片野勧の衝撃レポート(33)太平洋戦争とフクシマ⑥悲劇はなぜ繰り返されるのか「ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」➏
片野勧の衝撃レポート(33)
太平洋戦争とフクシマ⑥
≪悲劇はなぜ繰り返されるのかー
★「ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」➏
片野勧(ジャーナリスト)
福島の問題も沖縄の問題も同根
しかし、放射能が東北だけでなく、関東にまで広がり続けているにもかかわらず、「安全」だといい、立場の弱い人々を騙し続けている政府と東電。そして正確な情報を伝えないマスコミの実態に気づいた国民の怒りは爆発寸前だ。真栄里さんは続ける。
「3・11以降、本当に必要な情報が手に入らなくなりました。インターネットまでも、政府は監視を強めてきています。また中央の利益のために地方に危険を押し付けることは福島も沖縄も同じです。福島が破綻すれば、それは同時に沖縄が破綻することを意味します」
原発も米軍基地も共通の構造を持つ。国策による被害で、どちらも「国益」の名のもとに負担を強いられてきたからである。国策としての原発推進、国是としての日米安保体制は、「国益」「国策」の名のもとに福島と沖縄の人々を沈黙させてきたといってよい。これは権力による意図的な生贄ではないのか。
沖縄は福島と同様、明治以来、国策に翻弄されてきた歴史を持ち、現在も国土の0・6%に過ぎない県土に、在日米軍基地の74%が押し付けられている、この実態と福島原発の問題は同質といえる。
共謀罪は「平成の治安維持法」
原発情報による政府と東電の隠蔽体質は強く責められなければならない。しかし、もっと重要なことがある。それは政府が進めている「秘密保全法制」だ。
これは国民の「知る権利」など民主主義の根幹を揺るがす可能性が極めて高い悪法である。「国の安全」「外交」「公共の安全及び秩序の維持」に関する重要情報を特別秘密に指定でき、公務員がもらした場合、最高で懲役10年の重い罰則を科すものだ。
たとえば、「公共の安全」を名目に、原発事故等国民生活に関わる大切な情報が特別秘密になる可能性も指摘されている。福島第1原発事故では、さまざまな重要情報が表に出なかったが、政府の恣意的判断によって都合の悪い情報を隠すこともできるのだ。
真栄里さんの話はまだ続く。
「重要情報だからこそ出なくなるんです。監視体制を強めて警察国家を作り出す『共謀罪』の導入も考えられています。これはまさに『平成の治安維持法』ですよ」
国家は権力を集中させ、監視体制を強化する。2012年1月、野田佳彦首相は国際テロなど組織犯罪を防止するため、5月末までに「共謀罪」を創設することを国際社会に向けて宣言した。
中国によるサイバー攻撃やアルカーイダなどテロリスト集団の重大犯罪の実行前に、共謀段階で処罰するのが狙い。しかし、国際テロ組織などが犯行を計画し、実際に実行されなくても謀議に加担した段階で罪に問われるのだ。
共謀罪については、戦前の治安維持法と比較して語られることが多い。治安維持法は1925年、共産主義運動の制限を目的に制定されたが、それが拡大解釈されて反政府組織全般への取り調べにも利用された。民主主義的運動や宗教弾圧にも適用されたのである。
治安維持法による被検挙者数は8万人近いと言われている。「戦争反対」と口にしただけで逮捕・投獄されるという悪法だ。「流言蜚語」の取り締まりも行われた。
共謀罪が制定されたら、治安維持法と同じような運用が行われるのかは分からない。しかし、双方、似たところが多い。戦前、警察当局は密告を奨励し、縦横に監視の目を張り巡らせていたが、今日は監視カメラや盗聴法によって市民の行動を縛っているのである。
3・11以後、政府はネット監視に加え、2011年6月17日、参議院で可決された「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」、いわゆる“サイバー刑法”も一種の治安維持法と言える。
捜査当局は令状なしでケータイメールなど通信履歴の差し押さえが可能となり、憲法第21条の「表現の自由」「通信の秘密」を脅かすこともできるのだ。こう考えると、共謀罪やサイバー刑法は国民の自由、権利を著しく狭め、侵害する恐れがある。まさに権力側にとって不都合な人間を合法的に逮捕できる“治安維持法”とそっくりだ。
風評被害と瓦礫の受け入れ
再び、三澤さんのインタビューから。
――政治家に対してはどう思われますか。
「他人事だよね、政治家は。家族ともども1年ぐらい被災地で生活してみろ! といいたい。それで大丈夫だから戻ってください、というのなら分かるよ。今、学校や役場を除染しているが、『大丈夫ですから帰ってください』というのはおかしい。山から流れてくる水で生活しているのだから、いくら除染しても次から次へと土は汚染されるのに、除染で大丈夫というのは、オレには分からん。やはり他人事なんだよ」
――風評被害については?
「福島県の漁業関係者は魚を獲っちゃいけません。茨城県の北茨城は獲っていいというのは矛盾だね。海を泳いでいる魚には境界線がないはずなのに、福島のはダメ、茨城のはいいというのはおかしい。もちろん、放射能の高いのはいけないけど、福島のもいいはずだよ。コメだって同じ。県境のところは1キロも離れていないのに、福島産というだけで悪者扱いになってしまう。福島のコメは一番、美味しいと思うよ。梨もりんごもだよ」
――瓦礫の受け入れについては?
「受け入れは賛成。でも、自分のところへ来ると反対。結局、自分のことしか考えていない。建前は賛成だが、本音は違う。総論賛成、各論反対。当事者意識が薄いんだよ」
やっと平和が訪れたかと思ったら……
そのほか、江東区の東雲住宅では、2人の女性にも話を聞いた。双葉郡新山広町から避難してきた佐川ミヨさんと浪江町から避難してきた坂本栄子さんである。二人はともに83歳(2012年3月現在)。
――戦争体験は?
佐川さんの場合。「双葉町にも艦載機が飛んできて山と田畑に2個、焼夷弾を落としました。父は学徒動員で会津若松の方へ。姉も女子挺身隊として、やはり会津若松の方へ行っていました。私は毎日、勤労奉仕でした。やったことのない百姓もやりました」
坂本さんの場合。当時、女学校4年。女子挺身隊として横須賀の海軍工廠で働いていた。終戦で浪江町へ。
「戦時中はまともに白いご飯は食べられませんでした。青春時代は苦労の連続でした。やっと私にも平和が訪れたかと思っていたら、今度は原発にやられました」と坂本さん。
さらに続ける。
「父は東京で働いていました。戦争になると、満州の大連に渡りました。私たちは小さかったから、もう少し大きくなったら大連へ行く予定でした。しかし、戦争に負けて父は引き揚げてきて、まもなく亡くなりました。私は洋裁学校で和裁を習って、22歳の時、結婚しました。主人は朝鮮総督府に勤めていました。そして志願してシベリアへ。引き揚げてきて、無理がたたって57歳で亡くなりました」
――満州から集団で引き揚げてきた人もいたのでしょう?
「いっぱいいました。今回の私たちの集団移住みたいなものです」
坂本さんは浪江町の駅前の1等地に200坪の土地を買っていたが、その土地を売って、楽に暮らしていた。そこへ今回の原発事故が襲う。
「この先、私たちの暮らしはどうなることやら、心配でなりません。私たちの人生は戦争と原発に振り回され、一生苦労して終わりですね」
――東北の人たちは我慢強いし、人情味もあるから、きっと立派に立ち直れますよ。
「でも、苦労の連続でしたけれども、ここ東雲に避難できたのは本当によかったと思います。寒さだってそんなにないし、一番幸せなのかなぁと思います」
――ほかに何か言いたいことありますか。坂本さんは答えた。
「子供は長男と長女の2人です。皆、結婚していますが、早く家に帰りたいです。母と主人の33回忌に危険区域のために帰れなかったのが一番、悲しい。でも、家を流された人のことを考えると、いい方ですよ」
佐川さんにも同じ質問をした。
「浪江町に墓がありますが、墓にも行けないのが、とっても辛いです。墓は全部、倒れたようです。お墓参りはできないけれど、2012年1月、主人の27回忌法要ができたのが唯一の救いです」
と佐川さんは答えた。
坂本さんも佐川さんも心配のタネは「お骨とお墓」のこと。「遺骨や墓を、どこか落ち着ける場所に移したいけど、放射能でいつ、ふるさとへ帰れるかもわからないし、どうしようもありません」と。
佐川さんも坂本さんも防空壕の中で震えながら爆弾の音を聞き、食糧難に苦しんだ。少女のころの記憶は薄らいでいない。そして、いま、いつ帰れるかもわからない。その精神的な苦境は、これからの方が深刻かもしれない。1995年の阪神大震災でも、発生直後は元気だったお年寄りが、数カ月後に無力感に襲われたという例もある。
片野 勧
1943年、新潟県生まれ。フリージャーナリスト。主な著書に『マスコミ裁判―戦後編』『メディアは日本を救えるか―権力スキャンダルと報道の実態』『捏造報道 言論の犯罪』『戦後マスコミ裁判と名誉棄損』『日本の空襲』(第二巻、編著)。『明治お雇い外国人とその弟子たち』(新人物往来社)。
続く
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