渡辺幸重の原発事故レポート③ー『最悪のシナリオから考えるー日本海溝「投棄」案の疑問点①』
『最悪のシナリオから考えるー日本海溝「投棄」案の疑問点』(1)
渡辺幸重(ジャーナリスト)
福島第一原発事故はその場しのぎの対応が続き、台風、梅雨、余震、汚染水処理、作業員の不足や疲弊等々、危機的な要因を抱えて相変わらず深刻な事態のまま推移している。本欄(5月28日)および「月刊日本」6月号で提起された「日本海溝『投棄』案」は最悪の事態を回避するための一つの策として検討されるべきだろう。
そこで素朴な疑問を呈し、議論の材料を提供したい。今回は(その1)として投棄論に対する疑問の提示、次回は(その2)として最悪の事態の想定と対処への考え方を述べる。なお、これらはあくまで私見であり、未検証の予測を含むことをお断りしておく。
事故炉から核燃料を取り出し、海溝へ捨てることの是非と可能性
原子炉を深さ2千メートルの日本海溝に投棄する方法は、提案者の池田知隆氏の記事にあるとおり不測の事態を避けるための窮余の一策であり、失敗や妨害は許されない。そこでまず、技術的なことを中心にうかがいたい。具体的には次の内容である。
1) 燃料は溶融しており、通常の方法で(核燃料棒という形で)取り出すのは無理だと思われるが、核燃料をどういう方法で取り出すことができるのか。
2) 圧力容器ごとあるいは格納容器ごと運び出すとしても容器には多数のパイプが通り、しかも破損箇所があると考えられるので、密閉する必要がある。「ゾル状の特殊な冷却材」を使う方法もあるとしているが、それで密閉できるのか。また、崩壊熱による搬送中の事故は考えられないのか。
3) 深海であっても長い年月の間には上層部分との間で海水の動きがあり、生物や物質の移動もある。これらのことおよび深層海流や海洋深層水、深海資源などとの関連は考慮しなくてよいのか。
4) 深海投棄を進めるとしたらどの程度の期間が必要なのか。その間に不測の事態にならないようにするための措置としてどのようなことがあるか。
5) 海洋投棄をめざす場合、第一にやるべきことは何か。
5) 海洋投棄をめざす場合、第一にやるべきことは何か。
最悪の事態をどう想定し、その可能性をどうみるか
次に、政治的、社会的な要因について考えてみたい。
国内、国外から相当な非難を浴びるであろう海洋投棄を実行するには、それを行わなければ日本にとっても世界にとっても相当悲劇的な状況になり、この策が日本にとって最後の自己防衛策であり、世界からみてもそれしかない、と思えるほどの根拠を示さなければならない。
国内、国外から相当な非難を浴びるであろう海洋投棄を実行するには、それを行わなければ日本にとっても世界にとっても相当悲劇的な状況になり、この策が日本にとって最後の自己防衛策であり、世界からみてもそれしかない、と思えるほどの根拠を示さなければならない。
池田氏は「破局の想像力を」と訴え、考えられる事態について「再臨界、炉心溶融、水素爆発、水蒸気爆発がいつどんな状態で起きるか、わからない」「原子炉内の爆発により、大気中に正確な計量が不可能なほどの大量の放射性物質が放出されれば、被害は日本だけでは済まなくなり、地球環境に及ぼす被害は甚大だ」という。すなわち、最悪のシナリオとして「水蒸気爆発」が引き金になると考えているように思う。
ただし、現状についていえば、「爆発という危機的状況は避けられている」とみており、チェルノブイリのような爆発による「瞬間的なリスク」ではなく、「長期間にわたって汚染物を生みだすリスク」が存在する状態とみているようだ。
そこで、最悪のシナリオをどのように考えているか、また、だましだましでも爆発を免れ続けるという可能性が高いと考えているのかどうか、についてお聞きしたい。
後者の場合は放射能を放出しながらになると思われる。記事では、「最終的に核燃料の処理、投棄をどこで行うのか。大気中なのか、大気圏外か。地中なのか、それとも海中なのか」として、いずれの場合を考えても海洋投棄しかない、と結論付けているようにみえるが、もし爆発がないとした場合、地中処理なり、新技術による処理なり、海洋投棄以外の方法での処理は考えられないのだろうか。
「人が作り出した物は人が管理すべき」ではないだろうか
私たちは原発事故が現在進行中であることを忘れてはならない。今後もどういう事態になるかわからない未知の領域に私たちはいるのである。その中で私たちは判断し、覚悟しなければならない。そのためにも池田氏が訴える「あらゆる情報を収集できる政治家たちはいまこそ、国難を救う行動計画(アクションプログラム)を示してほしい」という主張に賛同する。また、公的機関はあらゆる情報を公開して欲しい。そして、私たち自身も冷静に情報交換と意見交換、議論を行うべきであろう。
私自身は反原発運動にかかわり、かつての日本政府による低レベル放射性廃棄物の太平洋投棄計画にも南太平洋の島々の人たちとともに反対した。また、一時期物理学を学んだ者として、核エネルギーは人類がコントロールできないものと考え、扱うからには人類が責任を持って管理すべきで、人の手の及ばないところに置くべきではないと考えてきた。
そういう立場からすると、今回の原発事故に関しても今すぐに「残るは深海への投棄だ」とはならない。猶予はないかもしれないが、他に方法はないか、ぎりぎりまで探ってみたい気持ちだ。いまは考えられることはすべて、ありとあらゆる可能性を探り、チャレンジしなければならないと思う。日本海溝投棄案に関しても今回の疑問点を含めて議論し、考えを深めたい。
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