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日本リーダーパワー史(230) ●『伊藤博文の対外情報戦略―『ジャパン・デイリー・メール紙のブリンクリーを操縦して情報発信』

      2015/01/01

 日本リーダーパワー史(230)
 
 <坂の上の雲の真実・インテリジェンス>
 
『伊藤博文の対外情報戦略―『ジャパン・デイリー・
メール紙(英タイムズ,ロイター兼務通信員)の
ブリンクリー
を買収・操縦して、情報を発信した』
 
1914(大正3)年2月13日付  ドイツ紙『フランクフルター・ツアイトゥング』
 
日本からのロイター報道の価値
 
今年の3月に東京で,1人の男が,73歳の高齢で死んだ。彼について,かって伊藤公爵は次のように言った。日本は,大国としての地位を得るための戦いにおいて,奉天や対馬の勝利者以上に彼に多くを負うている,と。この人物とは.ブリンクリー大尉であった。彼は,40年以上にわたってジャパン・デイリー・メール紙の編集者であり,ロンドンのタイムズ紙の通信員であり,日本におけるロイター通信社の総合代表兼通信員であった。この派手で破廉恥な執筆者兼政治家は,ジャパン・メール紙を通じて,日本を勝利に導く戦いを行った。
 
当初,彼は,自分の新聞のための年間2万4000円の補助金とともに,日本政府から直接俸給を受け取っていたが,後に彼は,日本にいるイギリス人の厳しい攻撃のために,そしてその事実を隠そうとしたために,この補助金をあきらめなければならなかった。
 
それと引き換えに,彼は,多くの補助金を与えられた半官半民の船会社である日本郵船会社の顧問役を手に入れた。そしてそれによって,以前と同じ収入を確保した。
 
彼の新聞は,この政府との密接な結びっきによって,絶えず最もよく,そして最も確かに情報を手に入れ,加えて彼は,卓越したよい文章を書いたので,そしてさらに彼は,ただ単に自らがたくさんの知識を持っているばかりでなく,初期の日本における多くのヨ一口ッパ人教師のうちすべての重要な人々をもその協力者にしていたので,彼の新聞の立場は,日本においてまさに他を圧倒するものであった。
 
しかも日本政府は,2万4000円の代償として,2000部をアメリカとヨーロッパへ無料送付することを申し出た。総じて,ここ30年間この国で働いてきたすべてのヨーロッパ人,そして日本内外のすべての政治家は,いたるところでジャパン・メール紙を必要とし,資料として利用したのである。
 
その新聞は,あらゆる分野におけるその卓越した情報によって不可欠なものとなり,その点にこの1人の男が握った大きな権力があった。というのも彼は,数十年来,破廉恥にも日本の政治家に役立ってきており,ただ単に日本においてばかりでなくはるか外国におい
ても,日本政府が望む通りに,世論をあれこれの間違った方向へ導いたからである。
 
 彼が,ロンドンのタイムズ紙とロイター通信社を,日本におけるその唯一の代表者として絶えず自分に従属させるのに成功したとき,危険はよりいっそう高まった。これら3つのジャノ1ン・メール紙,タイムズ紙,ロイター-これら3つともブリンクリー大尉に代表されていたのであるが-は,イギリスと日本の同盟締結のために,林伯爵やロンドンの政府以上に役立った。
 
これらが下ごしらえをして,その結果,同盟がおいしい果実のように,イギリスと日本の政府の懐に労せずして転がり込んだのである。すでにタイムズ紙とロイターとの密接な関係から.メール紙は,すべてのドイツ人と当然のことながら最も激しく戦い,彼らをこきおろさなければならないということが,明らかにならざるを得なかった。
 
それに加えてブリンクリーは-そしてそれは,おそらく唯一の正しい確信なのだが-根っからの帝国主義者だったのであり,かつて彼自身が私に言ったように,ドイツを屈服させようと努力した。というのも彼は,ドイツの中に,唯一の競争相手,イギリスよりも強くなることはないものの,やがて同じくらい強くなり,イギリスと並んで世界を支配することを願う者を見たからである。
 
ドイツが日本の中で,いまわしい下関事件を通してその立場と面目を失ったということは,よく言われることである。確かに,それは正しい。しかしブリンクリーは,数十年来,とりわけ問題となったのは1885年ごろから1905年なのだが,メール紙,タイムズ紙,ロイターを通じて,はるかにそれを上回って,あるいは少なくともはるかにそれより強烈に,そして激しく,日本においてドイツをこきおろし,ドイツ人の評判を悪くするために働いた。
 
ドイツ人が,ついに,彼らの本当の敵がどこにいるのか-彼らは,その敵を予約購読,広告など外国にいるドイツ人のよく知られたやり方によって熱心に助けてきた-を把握したときには,そしてそれから彼らが,助けもなく編集し,そのために全く効果のない週刊誌を用いて,象に立ち向かう蚊のごとくに戦いを始めようと立ち上がったときには,当然のことながらすでに遅そ過すぎた。今日なお、すべての日本の新聞は,ブリンクリーが彼の3隻の船でもって非常に長い間先頭を進んでいるその同じ水路の中に,完全におさまっているのである。
 
 海の向こうのイギリスと同様にここ日本のイギリス人の間でも,ようやく数年前になって日本のこの秘密政治エージェントの陰謀が注目され,それに対する戦線が結成され始めた。というのも,それは,イギリス人にとって財布に関係していたからだ。
 
まず第1は,ハーグの裁定によって外国人には,永続貸貸された土地に対して新たに無税が認められるという,永続賃貸借問題についてであった。
その当時,日本は,この裁定を認めることを拒否していた。そしてジャパン・メール紙は,他の新聞よりも熱心に,次から次へと外国人に向けて,もしも日本がやめなければ,外国人は日本からすべての援助を引き揚げるだろうということを彼らが日本に分からせるようになるまで,記事を書いたのである。
 
2番目は,タイムズ紙であった。それは.法庫門鉄道問題であった。そこにおいて日本は,あるイギリスの会社に与えられた建設許可に対して抗議した。その会社がこの権利を得る際に先頭に立って戦ったのは,北京にいるタイムズ紙の通信員,モリソン氏だった。
 
そしてその同じ新聞は日本から,すなわち東京から,イギリスの資本家の要求に対する最も厳しい拒否の記事を受け取ったのである。それは、そのときロンドンで,大変な憤激を巻き起こした。そしてタイムズ紙は・その外事部局長のチロル氏を東京へ送らざるを得ないと見てとった。そこには,モリソンも呼びっけられた。それからそこで・3人が-チロル,モリソン,ブリンクリー-が,長い会談を行い,モリソンが譲歩しなければならないという結論が出
た。
それは,おそらくブリンクリーの大勝利であった。彼は,モリソン,チロルとともに,皇帝に謁見し,高級な勲章を授与された。しかしそれは,まさにピュロスの勝利(あまりに損失の大き過ぎる勝利)であった。というのも,それ以降,ロンドンでその三頭政治に対する敵意が高まるにつれて、彼自身が落ち目になっていったからだ。
 
 なぜなら,通商条約交渉が始まり,その際,外相の小村侯爵が,イギリスは自由貿易国なのだから,日本はかの国をなんら思いやる必要はないと明言したからである。
メール紙・ロイター・そしてタイムズ紙は.再び同じ隊列に立って日本のために戦った。
 
その当時,特にタイムズ紙が,ブリンクリーの報告に基づいて世論を間違った方向に導いたことは,全く信じられないことである。しかしながらそうこうするうちに,イギリスの財界人の中の,そして日本の公債の取引における雰囲気は,大変大きく変わった。
わざとらしく形づくられた財政の全くの空虚さが認められ,もはや真の状況について思い違いされることはなかった。
 
 そのとき,まさにブリンクリーは,彼の人生の中でも最も賢明な駆引きを行ったのである。すなわち彼は,彼の地位を維持することができなくなり始めていると認められた瞬間に,タイムズ紙とロイターにおける彼のポストを自発的に辞職したのである。
 しかし・ロシアに対する戦争以来,極東において圧倒的な地位にある日本の競争相手は別な国,すなわちアメリカであった。
 
 ここで、ここ数年のすべての争い-移民問題や「ノックス」提案など-を引合いに出す必要はない。とにかく,すべては,かってイギリスやヨーロッパにおいて行われたのと同じやり方で,アメリカにおける世論に影響を及ぼすことができるかどうかにかかっているということは,日本において直ちに十分認められた。この目的に積極的にかかわることになったのは,ブリンクリーと同様かって軍人であり,AP通信の東京代表のケネディ氏であった。
しかも彼は成功を収めた。なぜなら彼は,早くも3年後には,日本のために多大な貢献があったとして,皇帝から功労章を授与されたからである。
 
他にもいろいろある中で特に彼はかなりの数の著名なアメリカ人を,その中にはAP通信自体の総支配人,メルヴィル・ストンもいたが,日本へ訪問させることを心得ていた。そしてここで彼は,指導者として働いている日本の官僚の助けを借りて,これらの人々が日本の役に立っように・そして日本についてのすべての批判者に反対するように影響を及ぼすことに成功した。
 
これらの人々の報告は,日本にいる、そして最終的にはアメリカ自体にいる外国人に憤慨した抗議を巻き起こした。
 朝鮮の大々的な国事犯裁判に関する彼の報告の際には(そこで彼は,朝鮮で働くアメリカからの多くの宣教師をさらしものにした)・アメリカの新聞の中で,AP通信の独占的なやり方に対して非常に激しい攻撃が起こったので・ケネディ氏は他の人間と交代させられた。その間・ロイターとタイムズ紙では,大変な人事異動が行われた。なるほどそれは,日本にとってほとんど喜ばしいことではなかった。
 
タイムズ紙のためには,1人のまさに能力のあるイギリス人ジャーナリスト・ハルグローヴ氏が仕事を受け継ぎ,ここ3年間,その新聞に冷静で具体的な記事を提供した。
ロイターは,すでにベルリンとペテルプルグにおいて最も優秀であることが証明された有能な通信員,プーリー氏を日本へ派遣した。彼は,「日本に関する真実を,そしてただ真実だけを書く」という使命を持っていた。彼は,それを実行して,それによって日本がイギリスにおいて新たな公債のようなものを発行することを・あっさりとできなくさせた。彼は,ロンドンにおける日本の金準備高の策略を暴露した。すなわち彼は,日本の財政状況を,非常に的確に,そしてはっきりと記述したので、日本の国債証書は大変下落し始めた。
 
彼はたとえ抄訳であっても,林の回顧録の最初の翻訳を,国元へ送ったりしたのである。彼は,東京の政府にとっては邪魔な存在でありますますそうなっていくということが、一般的に認められた。彼を味方につけることが試みられた。大々的な宴会が催されて・そこで渋沢男爵が,日本に好意的な,つまり従順な,外国人ジャーナリストに金貨をちらっかせた。その場でプーリーが立ち上がり-人は考える。彼はロイターの通信員だ,と-おそらく公の場ではめったに見られないやり方で,その誘惑者に対してこれをはねっけた。
 
彼は,おおよそ次のように言った。「真実に目をふさぎ,あるいはそれを隠蔽してしまうジャーナリストなんて,くそくらえ」。
彼が,彼らは日本に関して真実以外の何物も伝えないと言ったとすれば,これが日本に好まれようが好まれまいが,彼は日本にいるすべての彼の同僚たちを代表してそう語ったのである。
 
 確かにそれ以来,彼の運命は確定した。まだロイターは,彼を置いていた。しかし,残念ながら,おそらくロンドンの本社は,日本にいる大胆不敵で有能な代表者以上に,日本からの現金を歓迎したのだ。日本の財界人,その頂点に立つ渋沢男爵と金子は,外国人通信員とジャーナリストの獲得と調教が進んでいないと見てとると,東京に日本の報道に関する独占局をつくり,もしもつぶされたくないなら,他の新聞と東京にいるその代表はそれに加わらなければならないということで,それを進めようと決めた。
 
そのためには,1つには資金,そしてもう1つはロイターの協力が必要だった。資金は,日本の財界人によって苦労してかき集められた。総額は,80万円,ないしは約165万マルクになるという。
そのうち日本政府が,15万円を引き受けた。ジャパン・メール紙としばしば半官半民の機関誌として利用されてきたジャパン・タイムズ紙が合体することになり,その代わりに,日本ですべての他の外国新聞を代表し,あるいはそれらを不必要とする新聞が生まれると言われている。
 
その際,どのような手段で進められるのかということについては,以前の経験に1つのモデルを求めることができる。とりわけ,その
ためには,日本の通信社が独占化されなければならない。そしてそのために,ロイターが必要であった。
そのためには特に,プーリーがやめて,「従順な代表者」に代えられなければならなかった。(そうこうするうちに,プーリーは東京で逮捕された。編集者)そうなると,かってのAP通信の日本代表,ケネディ氏しかいない。しかも彼は,ロンドンにいる日本の財界の代表である森と,ロイターの問題を調整してきている。
 
プーリーは,詳しく言うと,すでに1914年1月1日付で召還された。彼は,ロイターのロンドン本社でアシスタント・ェディターの職を与えられた。しかし彼は,この「昇進」を断り,「契約違反」を理由に会社を訴えるつもりである。
 
それにもかかわらず,ケネディが,どんな犠牲を払っても,彼に代わって職につき,同時に東京の新しい新聞社の社長になるだろう。給料は一一一他のことも言われているのだが-ロイターから1万5000円,東京の会社から1万5000円が出る。しかしとりわけ,ロイターは,自らの通信員を直接日本に置いているすべてのロンドンの新聞社が,この直営の配給をやめ-それは,確かに非常に安いが-将来にわたってその通信文をロイターの東京の独占に結びつかせることに成功した。
 
 ロイターの利益は,さらに小さな金融業務である。すなわち,有力筋からの情報によれば,ロイターは,日本のすべての将来の公債について優先的選択権(受け入れか拒否かという)を確保した。ロイターの仕事というのは,全くすばらしい委託業なのだ。

ただし,それは世論を犠牲にしており,その世論は,将来,強くそして決定的に日本に都合のよい方向に向かうことになるのだ。

 日本自体においては,これまで数紙の一流新聞だけが,それに対する立場を鮮明にし,もしもケネディがロイターの代表として日本にやってくるならば,それともはや関係をもちたくないと述べたに過ぎなかった。
 
これらの新聞とは,時事新報と朝日新聞だった。それらの新聞はむろん,たとえこれがまだロイターに強く依存しているとしても,外電通信部をロンドンに持っていた。外国の新聞は,まだ横浜に3つ(そのうち2つはドイツの新聞),東京に1つ(アメリカの新聞),神戸に1つ(イギリスの新聞だが,ドイツびいき)あるが,それらの新聞は,この独占に屈服しないように,しっかりと協力し合わなければならないだろう。だが,その挑戦は強力なものであり,日本在住のほとんどの外国人が.彼らの背後にいる。
 
しかもそれらの新聞は,今やドイッチェン・ヤーパン・ポスト紙のベルリン通信部という,ここ2年間でしだいにロイターに匹敵するようになってきた助っ人を持っているのである。しかも,これらは,このような取引とこのような独占経営には加わりたくないヨーロッパの独立した大新聞をも味方につけている。

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