コミュニケーション論【マスコミ】ⅣA(2)
1
コミュニケーション論【マスコミ】ⅣA(2) 2004,4,21 前坂 俊之
IT 革命、ネット社会、ブロードバンドからユビキタス社会へ
現在、われわれ先進国の産業社会、工業社会の基盤が形成されたのは、いうまでもなく1
8世紀末に英国で起きた産業革命によってだが、それ以上の急激な「パラダィムシフト』
が情報通信分野で爆発的に起こっている。IT(インフォメーション・テクノロジー)革命、
デジタル情報革命、インターネット革命、ネット革命などさまざまな名前で呼ばれている
が、この急激な『パラダイムシフト』を引き起こしているものは一体何なのか。
(1)デジタル技術の発展
コンピュータ、パソコンの性能の飛躍的向上。マイクロプロセッサー、チップの奇跡的
進化。2年ごとに性能が2倍になり、価格は逆に半分になるという驚くべき技術革新が猛
スピードで進んでいる。この結果、コンピュータの処理能力は「メガ」(1〇〇万単位) か
ら「ギガ」(10億単位) へと超高速化し、メモリーの大容量化、ダウンサイジング (小
型化)などが一挙に向上した。
(2)情報のマルチメディア化
このようなデジタル化した情報の一元的な処理が可能となり、従来バラバラであった文字、
テキスト、データ、音声、静止画 (写真)、動画や放送、通信といったメディアの垣根は
なくなり、情報は自由自在に双方向でやりとりができる、いわゆるマルチメディア化が進
み、「メディアの統合、融合」が進んでいる。
(3)インターネットの出現
さらに大きいのは、こうしたメディア化した情報を流すことができるインターネットに
象致されるグローバルで双方向のネットワークが発展してきたこと。インターネットによ
ってデジタル情報を地球上で自由に流通させることによって、世界中の知識や情報を共有
し、交換できるようになったこと。
(4)21世紀の新たなフロンティアとしての『サイバースペース』の誕生
この結果、百年に一度というデジタル情報革命、IT 革命によって、人類史上初めての未知
のフロンティアとしての『第三の空間』が出現しつつある。地球上の 『物理的空間』『宇
宙空間』についで、人間の『意識空間』 に対して、全く新しく発見したのが『第三の空
間』である。インターネットやデジタルネットワーク上に形成された「サイバースペース」
こそがこの『第三の空間』である。一般的には 「サイバースペース」は電脳空間と呼ば
れているが、「インターネットで結ばれたデジタルコミュニケーションの仮想空間」 のこ
とである。
また、「コンピュータ内に広がる電子世界であり、シユーミレーション可能なCG 技術に
よって作られたバーチャル・リアリティの仮想空間」といってもよい。つまり、パソコン
2
やテレビ、携帯電話などで見ることができる「インターネット電子空間」である。このサ
イバースペースこそ人類が初めて手にする「距離と時間、場所という物理的制約から全く
解放された空間」であり、この中に二十一世紀の新しい社会、経済システムが構築されて
いくことは間違いない。
このサイバースペースは経済、産業面では巨大な「電子マーケット」や「ビジネスフロ
ンティア」となり、世界の人々が、国境を越えて情報を交換し、交際し、出会い、おしゃ
べりをして、コミュニケーションをする場所になるなど無限の可能性を秘めている。
これまでのシステムとは全く違った、これらを劇的に変化していくであろう社会経済活
動の仮想空間としてのサイバースペースが今、爆発的に出現しつつある状況である。
では、デジタル情報革命によって何が起こるのだろうか。
(1)時間、距離、組織、企業という物理的な制約、システムの超越、崩壊
そこは時間、距離、空間、場所的な制約からも自由であり、地理的なハンディはない。
これまでの組織や国家の壁も越えてしまう。ボーダレス(国境がない)でグロ-バル(地
球規模)である。
「時間的な制約を超える」ので、ネットショップの場合は二十四時間、三百六十五日、年
中無休で世界を相手にビジネスできる。つまり、誰でも、どこに住んでいても、北海道の
田舎でもアフリカからも、中国からも、地理的、時間的な制約を超えて世界を相手にビジ
ネスもできるし、コミュニケーションができる。
(2)無限性
サイバースペースは無限のフロンティアである。情報量は無限である。物理的な制約がな
いので、サイバースペース上には無限の情報をつめこむことが出来る。『楽天』も「アマゾ
ン・コム」も本ならば四百万冊以上、CD も数十万タイトルが並び、即座に検索できる。実
際の本屋で同じ店舗を作り、本を陳列すると膨大な設備投資が必要だが、それよりずっと
安い費用でできる。しかも、これまでのように地域の人々しか相手にできなかったのが日
本全国、世界中を相手にしたマーケットに商圏は拡大する。
(2)スピード性
これまでのメディアと比べると、光のスピードに近づく。地球全体が結びついて、光の速
度で動く電子市場が形成される。スピード性は同時に「リアルタイム」(即時性)であり、
検索すれば即時に情報を得ることができる。そこはスピードが支配している世界であり、
社会の変化スピードを劇的に加速させる。「ドッグ・イヤー」 (人間の8倍のスピード)
から「シケイダル・イヤー」(セミのスピード) にたとえる人もあるが、リアルタイム、
瞬時のアクセス、「オン・デマンド」が基本になる。
3
(3)バーチャル性
サイバースペースは仮想(バーチャル)な世界であり、空間的、地理的、場所的な制約
から解き放された結果、ネットワークで結ばれた「遠隔××」(バーチャル)が基本原則に
なる。「遠隔教育」「遠隔医療」(テレ・メディスン)、「遠隔診断」「遠隔工場」(バーチャ
ル・ファクトリー)「連騰企業」(バーチャル・カンパニー)である。「遠隔労働(テレワー
ク)や自宅で仕事を行い、在宅勤務する「SOH0」(スモールオフィス・ホームオフィス)
が
普及する。モバイルがこの架け橋として必要になる。
(4)双方向性(インタラクティナ性)
これまでの情報はマスメディアからの一方的な流れだったが、これが双方向的で、インタ
ラクティブな流れに変わる。人々はインターネットで自由に情報を発信することができる
し、「いつでも、だれでも、どこでも、どういう方法でも、自由に」情報を入手することも
できる。消費者に選択権が移る。「オン・デマンド」(欲しい時に、欲しいものを、欲しい
だけ買うことができる) ようになる。
(4)メガコンペティション(大競争)、コラボレーション(共働)参入障壁なし、廉価
サイバースペースには誰でも簡単に参入できるし、参入コストは従来に比べて著しく障
壁が低い。誰でもチャンスがあり、大企業や大組織よりも中小企業、個人により大きいも
のになる。ネットショップでの商品は廉価であり、ショップそのものも安く構築できるし、
コストを削減できる。世界単一マーケットの創出によって、従来の地域的に限定され
ていたものから、世界的なメガコンペティションが起こる。
(5)マスから個へ
ワンto ワンで顧客、消費者同士が直結する。(オークション)マスメディアからパー
ソナルメディアへ。情報がデジタル化されると、これまでの工業社会の単位であるマス
(大量、大衆)から、分子化して個別化する。大量生産から個別生産、マスメディアから
パーソナルメディアへと変わっていく。マスから分子化することにょって逆転が起きる。
メーカーと消費者がネットによって直接結びつく。消費者が力を持つようになる。企業で
はなく消貴著に主権が移る。ヒトとヒトがネットを通じて直接結びつく。
(6) 仲介機能の排除
大量生産、消費の現在の工業社会では組織はピラミッド型で、トップから情報を一斉に
流す。メーカーと消費者の間には何重にも仲介、卸業者が介在する。ところが、インター
ネットは仲介機能を飛びこえてメーカーと消費者がネットで直結する。仲介業者、商社、
代理店、卸業者、小売店は必要がなくなる。組線内の中開管理職もおなじようにネットで
中抜きされて組織がフラット(水平)になる。
(7)生産・消費者(プロシューマ)の誕生
生産と消費の境が消えていき、「第三の波」の著者でいち早く高度情報社会の到来を予言
したアルビン・トフラーのいう生産(プロデュース)と消費(コソシューム)するという
4
「プロシューマー」が出現する。画一的な大量生産のマス商品から自分だけの一人ひとり
の好みに合わせた特注品の生産へと移行していく。すでに、オンライン上ですべての消
費者の好みのコンピュータを受発注する『デル・コンピュータ」 のような成功企業が出
ている。
(8)マスマーケットの終焉
そこでは従来の大量生産、大量消費を基本とした工業社会で価値のあった「土地」「資本」
「モノ」「労働」といった資源やハードよりも「知識」「知恵」「アイデア」「創造力」とい
った「情報力」「ソフト」『コンテンツ』そのものが重要になってくる。
e コマースではネットオークション、逆ネットオークショソなど今までに全くなかったビ
ジネスモデルがネット上で増えており、これまでの新聞、イテレビなどのマスメディアに
よって築かれていた工業社会のマスマーケットの終焉をうかがわせている。
IT 革命の本質とは
これまでの物理的な空間、時間、組織の制約を打ち破るコミュニケーション革命である。
光ファイバーなどによってプロ-ドバンド(広帯域)の大容量高速通信が可能になると、
どこからでも、自由自在に高速、大客量(ブロードバンド)の情報の双方向のやり取りが
可能になる。
この結果、モノと人、人と人、モノとモノ、組織と組織、人と組織のすべてのコミュニ
ケーション、関係が全く違ったものになる。この関係性の転換こそが最も重要な点で、革
命といわれる所以である。
従来の関係、コミュニケーションによって成り立った社会、経済、人間のシステムは崩
壊して、ネットよる「サイバースペース」に暫時移行していくことは間違いない。IT 革命
はまだ始まったばかりで、その全体像は見えていないが、技術や経済の面ばかりでなく、
社会、政治、生活のあらゆる面にこれまで想像しなかったような大きな変化を及ぼすこと
であろう。
http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/~maesaka/maesaka.html
静岡県立大学国際関係学部教授
関連記事
-
『明治裏面史』 ★ 『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊸★『日露戦争開戦の『御前会議」の夜、伊藤博文は 腹心の金子堅太郎(農商相)を呼び、すぐ渡米し、 ルーズベルト大統領を味方につける工作を命じた。』★『ルーズベルト米大統領をいかに説得したかー 金子堅太郎の世界最強のインテジェンス(intelligence )』
日露戦争開戦の『御前会議」の夜、伊藤博文は 腹心の金子堅太郎(農商相)を呼び、す …
-
池田龍夫のマスコミ時評(123)「戦後70年、「偏見のない首相談話」を期待」(5/11)
池田龍夫のマスコミ時評(123) 「戦後70年、「偏見のない首相談話」を期待」( …
-
日本メルトダウン(1007)ー『揺れる「穏健なドイツ」、テロ事件の巨大衝撃 極右派の台頭も懸念される事態に』●『対岸の火事ではない、厳戒下で起きたドイツのテロ 右傾化を煽るように欧州で頻発、東京五輪の警備に抜かりはないか』●『米国メディアの評価は「ロシアが日本の希望を粉砕」 領土問題で少しも妥協を見せなかったプーチン大統領』●『2017年の世界は型破りトランプ政権を中心にこう変わる』●『中国の覇権主義は底堅い経済を背景にますます強固化する』●『コラム:元安容認とAIIB出資、米中取引あるか=村田雅志氏』
日本メルトダウン(1007) 揺れる「穏健なドイツ」、テロ事件 …
-
池田龍夫のマスコミ時評(99)『米海兵隊、沖縄から豪州へ重点配備計画(』『無人機による民間人犠牲者、パキスタンで900人超』
池田龍夫のマスコミ時評(99) ◎『米海兵隊、沖縄から …
-
Japan Robot Week2018(10/17),World Robot Summit での-三菱重工の「引火性ガス雰囲気内の探査ロボット」(ストレリチア)のプレゼン
日本の最先端技術「見える化」チャンネル Jap …
-
池田龍夫のマスコミ時評(70)●「野田首相の意表を衝いた{解散宣言}の波紋」●「集団的自衛権行使」容認の動きを警戒」
池田龍夫のマスコミ時評(70) ●野田首相の意表を衝 …
-
『リーダーシップの日本近現代史』(57)記事再録/『日中韓の外交戦・『日米同盟』のルーツを林董(ただす)の外交論を読む=「日本は開国以来、未だかつて真の外交なるものの経験なし」
2013年4月25日 日本リーダーパワー史(378)&nb …
-
『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座㉚」★『明治開国以来、わずか40年で日清、日露戦争で勝利したのは西郷従道の抜擢した山本権兵衛だった②』★『日清戦争前は世界の海軍力ランキング12位だった日本海軍は、勝利後は第4位に躍進した』
日本海軍の最強コンビー西郷従道大臣、山本権兵衛軍務局長 西郷が再 …
-
『リーダーシップの日本近現代史』(40)記事再録/『150年かわらぬ日本の弱力内閣制度の矛盾』(日本議会政治の父・尾崎咢堂の警告)』★『日本政治の老害を打破し、青年政治家よ立て』★『 新しい時代には新人が権力を握るものである。明治初年は日本新時代で青壮年が非常に活躍した。 当時、参議や各省長官は三十代で、西郷隆盛や大久保利通でも四十歳前後、六十代の者がなかった。 青年の意気は天を衝くばかり。四十を過ぎた先輩は何事にも遠慮がちであった』
2012/03/16   …
-
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 世界、日本メルトダウン(1046)>『トランプ氏ロシア疑惑捜査、特別検察官にミュラー元FBI長官』★『「多動性つぶやき症候群」のトランプがウオッチドック(権力の番犬)に追いかけられて、毎日のように問題発言を起こす』●『共和党はなぜトランプを見限らないのか』
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 世界、日本メルトダウン(1046 …
- PREV
- 正木ひろしの思想と行動('03.03)
- NEXT
- 「センテナリアン」の研究