前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

知的巨人の百歳学(120)-『元祖スローライフの達人・超俗の画家/熊谷守一(97歳)-『文化勲章は大嫌いと断った熊谷と〝お金がもらえますからね″といって笑って答えた永井荷風〈当時72歳〉』

   

知的巨人の百歳学(120)-

文か勲章といえば、もう1人の奇人、超俗の人、永井荷風にふれないわけにはいかない。

荷風の文化勲章受賞は昭和二十七年だった。理由は「温雅な詩情と高邁な文明批評と透徹した現実鑑賞のニ面が備わる多数の創作を出し、江戸文学の研究に新分野を拓き、外国文学の移植に業績をあげ、近代史上に独自の巨歩を残した」ということだった。

日本風狂人伝(23) 日本『バガボンド』ー永井荷風散人とひそやかに野垂れ死に ③

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/3635.html

日本風狂人伝(22)日本『バガボンド』チャンピオンー永井荷風と楽しく 野垂れ死に ②

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/3636.html

 

当時、千葉県市川に住んでいた荷風は、新聞記者にこう言っている。

「そんなことウソだろう。勲章なんてうれしくない。感想なんかないよ」(「読売新聞夕刊」昭和27年10月21日)

「うれしいかって~ それはうれしいが、受賞に行くにも焼けて洋服(モーエソグ)も黒いクツもないから夕方デパートに行って注文するよ。借りて行くわけにもいかないからね。賞金は貯蓄しておいて生活のために使うよ。生活に追われながらいいものは書けぬからね」

(「朝日新聞千葉版」昭和27年10月21日)

以下、濱川博「現代のアウトサイダー」浩文社、昭和50年3月刊によると、こう書いている。

芸術院会員を断った荷風のことだから、文化勲章も一蹴するのでは……。当時の文部官僚も、世間のおおかたもそう見ていた。最初は文部省の受賞候補者リストにも上っていなかった。

下駄ばきで浅草のストリップ劇場をうろつく『四畳半襖の下張』の作者に、頭のかたい官僚には、受賞の対象と考えられなかったのだろう。しかし、選考委員の間で強く荷風を推す意見が出て、受賞が決ったといういきさつがある。

「文学は糊口の道でもなければ、栄達の道でもない」と言った荷風の勲章ぎらい、官僚ぎらいは有名だった。北原武夫は、荷風の受賞をこう書いている。

荷風氏が勲章をもらったことは、大いに驚嘆に値する。恐らくだれしも荷風氏は勲章などは辞退するであろうと考えていたに違いない。もちろん筆者もそう考えていた一人である。

文学的価値から言えば、現代日本文学を圧する至宝であって、当然勲章に値するものではあるが、作風から言って勲章をやるぞなど言われたら、ふふんと冷笑するはずだと、だれしも考えるからである。

……伝え聞くところによると、勲章をもらった理由について、荷風氏は〝お金がもらえますからね″といって笑って答えたという。永井荷風勲章受賞の珍事を、荷風文学化した至妙の一言である。荷風氏の文学精神はやはりまだ衰えてはいない。

(「東京新聞」昭和27年10月22日)

荷風はこのとき72歳。後輩の志賀直哉や、谷崎潤一郎よりも遅い受賞であった。荷風散人と熊谷守一の二人の超俗的勲章ばなしは、どんな名優の名演技も、はるかに及ばない至芸というほかはない。

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本の最先端技術「見える化」チャンネル『世界の産業用ロボット市場は日本が独占、トップ10に6社』ー『川崎重工業の人協働型/小型/双腕型ロボット「duAro(デュアロ)」のプレゼン(動画)

日本の最先端技術「見える化」チャンネル (6/6、東京ビッグサイト) 『電子機器 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(115)/記事再録☆『百年先を見通した石橋湛山の大評論』★『一切を棄てる覚悟があるか』(『東洋経済新報、大正10年7月 30日・8月6日,13日号「社説」)『大日本主義の幻想(上)』を読む②『<朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、中国や、シベリヤに対する干渉もやめろーいう驚くべき勇気ある主張』

    2012/08/27 &nbsp …

no image
高杉晋吾レポート⑫「脱原発」「脱ダム」時代の官僚像ーー元、淀川水系流域委員長 宮本博司氏インタビュー(中)

高杉晋吾レポート⑫   ダム推進バリバリの元国交省エリート、宮本博司が …

no image
(再録)革命家・犬養毅ー大アジア主義者として孫文を助け、フィリピン、ベトナム、インドなどの独立運動家を支援した『アジアの父』①

犬養毅ー大アジア主義者として孫文を助け、フィリピン、ベトナム、インドなどの独立運 …

no image
百歳学入門(158)★『昭和戦後日本経済成長の立役者』松下幸之助(94) 『病弱だったことが私の成功の最大の秘訣!ー『私1人でできんのでみんなに任せてやってもらった。」

百歳学入門<158> 『昭和戦後日本経済成長の立役者』松下幸之助(9 …

no image
近現代史の重要復習問題/知的巨人の百歳学(158)-『渋沢栄一(91歳)の国民平和外交を潰した関東軍の満州事変の独断暴走が、日本を破滅(戦争)の道へ陥れた。この4ヵ月後に渋沢は亡くなった』

近現代史の重要復習問題/知的巨人の百歳学(158) 明治、大正、昭和で最高のトッ …

「Z世代のための日本宰相論」★「桂太郎首相の日露戦争、外交論の研究②」★『孫文の秘書通訳・戴李陶の『日本論』(1928年)を読む』★『桂太郎と孫文は秘密会談で、日清外交、日英同盟、日露協商ついて本音で協議した②』

  今後の日本に「日英同盟」は不要、イギリスにとっても不要である。 い …

no image
百歳学入門(227)―記事再録『元祖ス-ローライフの達人・仙人画家の熊谷守一(97歳)のゆっくり、ゆっくり、ゆっくり❢!』

2010/02/14  日本風狂人列伝(34) 元祖ス-ローライフの達人・仙人画 …

no image
 日本リーダーパワー史(806)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利』した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、 インテリジェンス㉑『第一回日露交渉(小村、ローゼン交渉)は両国の満州への「パーセプション(認識)ギャップ」が大きく物別れに終わる、日露開戦4ゕ月前)  

   日本リーダーパワー史(806)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦 …

no image
日本メルトダウンの脱出法(540)●「異文化でリーダーシップを執る日本人の育成は喫緊課題」『日本を「丸腰」にさせたがっている護憲派」

     日本メルトダウンの脱 …