『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑤ー1903(明治36)年3月l日、光緒29年葵卯2月3日『申報』 『アジア情勢論』『ロシアと日本、互いに憎み合う』
2016/12/24
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑤
1903(明治36)年3月l日、光緒29年葵卯2月3日『申報』
『アジア情勢論』『ロシアと日本、互いに憎み合う』
1903(明治36)年3月l日、光緒29年葵卯2月3日『申報』
アジア情勢論
そもそも朝鮮と日本との食違いは,日本の第一銀行の紙幣使用を禁じたことによる。日本人が条文を列挙して朝鮮を脅迫し,同時に軍艦を釜山・仁川・木浦間に巡航させたとき,私は,朝鮮のような力のない国は,朝野をあげて驚きあわてふためいて,自ら過ちを認め謝罪を申し出,首を垂れて許しを請うような態度をとるものとひそかに思っていた。
しかし実際は.朝鮮は表面上従順を装ってはいるものの,畏敬の念を抱いている様子はいまだに見えない。それはロシアがすでに陸軍将校を招集し.24時間以内に出発する態勢を整え,その一方極東鑑隊の中から朝鮮に艦船を派遣させる伝令を出したことで,日本に対し虚勢を張っているが故だ。
ロシアが軍隊を組織,出兵し,日本もまた力によって利権を求めようとしているに及んで,第三者はきっと「もし朝鮮がとりなさなければ,ロシアによって戦端が開かれるだろう。近来,日本が日の出の勢いで力をつけ.アジアの雄をとなえているとはいえ,ロシアに敵対するには兵員の衆寡や強弱の差があまりに甚だしく,日本の勝利に保証をつけるのは難しい」と考えたことだろう。
これに対し論争が始まるやいなやイギリス公使が直ちに自ら調停役を買って出て,贈物の代りに争いを交わすような事態を避けるべく,朝日両国に以前のような友好関係を保持させようとするとは.だれも予想していなかった。
ああ,洞察力の鋭い者はロシアと日本が朝鮮で必ず一戦交わすものと早くから断言していたが,イギリスは日本と同盟を結んでからというもの,少しも他をはばからず,誠意を尽くし日本と協力して同盟の維持に努めている。
しかしどうしてイギリスが日本人に信頼を寄せるはずがあろうか。それとも日本人ははたして策を弄し暗にイギリス人と結託し,急場の際に後ろ盾になってもらおうというのか。ああ,私は.そもそもイギリスが朝に晩に維持したいと願っているのは,アジアでの利益のみだということを知っている。
中日間に衝突が生じた際でも,イギリスはなかなか乗り出そうとしなかった。一方ロシアは,すでにフランス,ドイツと同盟を結び,努めて遼東を取り戻そうとした。
このときアジアの民衆は,ロシア,フランス.ドイツの正義に満ちた声に非常に驚いたのだが,イギリスの方はことごとに人後に落ちてしまった。そしてロシアが旅順、大連を租借し,ドイツが膠州湾に軍隊を駐留するに至って,初めてイギリス人は「早く図らなければ,将来取返しがつかなくなる」と考え,あわてて中国から威海衛をもぎ取り,軍艦の寄航地としたのだった。そもそもイギリスが東来するに際して.寄航地がないからといって,威海衛をどうしても手に入れたいというはずがあろうか。
実際のところ,アジアにおける利益は中国南方において莫大であり,ロシアがもし旅・大
から急いで南下するならば,利権は必ずやことごとくロシアに独占されるだろう。したがってイギリスは.威海衛に拠りロシアの南下を阻害し.ロシア人の勢力拡大を阻もうとしたのだ。だがロシアの態度は獲物を狙う虎のように一分のすきもなく,他の勢力など一切眼中にない。
日本人が.自らの勢いもロシアにはかなうべくもないとしだいに自省し,ロシアを憎む立場からこれにこびる側に回るとなると、ロシアと日本は互いに協力し合うことで勢いが増しまた底力もつくので.イギリスはなおのことこれらに対抗しきれなくなる。
折よく日本は,心を同じくする国を得てパートナーとしたいと願っていたので,イギリスも同盟を決意し,有事の際は即座に協力し援助し合うことを明らかに定めたのだ。
この韓国の事件を調停したのも,イギリス人に韓国人を大切にする気持があってのことであるはずがない。イギリスにしてみれば,アジアでの利権を押さえようとすればロシアを敵に回さざるを得ず.ロシアに敵対するとなると日本と親密にならざるを得ない。
しかし日本がイギリスと同盟を結んだからといって,これにより韓国は長くその領土を保てるだろうか。これはなんとも言いがたい。
韓国が病んでいるのは,弱さと貧しさだ。日本はその貧しさのみを見て利益でこれを誘惑しているので,利益が尽きたとき,国はしだいに衰弱し疲弊してしまうだろう。
一方ロシアはその弱さばかりを見て,力でねじ伏せようとしているので,力が尽きれば国はたちまち滅んでしまうだろう。したがって,日本が韓国を手に入れようとすれば,韓国にとっての災いはゆっくりと表れ,ロシアがこれを得ようとすれば,災禍はすぐに訪れよう。もしロシアがすきをうかがって動き,韓国を耐えられない状態に追い込めば,そのとき遠く海を隔てている日本とイギリスはすばやく協力してこれに抵抗
できるだろうか。
ましてイギリス人は元来,現状維持を至上とする民族で,彼らが願うところもただ貿易上の利益のみで,アジアを混乱と不安に陥れるつもりは全くないのだ。
その地方の情勢が不安定であれば,商業も興りようがなく利益も大いに損なわれる。仮に韓国がロシア人の手に落ちたなら,日本は必ずやロシアと戦う誓いを立てるだろう。
私には,イギリスは時機を失したことをただ悔やむのみで,断じてすぐにロシアに宣戦するようなまねはしないと分かっている。かのロシアとトルコ戦争の際,イギリス兵は何もせずぶらぶらするだけで,トルコ軍の動きを座視していたが,この明らかな前例は,今後よい教訓となろう。つまりロシアがトルコに勝ち,黒海の要衝がたちまち失われていても.イギリスは心中耐え忍ぶことができたのに,ロシアが韓国を得て,その力がアジアにおいて強くなったとしても,どうして,イギリスはあえて日本を助け,強大な隣国,ロシアの仇敵となるだろうか。
したがって私はこう申し上げよう。韓国人は英日同盟をあてにして,ロシアを恐るるに足らず,何事も日本人の意見に従うのがよいと言ってはならない。さて,世間の一を聞いて十を知るような君子諸氏は,私の言をどうお考えになるだろうか。
1903年4月6日、光緒29年葵卯3月9日『申報』
ロシアと日本,互いに憎み合う
ロシア人の東三省(満州)からの撤兵は,すでに第2次に至った。「実際は軍隊の移動であり,撤退ではない。鉄道の線路の保護にかこつけて、依然として駅間どまっているようだ」と言う者もいる。
一時、浅見の輩は皆「ロシア人は遼東に関して,実は長年借りたきりのものは返さないでよいと考えている。撤兵しようとしているのは各国の公正な議論に迫られ,やむを得なくなっただけのことだ」と言っているが,私だけは次のように考える。
ロシア人は実は専ら日本に注意を向けているのだ。日本が強くなればロシアは思うままに振る舞えない。昔,遼東の返還を求めたとき,ロシアはすでに戦争の準備をして,「日本とわがロシアはもともと仇敵であり,相手が強大になってから倒そうとしても難しいので,そうなる前にたたいておいて,気力をそいで永遠にアジアで威張れなくするに越したことはない」と考えていた。
幸いにも日本人は矛を収め,まげて耐え忍んだので.ロシア人の思う通りにはいかなかったが,なおも1日として日本のことを忘れることはなかった。さて遼東の拳匪の乱(義和団の乱)は,すでに平定されたのに,進行してくるロシア兵はなお多く.二十数万人にも上っている。
そもそも中国はこのようにか弱いのだから,もしロシアが遼東の地を狙うならば手につばして得られるのに,どうして遼東に対し全力をあげなければならないのか。思うに,ロシ
アはまず遼東に足場を築こうとしており,そうなれば後に日本と戦うことになったとき,退いて守るにも進んで攻めるにも.すべて主導権を振れるわけだ。それならば中国には関係ないことだろうか。いやどうして関係ないでいられようか。
遼東はロシア軍が必ず経由する場所で,ロシアが日本に勝てばその領土欲はさらに激しくなり.必ずやわが中国を手中でもてあそぶだろう。日本がロシアに勝てば破竹の勢いに乗じて.すばやく進軍し,東三省はまた必ずや蹂躙されるだろう。
本館は十数年前に,ロシアに対する計十策を載せたが,その要旨は「イギリスとフランスには必ずしも備える必要はない。その備えるべきは領土が陸続きのロシアで,貪欲で凶暴でありその領土欲は恐るべきものがある」というものだ。
今ロシアと日本が争えば,中国がまずその被害を受ける。日本はまだわが中国を侵しておらず,ロシアもわが中国を侵犯していないが,わが中国には彼らの問題を解決するすべはなく,わが辺境を固めるすべもない。
思うに時局はここに至って一変したのだ。そこで日本と同盟する策を献ずる者は「日本の国勢はまさに日の出の勢いがある。戦勝後は両国の密接な関係を気にかけて,わが中国が富強になることを日々願っている。もしわが中国が日本と同盟すれば,勢力が強大となりロシアもあえて正面から見すえることはなくなろう。日本の利は必ずしもわが中国の利でないとは限らない」と言うが,それは次のことを理解していないのだ。
日本は1度の戦いで勇名をはせたが,その強弱を比べればロシアの敵でないことは明らかだ。日本は国の恥をすすぐためにロシアに軍隊を向けることもなかったのに,どうして隣国の領土を保全するために軽々しく「卵で石に立ち向かう」ような危ういことをしようか。
したがってわが中因が日本と同盟しても,日本は必ずしもわが中国をかばうとは限らず,逆にロシアは必ずわが中国を深く忌むこととなるだろう。
どうして得策と言えようか。ロシアとの同盟を献策する者は「ロシアは戦国時代の貪欲な秦と同じだ。それがにわかにわが中国を併合しないのは,ただ日本人がそばでにらんでいるからだ。わが中国はすでに対抗することができないのだから,精いっぱい媚び,なおロシアによって日本人に対抗すれば錬士を永遠に保持できよう」と言う。
しかし考えてみると,わが中国はこのようにひとたび敗れた後,回復していないのだから,ロシアが日本と戦おうとするのにどうしてわが中国の援助に頼り,喜んで同盟を結ぼうか。ロシアが友好関係を保っているのは,実は道を遼東に借り,将来戦端が開かれたとき,ここを進軍の道としたいからに過ぎない。わが中国がロシアと結べば,ただ日本人の忌憚に触れるだけで,どうして利益となろうか。
このロシアと結ぶ策も上策ではない。ではわが中国はどうすればいいのか。それは自強を図るのが急すべきだ。国勢が強くなれば和戦共に主導権が握れ,外国人ににわかに乗じられない。公法を理解すれば外交交渉で要を得た方策を行うことができ,外国人に口実にされることもなくなる。
民心が固まれば上下一体となり天子を尊ぶようになり,共通の敵に対する敵情心を養って有事には役に立つようになる。大利を興せば日常の国家費用が足りるだけでなく,臨時に食糧を貯蔵し機械を購入して,余裕ある措置ができる。
もしこうなればロシアはわが国と友好関係を結び,日本もまた友好が密接になり,イギリス,フランス,ドイツ,アメリカの諸大国も必ず恐れたり偽ったりせず,わが太平を共にし,ただ遼東を保持できるだけでな く,全国も盤石となるだろう。ロシアと日本が互いに憎み合っても,わが中国は何を気にすることがあろうか。
もしこのようにしなければロシアがわが利益を得れば日本が忌み,日本がわが利益を得ればロシアが忌み,互いにいがみ合って必ず争うこととなる。わが中国はその間に挟まれて,座して倒れるのを待つだけだ。そのうちに中国分割の誤った説が再び起こり,イギリス,
フランス,ドイツ,アメリカの諸大国もまたこのために戦争を始め,アジア中が必ず
や戦乱の巷になるだろう。韓国のような衰弱しきった国は,存続するすべがないこと
は言うまでもない。ああ!ああ!
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