日本一の「徳川時代の日本史」授業⑧福沢諭吉の語る「中津藩での差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑧
2021/05/02
日本一の「徳川時代の日本史」授業 ⑧
「門閥制度は親の仇でござる」と明治維新の立役者・
福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の
差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑧
前坂俊之(ジャーナリスト)
徳川封建時代の武士はどのような社会、政治。経済環境の中で、
生活をしていたのか、福沢諭吉の「旧藩情」を読み解く⑧
「旧藩情」⑧
余輩(福沢)の所見をもって、旧中津藩の沿革を求め、まさに三十年来、私の目撃と記憶にある事情の変化を観察すると、その大略はこのようなもので、たとえ僥倖にもせよ、または明らかに原因があるにもせよ、今日、旧藩士族の間に苦労や争論の痕跡がないことは事実において明白である。(今年数十名の藩士が脱走して薩摩に入ったことは、全くその脱走人限ったことで、その他の藩士に関係はない。)
そうはいっても、今日の事実はこのようなもので、果して明日の患なきを期すことができるか。これを考えねばならない。今日の有様をもって事の本位(本質)と思って、これより進むものを積極的とし、これより退くものを消極的とし、私はその積極派が望ましいと思う。
すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対してあたかも格式ばった居座りを行わず、昔年の居座りは家を護り、面目を保つの楯(たて)となり、今日のりりきみ(居座り)は身を損じ、愚弄(ぐろう)
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を招くことをしり、早々にその座を切上げて不体裁の跡を収め、下士もまた上士に対して旧怨(きゅうえん、昔からの恨み)を思わず、執念深きは婦人の心なり、すでに和睦するの敵に向うは男子の恥るところ、執念深きに過ぎて進退窮するの愚を悟り、興に乗じて深入りの無益なることを知り、双方共にさらりと前世界の古証文(ふるしょうもん)
http://kotobank.jp/word/%E5%8F%A4%E8%A8%BC%E6%96%87
に墨を引き、今後、心がけるところは士族に固有する品行の美なるものを残し、良い点を伸ばし、物を費す(消費)する古吾(こご、古い自分)を変えて物を造(生産)するの今吾(今の自分)となって、あたも商工の働を取て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中の文明の魁(さきがけ)となることを期望する。
しかし、その消極を想像してこれを憂えれば、また憂うべきものもある。数百年の間、上士は圧制を行い、下士は圧制を受け、今日に至ってこれを見れば、甲は借主のごとく乙は貸主のごとくであり、未だ明白な差引を行っていない。
また上士の輩は、昔日の門閥を本位に定めて今日の同権(四民同権)を事変とみて、自からまた下士に向て貸すところがあると思うなれば、双方共にいやしくも封建の残夢を忘却して、精神を高尚の地位を保つことができない者であり、到底この貸借の念を絶つことができない。
現に今日にても士族の仲間が私にのところに集まると、その会の席順は旧の禄高または身分に従うというということは、他に席順を定める目安なければ止むを得ないが、残夢(封建残滓)の未だ醒覚していない証拠である。
或は市中公会等の席にて旧套の門閥流を通用させないことは無論なれども、家に帰れば老人の口碑(こうひ・言い伝え)
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も聞き、細君の愚痴もやかましいため、残夢から醒めんとしてまたウトウトしている状態だ。これ等の事情を考るると、今の成行きで事変(事件)なければ幸いだが、万に一も世間に騒動を生じて、その余波が近く旧藩地の隣傍に及ぶことがあれば、旧痾(きゅうあ、持病)
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がたちまち再発して、上士と下士とその方向を異にするだけではなく、針小の外因(小さな原因)から棒大の内患(大きな内乱)を引起す可能性もある。
また、たとえいかかる急変もなくして、通常の業務に従事して、双方互に利害感情を別にし、工業には力を共にせず、商売には資本を合せず、かって互に対立、紛争するようなことがあってはならない。これがすなわち私のいわゆる消極の禍にして、今の事態の本位よりも一層の幸福を減ずるものである。けだし人事の憂患(ゆうかん、心配して心を痛めること)、消極的である間は、未だその積極策をとるいとまはない。
今、消極を憂いてこれを防ぐにせよ、積極の利を謀ってこれを求めるにもせよ、旧藩地にて有力なる人物は必ずこれを心配することだろう、またこれを心配して実地に従事するについては様々の方法もある、また様々な問題もある、不如意(ふにょい、思い通りにならないこと)
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は人生の常であり、これを如何ともできない。故に私の注意するところは、未だ積極に及ばないにしても、先ずその消極の憂いを除く路に進まんとすることだ。すなわちその路とは他にない、今の学校を次第に盛にすることと、上下士族相互に婚姻するの風習を勧ることと、この二箇条のみである。
そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感覚の習慣によってそうなる。人の心事とその喜憂栄辱との関係もまたこのようなもの。
喜憂栄辱は常に心事に従て変化するもので、その大きく変化するのは、昨日の栄誉として喜んだもの、今日は恥辱としてこれを憂えることある。学校の教は人の心事を高尚遠大にして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めるものなれば、一聞一見も人の心事を動かすものだ。
つづく
日本一の「徳川時代の日本史」授業⑦福沢諭吉の語る「中津藩での差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑦
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