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日本リーダーパワー史(234)★『徳富蘆花の『謀反論』再読のすすめー(上)“反原発謀反人”となって日本、世界を救え』

   

日本リーダーパワー史(234)
 
<日本の国難突破論を読み直す>
 
★『徳富蘆花『謀反論』再読のすすめー(上)
反原発謀反人”となって日本、世界の未来を救え
 
前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
    今回の原発自爆事故は日本にとっては第3の敗戦に当たる。徳川幕藩体制、明治維新が第一の敗戦、アジア太平洋戦争の敗戦が第2の敗戦、今回が第3の敗戦となった。
 
    日本の興亡は明治維新から150年である。明治維新から「坂の上の雲」(富国強兵軍事拡大主義、中央集権封建的官僚支配体制)で世界の軍事大国にのしあがり、80年後にアジア太平洋戦争敗戦(1945年)で、もとのゼロにもどった。
 
    昭和20年廃墟からスタート、富国強兵政策の軍事力を捨て(米国の属国になり、日米安保)経済復興、再生で経済に一点、死に物狂いで働いて『富国経済原発エネルギー拡大主義』で60年やってきた。
 
    つまり、この明治からの現在までの軍事力(原爆)、経済力(原発エネルギー)の拡大路線、成長主義は一貫して変わっていない。
    今、1千兆円を超える国の借金、少子高齢化人口減少国家となり、10年後、20年後から考えれば国家破綻、日本の老衰退国への決定的な転落は間違いない事態となって、政治、社会は混乱、混迷の状態にある。
 
    そこに3・11原発自爆事故によって、昭和戦後に進めてきた原発エネルギーによる経済大国化政策の失敗としての地上では最強、最毒、最凶放射能阻止50年長期戦争を自ら引き起こしてしてまった。天災ではなく、想定せず、危機対策を無視した人災であり、いまだに福島に被爆を安全として放置している。
    それなのに、能天気なことに巨大地震国であす再び、地震、津波が起こるかどうかわからない段階で、経済のために、放射能による『命』の犠牲を棚に上げて、さらに原発エネルギー路線の温存を図っている。
 
⑧ 徳富蘆花は明治の文学者、知識人の1人であり、一〇〇年前の大逆事件で永井荷風をはじめ明治の知識人の多くが、幸徳秋水らの死刑に震え上がって口を閉ざし「一大フレームアップ事件の大逆事件」を批判する勇気も見識もなかった中で、堂々と『謀反論』を書いて政府を批判した。
 
    この幸徳秋水ら社会主義的な平和主義者の行動、主張を反原発、脱原発の主張とそれを抑え込もうとしている政府、権力側の態度とを比較しながら読むと、人間の尊厳、自由、権利、平等、言論の自由、民主主義社会の基本の在り方と、日本社会の歴史的な構造、問題点がよく見えてくる。
 
    原発に対してはっきりうものをいう勇気、メディアにも勇気をもって真実への挑戦がかかせない。
 
 
 
徳富蘆花のグローバリズムの『謀反論』
 
 僕は武蔵野の片隅に住んでいる。東京へ出るたびに、青山方角へ往くとすれば、必ず世田ケ谷を通る。僕の家から約一里程行くと、街道の南手に赤松のばらばらと生へた処が見える。これは豪徳寺―井伊掃部守直弼の墓で名高い寺である。豪徳寺から少し行くと、谷の向うに杉や松の茂った丘が見える。吉田松陰の墓及び松陰神社は其丘の上にある。
 
井伊と吉田、五十年前には互に倶不戴天の仇敵で、安政の大獄に井伊は吉田の首を斬れば、桜田の雪を紅に染めて、井伊が浪士に殺される。斬りつ斬られつした両人も、死は一切の恩怨を消してしまって谷一書のさし向ひ、安らかに眠ってゐる。
 
今日の我等が人情の目から見れば、松陰はもとより醇乎として醇なる志士の典型、井伊も幕末の重荷を背負って立った剛骨の好男児、朝に立ち野に分れて斬るの殺すのと騒いだ彼等も、五十年後の今日から歴史の背景に無しで見れば、ひっきょう今日の日本を造り出さんが為に、反対の方向から相槌を打ったに過ぎぬ。
 
彼等は各々其位置に立ち自信に立って、なるだけの事を存分になって土に入り、其余沢を明治の今日にうくる百姓等は、さりげなく真裏の近所で悠々と麦のサクを切ってゐる。
諸君、明治に生まれた我々は5,60年前の窮屈千万な社会を知らぬ。この小さな白本を六十幾箇の碁盤にしきって、一寸隣へ往くにも関所があったり、税が出たり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限があり、法度(はっと)でしばつて、習慣で固めて、いやくも新しいものは皆禁制、新しい事をするものはみな謀反人であった時代を想像してごらんなさい。実にたまったものではないではありませんか。
 
幸にして世界を流れる一の大潮流の余波は、暫く鎖した日本の水門を乗り越え滔々と我日本に流れ入って、維新の革命は一挙に六十藩を揚蕩し、日本を挙げて統一国家とした。
 
 
その時の快活な気持は、何ものを以てするも比すべきものが無かった。諸君は解脱は苦痛である。而して最大愉快である。人間が懺悔して赤裸々として立つ時、社会が旧習をかなぐり落して天地間に素裸で立つ時、その雄大光明な心地は実に何とも云へぬのである。
 
明治初年の日本は実に初々しいこの解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねねぎ、二枚はねねぎ、素裸になって行く明治初年の日本の意気は実にすさまきじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、部落民が平民になる、自由平等革新の空気はほうはくとして、その空気に蒸された。日本はまるでタケノコの様にずんずん伸びて行く。インスピレーションの高調に達したといはうか、寧ろ狂気といほうかー狂気でも宜いー 狂気の快は不狂気の知る能はざる所でぁる。
 
誰がその様な気運を作ったか。世界を流る人情の大潮流である。誰が其潮流を導いた乎。我先覚の志士である。所謂、志士苦心多で、新思想を導いた蘭学者にせよ、局面打破を事とした勤王攘夷の処士にせよ、時の権力からいえば謀反であった。彼らが千刑晩万棘をわたった艱難辛苦(かんなんしんく)」は一朝タに説き尽せるものではない。
明治の今日に生を享くる我々は十分に彼等が苦心を酌んで感謝しなければならぬ。
僕は世田ケ谷を通るたびごとにそう思う。吉田も井伊も白骨となってもはや五十年、彼等及び無数の犠牲によって与へられた動力は、日本を今日の位置に達せしめた。日本も早や明治となって四十何年、維新の立者多くは墓になり、当年の書生青二才も、福々しい一重若くは分別臭い中老になった。彼等は老いた。
 
日本も成長した。子供で無い、大分大人になった。明治の初年に狂気の如く駈足で来た日本も、いつの間にか足もとを見て歩く様になり、内観するようになり、回顧する様になり、内治のきまりも一先づついて、、二度の戦争に領土は広がる、新日本の統一ここに一段落を画した観がある。維新前後の志士の苦心もいささか酬いられたと云はなければならぬ。然らば、新日本史はここにに完緒を告げたか。ここから守成の歴史に移るのか。局面回転の要はないか。最早、志士の必要は無いんか。飛んでもないことである。
 
五十余年前、徳川三百年の封建社会を一唯おし流して日本を打って一丸とした
世界の大潮流は、倦まずやまずほうはいとして流れでゐる。それは人類が一にならんとする傾向である。四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五六十年前の徳川の日本である。何の国も何の国も陸海軍を並べ、税関の戦を押立てゝ、兄弟どころか敵味方、右で握手して左でポケットの短銃を握る時代である。窮屈と思ひ馬鹿らしいと思ったら実に片時もたまらぬ時ではないか。
 
然し乍ら人類の大理想は一切の障害をおし倒して一にならなければ止まぬ。一せん人種と人類の間もその通りである。階級と階級の間もそれである。性と性の間もそれである。宗教と宗教―数へ立つればきりが無い。部分は部分に於て一になり、全体は全体に於て一とならんとする大渦小渦、鳴門のそれのような波瀾の最中にわれは立ってゐるのである。この大回転、大軋轢は無期限あらうか。
 
あたかも明治の初年日本の人々が感激の高調に上って、解脱に解脱狂気の如く自己をなげうった如く、我々の世界も何時か王者その冠を投出し、富豪その金庫投げ出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、青天白日の下に抱擁、握手する刹那は来ぬであらうか。
(中略)
 
 
ゾラの小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋をのこぎりでゴシごし切っておく。水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といはず横坑といはず廃坑といはず知らぬ間に水が廻って、が然、鉱山の敷地が陥没を初めて、建物も人も恐ろしい勢で、またたく間に総崩れに陥ち込んで了ったといふ事が書いてある。
 
旧組織が崩れ出したら、案外速くばたばたといってしまうものだ。地下に火が回る時日が長い。人知れずれず働く犠牲の教が要る。犠牲、実に多くの犠牲を要する。日露の握手を来す為に幾万の血が流れたか。彼等は犠牲である。然し乍ら犠牲の種類も一ではない。自ら進んで自己を進歩の祭壇に提供する犠牲もある。-新式の吉田松陰等は出て来るに違いない。僕は角思いつつ常に世田ケ谷を過ぎていたた。思ってゐたが、実に思いがけなく今、明治由十四年の劈頭にに於て、我々は早くもここに十二名の叛逆人を殺すことゝなった。唯、一週間前の事である。
 
 
諸君、僕は幸徳君等と多少立場を異にする者である。僕は臆病者で血を流すのは嫌である。幸徳君等にことごとく真剣に大逆を行う意志があったか無かったか僕は知らぬ。彼等の一人・大石誠之助がいった如く、今度のことは嘘から出た真で、はづみにのせられ、足もとを見るいとまもなく陥穽に落ちたのか如何か。僕は知らぬ。舌は縛られる、筆は折られる、手も足も出ぬ苦しをれに死物狂になって、天皇陛下と無理心中を企てたのか、否か。
 
僕は知らね。冷厳なる法律の目から見て、死刑になった十二名悉く死刑の価値ががあったか、なかったか。僕は知らぬ。「一無辜を殺して天下を取るも不為」でその原因は事情は何れにもせよ一大審院の判決通りに大逆の企があつたとすれば、僕は甚残念に思ふものである。
 
暴力は感心が出来ぬ。自ら犠牲となる共、人を犠牲にはしたくない。然し乍ら大逆罪の金に万不同意であると同時に、その企ての失敗を喜ぶと同時に、彼等十二名を殺したくはなかった。生かして置きたかった。彼等は乱臣賊子の名を受けてもたゞの賊ではない、志人である。ただの賊でも死刑はいけぬ。いわんや彼等は有為の志士である。自由平等の新天地を夢み身をささげけて人類の為に尽さんとする志士である。
 
その行為はととえ狂に近いとも、その志は憐れむべきではないか。彼等は、もとは社会主義者であった。富の分配の不平等に社会の欠陥を見て、生産機閑の公有を主張した、社会主義が何が恐い? 世界の何処にでもある。
然るに狭量にして神経質な政府はひどく気にさへ出して、殊に社会主義者が日露戦争に非戦論を唱えると、にわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事件となって、官権と社会主義者は到頭、犬猿の間となって了った。
 
諸君、最上の帽子は頭にのってゐることを忘るゝ様な帽子である。最上の政府は存在を忘れらるような政府である。帽子は上に居る積りであまり頭を押付けてはいけぬ。我等の政府は重いか軽いか分らぬが、幸徳秋水君等の頭にひどく重く感じられて、到頭、彼等は無政府主義者になってしうまった。無政府主義が何が恐い? その程無政府主義が恐いなら、事の、未だ大ならぬ内に、下僚ではいけぬ、総理大臣なり内務大臣なり自ら幸徳と会見して、膝つめの懇談すればい、ではないか。
 
しかし、当局者はそのような不識庵流をやるにはあまりに武田式家康式で、且あまりに高慢である。得意のタコの様に長い手足で、じいとからんで彼等をしめつける。彼等は今や堪えかねて最早最後の手段に訴へる外ないと覚悟して、幽霊の様な企てがふらくと浮いて来た。
 
彼等の或者短気がいけなかった。ヤケがいけなかった。今一足の辛抱が足らなかった。然し誰が彼らをヤケにならしめたか。法律の眼から何と見ても、天の眼からは彼等は乱臣でもない、賊子でもない、志士である。皇天真志を憐れんで、彼等の企は未だ熟せざるに失敗した。彼等が企の成功は、素志の蹉跌を意味したであらう、皇天皇室を憐れみ、また彼等を憐れんでその金を失敗せしめた。企ては失敗して、彼等はとらえられ、さばかれ、十二名は政略の為に死滅一等せられ、重立たる余の十二各は天の恩寵によって立派に絞首台の露と消えた。十二名-ト諸君、今一人、土佐で亡くなった、多分自殺した幸徳の母君あるを忘れてはならぬ。
 
 かくの如くして彼等は死んだ。死は彼等の成功である。パラドックスのやうであるが、人事の法則、負くるが勝ちである。死ぬるが生きるである。彼等は確にその自信があった。死の宣告受けて法廷を出る時、彼等の或者が「万歳! 万歳!」と叫んだのはその証拠である。彼等はかくして笑を含んで死んだ。悪僧と云はるゝ内山愚童の死顔は平和であった。
かくして十二名の無政府主義者は死んだ。教へがたき無政府主義の種子は蒔かれた。彼等は立派に犠牲の死を遂げた。  
 
                        (つづく)
 

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