日本リーダーパワー史(195)『真珠湾攻撃から70年―山本五十六のリーダーシップ』ー海軍大将・井上成美が語るー
以下は『水交社記事』 「故山本元帥追悼号」(41巻3号、昭和18年9月25日発行、財団法人水交社発行)の中の『故山本元帥国葬に際し講話』(海軍中将 井上成美)である。日本海軍最大のリーダー・山本の人間像を最も身近にみた、これまた海軍の良識派の代表選手・井上成美が「海軍兵学校」で語ったもの。日本人のリーダーシップの1つの頂点、限界をみる思いである。アングロサクソン流の統率、リーダーシップとはもちろん異なる、だからといって中国的な「孫氏の兵法」人身掌握術でもない。日本的な浪花節、剣豪、人情大将で、勝つための戦略ではなく、みんないっしょに黙って、山本元帥のためならたとえ火の中、水の中、死んでもいいという特攻、玉砕、戦陣訓の「死の美学」「死のヒロイズム」「死のリーダーシップ」である。
たまたま、昨日9/27のNHKクローズアップ現代「コーチに学ぶ社長たち、リーダー力を磨け」をみたが、まるでナンセンスである。ドラッガーとか、アメリカの経営コーチンチングを誤解して日本企業、トップは導入しようとしているが、いいも悪いも日本のリーダーシップは極致はこの山本流なのである。昨年、ある人材派遣の中小企業にやっと就職できた私の大学ゼミ生の話では毎日9時から夜11時、12時まで残業代なしで、働きづめという。月給は17万とか。それでは奴隷とかわらないではないか、というと「そうですね。しかし、ほかに働き口はないしね」と我慢、我慢の生活だとか。この会社も上司がコミュニケーション、コミュニケーションとやかましく、これまたアメリカ流の経営術の受け売りで情報の共有化に熱心という。
戦前の日本軍とあまりかわっていない。日本の組織、集団、コミュニケーション、社長の統帥、リーダシップの極限値である日本の軍隊の特徴ををしらずして、現代経営を理解することはできないし、社員をうまくうごかすこともできないであろう。
解決のキーワードは歴史にある。アメリカよりも足下を掘り下げるべきであろう。
今から話すことは、これらの機会に私が直接、元帥に接して受けた印象や、見聞きした元帥についての話で、新聞などに出ておらないことを主として紹介する。
(1)元帥は頭脳は飛び抜けて明晰、物事の判断は実に文字どおり快刀乱麻を断っがごとく、なお常に先が見えることは、余人の追従を許さぬところであった。
これがため、元帥の言わるることは、時とすると大変に変わっており、人と違ったことをよく言われるので、吾々は「オヤッー・」と思うことはたびたびあった。何ゆえにさような違ったことを言われたかということは、後に至ってようやくわかるようになったが、人がせいぜい一手先か二手先までのことを考えて物を言っているのに、元帥は五手も六手も先を見て物を言っておられたためである。これは元帥にはよく先が見えるためである。
また、不思議に元帥の予言が的中する。
そこで作戦が予定通り進まず、実施に多少の齟齬を来したような場合があると、先の見えぬ連中(私等も此の連中の一人)は周章とまでいかずとも、ちょっと面喰らったり憤慨し
たり悔しがったりするが、元帥は「俺はそううまくはいかぬと思っていたよ」と平然たるものあり。
(4) 元帥はまた極めて正義感の強い人であるゆえ、何事でもあらゆる角度からこれを検討して、正しいと考えたことなら必ず賛成せられ、「それでよし」といわれるので、その点、部下としても仕事は極めてやりやすくもあり、また張り合いもあった。元帥はその反面として、正義に反することを非常に憎み、また嫌われた。
時は昭和十三年五月頃だったと記憶す。支那事変当初の渡洋爆撃隊の指揮官が内地へ帰還し、大臣室で任務の報告があり、若い飛行機搭乗員奮戦の状況をつぶさに報告した。誠に感激深き報告であったが、報告終わって山本次官は次官室へ退がられ、後に続いて私も次官室へ迫がったところ、山本次官は涙を滝のごとくに流され、拳でそれを払っておられた。
昭和十二、三年は実に支那事変の海軍作戦の最高潮な時で、軍務局などは日曜も祭日もあったものでなく、全くの三百六十五日の出勤で、紀元節でも天長節でも仕事仕事で非常に多忙であったが、日曜日など十一時頃になると、秘書官がよく「次官からです」といって、美味しい寿司や洋食弁当などを軍務局長室へ持つて来たものである。
この三つに注意が肝要である。今後も山本元帥の言行録や伝記のようなものが続々と票出で、諸子の修養に豊富な材料を提供することと思うが、ここに述べた三点の注意を忘れずに真面目に修養すべきである。
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