前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『オンライン講座/野口恒の先駆的なインターネット江戸学講義(19)』★ 『日本再生への独創的視点・江戸のネットワ-ク社会に学ぶ 日本のノマド学』★『ノマド(移動の民)は日本の歴史や社会の主流ではなかったが、彼らのパワ-とエネルギ-は日本の社会に変化と活力を与えてきた』

   

 

  

日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義(19)

「日本のノマド学』(終)

 

野口恒(経済評論家)

日本人の生き方や日本の社会の特色というと、長年の土地神話の影響もあって、2000年以上の歴史を持つ農耕定住民族、農耕定住社会、土地に縛られ、土地に執着し、土地に価値をおく社会であると考えられてきた。バブル経済が崩壊するまでは、ほとんどの人たちがこうした考えを持っていたと思われる。

 

しかし、バブル経済を支えた土地神話がみごとに崩壊したことにより、日本の歴史や社会に関して人々がこれまで抱いてきた見方や常識にさまざまな視点から疑問や問題点が提起された。

日本人の生き方や日本の社会には、土地に執着し、土地に価値をおく農耕定住社会とは別に、土地に縛られず、さまざまな境界を自由に移動しながら生活し、むしろ移動することに価値をおく非農耕・非定住のノマド(移動)型社会の歴史や活動があった。

 

ノマド(移動の民)といわれる人たちは決して日本の歴史や社会の主流ではなかったが、彼らのパワ-とエネルギ-は日本の社会に変化と活力を与え、目にみえない形で社会の底流を動かしてきたのである。

 

江戸時代というと、一般に土地に縛られ、土地に執着し、土地に価値をおく農耕定住社会の典型的な社会だと考えられてきた。もちろん江戸時代は農耕定住社会が社会の主流ではあったが、しかし江戸の庶民社会を底流で動かし、変化と活力を与えてきたのは非農耕・非定住のノマド社会であった。

 

江戸時代はそれまでの日本の歴史の中で人々の移動がもっとも激しかったノマドの時代であった。当時は封建時代なので人の移動がほとんどなかっただろうと考えがちである。しかし、それは長年信じられてきた大きな誤解である。

 

上は大名の参勤交代から下は庶民のお伊勢参りまで、そして菱垣廻船・樽廻船・北前船に見られる海の物流航路も含めて、江戸時代はそれまでの日本の歴史の中で「人と物の移動」がもっとも活発な時代であった。

 

江戸時代の庶民社会には、座や連、講や結など様々なネットワ-ク組織が無数に作られ、比較的自由に活動し、庶民の生活や経済活動を支えていた。「すべての江戸の講はしばるべからず」という幕府のお触れがあったほどである。

 

それらは、庶民が智恵を出し合って助け合い、身分の区別なく付き合い、交流するヒュ-マンネットワ-クとして機能した。

 

注目されるのは、江戸の庶民はこれらのネットワ-ク組織に関して、中央集権的な封建時代には考えられないほど「自由で、オ-プンで、分権的で、水平的な」運営や活動を行っていたことだ。

 

身分や家柄の違いを超えて自由に付き合い交流し、目的や状況に応じて柔軟かつアドホックに組織やネットワ-クを運営し、人と人を自在につないでその輪を広め、様々なビジネスチャンスをつくり、新たな価値を生み出していく。

これらは、厳しい身分制が支配する封建社会のもとで、江戸の庶民が助け合いながら生き抜くための生活の智恵とアイデアであった。

 

 ところで、21世紀は人々が地球規模で移動するノマドの時代であるといわれる。

事業家、ビジネスマン、学者、芸術家、芸能人、スポ-ツマンなど、人生や仕事のチャンスを求めて、国境に縛られず自由に移動する人々。

 

あるいは貧困や生活苦、戦争や動乱から逃れ、生き延びるために移動を強いられる人々。さまざまな理由や背景があるにせよ、21世紀は人々がグロ-バルに移動する時代になるだろう。とくに、インタ-ネットの爆発的な普及によるネットワ-ク社会の実現により、情報も物も人も地球規模で活発に移動する本格的なノマド時代が到来する。

 

 グロ-バルなネットワ-ク社会の実現やノマド時代の到来は、人々の生き方や生活に大きな変化をもたらすことになる。それは人生やビジネスに様々なチャンスをもたらすと同時に、他方で人々は厳しい生存競争を強いられる。

 

競争社会に付き物の勝者と敗者の格差がはっきりする。グロ-バル競争ばかりが強調されて、弱者や敗者を救う助け合いや相互扶助の精神が失われる。ハイテク社会の進化に依存するあまり、より人間的なハイタッチ社会の側面が稀薄になっていく。

 江戸の連に参加した武士や町民たちは複数の「ペンネ-ム」を持ってそれぞれ使い分け、

身分や階級の差別なく付き合い、自分たちの趣味や嗜好を通じた自由なサ-クル活動に参加し、人間的な交流を広めて分度に応じた生活を楽しんでいた。

 

 江戸町民によるネットワ-ク社会の特色は、人と人とのつながり、お互いの信頼感の絆、助け合いと相互扶助を社会の基本においていることだ。そのために、江戸の町民は様々な智恵とアイデアを出し合い、緩やかな組織と柔軟なネツトワ-クを作り、庶民の生活と経済活動を支えていた。

 

江戸町民のムダの少ないシンプルな生き方と生活、弱者にも優しい緩やかで柔軟な社会の仕組みは、日本における21世紀のネットワ-ク社会やノマド社会を考える時、大いに参考にすべき先進モデルとなる。

とくに、移動することに価値をおき、移動しながら様々な価値を作り出していくノマド社会の生き方や働き方は、“江戸のノマドたち”から学ぶべきところが非常に多いのである。

 

 21世紀の日本は、かつてのような高度経済成長の時代とは異なり、緩やかな成長の中で自分たちの充実した生活を営んでいく“定常社会”の生き方やライフスタイルが求められる。

 
日本の歴史の中でもっとも安定した定常社会であった江戸から学ぶべきものはたくさんある。シンプルで、スロ-なクウォリティライフもそのひとつであろう。

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報(413)『ピューリッツァー賞、温家宝前首相の蓄財報道のNYタイムズに』●『英エコノミスト誌の日本:革命の兆し』

    速報(413)『日本のメルトダウン』 &n …

人気リクエスト再録『百歳学入門』(234) 『昭和の傑僧、山本玄峰(95歳)の一喝!②』★『無一物・無一文 ・無所有・一日不働・一日不食』★『力をもって立つものは、力によって亡ぶ。 金で立つものは、金に窮して滅び、ただ、 徳あるものは永遠に生きる』

  2012/09/11記事再録  百歳学入門(5 …

知的巨人たちの百歳学(177)記事再録/『創造力こそが長寿となる』★『葛飾北斎(89歳)「過去千年で最も偉大な功績の世界の100人」の1人に選ばれた』(米雑誌ライフ、1999年特集号)➀

 葛飾北斎(89歳)「過去千年で最も偉大な功績の世界の100人」の1人 「ジャパ …

no image
(まとめ日本史の決定的瞬間史●水野広徳の語る『坂の上の雲』の「皇国の興廃この一戦にあり」『日本海海戦』の真相

(まとめ―日本史の決定的瞬間史)  ●「此の一戦」の海軍大佐・水野広徳 …

『ウクライナ戦争の終わらせ方の研究①★『独裁者・プーチンが核兵器発射で脅している戦争を終わらせるのはなお難しい』★『太平洋戦争を鈴木貫太郎首相と昭和天皇の<阿吽の呼吸>で玉音放送で終結させた国難突破力は世界史にも例がない』

日本リーダーパワー史(746)歴代宰相で最強のリーダーシップを発揮したのは第2次 …

no image
速報(97)『” グーグルの素早い行動が、日本で友人を勝ち取る事に成功している <ニューヨーク・タイムズ(7/10)』

   速報(97)『日本のメルトダウン』   『& …

『オンライン講座/日本150年興亡史』 ★『日本議会政治の父・尾崎咢堂の語る★『売り家と唐模様で書く三代目』① <明治の初代が裸一貫、貧乏から苦労して築き上げて残した財産も三代目(昭和世代)となると没落 して、ついに家を売りだすようになるという国家、企業、個人にも通用する 栄枯盛衰の歴史>

  2012/02/23記事再録「日本リーダーパワー史」 & …

no image
百歳学入門(58)江戸城無血開城で百万人を救った勝海舟(75歳) 『長寿法などない」「南光坊天海(107歳)を論ず」

 百歳学入門(58)   江戸城の無血開城で百万人の江戸ッ子を救った勝海舟(75 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊷』◎「中国専門家「尖閣侵攻で強さ見せつける」 “戦争” 発言に凍りついた瞬間 」

   『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊷』 &nbs …

no image
日中ロシア北朝鮮150年戦争史(45)『日本・ロシア歴史復習問題』★「日清戦争後のロシアによる満州強奪」―西欧列強のアジア経営と米国の極東進出、ロシアのチベット問題の謀略

  日中ロシア北朝鮮150年戦争史(45)『日本・ロシア中歴史復習問題 …