●リクエスト再録記事『日本インテリジェンスの父』『日本リーダーパワー史(331)空前絶後の参謀総長・川上操六(44)鉄道敷設,通信設備の兵站戦略こそ日清戦争必勝のカギ
日本リーダーパワー史(331)空前絶後の参謀総長・川上操六(44)鉄道敷設,通信設備の兵站戦略こそ日清戦争必勝のカギ
「坂の上の雲」の真の主人公「日本を救った男」
空前絶後の参謀総長・川上操六(43)
<鉄道敷設による兵站戦略こそ、ドイツ参謀総長・
モルトケから伝授された日清戦争必勝の戦略であった。(以上は
の記事の再録である)
前坂 俊之(ジャーナリスト)
日清戦争は決して侵略戦争ではない。戦前、清国はもちろん西欧各国も日本の勝利を予測したものはなかった。このことを忘れてはならない。清国は負けた結果、「侵略戦争、台湾もだましとられた」とウソを言い出だし、最近は今回の尖閣問題にもからめてトンデモ発言を繰り返しているが、当時、逓信省の役人、その後大臣などつとめた『田健治郎伝』(昭和7年刊、686P)では、戦争前の雰囲気をこう書いている。
『日清戦争以前においては欧米人の眼中には日本帝国なるものはほとんどその存在を知られていなかった。アジアにおける独立国はただ大清帝国(中国)があるのみでビルマ(ミャンマー)とか日本とかいう小国の存在はわずかに智論階級の人々のみが知っていたに過ぎなかのだ。
その多数は日本をもって韓国同様に清国の一属国であるかのように考えていた。外人の眼にそのように映っていたのか、日本人自身もまた第三等国をもってて甘んじていた。
ところが、清国は阿片戦争に北京戦争に福州戦争に戦へば必ず敗れたにもかかわらずる欧米人はなお「眠れる獅子」と見なし-度覚醒すれば恐るべき強国となると想像していた。
当時、清国の地方総督には北に李鴻章あり、西に左宗裳(下が木)あり、長江に劉坤一、張之洞等の群雄ありで、各自私兵を養い軍艦を億へて自ら護り、まことに湘勇准勇の如きは欧洲兵式を採用し、外国武官によって訓練され、精鋭東洋に冠たりとまで稀せられていた。
李鴻章の配下にあった北洋艦隊には「鎮遠」「定遠」の二大甲鉄艦を中堅として「威遠」『平遠』など6隻もの大戦艦を有し雄を東洋に誇っていた。当時、わが日本には鎮遠、定遠に匹敵する戦艦はなく、海軍の威力は実に貧弱なるものであった。北洋水師提督丁汝昌が大艦隊の精鋭を引き連れて日本が近海をデモンストレーション(威圧)し東京湾に乗込んできた際は朝野ともに心臓を寒からしめた。
当時の我が仮想敵国はロシアでもなく英米でもなく大清帝国が唯一の敵国と見なされていた。その支那帝国の陸海軍はわれよりも幾倍も優越であつたから万一開戦の場合には、わが国が必勝する確信はなかった。ただ士気の点において我に優るものある考えていたくらいである。』(73-74P)
この状況の中で、川上次長(実際は総長)率いる陸軍参謀本部は1人,必勝作戦を練って、着々と実行していたのである、徳富蘇峰「川上操六伝」(1942年),『田健治郎伝』(昭和7年刊)によると、鉄道敷設について以下のように書いている。
『明治22年、川上が参謀次長となってより、五年後の日清戦争まで、臨時的に任命された職務を上げると、参謀旅行統監、特別大演習審判官、特別大演習観兵式参謀長、外賓接伴委員長の外、明治二十五年、鉄道会議議長となっている。とくに、この鉄道会議議長は川上の兵站戦略の基礎となり、モルトケからたたみ込まれた必勝の条件であった。
その当時、東海道鉄道は既に開通していたが、中仙道、北陸、奥羽・九州、山陽道地方の第1期線と、その他一般の予定戦とを一定し、第一期線にはそれぞれ比較線があるため、実測調査の上、鉄道比較線路を決定して法律案として鉄道会議に提出した。川上はこの会議議長として、清国との戦争に備えての鉄道戦略を指揮した。
当時の鉄道局長長官は井上勝であったが、田は鉄道局第二部長松本壮一郎と共にこの比較線の調査研究を担当して同会議に出席した。しかし、逓信省と参謀本部との意見が激しく対立した。
参謀本部側は軍事上の意見から対外戦争が起った場合に、海岸線は何の役にも立たないから、山間を通過するようにせよと主張した。しかし、そうすれば 工事予算額は倍額に上り利益は半分から三分の一になるので、逓信省は反対した。二人は何度も参謀本部に赴いて交渉したが.ついに一致しなかった。
このため黒田逓信相は陸軍、逓信両省の関係者をあつめて臨時鉄道会議を開きこの問題を協議することになった。 二十五年九月、鉄道会議に先だって両省の巨頭会議が逓信省官邸で行われ、陸軍側より大山陸相、川上参謀次長、児玉陸軍次官、逓信側は黒田逓相、井上銭道局長官・松本部長らである。
会議では日本での鉄道建設の権威である松本部長が専門的見地によって一つ一つ、測量図を取リあげて、西は九州より東は奥羽線に至るまで、測量の結果を根拠として.各比較線につき約一時問以上詳細にその得失を説明し、参謀本部側の諒解を求めた。
その説明がおわると川上次長はすぐ立って、各線路について国防上の得失を詳しくのべ.「海岸暴露線は不省、川上断じて同意することが出来ません。一朝有事の際、国防を全うすることができません」と一時間にわたって自説を展開した。
その後、大山陸相がドッシリとした巨体で立ち上がりおもむろに口を開いた。
いづれ川上次長の裏書をして陸軍側の意見を強調するものと思っていると
、驚いたことに次長に対する反対意見を述べた。
『川上中将の細説はもちろん道理あることである。だが考へていただきたい、第一に将来、わが国が外国と戦端を開く場合があるとしても.世界の列強を残らす敵として戦うというものではなくその中には国際的に友好を寄せる国もあらであろう。そうすれば、一二の敵国が我国を攻撃することもありと仮定するも、無人の境を蹂躙するが如き行動はできない筈である。
第二に日本にも陸軍以外に海軍が存在することを考慮の中に加へねばならない.そうすればわが国の海岸は相当に防備せられる。第三には鉄道は国民一般の交通を主眼とすべきものなれば.その便益に重きを置くべきである。」
言葉は簡単だったが含蓄の深い言葉を吐かれたので.流石の川上次長も「ハィハィ」と謹んで聴いていた。すると黒田逓信相は他より発言するスキを与えず「イヤ、種々の細説もありましょう。が最早時刻ですから、食事をすましてからの事にしたいと思います。ドーゾ、此方へ」と、一同を食堂に案内した。緊張したところを巧みに外した逓相の鮮かなぶりだった。
食事中は何事もなかつたが、食事が終る頃になると.黒田逓相の眼がだんだんはすわっで来て、ジロリと川上次長をにらみめつけた。もともと酒乱で聞こえた黒田逓相だけに、この日は特に水七分に酒三分の割合で薄めた徳利で飲まれていたが、態度が急変した。
しばらくすると和服の黒田逓相は、松の樹のような太くたくましい腕ツ節をあらわして.げんこつで一つドンとテーブルを叩いた。卓上の皿はグラグラ落ちて、コップの酒はこぼれる。黒田の一層すごみを帯びた目で川上次長をにらみつけ
『オィ川上、貴様は先刻何と言うた。陸軍だけ都合がよろしければ鉄道のため国が亡びても良いつもりか…貴公も男なら俺と勝負をしろ、サー庭に出て眞剣の勝負をしろ』と凄い剣幕で喰ってかかつた。
これに迷惑したのは川上次長で、ただ『ハィ、ハイ』と受けるばかりで返事もできなかった。
大山陸相は機を見て、「大変御馳走になりました。満腹いたしましたのでおいとまいたします」とあいさつして立上り食堂をさっさと出て行った
児玉、川上中将も続いてあいさつして大山陸相に続いた。逓信省側の連中はこれを玄関に見送り終ると.黒田逓相は元の食堂に戻り、イヤどうも失礼しました、これから愉快に飲み直さうと上機嫌で杯を重ねられた。
田は松本部長とともに翌日、参謀本部にいき、川上次長に面会すると.川上の態度は一変して.「黒田の兄貴にああやられてはドーも仕方ありません。逓信省案に同意します」と譲歩した。
こうして川上次長を議長とし、関係各省の次官及び貴衆両院を代表する委員をあつめて鉄道会議は開かれたのである。
川上は日清戦争開戦前に清国に行き鉄道輸送力をチェック、勝利を確信した。
こうして、日本の鉄道は今のルートで東海道線はもちろん完成し、それまで私鉄だった山陽本線も広島まで突貫工事で延ばし、日清戦争開始寸前にやっと宇品港まで完成する。この港から、大陸へ国内の各部隊を大動員して兵員を送り込む、鉄道兵站体制が整った。
いまでいえば、国際宅急便、国際貨物便のロジスティックの完成である。日本ではそれまで早馬の速報や大量輸送の場合は船しかないが、当時の最先端の科学技術の採用、鉄道の利用が可否がが国力、軍事力、経済力発展のキーポイントであることを、川上はいち早く見抜いていたのだ。
これは余談だが、川上の科学技術にまで幅広い見識をもったインテリジェンスの高さに驚くと同時に、大山嚴の大度量、人格、見識、黒田の独特のリーダーシップの妙もふくめて、明治のトップリーダーにはキラ星のごとく人材が揃っていたことがうかがえる。
いまの100円回転寿しのネタのようなチープな3ヵ月交代の名前も知らない大臣、トップリーダー、政治家とは違うのである。余談をもう1つ。明治と現在のトップリーダーのどこに違いがあるのか、最新の科学技術、IT技術の導入である。日本の経済の沈没、国際競争力の失墜の原因はグローバルインターネット、IT.webへの情報通信革命の大転換に乗り遅れたこと。
明治のトップリーダー、川上のような慧眼、知合一致の人物がいなくなったことである。相変わらず、明治政府が作り上げた官僚制度、省庁制度を130年経ってもほとんど変えない、旧技術を一変する頭も行動力も失敗しても首にもならず、学歴だけで実力のない人間がところてん式に出世していく旧時代のシステム、テクノロジーが現在の『日本崩壊』『第3の敗戦」を招いたのである。
ついでにもう1つ、韓国の勃興は金大中大統領のとき、『21世紀世界最高のインターネットIT大国」をめざすことを宣言し、着実に実行してきた。60才をすぎていた金大中大統領は大統領官邸で円卓で大臣会議を開催し、1人,1人の前に全部パソコンがあり、ペーパレスで閣議を行うことにした映像が映し出された。金大中は有言実行で60才の手習いでパソコンを猛勉強して習得し『電子政府」に変えいったのである。
その実行力や驚くべしである。さて、、バブルが崩壊したのに「すぐ回復できる」『世界一など」と相変わらずうぬぼれ、油断、慢心していた日本はこの後、20年間、ITイノベーションを真に理解して日本再生のキーポイントにしていく慧眼の首相、大臣はいなかった。
『3,11原発自爆事故』と同じ「ドックイヤーで進む経済、産業のイノベーションで国も企業も栄枯盛衰のスピードは速まる」との文明のサイクルを理解できず、『想定外」としてゆでガエル状態を放置。
『みんなで借金して、モノ作り、土木建設大国で日本再生、そのための財政赤字など怖くない』と借金倒産の道を転落していった。
IT先進大国をめざせとペーパーを発表するだけの『情報後進ダメ郵政省、総務省』のかけ声だけの情報政策を訴えるのみで、韓国との差は開くばかりで、情報後進国、アナログ頭脳からの脱皮ができず、「サムスングループ」の大躍進から「日本の電気、電子産業グループ」(ソニー、シャープ、パナソニックなど)の転落へと、勝敗の明暗をわけた。
この映像をテレビで見た1995年ごろか、私は日本は10、20年後に韓国に負けるなと思った。
その後の韓国のインターネット,ブロードバンドの普及率、ITリテラシー、国際競争力の面で、韓国と日本の差はひらくばかり、日本沈没の危機、日本経済危うしを迎えているのである
さて本題に戻る。明治二十六年になると、清国は朝鮮で勢力拡大を続け、朝鮮半島での日本と清の勢力争いが激化していた。川上は清国と戦争になった場合の勝ち目を探るために、韓国、清国への視察を決行した。
ドイツの参謀総長モルトケから、作戦の成功には鉄道輸送力の大小が決定的であると教わっていた川上は、清国内の鉄道を調べた。その結果、戦場が満州、朝鮮となるなら、清国側では七万五千の兵力を持つ北洋軍のみが参戦可能で、日本陸軍は鉄道、海上輸送によって二十万人の兵力をスムースを戦場に送ることができると計算した。
あとは先制必勝で勝てると川上は思った。
戦場での作戦と同様に、兵姑による物資、兵員の輸送、兵器、弾薬の供給などを重要視したところに川上の戦略があった。 勝利を確信した川上は日清戦争の開戦に積極的となり、開戦をしぶる陸軍大臣山県有朋と激しい議論となったが、川上の思惑どおり、日清戦争は開戦されたのである。
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