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「Z世代のための『人生/晩節』に輝いた偉人伝』★『日本一『見事な引き際の『住友財閥中興の祖・伊庭貞剛の晩晴学②』★『〝晩成〟はやすく〝晩晴″は難し』★『真に老いに透徹した達人でなければ達し得ぬ人生最高の境地こそ〝晩晴〟である』

   

      

有害なのは青年の過失ではなく、老人の跋扈(ばっこ)である

明治35年(1902)、伊庭貞剛は故郷の滋賀県石山の琵琶湖近くに引退する準備をはじめた。57歳を迎えた伊庭は明治37年7月に、三代目総理事のポストを四十余歳の若い鈴木馬佐也にさっさと譲り、正式に住友を引退し、石山に隠棲した。
引退に先だって経済誌「実業之日本」(二月十五日発行)に「住友総理事・伊庭貞剛」の署名で「少壮と老成」を発表した。これは伊庭が新聞雑誌に発表した唯一の文章だが、住友への送別の辞であるとともに、指導者の引退心得について警鐘を鳴らした歴史的な文書でもある。
 
「事業の進歩発達を最も害するものは、青年の過失ではなく、老人の跋扈である。老人は少壮者の邪魔をしないことが一番必要である」と唱えてこう書いた。
 
「老人が常に経験ばかりに頼って青年を戒めるのは間違っている。時代は日々進歩しており、十年や二十年も前の経験や判断を押しっけ、青年のやる気をくじいてはならぬ。青年の過失を経験不足と責める前に、寛大にみて、助け導く雅量がなければならない」。
日本の経営史上に残る見事な引き際であり、経営哲学である。以下で、その全文を紹介する。
 

★「少壮と老成」全文ー 経済誌「実業之日本」(明治37年2月15日発行

 
 白髪を敬えということは、和漢洋共に昔から同じ様にいい伝えである所をみると、これは動すべからざる定則であろう。さて、何が故に白髪は敬わねばならぬのであるか。いうまでもなく、白髪には年の功、即ち壮者に求めて得べからざる経験というものがあって、老人独特の珍宝となっているからであろうと思われる。
 
 実に経験というやつは、如何なる高貴の書物からでも学ぶことの出来ず、如何なる莫大なる金力にても買うことの出来ぬ貴重の宝には相違ないので、経験と学問といずれを必要だという質問は、もとより問題にならぬのである。
 
老人の価値は唯、この一点に在るので、老成者が常に経験の必要を唱えて、少壮者を戒めるのは、誠に尤もな次第であるが、これについて是非一ついって置きたいと思うことは、経験に重きを置き過ぎないよう、よく注意せぬと、とんでもない過失に陥ることがあるかも知れぬ。
 
とにかく老人の癖として、何事につけても経験という刃物をふり回わして、少壮者を威しつけ、なにがな経験者の意見に服従せしめようとする傾きがあり、又少壮者は平生からこの刃物を恐るべく、貴ぶべきを知っておるから、大抵は経験者の命令に盲従するのが多いように思われる。
 
しかし自分の信ずる所では、これは大変な間違いである。如何となれば、経験にもいろいろある。例えば同じく商業上の経験でも、戦乱時代の経験と平和時代の経験とは、全く別種類のものである。
 
戦時の経験は、平時になると余り役に立たないもので、強いて之を応用しようとすると、それこそ大変なまちがいが出来るものである。しかのみならず、時勢は日々に進歩してゆく。万事新陳代謝の世の中であるから、十年も二十年も前に獲た経験を何等の判断なしにそのまま押しっけようとすることは、だいたいまちがった話である。
 
 かつ経験ということは、自分で実験して始めてわかったのが経験で、他人から教えられた位でなかなか真実にわかるものでない。しかるに老成者はややもすると、少壮者の過失を以て、経験者の言うことを聴かなかったといって、その過失を厳責するが、これは無理な話で、少壮者はこれから種々なる実験に遭遇して、漸次経験を積んで行こうというのだから、少々の過失はもとよりまぬがれないと思わなければならぬ。
 
 少壮者に貴ぶ所は敢為な気力である。老人は経験がある代りに、万事が保守でとにかく大事を取り過ぎる。常に自分ばかり大事を取るのみならず、少壮者を戒めるのにも保守的である。
 
しかるに少壮者はこれから経験して行こうというのであるから何事にでも自ら進んでぶちあたって実験して見なければならないから、敢為の気力というものがどうしても必要である。
即ち少々危険だと思うても自らやって見る。むずかしいと思うても進んでぶちあたって見る。そうでなくてこれも危険、あれもむずかしいという風に、万事老人の保守淡に盲従しているようでは、到底事業も出来ず、また真実の経験も得られるものではない。
 
その中には幾多の過失もあろう。しかしこの過失は敢為の少壮者にはまぬがるべからざるもので、いずれは貴重なる経験となるべきものであるから(大抵の場合ならば少壮者の過失は成るべく寛仮してこれを助け導いてやるだけの雅量がなくてはならぬ。
 
少壮者にしてもまた白髪を敬い、経験を貴ぶ念はあくまでも失うてはならぬが、さりとて経験に盲従して、爺じみた因循姑息の若翁となってしまっては最早発達するものではない。
 
 老人の保存と少壮の進取とはとにかく相容れないもので、この衝突は何れの社会でも多く見受けることであるが、これが衝突しては如何なる事業も発達するものではない。
 
これが諏和を図るのはまことに大切な事であって、これはどうしても老成者の責任として自ら任ぜねばならぬ事と思うのである。しからば如何にしてこれが調和をはかるかというに老人は少壮者の邪魔をしないようにするということが、一番必要であろうと自分は信じている。
 
衝突に就いて大抵、双方共に責のあるのは無論であるが、老成者は少壮者を助け導いて行く位地にあるあだけ、それだけ責が重い。故に老人はよほど譲ってやるところがなくてはならないのに、実際はそうでなくて、老人はとにかく経験という刃物を振りまわして、少壮者をおどしつける。
 
なんでもかでも経験に盲従させようとする。そして少壮者の意見を少しも採り上げないで、少し過失があると直ぐこれを押へつけて、老人自身が舞台に出る。少壮者の敢為果鋭の気力はこれがために挫かれるし、又青年の進路はこれがために塞がってしまう。
 
実業界にてもこういう例は到るところに見受けるのであるが、これでは老人の方が大層悪い。
 
事業の進歩発達に最も害をするものを、青年の過失ではなくて、老人の跋扈である。
 
老人も、青年も、共に社会勢力には相違ないが、その役割をいうと、老人は注意役、青年は実行役である。進取開拓の事はどうしても青年をして、これに当らしめなければならぬ。
老人はただ経験を時勢に参酌して注意を与えるに止まり、すべて少壮者に譲り、いちいち之を牽制束縛するようなことはしないで、なるべく其の敢為果銃の気力を十分に発揮せしめるつもりでやるならば、決して老少の衝突を見ることもなく、保守と進取とよく調和して、必ず事業の発達を見るに相違ない。
 
終に臨んで、一言青年に告げて置きたいと思う事は、経験に盲従してはならぬが、経験はあくまで尊重しなければならぬ。
 
殊に少壮気鋭に任せて、成功を急いではならぬ。今の時勢では順序を履んで進むものでなければ、決して成功しない。
頭ばかり先へ出ようとすると足もとが浮く。急ぐと無理が出る。手ぬかりが出来る。不平が起る、人の悪口をいう、人の悪口をいうのは天に向って唾するようなもので、禍はつまりわが身に来るものである。
 
早く楽をしたいというような考えでなく、ある一つの目的を確乎と握って、一代で出来ねば、二代でも、三代でも懸けてやる位の決心で、一生懸命に人事を尽すなら、成功は天地の理法として自然に来るものである。
 
★『〝晩成〟はやすく〝晩晴″は難し』
 
〝老い″は単なる老朽や老衰ではなく、本当の〝老い〟とは円熟を意味し、その心境に達するには、幾多の試練と努力がいる。
六十歳を超えて、本当の〝老い〟の味を知った翁は、生命力が人間の無用の煩悶と焦慮を払いつくし、はじめて至る明るさと温かみと、いいしれぬ柔らかな境地に達した。
翁はその境地を世の多くが使う〝晩成〟を退けて、〝晩晴〟とした。晩成はあくまで事業を成し遂げた者の心境であって、晩晴は人生そのものを第一義とし、事業はその一部にすぎず、真に老いに透徹した達人でなければ達し得ぬ人生最高の境地こそ〝晩晴〟であるとした。
翁はよく揮書頼まれたが、「晩晴」だけは、容易に書かなかった。ある人がしきりに頼んでも伊庭は笑って「お前にはまだ早い。『晩晴』を書けというなら、もっと修業していさめていたという。

Late maturity is easy, but late clearing is difficult.

Aging” is not merely old age or senility, but true “aging” means maturity, and it takes many trials and efforts to reach such a state of mind.
After the age of sixty, he came to know the taste of true “old age.” His life force dispelled useless worries and fretting, and he reached a state of brightness, warmth, and softness that could not be described.
He called this state of being “late blooming,” rejecting the term “late completion,” which is used by many people in the world. He said that “late completion” is the state of mind of a person who has accomplished a great deal in business, while “late peace” is the highest state of life, which can only be attained by a person who is truly an expert in aging.
He was often asked to write calligraphy, but he did not write “Late Sunrise” easily. When someone asked him to write “Late Evening Sunrise,” he would laugh and say, “You are not ready for it yet. If he wanted me to write “Late Evening Sunrise,” Iba would have trained himself harder.

Translated with DeepL.com (free version)

 

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

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