速報(87)『日本のメルトダウン』☆『原発行政訴訟を起こした江藤貴紀氏に期待する』
2015/01/02
政府は新成長戦略実現会議でエネルギー戦略の見直し議論を行っているが、行政訴訟という方向からも原子力政策にストップをかけようという動きが生まれている。福島第一原発などの原子炉設置許可が法律の要求する最低基準を満たしていたかどうかを問う行政訴訟である。
事故後いち早く行政訴訟を起こしたのは江藤貴紀氏。
●政府の対応とメディア報道に不満
江藤 私は福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、茨城県の東海(第二)発電所の3カ所の原子炉設置許可が違法であると主張して、国を訴えています。日本外国特派員協会で記者会見をしたいと思ったのは、日本の一般市民の中にも政府の誤った政策を弾劾するだけでなく、正当な抗議を行おうとする人間がいることを知っていただきたかったからです。
最初に、今回の訴訟を起こした私の動機について説明します。この大部分は、事故以降の日本政府の対応とマスメディアの報道についての不満に対してのものです。その次に、訴訟上の法律的な主張と裁判が日本に与える影響について、簡単に考えを述べさせていただきます。そして最後にみなさんと意見交換をしたいと思います。
3月11日以降の福島第一原発の事故が起きるまで、実は私は国の原子力発電政策に反対の立場をとってはいませんでした。もちろん、旧ソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の重大な事故については知っていました。
しかし、それは「当時のソビエトの秘密主義的な政治体制のもとで、政策が十分に吟味されずに決定されたことが原因である」と考えていました。「日本のような科学技術水準が高く、政治においてもアカウンタビリティ(説明責任)が課される、いわゆるデモクラシー(民主制)の体制を持っている国では、チェルノブイリのような深刻な事態は生じるわけがない」と考えていました。
恐らくですが、ここでお集まりのみなさんや多くの日本人と同じように、今年の3月11日までは日本における原子力発電の安全性を信じていたわけです。これは多少ナイーブな立場だったと言えるかもしれません。
確かに、日本国内でも原子力発電の危険性に警鐘を鳴らす方々はおられました。しかし、彼らの意見は私にとってあまり傾聴に値するものとは思えませんでした。なぜなら多くの場合、彼らは科学的根拠に基づいて意見を発しているというよりは、政治的なポジショントークとして原子力発電の危険性を強調してばかりいるように私には思えたからです。
言い換えると、原子力発電に反対する活動家の多くは、政府与党の政策であれば何であっても反対ばかり唱えている人々だったのです。彼らの多くは、1955年以降の日本政治における日本社会党や日本共産党の支持者に典型的な、政治的に言えば少数的グループでした。そして、原発反対派の多くは「科学的にリーズナブル(合理的)な意見を述べたい」というより、「政治的な活動をしたい」と思っていた。その人々は政府与党の政策を批判することが目的だったので、とにかくどんな理由でもいいから批判の根拠を探し出して、「政府の政策が間違っている」と述べる傾向があったと私は考えていました。
彼ら、昔から原子力発電の反対を唱えてきた人々によると、日米安全保障条約の締結と自衛隊の存在は憲法違反ですし、国連のPKO活動への自衛隊派遣もまた憲法違反ということですし、市場における規制の緩和は常に弱者を切り捨てる策で、国際経済における農業貿易の自由化は貧しい農村の軽視であって、消費税の導入はアッパークラスの優遇にほかならないので、許さないと結論付けられてきました。「このようにいつも現実性を無視して政治的意見を主張している人々の意見は、耳を傾ける価値のないものだ」と私は考えていたのです。
しかし残念なことに、「原子力発電の危険性については、彼ら政治的少数派の見解の方が正しかった」ということが3月11日以降の事故によって判明しました。日本における原子力発電の技術と人的な管理体制は稚拙なものでした。政治的に透明な過程で決定されてきたはずの原子力政策も、実のところ多くの利害関係者によるさかんなロビー活動でねじまげられてきていました。また、それを批判するべき報道機関の報道も、ふんだんに振りまかれるロビー費用によって正常に機能していないし、今もそうであることが判明しました。
●国内の報道機関が事故の真実と事態の分析を怠ってきた
事故前と同様に事故後も、政府のアカウンタビリティは果たされませんでした。政府の説明は二転三転していますし、いくつも矛盾した情報が発表されています。例えば、事故から2カ月以上経ってようやく、政府と東京電力はメルトダウンの可能性を正式に認めました。
しかし、実を言うと政府内部でも原子力安全・保安院のスポークスマンである中村幸一郎審議官という方は、3月12日に「メルトダウンの可能性がある」とおっしゃっています。しかし、その翌日に彼はスポークスマンの職を解かれました。そして、政府もメルトダウンの可能性を否定するようになりました。
彼に代わって原子力安全・保安院のスポークスマンになったのは西山英彦さんです。西山さんはもともと経済産業省の政府高官として、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)締結の交渉に当たっていた人です。そして、西山さんは私にとって東京大学法学部の先輩でもあり、その後、ハーバード・ロー・スクールを卒業しているすばらしいキャリアの持ち主です。何が言いたいかと申しますと、彼は原子力発電についてまったくの素人ということです。
それにも増して私にとって衝撃的だったのは、国内の報道機関が事故の真実とあり得る事態の合理的な分析を怠ってきたことです。海外の報道では福島第一原発の事故がリビアのカダフィ大佐(の動向)とトップニュースを競っていた時に、日本のテレビではいつもと変わらないプログラムであまり興味のわかない娯楽番組が放送されていました。また、国営のNHKラジオでは選抜高校野球の放送を続けていました。
これは福島第一原発事故に匹敵する大規模な事件が起きた時のメディアの報道とはまったく異なるものです。例えば、湾岸戦争や阪神・淡路大震災、オウム真理教の地下鉄サリンテロ、米国における9・11テロ、米国のアフガン攻撃などの時は、テレビでも特集番組を大量に流していました。しかし今回、彼らは日常通りのテレビプログラムを流し続けることによって、事故についての沈黙を守ったのです。また、国内の新聞も事故後長い間、政府と東京電力の発表をそのまま伝えるばかりで、出てくる情報に対する批判的な記事はほとんどゼロでした。
民間メディアが日本国民にとってあまり役に立たなかった原因は、スポンサーからの圧力です。事故後の大手放送局におけるほとんどの番組では、ACジャパンのCMばかり流れていましたが、この団体は東京電力やほかの電力会社から大量の出資を受けています。そして、日本の大規模な新聞社はテレビ局と系列会社の関係にあるので、テレビのスポンサーの影響をとても気にします。
「日本で東京電力が、米国でのルパート・マードック※氏並みに強いメディアへの影響力を持っている」ということは、今回の事故で日本のメディアが教えてくれた真実の1つだと思っています。報道機関が時として真実の報道よりもスポンサーを重視することはある程度、世界的に見られる性向ですが、ここまでひどいとは思っていませんでした。
※ルパート・マードック……メディア・コングロマリットのニューズ・コーポレーションを所有する世界的なメディア王。
また、日本政府が中国政府に与えた教訓もあります。新華社通信のエッセイによると、「表現の自由が保障された民主主義国家でも巧みな情報統制を行えば、国民の行動を政府がコントロールすることは容易であることが今回の事故に対する日本政府の対応で明らかになった」そうです。これも本当のことだと思います。なぜなら、市民はこのようなひどい扱いを政府から受けて、虐げられていたのに、羊のようにおとなしくしており、暴動も起こさず、私が4月7日に訴訟を起こすまでは、政府に対する正当な権利行使としての訴訟を誰も起こさなかったからです※。
※福島第一原発事故で10万円の慰謝料を求めて東京電力を3月28日に提訴した人がいることは、5月に明らかになった。
そのため、なるべく正確な情報を得るにはインターネットを使って、海外の情報に触れるしかありませんでした。例えば、政府も気象庁も国内メディアも学者も、放射性物質の拡散予測についてデータを出してくれませんでした。そのため、私は自分たちの身を守るためにドイツ気象庁のWebサイトに掲載されている日本周辺での放射性物質の拡散予測にアクセスしていました。この予測シミュレーションはそう複雑なものではないと思います。
実のところ、日本政府もSPEEDIという放射性物質の拡散予測を持っていたのですが、その情報が公開されるようになったのは5月になってからです。「それまで情報を公表しなかったのは、大まかな予測しかできていなかったからだ」というのが政府の説明です。大まかな予想でも構いませんから、私としては情報を公表してほしかったです。
また、海外の大手新聞、ニューヨーク・タイムズかワシントン・ポストのWebサイトと記憶していますが、とても早くからメルトダウンの可能性を報じていました。
以上のことから私が得た結論は、「政府の原子力政策は原子炉設置の段階から危険を伴うもので、誤りでしたし、また事故後の対応においても、日本国政府は十分に国民を保護してくれない」ということです。それなら私は沈黙を守り続けていくのではなく、裁判で国の誤りを主張するべきだと考えました。
これは自分自身と、自分の家族の身を守るためですし、またほかの日本国民の身を守ることにも役立つと思います。そして、言うまでもないことですが、今回の福島第一原発の事故は世界中の方々にも多大な迷惑をかけています。
従って私は、日本国政府の原子力政策を今年の3月11日まで支持してきた人間として、日本の原子力発電政策を止める道義的な責任を世界中のすべての人に負っていると思います。これが私が今回訴訟を起こした背景事情です。
裁判は6月23日に東京地方裁判所でスタートします。興味のある方はぜひお越しください。国側の行動も明らかになり、何らかの有意義な情報が得られると考えます。
「脱原発弁護団」を結成 今秋に全国一斉提訴へ
日本の原子力政策を訴える――法曹家の卵が原発の行政訴訟を起こした理由 (1/4)堀内彰宏,Business Media 誠]
被告は国、係争の焦点は原子力安全・保安院の判断の妥当性。
6月23日、東京地方裁判所でスタートします。
[2011年6月16日 東京新聞(共同)
東京電力福島第1原発の事故を受け、原発訴訟に携わる弁護士らが「脱原発弁護団」を結成し、この秋に運転差し止めなどの訴訟を全国の各地裁に一斉に起こす。
呼び掛け人の弁護士3人が16日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、方針を明らかにした。
対象とする原発は、現在係争中の浜岡原発などを除く十数カ所を予定。これまでに敗訴が確定した原発も含め、福島原発の事故で国の安全審査指針の欠陥が明らかになったとして、電力会社や国を相手に運転差し止めや設置許可処分の取り消しなどを求める。
呼び掛け人の1人で、東京高裁の浜岡原発訴訟で弁護団長を務める河合弘之弁護士は「電力会社の『安全・安心』のキャンペーンの浸透もあり、住民敗訴の連続だったが、今回の事故で状況は劇的に変わった。弁護団の経験やノウハウを共有し、全原発を廃炉に追い込みたい」と話した。
弁護団には現時点で55人程度の弁護士が参加の見込み。
7月に初会合を開いて正式結成し、8月9日には東京で「日本の原発―過去・現在・そして未来」をテーマにシンポジウムを開く。
国と東電を「虚偽と隠蔽」で訴えたいと思っている人は国民の過半数はゆうに超えるでしょう。実際に提訴に踏み切る人はぐっと少なくなりますが、今後、増えると予想される。
いちはやく行動を起こしたのは、今春、大学を卒業し司法試験を受験したばかりの江藤貴紀氏。「福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、茨城県の東海(第二)発電所の3カ所の原子炉設置許可が違法」であるとして、国を提訴しました。
提訴の動機として、日本政府の福島原発事故対応とマスメディア報道への不満が大きいとしています。
訴状で「事故が起こらないように十分な対策を取るべきだった」と述べ、算定した慰謝料50万円の一部、10万円を請求した男性側に対し、東電側は答弁書で反論。
「想像をはるかに超えた巨大で、とてつもない破壊力を持った地震と津波が原因。異常で巨大な天災への対策を講じるべき義務があったとまではいえない」とした上で、都内で人体に被害が生じるレベルの危険性はなく、男性の主張は法的に保護される利益に当たらないと請求棄却を求めた。
2011/05/19 12:35 【共同通信】
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