『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑧『英タイムズ』『英ノース・チャイナ・ヘラルド』報道ー『日露開戦7ヵ月前ー満州からの撤退期限を無視、軍事占領、増強を続けるロシア対、我慢の限界に近づく日本』●『ロシアは永住用の兵営や家屋の建設を続ける一方,日露戦争の可能性を笑い飛ばす。』●『日本のいらだちーロシアに対する日本国民の憤怒の情は拡大いる』●『戦争か平和か.今や全くのところロシア次第なのだ。』
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑧
1903明治36)年6月6日『英タイムズ』『満州問題―ロシアの軍事活動』
(本社特派員記事)北京 6月5日
満州問題は停止状態にあり,世界がロシアの占領を既成事実と認めっっある今,ロシアは毎日その地歩を固めている。
ロシア人将校の妻と子らはまだ大勢満州に入りつつあり,永住用の兵営や家屋の建設がせわしく続けられている一方,ロシア人将校は日本との戦争の可能性を笑い飛ばしている。
ロシアは吉林省撤退のそぶりさえまだ見せておらず,そこに中将の指接する1個師団を置いたままだ。大部隊が吉林市を抑えており,また同市と寛城子の問にも軍が駐屯している。
奉天省でロシアは間断なく動いている。通信連絡線を前進させ,鳳風城から鴨緑江への道路を改良している。
5月9日には弾薬を棲んだ荷馬車140台が護衛のもとに連勝を出発して鳳凰城へ向かい.5月14日には100台が同じ目的地へ向かってまぐさを積んで省内を進んでいたが,アレクセーエフ提督の布告によれば,ロシア軍の大半は同省から4月23日に撤退したことになっている。
中国人苦力数千人が満州に入って,最西部の鉄道の建設に取りかかっているが,ロシアは長年の懸案の,興安嶺の西のハイラルから張家ロまで並行して通る戦略鉄道をついに建設する意向だといううわさが蒸し返されている。
ロシアの極東木材会社は鴨緑江で忙しく活動している。ロシアは最近遼河に小型汽船2隻を配置して,同河を警戒している。
さらに6隻がハルビンから陸路列車でまもなく到着する。船はスクリューを2つつけ,長さ70フィート,喫水2フィートで12人を乗せるが.乗客や貨物は運ばない。同様の船を鴨緑江にも配置すると見られている。このやり方は,中国船の交通妨害になることを別にすれば,汽船は石炭貯議場を必要とするから,それらを両岸の便利な場所に作ることになり,それらはロシアの財産だから,ロシア兵による保護が必要になる,という利点がある。
満州におけるイギリスの通商利益の見通しは日ごとに暗くなるばかりだ。
終りに,1902年3月20日のタイムズ紙に載った私の電報に注目してもらいたい。
そこで私が報じたのは,慶親王がレッサー氏に,中国北部の陸海軍当局では外国人は雇わないと正式に約束したことだった。
当地の著名なロシア人によれば,大勢の日本人がそれらの場所で雇われており,さらに30人が契約を終えているといい,ロシア側は中国が慶親王の約束を守らなければ説明を求めると公言している。ド・プランソン氏は旅順対外部長として帰任の途についた。
(本紙通信員記事)
東京 6月5日最近満州を旅行してきたある日本人の報告によれば,ロシアはすでに遼陽と鴨緑江間に野砲が通行可能な道路の建設を終え,また同区間の鉄道ルートの測量に大わらわになっているという。
1903(明治36)年6月26日
『英ノース・チャイナ・ヘラルド』
『日本のいらだち』
空にまたもや暗雲が広がってきた。東京発の特電にもある程度は現れていたのだが,日本の忍耐が尽きかけている兆しが見える。先日お伝えした本紙神戸通信員からのニュース,つまり,クロバトキン将軍と日本政府の間で暫定協定が成立したという情報は.全くの作り話もしくは少数の親ロシア派が上げた観測気球だったのかもしれない。
この情報の大きな欠点は決定的性格を欠いているところにある。日本も承知の上でアジアにおけるロシア領の境界線がいったん鴨緑江まで広げられれば,ペテルプルグの政府にどれほど誠意があろうとも,現地のロシアの出先機関はさらなる南下に向けて動き出すことだろう。
彼らはシベリア横断鉄道の恒久的な終点が大連よりも朝鮮国内の方が望ましいと認めているからだ。
また,日本は陸海軍にぼう大な金をつぎ込み続けざるを得ないだろうし,現在同国の貿易の妨げとなっている苦い、状況もさらに続くことだろう。
朝鮮政府は中国政府と同様に頼りがなさ過ぎて自国の独立と保全を図ることはできない。両国政府とも,ロシアの得意とする強硬な議論の前にたやすくねじ伏せられてしまいそうに思われる。
そうした目的に充てられるロシアの資金は事実上無尽蔵だし,ペテルプルグにはその種の支払を詮索するような議会は存在しないのだ。
このほど東京から送られてきた特電には注目すべき点が1.2認められる。帝国大学の教授7人による意見書は,日本の知識人の大半が持っている見解を表していることは明らかだ。
彼らは過去を扱う中で,歴史とは実例による哲学的教えである,という格言を想起させようとしている。つまり,彼らは日本が逸したチャンスを,目の前の好機を看過しないようにという政府への激励として引合いに出しているのだ。
日本は遼東半島を返還したとき,中国から将来それを譲渡しないという保証を取り付けておくべきだった。しかし,当時,そのような要求は度を超えた用心のように思われたに違いない。
と言うのも,ロシア,フランスおよびドイ漆が,中国以外の国による遼東半島の領有は極東における力の均衡を乱すおそれがあるとして返還を主張したからだ。にもかかわらず現在フランスとドイツがロシアによる同半島の占領を黙認しているのは皮肉な話だが,それ以上の皮肉があるとすればそれはレッサー氏の主張だろう。
ロシアが日本から遼東半島の返還を獲得したのだから,中国はそれに対する感謝の念から満州におけるロシアの要求を認めるべきだと言うのだ。しかし,中国の現政府からどのような保証を得ようとも無意味なことも確かだ。満州人は祖国が割譲されればさぞかし憤慨することだろう,と考えられてきたようだが,彼らはl椀のロシア風ポタージュのために自らの生得権を事々として売ってしまったのだ。
日本がたとえタイミングよく抗議していたとしても,ドイツによる膠州湾の占領は防げなかったのではなかろうか。ドイツ皇帝は,中国沿岸に港と拾炭基地を確保する決意でいた。
したがって,2人のドイツ人宣教師の殺害事件という口実がなかったとしても,彼は別の口実を見つけたに相違ない。それはさておき,山東が同省におけるドイツの事業によって物質的に大きな恩恵を受けることは間違いないだろう。中国北部からの撤兵に槻する取決めにロシアの満州軍を含めなかったのは,実質的というよりむしろ理論的な誤りだった。というのは,紙上でどれほど厳しい条件を課そうとも,ロシアは必ず自国兵による自国鉄道の守備という中国から獲得した権利を利用しただろう。
また必ずこの3省における混乱ぶりを示す十分な証拠を作り出して,鉄道の護衛兵を減らすわけにはいかないと強硬に主張することができただろう。7人の教授による意見書の最も重要な点は,現在日本の軍事力はロシアが直ちに使用できる兵力よりもおそらく強力だが,ロシアの劣勢は一時的なものに過ぎないと述べたところにある。
ヴィッテ氏がロシアの財政の責任者である限り戦争は起こるまいとの所説が慎重に広められてきた一方で,ロシアは中国海域の艦隊の増強にきわめてあわただしい動きを見せているし,「シベリア横断鉄道の輸送の便利さをテストするという口実のもとに」多数の部隊が東に移動しつつあるとも伝えられる。
東京発の昨日の電報はこれまでで最も重要なものだった。ロシアに対する日本国民の憤怒の情は.広がりだけでなく深みも増していることを示しているからだ。「今や最も穏健な新聞雑誌までが,平和的発展を阻む苦しい未決着の状況にけりをっけるべく断固たる処置を提唱するようになった。
彼らは,内閣が強行策をとるなら,国民は一丸となって内閣を支持するだろうし,それに対する責任はすべてロシアにある」と断言している。
指導的な政治家全員による協議会が皇居で開かれたという一文ほど,日本人が事態の重大さをいかに痛感しているかを明瞭に示すものはないだろう。
彼らは,ロシアとの戦争に日本が払わなければならない犠牲についてなんの幻想も抱いていない。しかし、最終的にやむなく戦うことになれば,それは彼らの存亡をかけた戦いになろう。日本が極端に走るつもりがないことは次の一文に示されている。
すなわち最も信頼するに足る情報によれば,日本政府は依然として北京における交渉の結果を待つことにしており,中国政府がうわさほどに弱くないことに一縷の望みを抱いている。
しかし戦争か平和か.この間題は今や全くのところロシア次第なのだ。ロシアはあるいは引くかもしれないが,その場合も単に「1歩後退して2歩前進する」ために過ぎないという懸念が参る。
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