『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座】㉝」★『120年前の日露戦争勝利の立役者は児玉源太郎、山本権兵衛』★『日露開戦4ヵ月前、前任者が急死したため児玉源太郎は二階級(大臣→参謀次長)降下して、決然として立ち、日露戦争全軍を指揮した』★『わが戦略が失敗すれば、全責任を自己一身に帰して、内閣にも、参謀総長にも分たず、一身を国家に捧げる決意で取り組む」と決意を述べた』
児玉源太郎副総理(内大臣、台湾総督)は二階級(大臣→参謀次長)降下して、日露戦争の全軍を指揮した。
日露戦争4ヵ月前の1904年(明治36年10月1日、日露戦争の戦略を立案中の田村 怡与造(たむら いよぞう)陸軍参謀本部総務部長(実質上の参謀次長)は過労のため急死した。
児玉源太郎内相(台湾総督)への田村急死の連絡は一〇月一日午前七時過ぎに日赤病院で臨終に立ち会っていた田中義一少佐から児玉邸(東京牛込区薬王寺町)に電話で知らされた。
「何? 田村が死んだか・・・、ついに駄目じゃやったか・・この時期に田村を失うことは、惜しみてもあまりある。今、薩長を見わたしても、田村に及ぶだけの男は見当たらない」と悲嘆にくれた。
時が時だけに後任の人事は大急ぎで進められた。
参謀総長の大山厳は寺内陸相に相談し、福島安正、伊地知幸介両少将を候補者に上げた。福島はシベリア単騎横断で有名だが、田村の死去後、福島は参謀本部第二部長で参謀次長事務取扱いを命じられていた。伊地知は薩藩出身で大山の女婿でプロシアに学び、乃木.川上の両少将が留学した際は、楠瀬幸彦(後の中将、陸相)と共に通訳を行った。両人とも次長たるに不足のない人材であった。福島を取るか、伊地知にするか、選択を迫られた。
しかし、時は日露間のますます風雲急を告げ、国難迫る危機的状況である。
対ロシア作戦に万全を期すことが出来る智謀の将であるだけでなく、大局に通じ、全陸軍の信望を担う大次長の後継者が要求される。深謀遠慮の山県は「福島か、伊地知か」の大山の提案にはにわかに贅同しなかった。大山はかねてから辞意を漏らしており、この機会に山県の大参謀総長への復帰を願い出ていたが、山県は首をタテにふらず、再考をうながした。暗黙のうちに、大山参謀総長、山県元帥も、他の大臣、将帥、参謀本部の面々の胸にも「この際、児玉が・・児玉ならば・・・」との待望論があった。
●ガマ入道のためにわしがやってやろう」
一〇月八日はロシアの第三期満洲撤兵の期限日だったが、児玉は桂首相を訪れ「次長は誰に決ったか?」と腹をわって話を聞いた。「この際、迅速に決めなければならぬ。ガマ入道(大山参謀総長のニックネーム)のためにわしがやってやろう」と即決し、みずから桂首相に申し出た。
同席していた寺内陸相は「君に就任してもらえば、軍部としても全く心強い。国民もようやく政府の断固たる決意を知って了解するであろう。しかし、内務大臣ではあり、現内閣の副総理の地位にある君が、その栄誉ある職をなげうってまで……」
「何をいうか、そんな馬鹿な!ことをいうな。副総理であらうと参謀次長だろうと国のために、国民のために微力をつくすのは当たり前のことじゃ!」
桂首相は「その君の気持ちは分る。寺内のいうことも無理でないが、君が政府を去ったら我輩としては、実に片腕をもぎとられる思いで、天下に公約した行政と財政整理も不可能となるじゃろう……」
児玉は「おぬしも近眼になったものじゃ、開戦する以上は行政改革も財政整理もない。今後は挙国一致、官民協力し、勝利を得るため1点にしぼって全力を尽くせばよい。」
児玉はつづけて対ロシア戦の抱負を語った。「ロシアと戦ってわが輩もきっと勝つとは断言せぬ。勝つと断言できないが、勝つ方法はある。
しかし、ロシアが満州から外交交渉のみによって兵を撤退し、韓国への野望を断つとは期待されぬ。国破れて何の山河じゃ。ロシアに譲歩することによって、わが国民は必ず萎縮し、中国人、インド人と同じ運命に苦しみ、アジアは白人の靴で蹂躙され、光明を見るのは何百年の先のことになるかもしれない。
総理大臣、内務大臣、陸軍大臣などと、肩書はどうでもいい。国のため、国民のため、まつ黒になってロシアに戦いを挑もう。」と決然たる意志を表明した。
この児玉の一言に桂首相も奮い立ち、「よし!ロシアに対する作戦の全責任はおぬしと寺内と俺が分担しょう!明日にでも山県公を訪ねしてくれ、児玉よ!死なばもろ共じゃ!」と固く誓ったのである。
●「貴君らの精励勤務を望む」と一言あいさつしたのみ
大山参謀総長はこの児玉自らの提言に、「すべて児玉さんにお願いする」と辞意を取り下げた。一〇月一二日に児玉の次長就任式がおこなわれた。
式の後、内務大臣だった児玉はフロックコートを軍服に着換え、参謀肩章をつって決然として参謀本部に現われた。参謀本部の部長以下を集めて、「これまで通りの貴君らの精励勤務を望む」と一言あいさつしたのみ。その軍服姿の眼光炯々(がんこうけいけい)とした児玉の決然とした一言に、参謀本部員は思わず奮い立った。
●総務部長井口省吾(少将)は日記にこう書いた。
『児玉大将、内務大臣を去って参謀本部次長の職についた。天のいまだわが帝国を見棄てず。陸軍トップリーダーでこの人の右に出る人はいない』。
「東京朝日新聞』も訃報記事で「わが国民の百人中、九十九人までは、みなロシアとの戦争は到底避けられないと覚悟していた時、2階級降下してよくもついたり、よくもつかしたと、国民はその児玉のスピード決断力を信頼したのである」
児玉新次長は、就任四日後の一〇月一六日、首相官邸へ参謀本部各部長を晩餐に招き、宴が終ってから「日露戦争の状況分析」のスピーチをおこなった。(「機密日露戦争76-77P」)
●児玉の現状分析とその対策
① 「ロシアの圧迫は日に日に激しくなってきている。帝国(日本)たるもの一大決心を以て起っ時がきた。ロシアとわが国を比較すれば、海軍力では劣ることを自覚しなければならぬ。
② 陸軍力では、同等であると信ずるが、ロシアは日本は劣るとみるかもしれないが、とにかく兵力においては、さして差はない。ロシア側の唯一の頼みは、財力が優っている点であろう。
③ ロンドンにおける日本公債の下落は主としてロシア側の策謀によってである。その手腕や実に驚くべきである。われわれにはほとんどできないことである。たとえ出来たとしてもその真似事たるに過ぎない。わが外交がいたずらに警告、抗議をするだけで、何の方策もないのに比べれば、ロシアの策謀は感心すべきである。
④ そもそもロシアの今日の領土侵略を敢えてするのは遠く百年来の国是(膨張主義)に由来し、わが国が武力を以って起つても、一朝にしてその国是を放棄するとは思われない。両国の戦争はついに免れない。
⑤ そして、帝国(日本)がこの戦争に費やすところ、これを一年間と見て八億円が見込まれる。いかにしてこの軍費を得るべきか。ロシアがわが国を侮蔑するのは、つまりこの点にある。我が国は弱点をしのぐ工夫がなければならぬ。
⑥ 予は、全責任を自己一身に負担し、この責任を内閣にも、又参謀総長にも分たず、一身を国家に捧げる決心を以て熟慮考究の上、一策を案じて、着々とこの実行を試みつつある。」
この方策が万一、失敗すれば、責任は余一身にある。各部長はこのことを知り 戦争開始のため財政の諸準備と軍費調達の経緯を知らない態度をとってほしい」と訓示した。
児玉はこの中で「全責任を自己一身に帰して、内閣にも、参謀総長にも分たず、一身を国家に捧げる決意で取り組む」と述べている。日本興亡史の中で、これほどの覚悟をもって、有言実行、戦争に勝利したトップリーダーはいない。もって児玉次長の最強のインテリジェンスと最強リーダシップを見ることができよう。
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