速報(126)『日本のメルトダウン』<徹底座談会・フクシマの教訓②>『事故原因、原子力村、事故処理のシステムなど討論(中)』、
速報(126)『日本のメルトダウン』
<徹底座談会・フクシマの教訓②>
『事故の近因、遠因、原子力村の体質、事故処理のシステム、低線量被爆、エネルギデモクラシ―の確立、フクシマの教訓につて徹底討論する』(中)
<この座談会「原発体制の臨界」は季刊誌『日本主義』主催で7月2日に行われた>
●座談会出席者(敬称略・アイウエオ順)
勝原光治郎(市民エネルギー研究所・原子力工学専攻)
後藤政志(元東芝・原子炉格納容器設計者)
古川路明(名大名誉教授・原子力資料室理事、放射線科学専門)
前坂俊之(元毎日新聞記者、前静岡県立大学国際関係学部教授・戦後社会史)
渡辺幸重(前畿央大学教育学部教授、フリージャーナリスト)
●司会・前坂俊之
(雑誌発売は8月24日)
古川 水はひどいですね。あの水に何が溶けているか、皆目分からない。よく
「何々が出ました」と発表されるけれども、その水にほかのものが入っていて
も、ほとんど検出されないのです。だから正体が分からない。私はあるところで話したのですけど、あの中には、プルトニウムも多分含まれています。それからアメリシウム、キュリユムという、プルトニウムより重いものもある。つまり何でもある。だからあの水というのはただごとの水ではないわけです。
アメリカが核兵器実験をやったときには、相当な量を空中に飛ばしているのです。アメリカが、日本が海を汚したと、文句をつける立場にはとてもないだろうと思うのですけれども、やはり海は汚してはいけないのです。
これは非常に大事なことです。以前は弱いレベルのものは捨ててもいいという雰囲気があり、日本の法令の中にも、一定の形にしたら捨ててもいいというのがありました。しかし今は、法令からその項目が消えたのです。そういうようなことで、海はきれいにしなければいけないという感じになりました。
ところが、福島では今でも放射能汚染水が海に出ているし、これからも出る可能性は十分あります。水の問題は、どう処理するのか。
それからもう一言余分なことを言うと、汚染水がちゃんと処理できたとして
も、集められた放射性物質のタンクは、再処理工場のガラス固化タンクよりはるかに始末の悪いタンクでして、それを一
体どこでどう保管するか。これがまた大きな先の問題です。そこについては、現在もちろん対応はするどころではない状況です。今のところそれについては何もなされていないと思います。
というわけで、放射能の方から見ると、なかなか大変ですね。放射能は減る
と言っても、半減期が長い多いものが多い。ストロンチウム90とセシウム137は半減期30年だから、100年待てば、かなり減りますよ。でもほかに長い
ものもあるのです。もっといやなのは、アメリシウム241、半減期が430年もある。これは見方によってはストロンチウム90やセシウムよりは少なくとも
ずっと悪い。こんなものは簡単になくなりはしないですよね。だからやはりチェルノブイリも、依然として、どうしようもない状態なんです。
恐らく、これからメルトスルーとか新たに何も起こらなくても、放射能の面から見て福島第1原発の炉をどういうふうにしたらいいのか、手も足も出ないような感じです。
専門家の英知を結集して当たるとき
後藤 原子力の事故は圧力容器の中で炉心が損傷をはじめた段階から、外部からは分からなくなるんです。センサーが働かない。部分的な情報しかない。今もその状態なのです。これがそもそも原子力事故の特徴なのです。
ですから、そういう意味では、今も手探り状態です。冷却は必要だということはわかっているけれども、手探りで冷却しているだけ。いまのところ、外部には大きく変化がないからいいだろうと推測する、というレベルです。
ですから私が思うのは、例えば、最悪のシナリオというのは、通常の水蒸気爆発の話ですけれども、大体1000℃のオーダーの高温の溶融物が直接冷水と接触すると爆発の危険性があるだろうと思います。ただ、今、格納容器の外側は、多分、今の状態から見たらそれほど高温になってないだろう。だけど中は非常な高温状態です。
しかし、現在循環冷却など冷却は続けていると。そうするとそのままいけば、素直に安定していくと思いたいです。しかし、例えば一番嫌なシナリオとし
て推測されるのは、空のようになったものが、例えば地震などで何か物が落ちて壊れる、割れると溶融物とまた接触が起こりうるわけです。そうすると、よく原子力の専門の人は、再臨界の条件が整わないとそんなのことはありえない、というのですけれども、私は全く逆だと思うのです。
水蒸気爆発なんていうものは、溶融金属を扱っているとざらに起こっているわけです。ふっと間違って溶融金属などを落としたとき、たまたま水溜りがあって爆発して、人が死んだりしているわけですから。それに対して、安全を徹底してそういうところから水を排除しているわけです。そういうようなこのが原子炉の中では起こってしまう。ですから解決策という意味では私もよく分かりませんけど、ただ言えることは、そういう分からない状態だから安心できるということもありませんし、だから外からなかなかうまいやり方がないわけです。長期にわたって少しずつやるしかないというのが本音なのではないかと思います。
前坂 それに対して、日本なり、海外の専門家の知恵を結集する態勢に現段階でもまだなってないですか。
勝原 国際協力はありますよね。だから今まで事故は大きいのは2つなり、臨界事故はもっとありますけれども。その経験だとか、それから汚染水の話になると、大量の高放射能レベルの核廃棄物を扱っている再処理工場をやっているフランスが技術を持っているとか、そういうところから集めてくるという、そういうまさに今戦争をやっているわけで、そのために必要な物資、知識、そういうものは色々なところからその都度、問題が発生する度に集めてくるという、こういう機動的な対応をしなければいけないというのが今の状況だと思います。
前坂 それを東電があくまでも中心となってやっているわけでしょう。政府、
東電、それから経産省、その他の総合的な本部が出来上がっていますが、その取り組みの指揮・命令系統、情報の収集体制を外部から見ていますと、うまくいっているのか、いっていないのか、毎回東電の発表では、再処理施設がスタートしました。15分後に止まりました。その繰り返しでやっていますから。だからますます不安感が正直つのりますね。
勝原 ただ事故処理というのは、そういうものだと私は思っています。トラブルが起こる。それを解決する。すると次のトラブルが起こる。そしたらまた解決する。こういうことを次々にやっていく。
それをうまく流していくという……、だから先ほど戦争みたいなものだと言ったのは、どこで戦闘が起こるかも知れない、どこで伏兵がいるかも分からない、
それをひとつひとつ次々にこなしていって、前へ進んでいく。こういうやり方をするしかないわけです。
事故処理にあたっては色々なことを言う人がいますけれども、東電が責任を
もってやるべきだと思います。国が今さら責任を持ってやるといっても、責任なんか持てる人は誰もいませんから、東京電力がやらなければいけないということだと思います。
後藤 おっしゃる通りだと思います。今度の事故対策には、それぞれの専門家が連携をとってうまくやるといいと思うのです。水処理の問題も含めて、前からそういう方向で行くはずだったのですけれども。今度低レベル汚染水を溜めるためのタンカーを運んできましたね。
あれは以前から私はずっと提案していたことなんですけれども、全然プロジェクト化されなかった。部分的、断片的な対応で、総合的見地に立って本当に分かっていて中でサポートしている人がいないというのが見えるわけです。そんなものでシビアアクシデントの処理ができるはずがない。
一部には放射能の専門家とか、色々おられるのでしょうけれども、全体の総合化、日本の一番得意な組織戦、各産業分野の専門家がいっぱいいるわけですから、それを動員した戦略が行使されていない歯がゆさがあります。
古川 私も同感で、知恵を集めていないな、というのは感じます。今度の汚染水が、再処理工場の例と違うのは、液量が桁はずれに多いことです。再処理工場というのは、相当な濃厚で特殊な溶液を扱いますから、漏らすと大変だけど、ボリュームが違う。今度のは、新しい経験なんですね。
もう一つ、当局が信用しにくいということのつまらない例ですけど、あると
き、水の中にある放射能を多分ガンマー線で量ったのでしょう。その結果を出して、一日に2度訂正した例があります。
最初コバルト56が出ました。実はコバルト56というのは、中性子の反応ではまず普通ではできません。ですから原子炉の中にはできない。それをデータとして出して、「あ、違いました」となった。確かその同じ日に、ヨウ素の134が出ました。「こんなものがあったら、これで臨界が起きないの……」という疑問がだされて、また、「あ、これも駄目でした」ということになった。そんなわけで、マスコミの人たちは結構振り回されたんですけれども。
やはりそういうガンマー線測定の基礎ができていないような人が現場にいて、しかもそれが発表になってしまうということですね。だから逆に東電の中では、プルトニウムなんてきっと測れないですね。実際に測るには、その道のベテラン ー 正直いって今時代が変わっちゃったんで、日本中でせいぜい10人しかいないと思うのですけれども -そういう人のところに持ってこないとプ
ルトニウムは測れない。普通の状況では測るのはもっとやさしいのだけれども、
それでも二の足踏むような人が多い。
だからやはり基礎の基礎の科学者はいなくなっているのです。
化学の中ではやはり最近はコンピュータの前で何かやっているほうが好きな人が多いし、あるいは、ある有機合成をやるとか、バイオがらみではこういうのをやるとか、そういうほうはやるけど、いざというときには、地道なことをやれる人が少なくなっている。それから化学の教育でひとつ困ることは、やはり怖いものを使わせなくなっているのです。ヒ素なんか使わないし、青酸カリは使わないです。これはやっぱりそういうものを使っておかないといけないのです。事実、ある種の実験では、例えば、青酸ガス、カリではなくてナトリウムでいいですけど、それはぜひ必要です。基礎というのはある程度知っておいたほうがいいです。
だから、そういう意味では、基礎の基礎の地味な部分が化学系では抜けているんです。こういうとき(原発事故のようなシビアアクシデント)に効くんです。
「英雄史観」で事故処理に当たってはならない
前坂 まさしく制度崩壊が全面的に起こっている日本のメルトダウンだと私は
言っているのですが、この段階でもまだ放射能はそんなに心配ではないんだというふうな認識なんですよね。そうじゃないとここまでゆっくりのんびりやっていませんよ。その辺りの勝原さんのお考えはいかがですか?
勝原 今回の事故処理は、誰もが全く新しい、今まで経験したことのない事態ですよね。再処理工場の閉鎖された空間の中で大量の放射能を扱うのと違って、事故現場でやるわけですから。こんな無茶苦茶なことないわけです。
近くに行く人だって怖いだろうし、そういうことを考えると、どれだけ人材を集めてやれるか。集まった人でも、これは見たこともない事故のレベルであるという、そういうレベルでしょうから、それをどう切り盛りするのかというのはものすごく難しいところですね。
渡辺 事故現場で爆発が起きたときに、あそこにいた人たちはもう本当にびっくりして逃げたという話があって、逃げるときにはいつもだとちゃんと放射線量を測ってから退出するところが、測らないでみんな逃げちゃったというような話なんですが、
勝原 確かにそうなると思いますね。
渡辺 事故対応の話で、福島第一原子力発電所が独自にやったから、所長が偉
かったからうまくいったというような話がよく出てきていますよね。普通だったらそれは本社の言うことを聞かなかったのだから悪いことであり、政府の言うことを聞かなかったのだから命令系統を乱しているわけです。すると、勝原さんが言われたように、これが戦争だったら勝てるわけないわけです。ところが、現場が一番賢くて、現場が一番分かっていて、それ以外の放射能の学者も専門家もみんな未知の領域で、何も言えないのだから、現場が何とか頑張ってくれというような雰囲気がないでもない。それでいいのでしょうか。
勝原 指揮命令系統は大事ですが、現場の意見を汲み上げなければ、事故処理はこなせないと思いますね。現場をどれだけサポートするのかというのが東電の本部であったり、政府であったりということだろうと思います。
渡辺 ただ僕は、あそこの中の現場労働者、作業員、労働者がどんどん被爆をして、その人たちを犠牲にしてわれわれが安全を保つというのは、僕はあってはならないことだというふうに思っていているのです。
ですから現場の人から責められたら、「じゃあわれわれは被爆するよ、せいぜい逃げるか、あるいはもう逃げられなかったら被爆するよ、と言うところまで覚悟しようよ」という話をするのですけれども、もし、われわれが現場を支えるのであれば、そしたらやはり被爆を少なくして、あるいは労働者はある程度
の知識を持った人たちをたくさん送って、そういう形でもサポートするとか、
色々な形があると思うのです。
チェルノブイリを経験した人が、「今の福島の処理作業では全然足りない、チェルノブイリではこれだけの人間を用意してやったんだ」と言っています。そ
こは政府がちゃんとバックアップをしなければいけない、それぐらいはできるんじゃないかと僕は思うのですが、それすらできていないんでしょうか。
勝原 それが原発の怖さなんだと思います。ソ連の場合には、軍隊組織とか、そういうものを使って有無を言わさずやらされたということもありますし。英雄観というのもありますよね。消防士はやらなければならんというような。自分が英雄になるというような、そういうプロセスというのが、精神的なものがありますが、日本の場合には、なかなかそういう形にはならないですね。命を投げ出して英雄になりたいというふうに思う人というのはあまりいないわけですね。
渡辺 ですから数をたくさんやって一人一人が低い被爆というふうにしなければいけないというふうに思うのですけれども。
勝原 だけどそれだって、本来ならお金をかければ、被爆を少なくして現場に
入って、一人の人間が同じ被爆をするとしたら、お金をたくさんかけて、やれば長時間そこでやれるとか、そういうことをまた考えるのが本部の役割だったりするわけでしょう。そこの部分というのがなくて、とりあえず、とにかくあそこのバルブを閉めてこい、開けてこいみたいな話でやるから、バルブを半分開けたところで線量計が振り切れたから帰ってきたとか、もうそれで一日の仕事はおしまいだとか、あるいはバッジを外して入るということもあるとかないとかいう話を聞きますよね。
だからそこのところは、全体を見渡して、本部は本部なりに一体何をすべきなのか、前々からそういう現象が起こる前に手配をしておくこととか、そういうことを十分考えるべきだろうと思うのです。そういうことがまず必要なんだけれども、今までこういう一種の技術面での戦闘態勢というのは起こったことがないものだから、みんなオタオタしているという状況ではないかと思います。
渡辺 よく聞く話ですが、暴力団に頼らないと原発で働く人が集められないとか、あるいは元請けは日給40万円なり20万円なりで請けているんだけれども、実際には労働者はピンバネされているとか、何か質の低い話ばかりになってしまって、どこかで光明と言いますか、先が見えるような話がないのかなと思います。
問われる政府のリーダーシップと現場力の連携
前坂 やはり最終的には政治の問題だと思うのです。現在の政治は、民間の東電にみんな任せて、日本人のl億3000万人の生命を丸投げして、何とかやってくれという体制だと思うのです。実際言って、これは対放射能阻止戦争です。人類初めてと言っていい、最悪、最強、最力の挑戦を受けているわけです。これに対して、今東電は1万数千人の兵力でもって戦争をやっているわけでしょう。太平洋戦争の場合はどうだったか。300万人、500万人を動員して必死でやったわけですから、やはりその辺りの現状認識といいますか、危機認識が全く、政治レベルでも欠如していると思いますよ。
例えば、第1原発の真下を何百mか掘って、全部コンクリートで固めろと
いう提言が東電になされたのですがー1000億から数千億かかるらしいのですが東電の方では経営面でとてもできないということでしょう。やはりある面で国家管理をして、国家が全面的に安全対策をやらないと、民間の営利会社に任せていると、どうしても自分の会社(株主、銀行)第一の体質がありますから、無理な話なんです。
勝原 おっしゃる通り抜本的な対策を打たなくてはなりませんが、政府の能力はこんなものです。原子力安全・保安院の技術力は東電に及びません。
前坂 だから、皆さんの英知を結集して、やはりしっかりした対策総合本部的なものをガツチリつくる。やはりそこはリーダーシップがないと、東電だけではこの戦争ではもうどうみたって負けそうな感じがあるんです。
勝原 政府のリーダーシップは必要ですね。現在でも、原子力災害対策本部という国家組織はあります。原子力災害専門家グループというのもあります。しかし、十分に機能してないですね。
東電は原災法で災害復旧を義務付けられているので、当事者責任から逃れられません。しかし、国の経産省、原子力安全・保安院、安全委員会さらに原発メーカーは当事者責任すら感じていない。このような人たちがどれだけ集まっても、悪口雑言を乗り越えて抜本的対策を打つことは期待できない。
ということは、現状とは異なるどんな政治集団が抜本的対策を主導できるかという問題になります。それができるまでは、当事者としての責任と一定の技術力のある東電に復旧を義務付けるしかないと思います。
前坂 東電はオペレーターであって、原発の内部をよく知っているのは実際はプラントメーカーでしょう? 日立とかのね。
後藤 問題の質によると思います。オペレーションがよく知っていることと、設計する方がよく分かっていることが当然ありますから、それは両方ジョイントでやるのが当然だと思います。
古川 今回の事故は、完全に新しい事態ですね。新しい酒は新しい皮袋に盛らなければならないと思います。それから、現場で労働する方の話ですけれども、規則は今でも変わっていないと思うのですけれども、必ず教育、訓練しなきゃいけないのです。その法律は甘いので、6時間で済むことになっている。
その中に「放射能の安全について含む」という項目が書いてあるんですが、「安全について含む」ということは「危険について含む」ということなんです。そういう教育はしかし、恐らく一切やられていないでしょう。実はJCO事故のときにそれが暴露されたのです。あれは社員が起こした事故ですよ。しかし、ああいうことをやってはいけないということが一切教育されていなかった。
本誌 バケツの事故ですね。
古川 とにかく1COとしては、わき道のわき道のことなのです。大体あそこに依頼した旧原燃がいけないのです。あんなものは自分でやればよかった。旧原燃は、追及されるのがすごく嫌だったんです。大体あれはウランを含んだ硝酸ウラニル水溶液でしょう。大体そんなものむき出しで運んでいてもしパクられたらかなり話題になるものですよ。それの管理が十分やられていたかどうか分からない。だって0・7%でもすごいのに、濃縮度18・8%の硝酸ウラニル水溶液なんていうのは、核兵器をつくりたいと思う人にとっては垂えんの的です。しかも結構大量だったんです。核兵器を1、2発つくられるくらいある。
低線量被曝をどう捉えるか
前坂 今問題になっている低線量被曝という問題に関しては、古川先生いかがですか?
古川 これはこの間もNHKで議論していたのだけれども、はっきりしていることは、1000ミリシーベルト以上浴びると、外的に何か出てくるということはあるけれど、100ミリぐらいでどうかということは分からないです。だからそうなってくるとどこまで下がればいいのか、正直線を引くのは難しいです。
ひとつの目安として考えられるのは、ジェット機のパイロットは年間の被曝量の上限が6ミリと定められているのです。機内乗務員は、それより低い。それは理屈を考えれば当り前で、パイロットのいるところは、やはり外が見えなきゃいけないから、放射線の遮蔽が弱いんです。
パイロットよりもっとすごく浴びている人がいて、今も1人日本人がいますけれども、宇宙航空士。宇宙ステーションに行くには150ミリ浴びることは承知の上ですと、書類を書いて行くんだそうです。だから、そういう特殊な例でも、上限をその辺で止めているわけですよ。宇宙ステーションに行く人には、宇宙放射線予報みたいなものが出されるんだそうです。予報が高いときは船外活動はしない。そのときだけ気をつける。しかもそれを、あの場合はやはり無理にお前行け、とやっている例は少ないでしょうね、少なくとも日本では。
福島原発の場合はそれ以上で、今250ミリで仕事を止めさせるというんだけれども、これは1000ミリを超えると何か起きるんです。それで250ミリにしている。しかも線量計を胸につけているでしょう。だからほかの部分だと、その倍ぐらい線量を浴びていても不思議じゃないんです。例えば下半身の辺りはもっと浴びていますよ。足なんかもっと浴びるわけです。
汚水が靴の上から入っちゃって皮膚障害を起こした人がいますね。あれは線量が分からないんです。お医者さんが見て、「これは1000ないし3000ですな」と言っていたが、そのうち「1000ないし2000でもいいですか」となった。そのあとの情報がないですね、あの件は。そういうわけで、測っている線量が必ずしも信用できないわけだから、現場の労働者は大変ですよ。
勝原 放射能は、満遍なく薄まって存在しているわけではなくて、どこかにフラフラしているか、どこかにくっついている。それをたまたま自分が吸い込んだとしたら、内部被曝がひどくなるわけです。だから一般的にここの地域はこうだから何マイクロシーベルト/時という言い方をしているけど、本当は個別に測らなければ分からないし、測っても、測った地点がそうだったということで、測ってない地占迂全く別かもしれない。ましてやα線みたいなものは、計測器にも引っ掛からない。こういう不安が常にあるわけです。
また、ガンになるにしても確率的にしか現象が現れない。不安だらけです。
前坂 どうすればいいですかね。やはり自分自身で放射能測定器を買って測るとか。
勝原 そういう方法もひとつですけれども、それをやったからといって全部が分かるわけではないのです。
古川 α線の場合は、昔、『シルクウッド』という映画があったのです。1983年、メリル・ストリープという女優が主演した映画ですが、これは実際にあった核物質、核燃料のプルトニゥムの製造工場で汚染事故が起きるのです。事故にあったシルクウッドが国立研究所に行って、被曝童を測ってもらう。その時の係官とのやり取りが興味深いのです。
「シルクウッドさん、あなたの身体の中にアメリシウムが検出されました。その量からプルトニウムの量を推定すると、-当時はベクレルではないんですねー 3ナノキューリです。ただし、その値の誤差は+一300%です」すると、シルクウッドは「1ということもある、そう、10ということもある」と言う。係官の言うことはあてにならないというわけですね。
ただ、技術的に考えると係官の言う通りだと思うのです。α線の存在は、そういうγ線を出す特殊な場合しか分からないのです。結局、プルトニウムは分からないです。だからα線、β線の計測は、外からでは無理なのです。仕方がないから排泄物で見ることにしている。これだってすぐ出てくるわけじゃない
から。身体の中に残るわけでしょう。
前坂 過去のデータとして、広島、長崎、それからチェルノブイリ、スリーマイルと何かそういう低線量被曝に関係するようなデータというのはとられていないのですか。
勝原 一応ICRPでもその数字はリスク係数ということで出しています。一人一人にすれば確率は低くなるから、ネグレクトしてしまうかもしれないけれども、集団でみると、日本には1億1000万人いるわけです。この日本人の集団被曝線量を計算したら、1年に平均1ミリシーベルトの被曝を全国民がすると、年6000人のガン死者を出すことになります。政府はそういう、日本全体の国民被曝線量を求める作業を、まだやってないのです。
前坂 それと今後、もっともっと汚染水が流れ出した場合に、海洋汚染がどぅなっていくかというのも何か調査をやっているのでしょうか。
渡辺 当然やっているはずだと思うのです。少し前の話ですが、敦賀原発で、ホンダワラの測定から放射性廃液が海に流出していたことが発覚したことがありましたよね。当然今回もそういうことができないことはないですね
勝原 これについては政府がやはりやらないといけないですよね。というのは、民間は手を出せないです。漁業権の話がありますので。民間の人はそこに行ってちょっと魚を捕ってというわけにはいかないのです。ましてや研究機関だと、魚を捕って発表するときに何で捕ったのだとこういうことになりますので、だからこれは政府がしっかりやらなければいけない。その体制をつくるべきですね。ポイントでいくつかとっていますから、それを見ても汚染が広がって、以外と北のほうに広がっているというのが只者ますけどね。
渡辺 グリーンピースが独自に測定をやりましたが、グリーンピースの場合はハラワタも含めて測ったけれども、日本人はハラワタを食べないから、身だけ測るという。ひどいですね。魚は食物連鎖の中でハラワタも含めて、どんどん大きな魚に食べられていくわけですから。
つづく
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