前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための 百歳学入門(216)』<松原泰道老師!百歳>『 生涯150冊、百歳こえてもマスコミ殺到!』★『 その百歳長寿脳の秘密は、佐藤一斎の『言志晩録』に「見える限り、聞こえる限り、学問を排してはならない、とある。私も、いまや、目も見えない、耳も聞こえませんが、読み、書く、話すことは生涯続けたいと思います』

   

      2018/03/19『百歳学入門(216)』再録
 
前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
 
2008年8月末、東京のど真ん中、東京タワーがひときわ目立つマンション住宅地域を「現代の聖人」を取材のため、いささか緊張しながら歩いていた。東京港区三田である。
 
ここには明治以来の日本の2大賢人が住んでいる。1人はいうまでもなく明治最大の知識人で、慶応義塾の創始者・福沢諭吉、もう1人は現代の名僧・松原泰道師。
老師は現在100歳9ヵ月。なおかくしゃくとして説法を続けておられる。
禅僧の長寿はさして珍しくはないが、百歳をすぎてもなお生涯修行・臨終停年を実践し、執筆、布教活動をされている例は少ない。まさに、「長寿不老の仙人」そのものではないか。
 
JR田町駅から15分。白亜の高層マンションが立ち並ぶ古川橋近くの一角に樹齢数百年のクスノキが生い茂る森閑とした龍源寺がある。セミ時雨が心地よい。ここが名僧の聖地なのです。
 
8月下旬、インタビュ-に尋ねした。玄関を入り、座敷の間の畳の上に腰掛が2つ。老師は足が弱っており、耳が遠いので、すぐ横で大きな声で聞いてくださいという。お孫さんの副住職らに両脇を抱えられて現れた松原師は破顔一笑。耳栓をはめるが、どうも調子がよくない。
 
「これイヤホンの出はじめのやつで、30万円もしたのよ」「そのイヤリングならいくつかえる」と女性編集者の耳を見て笑いながら冗談を飛ばされる。かと思うとカメラマンにも「美男子に写してね」ともおっしゃる。少し硬くなっていた我々の緊張を和らげてくださった。ずいぶん洒脱な老師である。
 
「毎日の日課を具体に・・・」と問うた。昼間は勤行、人の出入り、電話などで忙殺されるので、一人になれる時間は深夜しかない。そのため午後8時過ぎには休み、午前2時ごろに起きて、書斎で原稿執筆、読書、思索を毎朝5時ごろまで続けた、という。
まるで受験生か、流行作家並みのハードスケジュールだが、これは66歳で、ベストセラー「般若心経入門」を出版してデビューて以来、今日までに30余年間にわたって日々精進、続けられているのである。この間、150冊を出版。旺盛な執筆活動と並行して、新しい布教のありかたを求めて「南無の会」での説法会、法話、カルチャーセンター、講演会などで、六面八ピの活躍で、勉強、執筆、布教に忙殺されていた70、80,90歳過ぎまでの生活、日課である。
 
百歳近くになった現在の日課は如何!?。
 
午後7ごろ時就寝、起床は四時すぎ。ただ、本当は夜中の十二時過ぎには目が覚める。それからは眠れない。仕方ない。無理に寝ようとせず、これも修行と四時過ぎまで床の中で我慢、我慢、頭の中でいろいろ考えながらすごす。読書は豆電気のついた拡大鏡で見るがこれも長くはできない。ならば工夫して、頭の中で考えようというわけ。
 
起きても動作が鈍くなっている、身支度に約三十分はかかる、お経を大きな声を出して読む。読経は体によい。80年以上、毎朝欠かしたことはない、あとは書斎にこもって原稿、読書の日々が今も続く。まさに継続は力なり。日々の積み重ねが偉大な結果をもたらせた。「学ぶにおそすぎることはない。思い立ったら吉日」「「今日一日しか自分の人生はないと思って、精一杯生ききるのです。一日一生です」とじゅんじゅんと説く。
 
今、日本社会に蔓延する「不登校」『引きこもり』「ネットこもり「内向き現象」についてはどう思われますか、お尋ねした。
「自己喪失、自分をなくしてしまっているのです。人間は自分ひとり、孤立して生きていけない。網の目なのです。1つの網の目は横とも四方の網の目ともつながって全体を構成している。子供たちにも自分のきている服、靴、食べ物だって考えてごらん、すべて人が作ってくれたものです。自分1人がいきているのではなく、他人によっていかされている、生かされてもらっているのです。人間だけでなく、自然によって、万物によって、そう謙虚に考えて、『われ以外はみなわが師なり』(吉川英治)と考えて学ぶのです。このようにあらゆることから学ぼうと考えると、「ひきこもることは」ありえませんね」。
 
「佐藤一斎の『言志晩録』に「見える限り、聞こえる限り、学問を排してはならない」との恐ろしい言葉がありました。私も、いまや、目も見えない、耳も聞こえませんが、読み、書く、話すことは生涯続けようと思っています」と語る。
 
老師の生涯現役は最近、生涯修行という言葉にかえられているが、この毎日の修行と学び、書いて生ききる一日一生の生活の実践の中で達成されたものと改めて実感させられた。
この日は夕方5時半から近くのカフェレストランで師が毎月開催されている「南無の会」の法話会があった。「南無の会、反対に読めば飲むの会よ、あんたたちも出席して飲んでいってくださいね」という。
 
会は「法句経に学ぶ」のいうタイトルで、約30人の聴衆を前に、45分間の法話をおこなった。非常にわかりやすい。禅とか、仏教とかいうととかく難解でとっつきにくいが、師の説話は身のまわりの小さなことから平明に、ユウーモアのあふれる語り口で人生哲学を説いて、聞く者に、勇気と感動をあたえる。
 
その話に1度のよどみも、物忘れでの言葉に詰まることもなく、ろうろうとお話されたことが一番強く印象に残った。これが百歳長寿脳なのか。
 
65歳になろうかという筆者の方は「1つ覚えて、3つ忘れる、1つも覚えられなくて、アレ、アノ、いつだったかな」の物忘れの連続記録更新中、いまや長時間のまとまった話もなかなかできない状態になっているというのに、なんたる違いか。脳は鍛えれば鍛えるほど丈夫になる。頭脳明晰、言語明晰になることの証明を見た思いであった。
 
法話会が終わって客が引きあげ始めたころ、先生に筆談で「ご自身は100歳をすぎても死への恐怖心はございますか」と質問を書いて渡した。
「それはありますよ。私は3度死ぬ寸前までいきましたよ、いまでも死ぬのはこわい。未知の世界だものね」とおっしゃってにこりと笑った。生も死も自由自在という、老師の姿を垣間見た思いであった。
 

<略歴>

明治40年11月生。東京都出身。昭和6年早大文学部卒、26年臨済宗妙心寺派学部長。49年禅文化賞受賞、52年龍源寺住職辞任。平成元年第23回仏教伝道文化賞受賞。現在、軽井沢日月庵主管、南無の会会員。著作に『般若心経入門『松原泰道全集』(全6巻)『百歳を生きる』(海竜社刊)など多数。

食事>食べ物は好き嫌いがない。朝飯はご飯、味噌汁(大根、里芋)漬物は常備菜(沢庵、ナス)など。すりゴマを何でも入れる、ウメボシモなど野菜中心。

<健康法>健康のために愛飲しているのが、黒酢を水で半分に割ったもの。朝食後コップ一杯が習慣。勤行、声を出しての読経がよい。

<趣味>読書が大好き、一日のほとんどを書斎で過ごす。勉強しながら死ぬのが理想、まさしく、本を読んで死ねれば『本望(ほんもう)』というわけ。

 

 - 人物研究, 健康長寿, 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本風狂人列伝(34) 元祖ス-ローライフの達人・仙人画家の熊谷守一(97歳)のゆっくり、ゆっくり、ゆっくり

日本風狂人列伝(34) 元祖ス-ローライフの達人・仙人画家の熊谷守一(97歳) …

no image
『オンライン講座/日本ベンチャービジネス巨人伝』★『 鈴木商店を日本一の商社にのし上げた<財界のナポレオン>金子直吉』★『「もし、金子が米国で生まれていたならば、カーネギー、ロックフェラーと並んで偉大な事業家として成功しただろう。金子は科学的な頭脳を持っており、無から有を作る事業家であったから』

  2009/02/10 記事再録  日本の〝怪物 …

「Z世代のための日本派閥政治ルーツの研究」★『人間2人以上集まると、派閥が生じる。そこで公共の利益、公平・公正を無視した派閥優先や、行政改革を絶対阻止する省閥が頭をもたげる。日本の軍人官僚が昭和戦前の日本をつぶしたが、その大きな弊害が藩閥跋扈(ばっこ)、派閥優先で川上操六参謀総長はこれに断固として戦った。』日本リーダーパワー史(50)名将・川上操六の派閥バッコ退治と人材登用について⑥

    2010/05/31  日本リー …

no image
日本メルトダウン( 972)『トランプ大統領ショックの行方!?』―『安倍首相とトランプ氏、17日初会談=日米関係強化で一致』●『米、TPP承認見送りへ「年内審議ない」』●『トランプ氏勝利で日本の通商戦略は崖っぷち TPP漂流視野 (1/2)』●『トランプ氏勝利 日本政府「誰がキーマン?」 パイプ細く関係構築急ぐ』●『  トランプ経済は、実は「大化け」の可能性を秘めている!』●『【トランプ勝利の7つの波紋】』

     日本メルトダウン( 972) トランプ大統領ショックの行方! …

『Z世代のための日中韓外交史の研究』★『日中韓サミット、5月下旬で調整 実現すれば19年以来(ブルームバーグ)の幻?」★『日清戦争1ヵ月前の新聞報道を読む④「清国流の詐術にひっかかるな」と国民新聞は主張』

ブルームバーグ(4月5日付)は「(韓国主導で)日韓関係の悪化で2019年12月を …

no image
梶原英之の一刀両断歴史ルポー『日本の物語としての辛亥革命(上)』ナゾに包まれた孫文像(上)

<辛亥革命百年と近代日中の絆―辛亥百年後の‘‘静かなる革 …

『オンライン/100歳学講座』★『蟹江ぎん(108歳)きん(107歳)さんのギネス長寿姉妹『スーパーセンテナリアン10ヵ条』★『「人間、大事なのは気力ですよ。自分から何かをする意欲を持つこと』★『「悲しいことは考えんほうがええよ。楽しいことを夢見ることだよ』

      2019/06/19&nbs …

『ある国際ビジネスマンのイスラエル旅行記②』★『懐かしのエルサレムを訪問、旧市街のキリスト教徒垂涎の巡礼地、聖墳墓教会にお参りす』★『キリスト絶命のゴルゴダの丘跡地に設けられた教会内部と褥』

  『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ ウオッチ(231)』(2 …

no image
知的巨人たちの百歳学(109)ー『屋敷も土地も全財産をはたいて明治の大学者/物集高見、高量父子が出版した大百科事典『群書索引』『広文庫』の奇跡の「106歳物語」⓵

屋敷も土地も全財産をはたいて明治の大学者/物集高見、高量父子が出版した大百科事典 …

『オンライン/死生学講座』『日本最初の民主主義者・中江兆民(53歳)の死に方の美学』★『医者から悪性の食道ガンと宣告され「余命一年半・・」と告げられた兆民いわく』★『一年半、諸君は短促なりといわん。余は極めて悠久なりという。 もし短といわんと欲せば、十年も短なり、五十年も短なり。百年も短なり。 それ生時限りありて、死後限り無し」(『1年半有』)』

 2015/03/19/『中江兆民(53歳)の死生学』記事転載 (遺言)「戒名は …