『Z世代のための日本リーダーパワー史(380)」★『児玉源太郎伝(3)『 ●『日露戦争でドイツ・ロシアの陰謀の<黄禍論>に対して国際正義で反論した明治トップリーダーの外交戦,メディア戦略に学ぶ』★『<英国タイムズ紙、1904(明治37)年6月6日付記事>』
2024/10/28
前坂 俊之(ジャーナリスト)
『日本は膨張または征服のために現在の戦争を始めたのではなく,帝国の安全と東洋の恒久平和のために,また日本が西洋諸国から吸収し同化してきた博愛に満ち開化された文明の進歩のために,やむなく戦うことになった」
『日本が東洋の指導者になれば,日本が最終的に選んだ道,つまり西洋との緊密な共同の道を隣国に歩ませるために日本は影響力を行使するだろう。』
『黄禍論』に対して―日露戦争で正義と人道と国際法の慣例に
厳格に従って戦争を遂行している日本」
<英国タイムズ紙、1904(明治37)年6月6日付記事>
ロシアの友人たちが,日本はアジアの覇権を求めて戦っている,東洋諸国を束ねて西洋諸国に反対する連盟を結ぶ目的で戦っていると,世界を納得させようとしているが,最近それに対して興味深い発言があった。
このような荒唐無稽な幻想をどうやってまともに扱ったらいいかと,日本の論客が困惑しているのは容易に推察できる。彼らの国は過去半世紀の間に西洋と緊密に結びつき,多くのきわめて重要な利益を発展させた。
これが日本の現在と未来の繁栄の根本を成す一方で,明らかにこの育成と保護は欧米との友好関係の維持にかかっているので,西洋と東洋の人種的な衝突は彼らにとって忌まわしく,考えがたい見通しに思えるのだ。
そこで,信頼を寄せているのに邪推されたり,善意で付き合っているのに敵意を持たれたりするのはつらいことだが,日本人は賢明にも平静を保っている。
たゆみない快活な努力によってのみ是正できる風潮をあざけってもしかたがないことに彼らは気づいている。元来この幽霊は,ドイツ皇帝が悪夢とお化けの世界から呼び出して,今はロシアがその利己的な侵略のために実体化させている。
もしこの幽霊に感化されたヨーロッパが日本人を西洋社会から排除するように主張したら,きわめて不当で承服しがたいやり口で押しつけられている役割を日本人はついに演じざるを得ないのではないか,
つまり野蛮な追放に対しては黄色人種の抵抗を組織しなければならないのではないか,という懸念があちらこちらで強まっているのは確かに見てとれる。
犯罪の歴史は,人をのけ者にすると一般にその原始的な激情をあおる結果になることを示している。ペテルプルグの目的には,キリスト教諸国に日本を排斥してもらい,日本を懲らしめる権限をロシアにゆだねてもらえば,大いに好都合だろう。
しかし.たとえ少数の日本人がこのように神経を逆なでにする非難を浴びせられていっまでも我慢できるかどうかを疑問視し始めているとしても,大多数の日本人は敵の術中にはまることなく,最後には真理が勝利することを信じて,冷静にたゆみなく,自由,博愛,進歩の道を進もうと決心しているようだ。
彼らが,ともかく合衆国では彼らの本当の動機と望みが分かってもらえると信じて,一合衆国の共感を求めるのは不自然でない。日本はこれまで他のどの国よりもアメリカの友情に暗黙の信頼を寄せてきた。そこで首相は,著名なアメリカ人宣教師W・インプリ師を通して,広くは世界に向けて,そして特に合衆国国民に向けて発言することにした。
桂伯爵(桂太郎首相)の説明の多くは,すでに広く一般に認められていること,つまりこの戦争の目的は日本帝国の安全と東洋の恒久平和であるということの証明に当てられた。
しかし,彼の主張で特に強調されるのは,この戦争(日露戦争)が人権や宗教の違いとはなんら関係がなく-この後者に関しては,キリスト教宣教師を代弁者に選んだことが意味を持つ-この戦争は正義と人道,世界の通商と文明のために遂行されているということだ。
「人道の原則と国際法の慣例に厳格に従って戦争を遂行する義務」を徹底させるために,戦争の勃発に際して日本ほどの労をとった政府はほかにないと閣下は考えている。
採用された予防対策は3つある。
第1に,各地の地方官吏は,管轄区域に住むすべてのロシア人の保護に遺漏なきよう注意された。
第2に,あらゆる等級の教育機関の教職員は,担当の生徒を指導し,外国人への礼儀を十分にわきまえさせるように促された。
第3に,仏教,神道,キリスト教を問わず宗教団体の公認の代表に通達が出て,この戦争はひとえに国家と国家の間で行われており.個人は関与していないこと,いずれの国籍の者でも生業に平穏に従事している限り迷惑や嫌がらせを受けないよう保護されるべきことを信徒に徹底させるよう求められた。
戦争の勝利者となれば,日本は中国人の間に潜在している排外感情をあおり立てて,自己の目的にそれを利用するだろうという非難に言及して,首相は次の2つの点を指摘した。
第1に,義和団の乱のときの日本の行動に照らせば,日本はそのような疑惑を免れるはずだ。
第2に,日本はまさに中国を不安定要因の圏外にとどめておくために,厳正な中立を順守するのが得策であることを中国に悟らせようと絶えず努力している。
そこでまた宗教問題が持ち出されて,西洋がキリスト教を標ぼうする一方,日本は仏教あるいは神道を標ぼうしているではないかと言われれば,それに答えて次の事実が指摘できる。
日本には信教の絶対的な自由が存在する。帝国の各地ではキリスト教が公然と布教され,キリスト教学校が設置されている。そのような学校には,それに相応する等級の官立学校と同じ特権が与えられている。
キリスト教の新聞と雑誌が各地に出回っている。キリスト教団体は「キリスト教を広め,キリスト教教育を実施し,慈善と博愛の事業を行うために」土地,建物,その他の不動産を所有することが許されている。そのような団体は,「公益を目的に」設立される団体を対象とした民法の条項により法人となっている。キリスト教を奉じる者は,国会議員,裁判官,大学数授,代表的な新聞の編集者,陸海軍の士官の中にもいる。
キリスト教の聖職者は公費で従軍することが許されている。ロシアの全く異なる実績に照らせば,ロシアがキリスト教を標ぼうし,日本が仏教あるいは神道を標ぼうしているという主張はいささかも成り立たない。
そして最後に,日本は西洋文明のごく表面的な要素を取り入れているだけで,心の底では東洋の精神をはぐくんでいるから,この戦争で日本がロシアに負ければ人類にとってこの上ない利益になるという主張については,桂伯爵はこう問うている。
西洋の方式に範を取った教育制度,西洋の法体系の最良の原則に従って起草された法律,ともあれ理論上は西洋の水準を満たす司法制度,そして最も進歩した西洋諸国の憲法に合致する憲法-これらすべてを東洋の精神の所産または西洋文明を表面的に信奉して折合いをっけたものと言うことができるだろうか。日本が東洋の指導者になれば,日本が最終的に選んだ道,つまり西洋との緊密な共同の道を隣国に歩ませるために日本は影響力を行使するだろう。
このような力強く説得力のある発言に付け加えて,5月28日に東京の3大学とすべての主要な教育機関の会合で全会一致で採択された決議文を紹介することができよう。
この会合の目的は,日本の国家の運命がこのような危機のさなかにあるときに,合衆国国民が日本に寄せた強い共感に対す
る日本人の感謝の気持を公表することだった。
決議文の内容は次の通り。
「われわれは以下の声明を確認する。日本は膨張または征服のために現在の戦争を始めたのではなく,帝国の安全と東洋の恒久平和のために,また日本が西洋諸国から吸収し同化してきた博愛に満ち開化された文明の進歩のために,やむなく戦うことになった。
この戦いにおいてわれわれの標ぼうする原則は,開化されたすべての諸国が奉ずる原則と同じだと信じているが,われわれはわが大義が合衆国国民の共感に値するものと考え,それを合衆国国民に求め,特にアメリカの大学に求める。アメリカの大学は,われわれの多くを温かく歓迎し,その教師,校友,学生とわれわれの多くは感謝と友好のきずなで結ばれている」
この会合には伊藤侯爵と大隈伯爵が出席して,両人とも興味深くて長い演説を行ったが,特に論評を加えるべきものではなかった。
タイムズ紙上ですでに報じられた宗教者の会議を含めて,以上すべてが,黄禍の中傷に対する日本人の回答と見ることができよう。
これらの文言には意図した目的があるので.わざとらしいところがあると反ぱくできるかもしれない。そこでさらに,これらの起草者の真意を探るのに役立つと思われる2つの表明をあえて取り上げてみたい。
第1は,中国語で書かれた宣言の翻訳で,これは奥将軍が遼東半島の住民にあてたものだ。彼の指揮する第2軍は現在その地で作戦行動を行っている。
日本皇帝陛下はロシアの侵略を無視できず,極東情勢を深く憂慮し,版図の利益と権利を守ることを望み,正義と人道のために宣戦を布告し,戦いに着手した。
ロシアは中国北部の内紛に乗じて遼東半島を獲得し,その地方のいたるところに軍隊を配置し,要塞を築き,その土地が自己の領土であるかのごとく行動し,公言した約束をないがしろにし,各国を欺き,撤兵すべき時期になると,それを実行する代りに勝手な言辞を弄するようになった。ロシアの眼中には正義は存在しない。朝鮮にさえロシアは支配を及ぼそうとしている。ロシアの領土欲は限界を知らない。
これらのできごとの現場は狭い海によって日本と隔てられているに過ぎない。日本の利益はこれらと切っても切り離せない関係にある。日本はこのようなことを黙視できなかった。したがって交渉を開始し,ロシアに再考を促した。しかしロシアは聞く耳を持たず,ますます侵略を推し進め,極東の平安を乱した。日本には武力に訴える以外の道はなかった。
日本の唯一の目的は,ロシア軍の撤退を実現し,平和の恵みをすべての者に回復させることだ。
わが軍隊の規律が厳格なこと,わが軍隊が決して乱暴を働かないことは,過ぐる2度の戦争で証明されている。中国国民諸君は,それを自分の目で見,また自分の耳で聞いている。この戦争は,いささかも中国国民に対する敵意に発したものではない。
それどころか,この目的は諸君の国を水火の苦しみから救うことにある。不安がる理由はない。だれもが安心して仕事にいそしんでほしい。わが軍は諸君のために行動し,諸君の利益を守ろうとしているのだ。
このような動横がわが軍を駆り立てているので,わが国は世界の理解を得ている。わが国に騎士道精神があるかどうか疑念があったとしても,敵と味方の病人や負傷者のためにわれわれが用意した物資,およびその看護に当たる女性の存在によって疑念は解消するはずだ。事実はおのずと明らかである。
しかし遺憾ながら,交戦地域の住民が生業を中断され,軍隊を収容するための家屋を提供するように要請され,家財や家畜を徴発されるのは避けがたい。これには従うようにされたい。一方,わが兵士は規律が厳正であり,決して威嚇や略奪には訴えないと確信されよ。しかし,私益のために敵と結託してわが軍の行動を妨害する者は,容赦なく罰せられるものと覚悟されたい」
2番目の表明は別の種類に属するものだ。それは,金州丸の船上で椎名大尉が部下の兵士たちに発した言葉だ。この輸送船はこのときウラジオストク艦隊の魚雷によって撃沈されようとしていた。
「船は敵の軍艦と遭遇した。もはやこれまでだ。溝口少佐たちがわれわれの安全を図るために敵艦隊へ赴いた。だが,ロシア人はわれわれが船とともに逃れるのを許さないだろう。しかし,溝口少佐とその同行者が人質になったので,非戦闘員がこの汽船を退去するのは許されている。われわれの運命は船とともに沈むことになる。だが,わが艦隊が間近に迫っているので,敵はわれわれが滅んだ後は同じ運命に見舞われるだろう。死の瞬間が来ても,それは小銃の一閃に過ぎない。帝国の将兵はどのように死ぬべきか。本官とともにそれを野蛮な敵に見せつけてやろうではないか。忠実な戦友たちよ,最後の命令を下すまで,下で静かに待機するように生き延びた者がいたら,陸はあの方角(西を指す)だということを思い出せ。船の運命と,船に乗っていた戦友が国のために死んだときの様子を本国の者に必ず伝えるように。さらば」
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