前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

 『リーダーシップの日本近現代史』(71)記事再録/『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』㉞ 『自立』したのは『中国』か、小国「日本」か」<1889(明治22)4月6日付>

   

2014/08/11 /『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』

日中韓のパーセプションギャップの研究』㉞

日本は東洋の一小国で.その大きさは中国の省の1っか2つ分にしか過ぎない。その小国が明治維新以後、過去の政府の腐敗を正し.西洋と通商するとともに.西洋の制度を尊んで衣服から制度に至るまですべてを西洋化してしまった。この日本のやり方を,笑う者はいても気にかける者はいなかった。しかし、ここ数年来.日本は軍隊を強化し.軍艦の数も増やし.そのために国内の財力はやや衰えたものの,結局自立し得る力を持てたと言えるのではなかろうか。

1889(明治22)年4月6日光緒15年己丑3月7日『申報』

『自立』したのは『中国』か、小国「日本」か

自立とは.非常に難しいことだ。孔子は「三十にして立っ」といい,顔回は「立っ所有るが如し」といった。この人の世において人にぬきんでて立っことを望まない者がいるだろうか。為に人の後につき従い、他人の力で成功を得た者でも.大部分はしかたなくその境遇に甘んじているのだ。

真の自立を得るにはあらゆる雑念をなくさねばならず、たとえば班超は筆を捨てて従軍し,その勲名は当時において光り輝き.その評判は後世にも伝えられている。これだからこそ.自立の2字にふさわしいと言えるのだ。

つまり,富貴に心を動かされることなく,高位高給を得ても志を失わず,あるいは名山で書物を著したり,あるいは隠退して悠々自適の生活を送ったりする。

1000年後にも人々に称賛される身であり.とうに没しているといえども,名の彰されることは,聖賢の徒とほとんど変わらないのだ。どのようなことであっても,芸に秀で,他人のまねをすることなく独創性を保ち,一家言を持っていたり何か1つのことをなしとげたのであれば.これは自立と称することができよう。最も避けたいのは,盲人のように人に頼って道を進んだり,足の不自由な人のように支えがないとすぐに倒れてしまうことで,これはまことに笑止千万だ。また,他人が自立しているのを見て.中傷したりねたんだりするのもいけないことだ。自己を高めたいと望む者は,まず自立の精神を持ち.その後に家庭や国家を治め,天下を安定させることま

で自らを押し広げるべきだろう。(中略)

大国の中でも相互に牽制しつつ競いあっている。その中には自立できる国とできない国とがある。その外見は強力でも.内側のもろくなっているものは言うまでもなく.本当に強力な勢いを有する国でも,ときに自国を守るのに確かでなく,人を用いても当を得ない場合には.ややもすれば侵略の口実を与えてしまう。

十分に自立し得る国を例にとってみよう。プロシアとフランスの戦争によって,プロシアは自立する力を得,フランスは一敗地にまみれた。

しかしフランスはこの失敗の後,君主制を改めて共和制とし,発奮して国力を強化した結果,ついにだれにも侮られることのない強国となった。したがってフランスは,自立し得る国であると言うことができよう。

これに対しトルコは,列強の間にあってイギリス,オーストリア.ドイツの援助に頼っている。なんと大きな違いだろうか。ワシントンは合衆国建国のためにイギリスと戦ったが.幾度かの敗戦にもくじけることなく.ついにイギリスからの独立をかちとった。

そして大統領制を敷き.4年に1度改選を行うという方法で.国民が心を一にして協力しあい,反対意見も出なかった。

これもまた,自立と呼ぶにふさわしい。しかし,かつて中国から労働者を集め.荒地の開墾をさせておきながら.今になって中国人労働者を排斥したのは,多分現地人の悪口でも聞いたからだろうが,黒白もはっきりさせずに他国に罪を着せる行為は,将来自立者としての地位をも脅かすに違いない。

日本は東洋の一小国で.その大きさは中国の省の1っか2つ分にしか過ぎない。

日本ではもともと国を動かす権力は国王の手中ではなく大将軍の手に握られていたが.維新以後になって.国王が自ら執政して過去の政府の腐敗を正し.西洋と通商するとともに.西洋の制度を尊んで衣服から制度に至るまですべてを西洋化してしまった。

この日本のやり方を,笑う者はいても気にかける者はいなかった。しかしここ数年来.日本は軍隊を強化し.軍艦の数も増やし.そのために国内の財力はやや衰えたものの,結局自立し得る力を持てたと言えるのではなかろうか。

しかし,自立とは他人のまねをしないことだ。日本のように西洋のまねばかりしている国が.どうして自立していると言えるのだろうか。日本はさまざまな面で西洋に学んではいるが.実は枝葉を捨てて精髄を取っているのだ。

たとえば関税の制度などは.本来西洋の法律ではあるが.日本では上は税務の長から下は一般の税務役人に至るまで,すべて日本人

を用い,1人として西洋人を使っていない。これは自立の1つの証だ。機械の製造も西洋をまねてはいるが,日本の工場で働く工員はすべて日本人で.作り出される製品は西洋をしのぐとまではいかないものの,西洋の製品と比べても優劣のつけがたい水準に達している。

その上、一部の製品に至るや、逆にヨーロッパに輸出さえしているのだから,これもまた自立の証と言うことができよう。警察制度もまた本来は西洋のものだが,各国の警察では現地の人間を用い,外国人を使わないのが普通だ。

日本の警察も西洋に学び,全国各地に警察署が置かれているが,上は長官から下は探偵・巡査に至るまで,すべて日本人を用い,西洋人は1人もいない。このように「われをもって人を制」し,「人をしてわれを制しむる」のではない上.法律を順守して租界を設けても,外国人には租界内の政務に干渉させていないのも.また自立の証の1つなのだ。

日本の軍艦に乗っている士官や水兵も,商船の船長も皆日本人だ。日本と西洋との交流は中国よりも遅いにもかかわらず.これほどの成果をあげているのは.まことに不思議と言わざるを得ない。中には.日本では秦の始皇帝が焚書坑儒をしたように古い書物を捨て去っていると言う者もいるが,これは言い過ぎだろう。他のことはさ

ておき,日本が西洋に学びつつも西洋にコントロールされていない点は.まさに自立であり.称賛に値する。世界はかくも広く,国家はかくも多いが,その中で自立していると言える国がこれらのように数えるほどしかないというのは,実に嘆かわしいことだ。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(165)』『武田、30歳から社長候補育成 世界同一基準で 』●『この国は、もう子どもを育てる気がないのか 日本は「想像力が欠落した国」になっていた』●『コラム:第3次世界大戦、すでに始まっている可能性』●『コラム:ロシア機の異常接近、プーチン氏がやめさせるべき理由』

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(165)』   武 …

no image
「世界が尊敬した日本人「正木ひろし弁護士の超闘伝⑦」八海事件の真相―真犯人の異常に発達した自己防衛本能

    ◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(225)』<日馬富士暴行傷害事件の問題点>『急速な少子化、サッカー、野球などの他スポーツへの若者の傾斜、過酷な肉体労働の忌避など、乾坤一擲の策を講じても「日本人中心の相撲界」の将来性は相当厳しいのではと感じられます』

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(225)』  <F国際ビジ …

no image
冤罪追及の旅『加藤翁事件』 「虚心坦懐」-加藤新一翁の雪冤(1979年9月)

1979年9月10日発行  「季刊 証言と記録」第3号に発表 冤罪追及の旅 「虚 …

no image
知的巨人たちの百歳学(182)/記事再録/作家・野上弥生子(99)-『今日は昨日、明日は今日よりより善く生き、最後の瞬間まで努力する』★『『いっぺん満足のゆくものを書いて威張ってみたいのよ』』

    2015/09/25/百歳学入門(22) …

no image
日本メルトダウンの脱出法(540)●「異文化でリーダーシップを執る日本人の育成は喫緊課題」『日本を「丸腰」にさせたがっている護憲派」

     日本メルトダウンの脱 …

no image
日本リーダーパワー史(520)『「明治の国家参謀・杉山茂丸に学ぶ」➃『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺(ほら) との吐きくらべ」

    日本リーダーパワー史(520) &nbsp …

no image
日本メルダウン脱出法(666)「米中の行く手に待ち受ける「冷たい平和」●「台頭する中国」「「モルヒネ注射」で痛みを忘れる中国経済」

  日本メルダウン脱出法(666) 「米中の行く手に待ち受ける「冷たい平和」台頭 …

no image
日中韓対立のルーツ『日清戦争』を日本の新聞はどう報道したのかー徳富蘇峰,福沢諭吉、朝比奈知泉らの主張は・①『対朝鮮発言権は日本のみと』(徳富蘇峰)

  日中韓対立のルーツ『日清戦争』を日本の新聞は どう報道したのかー徳 …

no image
日本メルトダウン脱出法(893)「ヒラリー大統領誕生で日米関係はかつてない危機も ニューヨーク・タイムズ紙の辣腕記者が明かすヒラリーの本音」◉「サミットでドイツを協調的財政出動に巻き込めない理由」◉「日本の財政拡大提案が独英の理解を得られない理由」◉「ステージに新総統が登場、垣間見えた「中国離れ」」

日本メルトダウン脱出法(893) ヒラリー大統領誕生で日米関係はかつてない危機も …