日本リーダーパワー史(918)記事再録『憲政の神様/日本議会政治の父・尾崎咢堂が<安倍自民党世襲政治と全国会議員>を叱るー『売り家と唐模様で書く三代目』①『総理大臣8割、各大臣は4割が世襲、自民党は3,4代目議員だらけの日本封建政治が国をつぶす』
2019/09/18
2012/02/23
日本リーダーパワー史(236)転載
<日本議会政治の父・尾崎咢堂(行雄)が政治家を叱る。
★『売り家と唐模様で書く三代目』①
<初代が裸一貫、貧乏から苦労して築き上げて残した財産も三代目となると没落して、
ついに家を売りだすようになるという、国家、企業、個人にも通用する
栄枯盛衰の歴史的名言>
ー政治家のリーダーシップとは何かー
前坂俊之(静岡県立大学名誉教授)
以下は2012/02/23執筆
<3・11以降の第3の敗戦><亡国の惨状>にある日本の現在の政治状況をみると、太平洋戦争中に『売り家と唐模様で書く三代目』といった演説が不敬罪に当たるとして起訴された「憲政の神様」尾崎行雄の裁判での陳述、警告が思い出される。
第一回総選挙(明治23年)に衆議院議員となった尾崎は以後、連続当選して明治、大正、昭和敗戦までの3代、63年以上にわたりとして日本の政治、社会の変転を見てきた。
藩閥政治を批判し、普通選挙法の実施を求め、大正デモクラシーの先頭に立った。昭和に入り、犬養毅と並んで軍国主義の勃興に対して、「議会政治を死守せよ」と叫び、軍国主義を敢然と批判し、太平洋戦争中は東條内閣とも戦い、その結果が『売り家と唐模様で書く三代目』と選挙演説をしたために「不敬罪」に引っかけられて起訴された。
90歳をすぎていた尾崎は裁判闘争でくじけず戦い、そのなかで三代目につぶした日本の政治と目覚めない日本の国民性について痛烈に批判してた。
1945年(昭和20)以降、すでに70年を経過したが、現在、この昭和三代目が日本を潰す『日本病(死に至る病)』が再発っしている。
日本人はいまだに封建的な徳川時代意識から、個人主義、市民意識をもった近代日本人に脱皮できてないためである。現在の制度も一応、議会制民主主義の帽子をかぶってはいても、頭の中味は徳川幕藩体制下の士農工商の身分制度の精神の残滓が多く残っている。
ここで、尾崎の歴史的証言に耳を傾けてみよう。
政治家、国民にとって一番必要なことは自国の歴史の振り返り、他国とのコミュニケーション、外交の失敗、戦争の経緯をつぶさに検証し、将来へナビゲーションとすることである。
河村名古屋市長の軽率、歴史音痴の「南京事件はなかった」という発言が問題となっているが、政治家の自国の歴史無知が対立、紛争、戦争、貿易摩擦の原因になって、亡国したことを忘れてはいけない。日本の議会政治の父から明治、大正、昭和の失敗史の講義を聞くことにしたい。
<以下は『尾崎咢堂全集第9巻―不敬罪事件の真相』(昭和30年、公論社)>からの本人の談話である。
尾崎 行雄(おざき ゆきお)は安政5年(1858年12月生れ)で、明治7年に慶応義塾に入り、福沢諭吉の教えをうけて、政治家の道を志した。
1942年(昭和17)の尾崎の証言は『現在を予言している』
明治維新150年
「明治の末年においては、朝廷はまだ御一代であらせられた(明治天皇)が、世間は多くはすでに二代目になった。
(明治維新の元勲など)の三条実美、岩倉具視、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允らの時代はすでに去って、西園寺公望,桂太郎、山本権兵衛らの時代となっている。これはひとり政界ばかりでなく、軍事界、学界、実業界等、すべて同様である。故に予がいう所の二代目は、明治末より、大正の末年までの、およそ三十年間であって、三代目は昭和以後の事である。
全国民が三代目になるころは、朝廷もまた、御三代目(昭和天皇)になった。
しかし、私がこの川柳を引用したのを以て、不敬罪の要素とするのは、無理である。それはさておき、時代の変遷によりて起これる国民的思想感情の変化を略記すれば、およそ左のとおりである。
① 第一代目ころの明治時代の社会、国民感情はどうだったのか・・
この時代は、大体において、支那(中国)崇拝時代の末期であって、盛んに支那を模倣した。
支那流に年号を設定し(一世一元のこと。日本はそれまでは甲子定期改元と不定期改元の併用であった。中国は、明朝以降一世一元になった)
かつ数々これを変更したるが如き、学問といえば、多くは四書五経を読習せしめたるが如き、各種の碑誌銘(ひしめい)に難読の漢文を用いたるが如き、忠臣、義士、孝子、軍人、政治家の模範は、多くはこれを支那人中に求めたるが如き、その実例は枚挙にいとまないほど多い。
今日でも、年号や人名をば、支那古典中の文字より選択し、人の死去につきても、何らの必要もないのに、薨去、(こうきょ)、卒、逝(せい)などに書き分けている。
この時代には、新聞論説なども、ことごとく漢文崩しであって、古来支那人が慣用し来れる成語のほかは、使用すべからざるものの如く心得ていた。
現に私が在社した報知新聞社の如きは、私らが書く所の言句が、正当の言葉、すなわち成語であるや否やを検定させるために、支那人を雇用ししていた。以て支那崇拝の心情がいかに濃厚であったかを知るべきだろう」
「私は、明治十八年に、はじめて上海に赴き、実際の支那と書中(本で読む)の支那とは、全く別物なることを知り得た。特に戦闘力の如きは、絶無といってもよいことを確信するに至った。(戦争する力がないこと、兵隊が弱いことの意味)
故に私はこれと一戦して、彼(中国)の倣慢心(ごうまんしん)を挫(くじ)くと同時に、わが(日本)の卑屈心(ひくつしん)を一掃するにあらずんば、彼我の関係(日中関係)を改善することの不可能なるを確信し、日清戦争開戦論を主張した。
しかし全国大多数の人々、特に知識階級は、いずれも漢文教育を受けたものであるから、私を視て、狂人と見倣(みな)した。しかるに明治二十七年に至って開戦してみたら、私が十年間主張したとおり、たやすく勝ち得た。
しかし勝ってもなお不思議に思って私に質問する人が多かった。
これだけではない。三国干渉に屈従して、遼東半島を還付せるのみならず、露国(ロシア)が旅順に要塞を築き、満州に鉄道を布設しても、これを傍観していた。
これらの事実を視ても、維新初代の国民が、いかに小心翼々であったかを察知することが出来よう」
② 第二代目(日清戦争後は)ころの社会、国民感情はどうなったのか
明治二十七、八年の日清戦争後は、以前の卑屈心に引換え、騎慢心(きようまんしん)がにわかに増長し、前には師事したところの支那(中国)も、朝鮮も、眼中になく、
その国民をヨボとかチアンコロなどと呼ぶようになった。
また(東大の)七博士の如きは、露国(ロシア)を討伐して、これを満州より駆逐するはもちろんのこと、バイカル湖までの地域を割譲せしめ、かつ二十億円の償金を払わしむべしと主張し、世論はこれを喝采(かつさい)する状況となった。実に驚くべき大変化、大増長である。
古来,識者が常に警戒した驕慢的精神状態は、すでに大いに進展した。前には、支那戦争(日清戦争)を主張した所の私も、この増長慢をは大いに憂慮し、征露論(日露戦争)に反対して、大いに世上の非難を受けた。伊藤博文公の如きも、これに反対したらしかったが、興奮した世論は、ついに時の内閣を駆って、開戦せしめた。
こうして個々の戦場においては、海陸ともに立派に勝利を得たが、やがて兵員と弾丸、その他戦具の不足を生じ、総参謀・児玉源太郎君の如きも、百計尽き、ただ毎朝早起きし太陽を拝んで、天佑(てんゆうを)乞うの外なきに至った。
僥倖(ぎょうこう)=思いがけない幸い)にも露国の内証(内紛=革命の勃発)と、米国の仲裁とのため、平和談判を開くことを得たが、御前会議においては、償金も樺太も要求しないことに決定して、小村寿太郎外相を派遣したが、偶然の事態発生して、樺太(カラフト=サハリン)の半分を獲得した。政府にとりては望外の成功であった。
このような事実は、これを絶対的秘密にしてきたため、国民は、少しもこれを知らず、増長慢(増長、慢心しておごり高ぶること)に耽って平和条約を感謝する代わりに、かえってこれに不満を抱き、東京では、暴動が起こり、国民新聞など二、三の新聞社と、全市の警察署を焼打ちしてしまった。
その後、政府は自ら戦費の欠乏の一端を公にしたが、日露戦争にあの結末を得たのは、-天佑と称してよいほどの倦倖であった。
不知の致す所とは言いなが年あの平和条約に対してすら、暴動を起こすほどの精神状態であったのだから、
第二代目国民の驕慢心(きょうまんしん=おごり高ぶること)の増長も、すでに危険の程度に達したと見るべきであろう。
右の精神状態は、ひとり軍事外交方面のみならず、各種の方面に生長し、ややもすれば国家を、成功後の危険に落とし入るべき傾向を生じた。
第一次世界大戦に参加したのも、また中国に対して、いわゆる21ヵ条の要求を為したのも、みなこの時代の行為である」
つづく
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