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日本リーダーパワー史(362)『軍縮・行政改革・公務員給与減俸』など10大改革の途中で斃れたライオン宰相・浜口雄幸

   

日本リーダーパワー史(362)

<昭和史の大宰相のリーダーシップ
 
「『金解禁・軍縮・行政改革・公務員の給与の減俸』と10大
国難打破の途中で斃れた悲劇のライオン宰相・
浜口雄幸の『男子の本懐
』」
 
 
 前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
 
大正~昭和初期の官僚・政党政治家。(1870―1931)明治三年四月、高知県の旧土佐藩お山方、水口胤平・繁子の三男
として誕生。のち高知県安芸都の浜口家の養子となる。高知中学、第三高等中学校、帝国大学に進み、明治二十八年に卒業、
大蔵省に入る。しかし上司と対立し、地方での勤務を十年近く強いられた。明治三一十七年タバコ専売局に戻りのち
専売局長官となる。
第一次桂太郎内閣逓信次官を経て、桂が旗揚げした新党の後身立憲同志会に参加。
のち衆議院議員に当選、憲政会総務を務める。第一次加藤高明内閣の大蔵大臣となり、以後内務大臣も務める。
昭和二年立憲民政党総裁、四年七月、内閣を組織し金解禁・緊縮財政政策とロンドン軍縮条約調印など国際協調政策を
推進した。五年十一月東京駅で右翼青年に狙撃され重傷を負う。やや回復し政務に戻ったが六年八月死去した。
 
 

昭和史はおもしろい、昭和史の新聞を読むともっとおもしろい。小泉純一郎首相はその政策や風貌から「ライオン首相」「変人首相」と呼ばれたが、こちらの方こそ元祖「ライオン宰相」なのである。 
昭和四年(1929)に誕生した浜口雄幸(おさち)首相で、金解禁を実施し、軍縮、行財政改革、財政緊縮、官吏減俸(国家公務員の減俸)など十スローガンに熱心に取り組み、その政治姿勢、風貌は小泉以上の大先輩であった。
 
その浜口首相は昭和五年(一九三〇)11月14日、東京駅で右翼の青年にピストル流行語となった。浜口は岡山で行なわれる陸軍特別大演習に出席するため、この日午前八時、東京駅発の特急「つばめ」に乗り込むために東京駅にきて駅長室で休み発車五分前に六両目の一等事に乗車しようと歩いている時、羽織姿の男がモーゼル型拳銃で下腹部を撃たれた。その時、「男子の本懐」と口走り名言となった。このテロの一発がわが国の軍国主義の号砲ともなった。
 
銃弾はヘソ下から入り、小腸に達していたが、手術は一応成功し、一命をとりとめた。浜口番の記者たちは東大病院にテントを張って経過を見守った。
ところが、主治医の顔色がさえない。腸がつながったことを示すクオナラクが出ないのだ。「腹膜炎併発の兆候、首相の容体悪化す、生命を左右するガスの排出」「全世界が待ち焦がれるガス一発」(『読売新聞』十五日付)と、新聞各紙トップにデカデカと「屁」「オナラ」の見出しが躍った。
 
「ガスはまだか…」「オナラは出ないのか…」
 
記者団と主治医の屁問答″が続き、国民もカタズを飲んで〝総理の一発“を今か、今かと待ち望んだ。三日目。疲れ切った記者団のテントに秘書官が大喜びでかけ込んできた。「バンザイ、やっと出たよ。大きなガスが‥!」
 
十七日午前一時過ぎ。ベッドの浜口は二度続けて「ブーツ、ブーツ」とヱ合音砲〃を放った。まさに日本、世界中が待ちにまった起死回生の一発。
「ガス一発のよろこび」(『大阪朝日』十九日付)、「首相の屁一つ、円為替を煽る」(『大阪毎日』二十日)。
この屁で上海の円為替は一挙にⅠがった。関係者も大喜びで、「寒月やライオンの屁にゆらめけり」「屁一つ秋の世界の晴れ渡る」
「秋の夜や天下にひびく屁一つ」とへたな祝福の川柳を詠んで、読者は屁に一喜一憂して笑い転げたのである。                     ・
 
 
死後、3週間後に満州事変を関東軍が起こした。
しかし、浜口はこの傷が悪化して、翌年八月二十六日、ついに不帰の客に。この三週間後に、関東軍の満州・柳条溝での謀略による一発が満州事変の号砲を告げたのである。
 
浜口の実父は水口胤平といい、有名な酒豪であった。雄幸が生まれて役場に出生届を出す時、家で祝酒を飲みすぎて酔っぱらってしまっていて、「幸雄」と書くべきところを逆に「雄幸」と書いてしまった。 
雄幸も南国土佐(高知県)の生まれで、親の血を引いて酒豪で通っており、当時灘の酒は二円五十銭だったが、二升五円という高級酒「松竹梅」を毎晩、晩酌にやっていた。
 
この件には別の話もある。浜口が生れる前、彼の生家である水口家にはすでに二人の男の子がいた。伝来の田畑もあり子供の養育には事欠かないので、父母はもう一人子供が欲しくなった。
それも、どうしても女の子が欲しかった。だが明治三年四月に生れた第三子は、またまた男の子であった。そのため、父母はその子を「雄幸」と名付け「おきち」と呼んだ。(関根実『浜口雄幸伝』)
 
 
 浜口は生まれつき無口な男だった。二十一歳で結婚し、浜口家の養子となった。ここでもあまりに無口なために、誤解されて好意を持たれなかった。実家と養家との距離は約五十キロあり、養家の下男と一緒に馬でよく往復したが、一言も発しなかった。
「どうして若旦那はそう無口なんでしょう」と問われると、「ものを言う必要があったら言う」と答えた。
 
 
○浜口のあだ名は「ライオン」であった。この名は浜口の風貌がライオンに似ていることに由来するという説と、議会での演説が満場を圧倒する威力があったことから付けられたという説がある。また次のような説もある。
 
 
 
 無口で人づきあいのうまくない浜口は、東大法学部を卒業後、大蔵省の役人となっても左遷が続き、出世が遅れた。

やっと大蔵省でも傍流の専売局長官になった。謹厳、寡黙で黙々と働いていた浜口を、初代満鉄総裁の後藤新平が見込んで、満鉄理事に誘った。当時の満鉄理事は次官以上のポストといわれ、収入も十倍以上の好待遇であった。

しかし、「塩田整理の今の仕事を途中で投げ出すわけにはいかない」と浜口は断った。責任感旺盛、あくまで頑固一徹なのである。

しばらくして、住友財閥を切り回している住友家総理事から「ぜひ、理事になってほしい」とスカウトがかかったが、同じ理由で断ってしまった。
 
 明治四十一年(一九〇八)、第二次桂内閣で後藤新平が逓信大臣となり、再び浜口に次官のポストへの声がかかったが、浜口は同じ理由で辞退した。
 大正元年(一九一二)、後藤は再び逓信大臣となり、三たび浜口に次官のロを誘った。塩田整理はすでに終わっており、六年目にしてやっと剥き受けた。
 
 第三次桂内閣は短命で、浜口の逓信次官は長くはなかった。浪人すると浜口は立憲民政党に入り、次の総選挙では落選した。
しかし落選しても、政党に対する熱意を失わず、議会の中で自由に行動するのが一番いいとして、民政党の事務員のバッチをつけて議会へ通っていた。
それを加藤高明(後の首相)が見て「あれだけの人が、ああして議会に出入りしているのを見ると、気の毒でたまらん。なかなか出来るものじゃない。実にえらい」と感心しきりだった。(若槻礼次郎著『古風庵回顧録』)

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