前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

池田龍夫のマスコミ時評(59)『井戸川・双葉町長の核心を衝いた発言』『事故調査報告を生かし原子力政策を刷新せよ』

   

 
 池田龍夫のマスコミ時評(59)
 
 井戸川・双葉町長の核心を衝いた発言(7・27)
事故調査報告を生かして、原子力政策を刷新せよ(7・25)
 
池田龍夫(ジャーナリスト)
 
  井戸川・双葉町長の核心を衝いた発言(727)
 
 
 埼玉県加須市に役場機能ごと避難している福島県双葉町の井戸川克隆町長は7月24日、政府事故調査委員会の報告について不満を表明。「町独自に事故を調査・検証して報告書をまとめたい」と述べた。毎日新聞(25日付朝刊)の取材に答えたもので、ズバリ核心を衝いた発言との印象を受けた。
 
「地震による損傷は無い」と言い切れるか
 
 「何万人もが避難し、事故はまだ現在進行形なのに、なぜ『最終』報告書なのか」と疑問を呈し、政府事故調が福島第1原子炉建屋内の配管などが地震によって損傷した可能性を否定した点に不満を示した。
 
先の国会事故調報告は、断定を避けたものの「地震による損傷の可能性は否定できない」と主張。これに対し政府事故調は津波原因説を述べている点に井戸川町長が疑問を呈し、「内部が十分に調査できないのに、なぜそう言い切れるのか。報告書を信頼できず、読む気が起きない」と酷評した。事故から1年4カ月、双葉町長の憤懣を、政府も国民も深刻に受け止めなければならない。
                 
                      事故調報告待たずに「再稼動」させた野田首相
 
 朝日新聞7月25日付朝刊に掲載された「過去から学ばない失敗、繰り返すな」と題した加藤陽子東大教授の論稿は、野田佳彦首相の政治姿勢を鋭く批判している。
 
「6月、野田内閣は、国会と政府2つの事故調の報告を待つことなく、関西電力大飯原発の再稼動を決定した。首相官邸周辺のデモを『音』と表現した首相は、報告書を『紙の束』とでも考えたのだろうか。首相は記者会見で『国民生活を守る』ことだけを考え、全電源を失っても、『炉心溶融に至らないことが確認されて』いると大見得を切った。
 
3・11後でこう発言できる精神構造と、その帰結には既視感がある」と指摘し、45年の敗戦までの〝備え無き〟日本の悲劇と対比して警告。特に満州事変時のリットン報告書を吟味もせずに『国際連盟』から脱退した愚かな過去を振り返って、「国会と政府事故調の報告書を、国民の一人一人がよく読み込み提言部分の最大公約数が、しかと政策に実現されるまで、監視する必要があろう」との分析は見事である。
 
                          原子力委に「反省の弁」を求める
 
 国会事故調の委員だった野村修也弁護士は7月17日、内閣府原子力委員会で発言、「反省項目が上がってこないような委員会であれば、原子力を推進する担い手としていかがなものかと国民は見ている。委員会としての反省報告書を1カ月以内に出していただきたい」と要望した(朝日新聞18日付朝刊)。原子力委(近藤駿介委員長)としての総括を早急に公表してもらいたいものである。
 
 
  ●『事故調査報告を生かして、原子力政策を刷新せよ(725)

 東京電力福島第1原発について政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委長)は7月23日、「国も電力会社も最悪の事態を想定した防災対策を怠り、事故対応も不適切だった」との最終報告をまとめた。
 
3・11事故から1年4カ月、政府事故調・国会事故調・民間事故調・東電事故調の4事故調査委員会の報告書が出そろって、多くのことが明らかになったとはいえ、まだ残された課題は多い。
 
                                         事故の核心部分は、なお未解明
 
国会事故調は7月5日「1号機の安全上重要な配管が地震によって損傷した可能性は否定できない」と踏み込んだ指摘を行った。一方、政府事故調は「地震の揺れによる配管損傷はない」として、津波原因説と受け取れる報告になっている。これは、原発内部の放射線量が依然として高いため、どの事故調も十分な内部調査ができないためで、現段階では配管損傷の原因を断定できない。
 
配管だけでなく、主要施設の損傷状況や原子炉建屋の爆発原因など、事故の核心部分は依然としてナゾに包まれているのである。最終報告書が出そろったからといって、食い違いを残したまま、事故の検証を終了するようなことがあってはならない。
 
                                                  「原子力規制庁」の任務は重大
 
安全神話を金科玉条とした原子力政策が破綻したのに、新たな安全規制を担う「原子力規制庁」の設置が遅れ、9月発足の予定だ。
 
国会は政争に明け暮れ、政府の対応は余りにも遅すぎる。しかも、独立規制官庁と位置づけられる委員長以下委員の人事案が、与野党の不協和音で延期され、一部委員の差し替えの動きもあるようで、先行きが心配だ。      とにかく、事故調の指摘・提言を風化させてはならない。お目付け役の第三者機関を立ち上げ、各事故調の食い違いを整理し、原発内部の現場調査に臨むことこそ急務である。
 
                                                         政府、国会の反応が鈍い
 
毎日新聞7月24日付社説は、「原発事故現場の確認作業ができず、(各事故調とも)再現実験もできなかったのは残念だ。……結局のところ、今はまだ事故検証の中間段階に過ぎない。
国会も政府も、当事者である東電も、原因究明を続けなければならない。そのために、政府からも、その時々の政権からも独立した、恒常的な調査委員会を設置すべきだ。……政府にも問題があった。
 
規制する立場でありながら、規制される側の電気事業者に取り込まれ、必要な安全規制の導入を怠ってきた。国会事故調の『人災』との指摘はもっともであり、電力会社と政府は『共犯』と言ってもいいだろう。腑に落ちないのは検証でこれだけ多くの課題が示されているにもかかわらず、野田内閣や国会の反応が鈍いことだ。真剣に取り組む意思が見えず、姿勢に問題がある。

国会で各機関の検証を踏まえ、集中審議を行い、政府として対応策を決定しなければならない」と分析していたが、まさにその通り。――事故原因究明を徹底して、国民の安全確保に努めてもらいたい。
 

(いけだ・たつお)1953年毎日新聞入社、中部本社編集局長・紙面審査委員長など。
 

 - IT・マスコミ論 , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
世界/日本リーダーパワー史(965)ー2019年は『地政学的不況』の深刻化で「世界的不況」に突入するのか』④『2021年の米大統領選でトランプ再選の目はない。』★『今年は日本は外交決戦の年になる,安倍首相の地球儀外交の真価が問われる。』

2021年の米大統領選でトランプ再選の目はない。 中間選挙の結果、米議会は下院は …

no image
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 世界、日本メルトダウン(1039)>『トランプ大統領の就任100日間(4/29日)が突破した』②「トランプ大統領は『恐ろしいほどのナルシスト』」★『[FT]米大統領選、ツイッターの4分の1が偽ニュース』●『速報、スクープ中心の報道から、BBCが打ち出した『スローニュース』戦略への転換だ』★『ルペン氏、偽ニュースも利用=挽回に必死-仏大統領選』

 地球の未来/世界の明日はどうなる< 世界、日本メルトダウン(1039)> 『ト …

no image
日韓コミュニケーションギャップの研究(2003/11/27)-「一番近くて遠い国・韓国」★『日韓両国、国民のスレ違いを生む歴史、宗教、国民性、民族的、文化的な背景の違いを考える』

日韓コミュニケーションギャッについて(2003、11、27)           …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(78) 「F35の国際生産に加担していいのか-「武器輸出3原則」さらに形骸化」

 池田龍夫のマスコミ時評(78)  ◎「F35の国際生産に加 …

no image
『5年前の記事を再録して、時代のスピード変化と分析ミスをチェックする』-『2018年「日本の死」を避ける道はあるのかー 日本興亡150年史』(2)

★◎『2018年「日本の死」を避ける道はあるのかー 『リーダー不在の―日本興亡1 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(220)/「2019年の世界と日本と地球はどうなったのか」(下)『気候非常事態と日本』★『「日本は安全、安心な国」とのイメージが強いが、「紛争や災害の脅威による都市リスクランキング」(2019年版)では東京がワースト1、大阪が6位』  

いまや「巨大災害多発時代」「気候非常事態」に突入した日本 前坂 俊之(ジャーナリ …

no image
<動画ビデオ>米Apple社のジョブズの「巨大UFO型の新本社」プレゼン」と『全長3.6kmの「ソーラー・トンネル」』

●「巨大UFO型の新本社」をジョブズがプレゼン(動画)」  &nbsp …

no image
★『青い地球は誰のもの、青い地球は子どものもの、青い地球はみなのもの、人類のもの、地球の生物のもの、トランプのアメリカ、習近平の中国、安倍さんの日本のものではありません』

  『青い地球は誰のもの、青い地球は子どものもの、 青い地球はみんなの …

no image
新刊『明治お雇い外国人とその弟子たち―日本の近代化を支えた25人のプロフェッショナル』(片野勧著)

新刊 『明治お雇い外国人とその弟子たち―日本の近代化を支えた25人のプロフェッシ …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(106)記事再録<日本の最も長い決定的1週間> ●『東西冷戦の産物として生れた現行憲法』★『わずか1週間でGHQが作った憲法草案 ➂』★『30時間の憲法草案の日米翻訳戦争』

日本リーダーパワー史(357)                &nbs …