部が全滅する。それで放射能が大量に出る。
そうしたら、菅さんが言っている危険性が極めてリアルだ、私も非常にそれを心配していた。それを一部炉心損傷であるとか、そういう言い方は、全く私に言わせたらデマゴギーです。あの段階はもう、いろいろな状況からみて、メルトダウンしているのではないかという方が普通であって、一部損傷というのは、よほど何か確証がないと言えないことだと思っていました。
梶原 一部損傷という説明はデマゴギーだと?
後藤 デマゴギーと言わなくても、少なくても希望的観測でものを言っている。なるべく被害を小さく見せたい。大事故じゃないということを言いたいがためにそう言っているふうに見える。
梶原 6月2日から、国会や民主党の中でも始まった菅おろしというのは、背後に何かの意図が働いていたと思いますか?
後藤 と思いますね。
本誌 原発推進派の巻き返しだ、と見ている人は結構いますね。
梶原 野田内閣になって、原発に対する姿勢が後退しているように見えますが、ただ、時間が経つにつれ、一般世論としては、新聞や、テレビのワイドショー、自民党内も含め、原発事故に対する認識が大分変わってきているのではないでしょうか?
原発への恐怖は広がり、政治のコントロールが不能になっています。特に、放射能汚染の厳しさは、国民全体にひしひしと圧し掛かっている。特に国政に携わっている人間にとっては、きちんと除染をやるのに一体いくらかかるのだろうという不安があると思います。
経済学的に言えば、現段階で費用対効果が全く分からないのに、作業だけが進まざるをえない。そして作業の請求書がいずれ国に来る不安ですね。除染問題は、人命に関わりますから負担せざるを得ない。食べ物についても、あれだけの汚染地域の広さだと、産地を選別しても収まりがつかない。東日本全体の風評被害に広がることがみんな分かってきた。
後藤 表土の数センチの除染を行うだけで、何兆円、何十兆円となるなどと言われていますね。原発事故が一度起こると、必ずそういう事態になるのです。表土の問題、表流水の問題、地下水の問題、海水の問題、農作物・畜産の問題――ずっとわれわれが、これから数十年、数百年もこの問題に直面していかなければならないのは、自明のことですね。
そのことの認識がない政治家は、この問題に対して発言してはいけないとすら私は思っています。この厳しさを分からない人が、平気で原発問題に関わるのは、私はまずいと思っています。現状の厳しさを踏まえた上で、じぁあ、どうしようかという議論だと思うのです。