高杉晋吾レポート(8)★☆<スクープインタビュー>闇に隠された「ふげん配管ひび割れ隠蔽」のショッキング証言—森田渓吾①
<スクープインタビュー>
『闇に隠された「ふげん配管ひび割れ隠蔽」のショッキング証言①』
—森田渓吾、原発建設段階での黒い話—
インタビュー/高杉晋吾(ジャーナリスト)
本人からは名前を出しても良いと云われていますが、いろいろと配慮の結果、当面は仮名で発表いたします。仮名は森田渓吾です。
原発建設許可の安全指針は住民安全無視のお飾り
M、そうですね。提起すべき問題は多彩だと思います。その多くの問題が取り残されていると思いますが、原発問題でも個別に福島第一原発に絞られ過ぎていました。今度は浜岡原発に傾き掛けています。
T、大事な問題での報道が欠けているように思います。それは原発のひどい状態の報道話されていても、ひどい原発の建設をした企業の責任、許可した当局の責任が問われていないことです。
M、建設も許可も法律に基づいています。原発の安全性については「原子力安全設計審査指針」、原子炉の安全運転等については「原子力発電所の安全規制」によって許可され規制されています。
T、それらの基準や規制によって国民の安全や命は守られているはずなのに、現実は原発その物が安全ではない。国民は原発の放射能や様々な被害にさらされていますね、自分の住みなれた故郷を追われて十数万人が逃げ迷う。一体それらの基準や規制はお飾りなのでしょうか?
今になっては誰にでも分かっていることがあります。国、政治家や官僚、財界は原発を作ることを至上課題にして、国民の反対を押し切って、しゃにむに
だから審査基準や規制などはお飾りにすぎなかった。
M、その通りです。私もP社にいて、新入社員として新型原子炉のふげんや大間原発設計に関わってきましたから、非常によくわかります。
T、森田さんの原発メーカーの一員としての経歴を少し御話し願えますか?
M、私は1983年3月、P社に入社し、新型炉技術部に配属になりました。
実用化されていない新型の原子炉の開発を行うセクションです。
高速増殖炉(FBR)や新型転換炉(ATR)を担当する新型炉技術課に属していました。
そして、1984年4月から、主に新型転換炉(ATR)を担当していました。
具体的には、敦賀にあるATRふげん(動燃)と大間に計画されていたATR実証炉(電源開発)の担当です。
T、済みません。私は原発について全くの素人ですから、FBR、ATRについての素人向けの説明をしていただけますか?
M、ATR というのは次のようなことです。原子力用語辞典をひいて説明します。
(1) ATRというのはAdvanced Themal Reactorの略称です。一般には1)在来型炉(軽水炉、マグノックス炉)より良い経済性を持つと云われ、2)核燃料の効率的利用が図られていると云われていました。3)核燃料利用の多様性に対応できる新型転換炉だと称されてきました。動力炉・核燃料開発事業団《動燃》の「ふげん」はこれを目指したものす。日本ではこの形式の炉を「新型転換炉」呼んでいます。
T、なるほど、森田さんは1983年ごろから日本では最先端の原発の部署におられた訳ですね。
M,まあ、そういうことになります。
T,そこにおられて様々な問題に遭遇された。その中でも一番印象の強いもんだいはどんなことでしたか?
炉内部の重要部品は壊れたまま運転
M,たしか、担当になった直後ですから1984年5月頃のことでした。
ふげんが定期点検で、三菱が納入した一次冷却系配管に応力腐蝕割れによると思われる
クラック(ひび割れ)が見つかったのです。
T,済みません。応力腐食割れについて説明してください。
M、ふげんの炉の概念図を見てください。応力腐食割れというのは、「ふげん」の場合では、原子炉冷却系を構成するス[HS1]テンレス鋼配管等で起こった事故です。このひび割れは配管の継ぎ目の部分等で起こりやすいんですよ。
動燃はこの事態を隠しています。表向きにはどういう説明をしているかというと、次のように嘘をついています。
「動燃は、このひび割れ(応力腐食割れ=SCC:Stress Corrosion Cracking )の発生を防止するために、ひび割れしにくい(SCC感受性の低い)材料への取替、溶接熱影響部に対しては高周波加熱によって残留応力改善、および水素注入による原子炉冷却水の水質改善法を組み合わせたSCC対策を実施してきた。 これらの対策の実施により、SCCの発生を効果的に防止することができ、「ふげん」の安定な運転に寄与することが出来た。」
これは現実にSCCによるひびわれは発生したが起こったので、事業続行上、取り換えや改修を待っておれないので、次の定期検査まで何とか持たせて、その間研究して取り換えようという非常に危うい対策の実態とは全く違う嘘の説明です。
T、福島第一原発で地震・津波で起こった7クラスの事故を考えると身震いしますね。「ふげん」のある原発銀座には15の原発炉がある。近畿圏の人たちは放射能の汚染され逃げ惑わなければならない。
所で応力腐食割れというのは辞書をみると次のように説明されていますね。
おうりょく–ふしょくわれ 0 【応力腐食割れ】〔stress corrosion=SCC〕金属材料が腐食しやすい環境下で、破壊されるほど強い力を受けないのに、配管の溶接部などが割れる現象。特に原子炉の配管設計で十分な配慮が必要とされる。
所が動燃などは貴方のお話の「ひび割れ発見事故隠し」とは違う説明をしている。
M、重要は配管にひび割れが発見されたのですから、直ちにその配管の取り換えをしなければならない。福島第一で起こったような大惨事に引き金になりかねないところでした。そのひび割れを発見したにもかかわらず、それを隠して、そのまま運転を続け、翌年の定期検査の時に改良した配管を取り付けた。
T、その事件は森田さんが赴任されてから何年後でしたか?
動燃、今も通す、嘘の説明
M、事件に私が遭遇したのは1979年運転開始から、5年めです。当時、応力腐蝕割れを防ぐには、配管の材質をかえれば良い(たしか窒素の含有量を少なくする)ことは解っていましたから、すぐにひび割れの事実を公表するとともに、配管を取り替えるべきでした。
それをしなかったのですから、動燃は嘘の説明を今でも通しています。
T、配管の位置、全体図の中でこの配管はどこに位置するのですか?
M、はっきりと覚えていないのですが、炉内部の配管です。概念図では矢印のついた下降管の溶接部だったと思います。
T、配管の安全性についてですが。どのような事故につながるのですか?
M,設計上もっとも苛酷な事故とされている冷却材喪失事故になります。T,安全審査設計指針のどの部分に違反するのですか?
M、安全審査指針は設計の審査ですから今回の事件とは違います。しかし、運転、点検の法規に違反することはあきらかです。 しかし、材料の特許の問題もあり、すぐには配管を手配することは出来ませんでした。
新しく作り直すのですから、何ヶ月もの期間が必要でした。動燃としては、長期の運転停止は何としても避けたかったのだと思います。
T、配管材料の特許の問題とはどういう問題ですか?若干の説明を。
M、SUS316Lの成分に関する特許です。特許対策でほぼ同じものがSUS316原子炉級ということになったと思います。
そこで、動燃からの指示は、「クラックは見つからなかったことにして、次年度の定期点
検で、配管を交換する」というものでした。そのため、クッラクの進展を予想し、クラックの入った状態でどの程度の地震にまで耐えられるか、一年間運転できるかを三菱で計算しろと言うものでした。
T、動燃の配管クラックに対する対策は定期検査の時に新しく研究改良した配管材料に変えたという対策で偽装しようということですね?
M、はい。そういうことでした。夜遅くなって、担当外の従業員が帰宅したあとに行われました。管理部門と実際に計算を行う担当者だけが集められました。会議ではメモを取ることも禁止されました。
実際に耐震計算を行う担当者はかなり渋っていました。私はやらせる方の管理部門の新入りでした。その時に聞いた話では、動燃の担当者が東電からこのやり方を聞いてきたらしいと言うことでした。
計算の結果、何とか持つだろうということで、この作戦は実行されました。新しい材料
(SUS316原子炉級)での配管を発注したのです。そして、翌年の定期点検で、新しい配管に変更されました。クラックが見つかったからではなく、より安全性を高めるために応力
腐蝕割れがおきにくい材質にかえるという名目でした。
T、いろいろとやったんですね。ふげんが廃炉になるまでどんなことがありましたか?M、設計部門にいましたから、何もない限り運転中の「ふげん」にはあまり係わっていません。この事件の後も、ほとんど「ふげん」の仕事はしていません。
T、貴方の体験を通じて福島第一原発事件とふげんの体験の感想を聞かせてください。
M、福島第一と浜岡については、私が担当したものでもないので、具体的なことは解りません。
ただし、私が担当した「ATR実証炉」「もんじゅ」「ふげん」は、東芝、日立なと共同で設計を進めていましたので、東芝、日立が造った福島第一と浜岡でも、私が「ふげん」で経験したようなごまかしがいくつも行われていただろう事は容易に想像が付きます。現にたくさんの内部告発が行われています。
T、 平井憲夫という故人ですが原発現場の技術者が実にすばらしい告発をしていますよね。ある講演でこんなことを言っていました。
「水戸で講演をしていた時、会場から『実は恥ずかしいんですが、まるっきり素人です』と、科技庁(科学技術庁)の者だとはっきり名乗って発言した人がいました。その人は「自分たちの職場の職員は、被曝するから絶対に現場に出さなかった。折から行政改革で農水省の役人が余っているというので、昨日まで養蚕の指導をしていた人やハマチ養殖の指導をしていた人を、次の日には原発の専門検査官として赴任させた。
そういう何にも知らない人が原発の専門検査官として運転許可を出した。美浜原発にいた専門官は三か月前までは、お米の検査をしていた人だった」と、その人たちの実名を挙げて話してくれました。このようにまったくの素人が出す原発の運転許可を信用できますか。
大地震を隠す浜岡原発、三つの偽装とは
浜岡原発の問題では谷口雅春という人が『自分は浜岡原発圧力容器内の担当をしていた。その方が、浜岡原発の1972年5月ごろの会議で、各部門が集まる会議で、ある担当者が「いろいろと数値を計算してみたが、浜岡原発は岩盤が弱く地震が来るともたない」と発言して集まった担当者たちにショックを与えた。150年前に大地震が起きていて、ひび割れだらけだ、という事実もある。ところが会議では『データを、地震に耐え得たように偽造しよう』と結論を出し、「地盤の強度を測定しなおしたら実は岩盤は強かったのが分かった」『原発の建築材料を実際より強く見せかける』『地震の周波数を書きかえる』という偽造を行ったと云うんです。全く森田さんの経験の通りのことが浜岡原発でも行われているんですね。
M、私も、福島第一の事故が起きるまでは、正直、ここまでの事故が日本で起きるとは想像していませんでした。また、津波の想定についての経緯を知るにつれ、その酷さにあきれましたが、過去に私が関与したクラックの隠蔽も同じくらい酷いものだったことに改めて気がつきました。現場にいて、「これくらいいいだろう」と思う事の蓄積が、福島の事故を起こしたのだと思います。
この地域で起こった最大の地震や津波はこの大きさだった。これから来る津波もそれで予測しよう。それを防ぐことができる施設を作ればよいと。
それがいわゆる治水や地震の予測ですよね。ところが地球が起こす現象は予測などできない。次から次へと『予測を超えた現象』が発生する。地球は人間の浅知恵で測り知れるものではない。
企業は人命よりも利益などの数量化でしか動かない
(つづく)
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