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ユビキタス歴史論

   

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―2004年1月―
『ユビキタス歴史論』―~戦国大名の情報収集の在り方との比較~
静岡県立大学経営情報学部3 年 014099  薮本 茂
現代は社会にユビキタスが普及し始めています。*1 ユビキタスの語源はラテン語で、
いたるところに存在する(遍在)という意味です。インターネットなどの情報ネットワーク
に、いつでも、どこからでもアクセスできる環境を指し、ユビキタスが普及すると、場所
にとらわれない働き方や娯楽が実現出来るようになります。
1・・いつでも、どこからでも通信
「ユビキタス・コンピューティング」、「ユビキタス・ネットワーク社会」のようにも使われ、
「パーバシブ(pervasive)・コンピューティング」ということもあります。ユビキタス・コン
ピューティングは、一人が複数のコンピュータを使う第3 世代を示したもので、マーク・
ワイザー氏が提唱しました。*2アクセスに使う端末は、パソコンや携帯電話に限らず、
冷蔵庫や電子レンジといった家電製品、自動車、自動販売機等もインターネットに接
続され、ウェアラブル・コンピュータと呼ばれる身に付けるコンピュータも開発中です。
車を例に挙げるとすでに、GPS の搭載と携帯電話などを利用した双方向のカー・ナビ
ゲーション・システムなどでネットワークへアクセスしていく原型はできています。また、
インターネット家電は、庫内の残り物で作れる料理のレシピを探し出してくれるインタ
ーネット冷蔵庫のプロトタイプや、留守中に洗濯を指示できるインターネット洗濯機な
どが出てきました。パソコンとキーボードを用意したり、アクセスの遅さにイライラする
必要はなくなります。
自由度を高めるため、これらの情報端末間はケーブルではなく、無線LAN やブルー
トゥースという無線ネットワークで接続されています。また、現在のインターネットの接
続規約(IPv4)では約43 億個のアドレスしかなく、一人が複数の端末を使うようになる
と不足するので、IPv4 の4 乗個(43億の4乗個)と、ほぼ無限のアドレスを持つIPv6
の導入が予定されています。
無線LAN は米国で既に実用化されており、ホット・スポットと呼ばれるノートパソコン
2
やPDA(携帯情報端末)を利用するユーザーが多い空港、ホテルのほか、スターバッ
クス店舗等でも利用可能です。日本でも、モスバーガーやJR 東日本が、現在の携帯
電話より高速でインターネットにアクセスできる無線LAN サービスの実験を発表して
います。
私はこういった便利な世の中になったはいいが、では昔のインターネットや携帯電話、
ましてや電話や無線すらなかった時代の情報伝達の手段はどうなっていたのかと疑
問に思い調べてみることにしました。初めて科学的な通信手段が発明されたのは
1837 年の電信機とモールス信号です。
電話は1876 年3 月にベルによって発明されました。実際に通信に電波が使われるよ
うになったのは、その後、1896 年にマルコーニが無線通信の実験に成功してからで
す。この時の通信実験にはモールス信号が使われました。
こういった科学的な通信手段が発明されるまでの人類の歴史は長いものであるが、
その中でも日本の戦国時代を取り上げて調べてみようと思いました。日本歴史の中
でもっとも国内が騒乱に巻き込まれていたのは1467 年の応仁の乱から始まり約100
年続いた戦国時代だと思います。
この時代は親、兄弟、親類さえ敵、味方に分かれ争い自分の力しか信じることができ
ませんでした。その中で敵の規模や行動等を知ることは、合戦における戦術や平時
における戦略に大きな影響を与え、その戦国大名にとって死活問題となってきます。
そんな時代の状況を背景に情報の価値は飛躍的に高まりました。
2・・・戦国時代の情報戦略
例えば桶狭間の戦いなどでも有名な織田信長は部下に報奨を与えるとき、桶狭間の
戦いにおいて一番の勲功は敵の大将の首を取ったものではなく敵の大将の位置を知
らせたものに与えました。*3 また本能寺の変では豊臣秀吉が織田信長を殺した明智
光秀を破り主君の敵討ちをして後継者となり天下を統一しました。
この時、秀吉は中国地方を支配していた毛利氏と戦っておりすぐに講和を結び、有名
な中国大返しをやってのけ、怒涛の速さで現在の岡山から京都まで戻ってきましたが、
本能寺の変の情報が敵方の毛利氏まで伝わるのがもう少し速く、講和が結べなかっ
たら歴史は変わっていたかもしれません。
これは、明智光秀の毛利氏に派遣した本能寺の変を知らせる使者が間違えて秀吉の
3
陣に入ってしまったという話もあります。
では、そういった情報は戦国時代の武将はどうやって手に入れていたのでしょう。
戦国大名が情報を手に入れる最も有力な手段の1つとして有名な忍者の活用があ
ります。しかし、そのころの忍者は現代の一般的に想像される忍者のイメージとはだ
いぶ違ったものでした。*4 現代の忍者のイメージは黒装束に黒いマスクをして、火を
吹いたり、風を呼んだり水の上を歩き、移動のときは木と木の間を飛び回っていたと
いうものかもしれませんが、そのような魔術的なことは実際はしていませんでした。
忍者の主な仕事は情報収集や潜入工作などでしたから、敵と遭遇するような事態は
避けるべきでした。実際の「火遁の術」とは火薬玉を使って爆煙を出してその隙に逃
げる技で、「水遁の術」は水に潜って中をくり抜いたストロー状の竹を水面に出し、そ
れで息をしながら長時間水中に潜む技でした。
彼らは特殊な任務を請け負って行動していましたから、もちろん通常の兵士たちとは
違う、様々な隠密としての技術を習得していました。それらは「忍術」と呼ばれていまし
た。「忍術」は主に敵地に入り込むための技術や、館などに忍び込む技術、見つかっ
た時の逃走術などを総称してこう呼んでいました。
忍者と言えば、アクロバチックなアクションがよく思い浮かぶけれど、忍者は敵と戦う
のが目的ではなく、破壊工作をしたり情報を得たりして帰還するのが役目なので、逃
走したり忍び込んだりするのに必要な足の速さやジャンプ力などの身体能力は高か
ったです。*5 忍者とは現代風に言うとスパイとか各種工作員とか言うような性格のも
のでした。
忍者の中にも任務や適性によって何種類かに分けられ、その中の1 つの例として
「草」と言われる忍者がいました。「草」という忍者は敵国に潜入した後その土地に馴
染んで暮らし、その土地の娘と家庭を持ちながらいつか来るかわからないし、来ない
かも知れない指令を待っていました。
そして、ひとたび命令が下ると普段馴染んで仲良くしていた人々を裏切り、命令に従
って味方(土地の人にとっては敵)を導くのが役目でした。忍者は情報工作員の性格
も強く、鈴虫売りやそのほか各種の行商人の多くは忍者であり、行商人という名目で
各地を旅する権利を手に入れて様々な情報を集めて歩いていたとも言われます。
4
また、『くのいち』と言われる女忍者の役目は体で敵の武将を籠絡し、情報を引き出し
たり相手を言うがままに、操ったり味方の手引きをするというものでした。 敵の本拠
地に忍び込んで機密書類や証拠品を盗み出したりその構造を解析したりする役目も
ありました。時には先に潜入させたくのいちの手引きを受けることもありました。
3・・忍者ネットワーク
こういった忍者は戦国大名にとって必要不可欠なものとなり大きな大名家は独自の
忍者軍団を持っていました。*9武田家の「透波」、北条家の「風魔」、上杉家の「軒猿」、
伊達家の「黒はばき」などが有名です。しかし、特殊な技術と能力が必要とされる忍者
は、それを養成するのにも維持するのにもお金がかかりました。
余裕のある大きな大名家なら良いのですが、それほど余裕のない中小の大名家や地
方勢力は、独自の忍者軍団など持てませんでした。そのためこうした中小の勢力は、
必要な時にだけ各地にある固有の忍者軍団を雇い仕事を依頼していました。こういっ
た忍者軍団の中でも現代でも有名なのが、服部半蔵が所属する伊賀であったり、甲
賀であります。
また、戦国大名が情報を得る手段として堺や博多などの貿易都市の商人から得ら
れる情報も大きいものでした。*8この時代の商人は廻船で全国を周って商売をしてお
り現地の経済だけでなく、大名・武家・僧侶・商人らの情報も手に入っていました。
戦国時代に活躍した堺や博多に代表される貿易都市の商人たちは、各地にでかけて
商売をしては国内外の情報を収集し、それを時の権力者に提供するのと引き換えに
さまざまな特権を得ていました。情報は、当時からすでに金品と等しく貴重なものとし
て扱われてきた証であると思います。
織田信長が今で言う大阪の堺という商人の町を手に入れたとき金銭を出せという要
求とともに、情報の提供も強要しました。それだけ商人は独自のネットワークを持ち情
報を蓄積していたのです。*7 また国内からの情報だけでなく戦国時代は南蛮貿易や
キリシタン宣教師によって海外情報が大量に流入した時代でもありました。堺、博多、
平戸、長崎といった港からキリスト教や鉄砲、印刷、西洋医学といった文化、思想、技
術がもたらされ、それらはたちまちのうちに全国に波及し、さまざまなカルチャーショッ
クを与えていきました。
特に鉄砲はそれまでの合戦のやり方を根本から変えてしまうものでした。それまでは
人と人とがぶつかり合い勝敗が決まるものであったのが遠距離攻撃が可能になり騎
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馬武者よりも鉄砲足軽の方が強くなってしまったのです。キリスト教も日本に深く影響
を与えました。その影響は江戸時代になっても続き幕府は禁教令という法律を作り踏
み絵等で厳しく取り締まりました。
他には古典的伝達手段である煙を使った「のろし」もまだ有効でした。*8 戦国時代に
は煙の上げ方、燃料の工夫、煙に着色するなどの進歩もあり、複雑な情報も伝えるこ
とができたそうです。古典的な手段ではあるが、最近の実験では新幹線のこだまより
も少し遅いぐらいの伝達スピードがあるそうです。
しかし、煙だと夜間や雨のときに役に立たないが、こうした場合は音を利用しました。
法螺貝、鐘、太鼓といった道具です。これらの道具は、ひとたび戦闘となった場合、戦
術を伝える合図としても利用されました。『甲陽軍艦』いう江戸時代に作られた書物の
中には「伝書犬」が使われていたということまで書いてあります。
このようにして戦国時代の大名たちは情報を収集し、うまく活用していったものたち
が生き残っていきました。
参考文献:*1http://www.fri.fujitsu.com/hypertext/fri/cyber/hotkey/ubi/ubi.html
*2http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/column/reg031/reg1.html
*5http://homepage2.nifty.com/osiete/s587.htm
*4http://kamurai.itspy.com/nobunaga/ninja.htm
*3http://www15.cds.ne.jp/~eagle/moto/1582bctkmt.html
*9http://www.jidaimura.co.jp/web2003/workbook/wb-ni_nobo.html
*7http://www.sengoku-expo.net/text/ir/J/K11.html
*8http://www.sengoku-expo.net/text/ir/J/C30.html

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