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『野口恒の震災ウオッチ②』東日本大震災の復興策にも生きる「浜口梧陵」の業績ーー復興策の生きた教材-

   

『野口恒の震災ウオッチ②』
 
東日本大震災の復興策にも生きる「浜口梧陵」の業績
-東日本大震災の復興にも通用する復興策の生きた教材-

 
 
野口恒(経済評論家)
 
 安政の大地震・津波から村民を救った偉人として、「濱口梧陵」についてはすでにNHKテレビ番組で放送されたり、多くの出版物にも紹介されています。前坂俊之さんのホ-ムペ-ジでも「日本リ-ダ-パ-ワ-史(142)『大津波を私財を投じた堤防で防いだ濱口梧陵-国難リ-ダ-はかくあれ』」でも紹介されています。
 
濱口梧陵についての解説はそちらに譲るとして、私は濱口梧陵が当時なした業績は、今度の東日本大震災の復興策にも十分生きているのではないかと思います。とくに、私は彼が成し遂げた業績において、今日でも“生きた教訓”として高く評価するのは、次の4点についてです。
 
(1) 高台避難:海岸付近で地震を感じたら、津波に注意して何をさておき高台に非難することを彼は知らせたのです。それが梧陵の稲むらに火を放つ行動につながったのだと思います。刈り取った稲むらに火をつけて紀州・広村(現在の和歌山県広川町)の村人たちに津波の到来を知らせ、ともかく高台にある広八幡神社に避難するように誘導したという、有名な「稲むらの火」の話が伝えられています。
 
江戸時代の安政大地震(1854年12月24日午後4時頃)は、それ以前に起こった慶長大地震(1605)や宝永大地震(1707)よりも大きな巨大地震であった(マグニチュ-ド8.4 震源域は紀伊半島から四国沖)。巨大地震に伴う大津波の到来はきわめて速く、被害は壮絶だった。
 
記録によると、津波は房総半島から九州にまで押し寄せ、その高さは5~6mに及び、全半壊家屋 約60000棟、流失家屋 約21000棟、死者 約3000人だったと言われています。
 
梧陵は、津波から逃れるには一目散に高台に避難することが大切だと考え、稲むらに火を放って津波にのまれた村人に避難地の場所を知らせたのです。「地震・津波を感じたら真っ先に高台避難」は、東日本大地震の復興策を考える「復興構想会議」でも高台非難が指摘されていますが、今から160年以上も前に梧陵がこれを行っていたことは非常に重要な先人の智恵だと思います。
 
(2)        海岸林(防潮林): 大震災・大津波に襲われた後、梧陵が村人のために復興策として行ったのでか「防潮林の植林」と「防潮堤の建設」でした。今度の東日本大震災でも三陸海岸に植えられた海岸林(防潮林)がほとんど根こそぎ流されたり、破壊されていまいました。
 
梧陵は、もともと紀州・和歌山から安房・銚子に移り、家業の醤油醸造業「ヤマサ醤油」を起こした先祖・初代濱口儀兵衛の分家の長男に生まれ、自らも34歳の時に本家の養子となって七代目濱口儀兵衛(梧陵は号名)を継ぎ、家業のヤマサ醤油を発展させた豪商でした。
 
彼は、莫大な私財を投じて防災用の「防潮林」「防潮堤」の建設に乗り出しました。たびたび地震や津波に襲われた広村の村民は、もうこんなところには住めないと離村を次々に申し出てきました。
 
そこで、梧陵は何とかして村民が安心して住める村にしようとまず、津波対策として海岸沿いに松並木を植林しました。防潮林だけでも、第一波の津波の被害をかなり防ぐことができます。次に梧陵が取り掛かったのが、防潮堤の建設です。
 
(3)        防潮堤(広川堤防):梧陵は、村人と一緒になって植林した津波対策用の防潮林の背後に、村民を津波から守る堤防造築に乗り出しました。「広川堤防」と呼ばれる防潮堤は、高さ 5~6m、幅 20m、長さ 600mに及びました。梧陵は自ら莫大な私財を投ずると共に、村の豪商たちにも出資を募り、また村人には老若男女を問わず、堤防建設への参加を頼みました。
 
堤防造築に参加した者には日当を与えて、農具や漁具を無料で与えたといいます。この堤防建設には、工期 3年10か月、参加した延べ人員 約57000人、総工費 約銀94貫を要したといわれ、1858年に完成しました。
 
和歌山県広川町出身の元気象庁地震火山部長・津村健四朗氏の調査によれば、この広川堤防は、1946年12月21日に起こった昭和南海地震(マグニチュ-ド8.0)でも広川町の人々や居住地の大部分を守り、津波から人々の命を救ったとのことです。
 
(4)        高台移住:政府の「復興構想会議」でも、住民の高台移住が指摘されていますが、梧陵は、より安全な高台に移住して新たな家を建て、生活をしていこうと希望する村民には私財を投げ打って財政的な支援を行いました。具体的には、被災した農民には必要な土地(耕地)や農機具、被災した漁民には漁船や漁具を貸し与えて当面の生活が何とかできるように彼らの暮らしを支えていきました。今の民主党政府の遅々として進まない震災復興策を見ていると、梧陵の迅速かつ的確な復興策には頭が下がる思いがします。
 
濱口梧陵の紹介では、津波から村民を救い、高台に避難した「稲むらの火」の話が有名であり、そればかりに偏っている面がありますが、彼の残した業績で特筆されるのは、大震災・大津波後に成し遂げた業績である「震災復興策」にあります。
 
今日から考えても、「まず高台避難、次に防潮林・防潮堤の建設、そして高台移住」へと成し遂げていったその復興策の取り組みは、そのまま今日でも地震・大津波対策のお手本として通用するものであり、まさに生きた教材であると思います。
 
幕末から明治にかけて生きた濱口梧陵の人生は、まさに波瀾万丈であります。その紹介は前坂さんのレポ-トに譲りますが、梧陵は幕末には開国・開明論者として、佐久間象山、勝海舟、福沢諭吉らと幅広い交友関係を結び、とくに近代日本を担う人材教育に重視して、海外に目を向けた英語教育に力を入れ、教育者として福沢諭吉を尊敬して深い交友関係を築いています。当時にあってきわめて先進的な彼の教育論も非常に興味深いテ-マであり、研究に値すると思います。福沢諭吉は、梧陵を「博識の士」とさえ評しています。
 
 
濱口梧陵の成し遂げた業績や彼の人生は、東日本大震災・大津波の被害を経験した今日の日本において、もっと本格的に、専門的にも研究・調査されてもいいと思っています。

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