日本のソフト・パワーは?―文化は国境を越えるー
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国際コミュニケーション論 2005,11 前坂 俊之
―<ビデオ『映画ビジネス・ハリウッド対アジア」(50分)を見て考える>―
昨年、ハリウッド映画『ラストサムライ』が日本で大ヒットしたように、このところ、ハリウッド画に
進出するアジア映画が増えています。ネタ切れとなったハリウッドはアジア市場に目を向けて
アジアのコンテンツを熱心に取り入れようとしています。中国映画「ヒーロー」がアメリカで大ヒッ
トをしたように、中国映画に対するアメリカの関心も』高まっています。韓流ブームは日本から
中国、へと拡大し、日本、中国、韓国、台湾、米国、アジアで映画によるコラボレイション、
相互交流がビジネスチャンスを求めて一層大きな輪となって広がっています。
こうした文化交流こそ国際関係、国際的な相互理解に大きな力を発揮します。これを軍事
的な強圧的な態度・ハードパワーに対して、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授「ソフトパ
ワ」ーと呼んでいます。今日はこの「ソフトパワー」について、ビデオ『映画ビジネス・ハリウッド対
アジア」(50分)を見て考えていただきます。
全米はアジア映画ブームーハリウッドでアジアンパワーが炸裂中!
<2004 年9 月>」
まだまだ残暑の厳しいハリウッドですが、この秋から冬にかけて全米にアジア映画ブームが席
巻しそうな予感です。
8月27日に全米公開された中国映画「HERO」が、オープニング3日間でアジア映画史
上最高となる1780万ドルを記録し、興行収入で2週連続1位に輝く快進撃を続けていま
す。同映画は本国では02年に公開され、日本でも昨夏に大ヒットをした作品。配給権を買
い取ったミラマックスが、なぜか今頃になって公開を決めたのですが、「アナコンダズ」などの新
作を抑えて堂々の1位に輝いています。
そして先週末は、「HERO」に続けとばかり、韓国映画「ブラザーフッド(邦題)」と中井貴一
が主演した中国映画「ヘブン・アンド・アース(邦題)」が、相次いで公開されました。17日に
はトニー・レオンとアンディ・ラウ主演の香港映画「インファナル・アフェア」が、10月には「呪怨」
のハリウッドリメイク版「The Grudge」、「Shall We ダンス?」のハリウッド版「Shall W
e Dance?」が公開を控えています。そして12月には金城武、チャン・ツィイー主演の「LO
VERS(邦題)」がいよいよハリウッドに上陸します。
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そればかりではありません。ハリウッドは今、アジア映画のリメイクブームでもあるのです。「イン
ファナル・アフェア」はブラッド・ピットがリメイク権を買い取り、レオナルド・ディカプリオとW主演で
ハリウッドで映画化されることが決まりましたし、スティーブン・スピルバーグ監督率いるドリーム
ワークスは韓国映画「猟奇的な彼女」を、トム・クルーズは目を手術した少女が幽霊が見え
るようになったというタイ映画「ザ・アイ」のリメイク権をそれぞれ買い取り、ハリウッドで映画化す
る予定です。中田秀夫監督の作品も、ハリウッドで次々とリメイクされています。オスカー女
優ジェニファー・コネリー主演で製作が進められている「ダーク・ウォーター(邦題:仄暗い水の
底から)」は来年1月公開予定で、編集作業が続いていますし、「カオス」はロバート・デ・ニー
ロ主演で製作を進めています。
また、中田監督のハリウッドデビュー作となる「ザ・リング2」は、来年5月公開を予定してお
り、同監督はその後も桐野夏生のベストセラー小説「OUT」のハリウッド版のメガホンを取る
ことが決まっており、ハリウッドで引手あまたの状態なのです。
この背景にはもちろん、ネタ切れでオリジナル作品を撮ることができなくなったハリウッドの現
状があると言えるでしょうが、一昨年の「ザ・リング」の大ヒットで、大手スタジオの目が一斉に
アジア映画へ向いたことも要因の一つと言えるでしょう。
これまではアジア映画と言えば特定の一部マニア向けとしか考えていなかったスタジオも、
「ザ・リング」の大ヒットで、調理次第では金のなる木に変ぼうすることに気づいたのです。そし
て、「HERO」のヒットがそれを再び証明しています。リメイク権獲得からおよそ2年という時間
を経て公開したにも関わらず、「キル・ビル」のタランティーノ監督も大絶賛という触れ込み付き
で宣伝展開し、外国語映画としては異例の全米2031館での公開は、吉と出て、劇場は
連日大賑わいとなっているのです。
文化や言葉の違いを乗り越え、快進撃を続けるアジア映画。今後もこれらの作品のヒット
如何では、この傾向にますます拍車がかかることは間違いないでしょう。
アジア映画を製作する人たちにとって、ハリウッドは身近な存在となりつつあるのかもしれま
せん。
―日本のソフト・パワーGross National Cool―
日本はバブル崩壊後の長期経済停滞により、国際的な地位が低下しているとみられている。
スイスのIMD1 の国際競争力ランキングでは総合的な魅力度が世界の30 位に落ち、ムーデ
ィーズによる日本の格付けもボスワナと同じレベルまで下げられた。
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しかし、ジャパン・ソサエティのメディア・フェローとして昨年春日本に滞在したDouglas
McGray 氏は、別の側面を強調する。同氏はForeign Policy 誌2002 年5/6 月号で、80
年代に経済大国であった日本は、90 年代に文化面で新たなスーパー・パワーになったと指
摘している。日本が伝統的な文化に加えて、ポップ・ミュージック、コンシューマー・エレクトロニ
クス、建築、ファッション、食べ物、アートと、様々な分野で、現代世界における大衆文化の
牽引役になっているというのだ。
今や香港やソウルやバンコックの数百万のティーンエイジャーたちは日本の最新ファッションを
追いかけており、安室奈美恵や浜崎あゆみをはじめとする日本の歌手やタレントはアジアを
中心に幅広いファン層を獲得している。日本製品のコピーがアジアで不法にコピーされ流通
しているのはその裏返しの現象ともいえよう。
また、渋谷の「まんだらけ」という漫画とアニメの店の流行は、米国のMTV やストリート・ファッ
ション、バーやダンス・クラブ、美術館等にタイムラグなく伝わっていく。ハリウッド映画やテレビ・
シリーズには「マトリックス」や「ダーク・エンジェル」など、日本のビデオ・ゲームやアニメ、漫画か
ら影響を受けたものが少なくない。
さらに、幼児向けアニメ「ポケモン」は世界65 カ国で放送され、30 カ国以上に翻訳されてい
る。1991 年に登場した少女向けテレビ・アニメ・シリーズ「セーラームーン」も世界20 カ国で放
映され、各国語に翻訳されて、世界中に数百万のファンがいる。そしてサンリオのアニメ・キャ
ラクター「ハロー・キティ」は世界で年間10 億ドルの売上を上げている。いずれも無国籍的な
キャラクターであるから、あまり抵抗感はないのかもしれないが、子供の頃から日本のアニメに
接して育ち、知らず知らずに日本の子供とおなじような感覚が身についていく可能性は否定
できない。
昨年、ロサンゼルスやミネアポリスの美術館で、村上隆氏の企画により、日本のアニメやグ
ラフィック・デザイン等における二次元性を追求した「スーパー・フラット」という展覧会が開催さ
れた。「スーパー・フラット」と言われるように、日本の文化は全てのものが等しく同時に存在し、
ヒエラルキーも歴史的展望も欠いていて浅薄であるとの批判もあるが、そのことにこそ現代日
本文化のキーワードが隠されている。
日本の文化創造は、ある意味、外国からのインスピレーションと文化的融合の歴史であった。
現代の日本の大衆文化も、極めて曖昧なコンセプトで無国籍的であるのが特徴である。グ
ローバル化時代、IT 化時代の社会を先取りしているともいえよう。
McGray 氏はこの文化的パワーをGDP にならってGross National Cool(GNC)と称してい
る。Cool とは若者たちが好む表現で「かっこいい」とか「いかしている」とかいう意味で多用され
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ている言葉である。
GNC のような「文化的リーダー度」を数で捉えることは極めて困難である。強いて関連指標を
拾ってみると、貿易統計上は、記録したレコード、テープ等や印刷した書籍、新聞、絵画等、
写真用のプレート及びフィルム、映画用フィルム、美術品、収集品及び骨董等などが、貿易
外収支統計では特許等使用料、文化・興行収入等が関係ありそうだ。
実際、これらの輸出額および受取額の合計は、1991 年から2001 年までの10 年間に0.5
兆円から1.4 兆円へ2.8 倍となった。同期間の輸出総額は42 兆円から49 兆円へ1.2 倍
弱しか伸びていないことと比較すると、いかに日本のGNC 関連指標の伸びが高かったかがわ
かる。なかでも特許等使用料の受取額は3.3 倍の1.3 兆円に達し、記録した写真用のプレ
ート及びフィルムは6 倍の243 億円に増加した。
ただし、美術品等の輸出が4.3 倍の128 億円に増加したのはバブル期に購入した西欧絵画
等の流出が寄与しており、GNC を正確に反映したものとはいえない。文化を伝達するという
意味では旅行者数もGNC の指標になるかもしれない。日本人海外旅行者数(1,622 万
人)も、訪日外国人旅行者数(477 万人)も10 年間に共に約5 割増加している。
GNC は、10 年以上前にハーバード大学のジョゼフ・ナイ・ジュニア氏が呼んだように「一種の
ソフト・パワー」である。大衆レベルで世界の人々の心や精神を捉え、ライフスタイルにも影響
を与えるという意味では、経済的な価値以上のものがあるかもしれない。こうした「ソフト・パワ
ー」が優れているのはアニメや漫画を通じて日本や日本語に関心を持つ人々が世界中に増
えることだ。
国際交流基金が毎年実施している日本語能力試験の応募者数は1991 年の57,572 人か
ら2001 年には234,997 人へと10 年間で4.1 倍となった。その中には幼い時にアニメを通じ
て日本語に興味を抱くようになった者が多いことは間違いない。
ソフト・パワーとは?
パワーには3通りあります。1つは、脅威を与えること、次に金銭的見返りを与えること、そして
相手を魅了すること。この相手を魅了するというパワーがソフト・パワーにあたり、ポップ・カルチ
ャーと外交政策、そして価値観という3つがソフト・パワーの源泉です。
例えば、マイケル・ジョーダンも諸外国の人々の間で米国に対する好感を育ててくれる要素と
なり得ます。ソフト・パワーは、人を魅了する力であり、個人や組織、政府など、すべての場
面で活かすことができます。
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テロリズムとの戦いでは、米国はソフト・パワー、ハード・パワー(軍事力)の両方を効果的に
活用すべきです。テロリストたちを破滅させるにはハード・パワーだけでは無理です。説得しよ
うのない筋金入りのテロリストにはハード・パワーで対応し、一般大衆にはソフト・パワーをもっ
て、テロリスト化を未然に防ぐべきです。
最強のソフト・パワーを持つ国は?
世界中でポップ・カルチャーの浸透度が高いという点では米国です。しかし、過去2~3年を
見ると、ブッシュ政権の外交政策の影響で、米国のソフト・パワーは弱くなっています。他国の
例では、例えばノルウェ-は、米国よりもソフト・パワーは小さいものの、スリランカや中近東で
の援助に力を入れているため、諸外国の間で人気を高めています。
日本のソフト・パワーは?
アニメやコンピュータ・ゲームなどのポップ・カルチャーが世界に広がっています。また、日本政府
による援助も、多くの途上国での近代化に貢献しており、好感をもたれる要素はあります。
ただ、日本にはもっとソフト・パワーがあっていいはずです。ドイツは戦後、ユダヤ人への補償を
官民一体となって実施し、フランスにも歩み寄って種々のもつれを克服してきました。日本は
そういった公式の外交がなかったため、自衛隊が少しでも動こうとすると、すぐに近隣諸国から
『軍国主義復活』と騒がれます。
ソフト・パワーを強めるにはまず、外国人をもっと受け入れるべきだと思います。米国には年間
50万人の留学生が入ってきます。いずれ彼らは母国に帰りますが、過半数の人は米国に
対する好印象を持って帰国していきます。日本が移民政策に消極的なのは分かりますが、
外国人をもっと受け入れると、親日家が世界中に増えるようになります。
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