『百歳学入門(231)-『60,70歳から先人に学ぶ百歳実践学入門』ー『平櫛田中の一喝!「六十、七十 はなたれ小僧、男盛り、女ざかりは百から、百から。いまやらねばいつできる、わしがやらねば、だれがやる。』
日本ジャーナリスト懇話会112号(2018年6月15日号)
『60,70歳から先人に学ぶ百歳実践学入門』
前坂俊之
(静岡県立大学名誉教授、 ジャーナリスト)
今日(3月23日)は『60,70歳から先人に学ぶ百歳実践学入門』というテーマでお話しさせていただきます。
まず、最初に日本での「高齢者の現状と未来について」お話しし、その後われわれの指針となる先人の健康訓、人生訓について、学んでいきたいと思います。
「高齢者白書」(2017年版)によりますと、日本の総人口は、2016年10月1日現在で、1億2,693万人。65歳以上の高齢者人口は、3,459万人で、高齢化率は27.3%である。前期高齢者(65~74歳)は1,768万人で13.9%、後期高齢者(75歳以上~)は1,691万で13.3%にのぼる。
この中で、百歳以上の高齢者は6万7824人(2017年)で、1963年は153人だったのが、2003年に2万人を突破、20 15年に6万人となり、35年は25万6千人、50年には53万2千人になる見込みである。90歳以上は200万に人を突破している。
高齢化率は日本 26.6%でダントツの世界一 で、イタリア (22.4) ドイツ (21.2) フランス (19.1) と続いており、米国は14.8%で日本のほぼ半分、アジアも10年後には急速に老齢化が進んできます。
すでに2025年問題が現実化
昨今2025年問題が騒がれている。団塊の世代が2025年までにそろって後期高齢者になることで、全人口の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上の『超高齢社会』に突入するのです。この後期高齢者が前期高齢者を抜いたというたと2,3週間前の新聞で報道されており、予想以上に早く2025年問題が現実化しています。
2025年には認知症患者数は700万人を突破し、年金なども含めた介護・医療費などの社会保障費は膨らむ一歩で、2015年度は118兆円だったのが,2025年度は148兆円と1.3倍になると見込まれる。
ところで日本の平均寿命は男性80.98歳で、「健康寿命」との差は約10歳、女性は87.14歳でその差は13歳ほどなっており、いかに健康で自立して生活できる健康年齢を引き延ばすことが個人にも社会にとっても、重要なポイントになっている。
高齢者の介護、医療の国の負担は今後ますます増えていくが、その負担率を見てみると1950(昭和25)年には1人の高齢者に対して12人の現役世代が支えていた「ピラミッド型」が、2015年には2.3人で担ぐ「騎馬戦型」へ、2065年には、1.3人の現役世代が支える「肩車型」となり縮小一方で、世界史上、初めての『重老齢社会』を迎えている。
少子化も止まらない。2017年度の「合計特殊出生率」は1.44で、出生数が97万6千と初めて100万人を割り込んだ。50年後(2065年)の全人口は9,000万人を割り込むとみられます。
さらに、2035年には生涯未婚男性30%、女性20%となり、日本の人口の半分は独身者という『ソロモン(結婚しない)時代』となるとも言われています。
世界一の「寝たきり大国」
暗い数字並ぶが、もう1つの問題は日本が世界一の「寝たきり大国」ということです。
(1)日本人が医師の診察を受ける回数は年間13回で先進国の2倍以上。
(2)薬剤消費量で米国の約2倍もある「薬漬け大国」。
(3)寝たきり老人の比率も世界一に高く、現在約200万人、2025年には300万人に達するということです。
寝たきりの割合はスウェーデンが4%、日本が約34%で8倍以上。この差は日本の延命治療(胃ろう)の問題点と死生観の違いである。
西欧各国、スウェーデンでは、高齢者が自分で物を食べることができなくなった場合、点滴や胃ろうなどの処置は行わない。人工的な処置によって高齢者を生かし続けることは、生命への冒涜と考える。人間は自力で生きることができなくなれば、自然に死んでいくべきだという死生観がある。
百寿者は大変めでたいことですが、その8割は寝たきり、元気で自立しているのは2割と言われます。
認知症、アルツハイマー病の患者も増える一方。
2010年の、日本での認知症患者数は約462万人、65歳以上人口の15%にあたり、2014年には約500万人、その社会的費用は14.5兆円と国民医療費全体の3分の1を占める。さらに2025年の認知症患者数は700万人を突破し、2035年にはその介護・医療費は23兆円に膨らみます。
80歳以上百歳有名長寿者500人の一覧表(別表)
以上のように難問山済みの日本の高齢者問題ですが、60代、70代のわれわれはその嵐の中に突入するわけです。私は20年ほど前から仲間と「センテナリアン(百歳人)研究会」を立ち上げて研究してきたが、今回、80以上、90、100歳超えの著名な長寿者500名をリストアップして、その健康訓、人生訓を調べてきた。(当日の資料12頁で配布)。自分もその先人の知恵を手本にしてそれを学び、実践してきたので、そのいくつかをお話ししたいと思います。
「六十、七十 はなたれ小僧、男盛り、女ざかりは百から、百から。いまやらねばいつできる、わしがやらねば、だれがやる。」この裂ぱくの気合いのこもった言葉を残したのは彫刻家の平櫛田中翁(107歳)です。翁は世界最長寿の芸術家ではないかと思う。
平櫛翁は百寿を迎えた際に、六百万円出して木彫りの材料である直径二メートルものクスノキ材を三本も買い込んだ。1本掘りあげるのに乾燥させて10年はかかる代物なので百三十歳まで仕事を続けるつもりなのです。
平櫛田中記念館(小平市)の玄関横にその巨木が展示されている。私は時々、この『百歳長寿の聖地』『パワースポット』を訪れ、「一喝(カツ)!」を浴びて、やる気にスイッチオンしています。
『長寿は芸術であり、創造者は長寿となる』
配布したこの長寿者一覧表を見ると画家、彫刻家、芸術家や学者など、クリエイティブな仕事をした人は長生きしていることが見て取れます。平櫛田中(107)、小倉遊亀(105)、片岡球子(103)北村西望(102)、奥村土牛(101)、入江一子(101、現役)、堀文子(99、現役)、佐藤忠良(98)、梅原龍三郎(97)、熊谷守一(97)中川一政(97)、横山大観(89)葛飾北斎(88)らズラリ。一心不乱に美神を追求していると、長寿になる、「長寿は芸術である」、「芸術を創造していると、長寿になる」との有名な言葉がありますが、逆に言えば長生きしたので大きな仕事ができたともいえると思います。
これに比べると、新聞人、ジャーナリストでは、むのたけじ(101)、務臺 光雄(94)徳富蘇峰(94)、原寿雄(92)らの名前が見えるが、総じて長生きの人は少ない。激しい競争社会でストレスがたまるのが長寿に影響しているのではないか、と思います。
創造的な人間は長寿になるという点では、経済人で一代で世界的な大企業、日本の大企業を築き上げた長寿創業経営者がこのリストでも多くみられる。
松下幸之助(94)、岩谷直治(岩谷産業、102)、岡野喜太郎(スルガ銀行、101)、中山素平(財界の鞍馬天狗、99)、江崎利一(グリコ、97)、御木本幸吉(真珠王、96)、蟹江一太郎(カゴメ、96)、安藤百福(日清食品、96)、松永安左エ門(電力王、95)、出光佐三(石油王、95)、瀬島龍三(伊藤忠、95)、渋沢栄一(日本資本主義の父、91)、石橋正二郎(ブリジストン、87)、本田宗一郎(ホンダ、84)らです。
この中で、なんといっても渋沢栄一翁が今日の日本の経済の基盤を築いた第一人者であり、見事な長寿人生を全うした最高の手本として敬服しています。「経済と道徳の合一を唱え渋沢翁は77歳で実業界から完全に足を洗い、社会実業家、慈善実業家へ転身し、日米親善の先頭に立って晩年は国際交流に尽力しています。
「老人になれば、若い者以上に物事を考え、楽隠居をして休養するなどということは、絶対にしてはいけません。逆に、死ぬまで活動をやめないという覚悟が必要なのです。働くことは<傍楽>である」とも語っており、一喝される思いである。
また、私が尊敬して、毎日真似して、実践しているのは三浦敬三(プロスキーヤ―、101歳)、三浦雄一郎(スキー、登山家、85歳)親子のトレ―ニング方法です。
敬三氏は77歳でキリマンジャロ、88歳でアルプス、99歳でモンブランを滑走しており、その超人的体力の秘訣は玄米食と足腰を鍛えるスクワットの実践であります。
息子の雄一郎氏はこの父親の衰えを知らんぬチャレンジ精神に刺激され、5大陸の最高峰に登頂したあとに、目標を失い、90キロ近い肥満体になっていたのを反省し、70歳でエレベストに登頂する目標を立てて、足に10キロ、背中に20キロ背負って毎日トレーニングを再開し、70歳で見事にエベレスト登頂に成功しています。続けて、75歳、80歳でも続けて成功させる偉業を達成し、まさに晩年の星、長寿健康の達人です。
もう一人、その生き方、健康法に大いに教えられたのは聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生(105)です。日野原先生は「低カロリーこそ長寿の秘訣」と唱え、自ら1日食1300キロカロリーと普通の大人の「腹7分」を実践し、90歳代から最期まで一生涯現役で活躍し、200冊冊近い膨大な著作を発表し続けて、作詞、作曲したミュージカルの監督にも89歳で挑戦した「奇跡の百寿者」である。まさに「百歳長寿社会」「スーパーセンテナリアン」の手本である。
私も『いまやらねば いつできる。わしがやらねばだれがやる』(平櫛田中)と『少なくして学べば壮にして為すあり 壮にして学べば老いて衰えず 老いて学べば死して朽ちず』(儒学者・佐藤一斎、86歳)を座右銘として、これら『長寿健康超人』たちの背中を遠くに眺めながら、七十、八十の急坂を息を切らせながらよヨロヨロ登り、PPK(ピンピンコロリ)を目ざしているのです。
さて、結論を申し上げましょう。今、世界の医学界の遺伝子研究分野は大きく発展し、長寿の役割を持つ遺伝子が発見されています。
長寿の秘密「長寿遺伝子」のスイッチをオンにせよ。
サーチュイン遺伝子(Sirtuin gene)のと呼ばれる長寿遺伝子で、老化のスピードをコントロールする遺伝子”で、その活性化により寿命が延びたり、活性化しないと長寿にならないことが実験によって確認されました。
冬眠中の動物の寿命は、活動期の20倍から30倍の長寿モードになる。人間も同じで飢餓、絶食、食事制限、ダイエットで長寿遺伝子のスイッチが入る。
長寿になるためには、この遺伝子にスイッチを入れること。カロリー摂取量を普段の七割まで下げると人は「飢餓感」を持つので「腹七分目」がよいといいます。このために日野原先生は1日1300キロカロリーに制限していのです。
もう1つのスイッチオンは運動、スクワットで筋肉を収縮させることです。
激しいジョギングよりもやや弱い運動強度の『インターバル速歩』の「ゆっくり歩く」と「速く歩く」を3分ずつ交互に繰り返す。有酸素運動でよいといわれます。
さらに、レスベラトールを飲むこと。これは赤ワインに多く含まれるポリフェノールの一種のレスベラトールを飲むと長寿遺伝子の活性化し、レスベラトロールはカロリー制限と同じような効果を発揮するといいます。
赤ワインを毎日グラス3、4杯飲む人はまったく飲まない人に比べて、アルツハイマー病の発症率が4分の1と少なく、死亡率も低いという結果が出た。
レスベラトロールは、ブドウの茎や皮などから抽出されピーナツの皮や、イタドリ、インドネシアの植物メリンジョなどにも含まれています。
終わりに
➀福沢諭吉(66歳は「人生は寿命の長さよりも、世のため、人のために何をやったのか、その幸せの量、仕事の量<寿量>こそが大切である」と説いていますが、長寿となって『寿量』をより多く達成できれば、こんな幸せなことはないではないでしょうか。
「生死一如」-ぶらり、気ままに、いそがず、あわてず、あてもせず、PPK(ピンピンコロリ)をめざしてトボトボ歩く毎日である。
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