「日中韓150年戦争史」(78)日清戦争の旅順虐殺事件への反論、サムライへの事実誤認<ニューヨーク・タイムズへの投書>
2015/01/01
◎『「申報」「ニューヨーク・タイムズ」などからみた
「日中韓150年戦争史」―
日中韓米のパーセプションギャップの研究』(78)
1895(明28)年3月26日『ニューヨーク・タイムズ』
以下は、下関条約(日清講和条約)が1895年4月17日に下関の春帆楼
で締結される3週間前『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された投書です。日清戦争での
「旅順要塞の攻撃」で、日本軍が虐殺をしたという記事が米英メディアで報道され、
日本側は「事実誤認」「虚報」と反論して、論争となっ事件の関連記事である。
『日本のサムライ』についての思い違い、パーセプションギャップ、
異文化認識のギャップが示されている。
軽信の徒,ヴィリアーズ氏―日本のサムライについて
事実誤認『帝国の頭脳,帝国の剣』 ―従軍特派員の
「旅順の真相」を批判-「特派員はだれかに
かつかれたか」<ニューヨーク・タイムズへの投書>
旅順虐殺事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%85%E9%A0%
86%E8%99%90%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
1895(明28)年3月26日『ニューヨーク・タイムズ』
ノース・アメリカン・レヴュー誌3月号に掲載されたヴィリアーズ氏の「旅順の真相」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%85%E9%A0%86%E8%99%90%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
と題する記事を注意深く読むと,若者は現在日本陸軍の大部分を形成している人材に関する知識はあまりお持ちでないと思わざるを得ません。
ヴィリアーズ氏は氏が目撃した事件については申分なく正確な記述をしているのでしょうが,それを推し進めて日本事情に関する一般論を述べているところでは,その情報源として,部外者の無知と軽信につけ込んで悪意ある見えすい
た虚偽を働く人物の思惑から出た言葉をうのみにしたとしか思われない発言があります。便宜を図ってここにその部分を引用します。
「兵隊のみならず,武装した苦力(クーリー)も虐殺に加担した。これらの苦力は皆名高いSamuri(サムライ)集団に属する,いわば日本軍のバシ=バズーク【トルコの不正規兵」だ。サムライ,つまり両手使いの剣士たちの不行跡を恐れて彼らが陸軍に入ることを禁じた天皇の命令に対する抜け道として,この紳士方は苦力の身分で入隊した。
どの軽重隊でも.苦力‘に身をやつしたサムライを見かけた。彼らは苦力の粗末な服をまとってはいたが,塗り鞘を保護し貴重な刀身を錆や境から守るため注意深くボロ布でくるんだ長いKatangsを背につり,手押車を押す身分の低い他の苦力たちを手伝うふりをしていた。これらの紳士方は,よく鍛えた鋼の刀を中国人の血で研ぐことができない場合は・中国の豚や犬でその刀の切れ味を試すのだ常だった。
満州の村々を通り過ぎるとき.重傷を負った豚を何頭も見かけたが・むごたらしい光景だった。中には・頭部切断に近い状態でまだ死なずに体を引きずっている豚もあった」
新聞の通信員報告にも数々ありますが,ここに引用した文章ほど.だまされやすい一般読者も外部情報を得る可能性のあることを全く考えに入れていない記事はちょっと見当たりません。
ヴィリアーズ氏の記事を読むと,サムライ(一般的にはSamuraiと綴ります)が,まるで血に飢えた熱狂で知られる,自重や抑制の能力のない宗教的狂信者の一派であるような印象を受けます。戦火の中で仕事をしていた氏が,周りにいた英語を話す日本人のだれかにサムライという言葉の意味を尋ねていたなら,それが凶暴な殺人者集団を表す言葉ではなく日本の進歩的知識階級-封建制度ということで見ると,イギリスのジェントリー(紳士階級)に近い階級-全体を指す言葉だということがわかったはずです。
あえて言うなら.皇帝と1,2の古い家柄の貴族を除けば,今日の日本の有力者でサムライ階級に属していない者は1人もいません。伊藤.大隈.黒田、大隈.西郷.榎本,山県の各伯爵、内閣のほぼ全閣僚が国会議員の大多数.大学教授,法曹界・医学界の重鎮,キリスト教会の指導層,編集者・文人,警察組織のはぼ全体,陸海軍の将校ならびに兵卒クラスのかなりの部分は・すべてサムライ階級出身です。
これらの血に飢えたサムライが,彼らを軍隊に入れないとの皇帝の命令をうまくかいくぐったという語がいかにばかばかしいものであるか,書いた当人のヴィリアーズ氏が一瞬も気づいていないことは明らかですが.ヴィリアーズ氏にはわからなくても読者が知って悪いはずはありません。
皇帝がそんな命令を出したら,彼の軍隊は戦場で手も足も出なくなってしまうでしょう。指導する者や命令する者が1人もいなくなって規律のとれない兵隊と苦力の鳥合の衆は徘徊する中国人匪賊が暇つぶしに取り囲んで八つ裂きにするのに格好の獲物です。
「不行跡を恐れて」サムライを陸海軍から引き揚げたなら-残りの日本軍は,数の上で優勢な中国軍によって海の中へけ落とされないうちにせいぜい隊伍を整えて退却するにしくはありません。
小さな日本が大きな・無力な・愚かな中国を征服することができたのは・サムライの指揮能力と士気に富むエネルギーがあったからこそなのです。
ヴィリアーズ氏はサムライを称して「両手使いの剣士」と言っていますが,これでは・事情にうとい人は.日本の剣士の大半は片手使いだったのかと思い込んでしまうかもしれません。氏はおそらく.いっかどこかで・封建時代の日本には2本の刀を差すことを認められた武士階級があったと聞いたことがあるのでしょう。
そのおぼろげな記憶と自分の潜在意識から「両手使いの剣士」なる言葉を編み出し.日本のバシ=バズーク【トルコの不正規兵」であるサムライの不行跡の
記事を読む人の心に恐れの気持を起こさせる神秘的な東洋風の響きがあると思って使ったのでしょう。
多くの読者は読んだことはなんでもそのとおり信じる傾向があるという事実はよく知られています。それさえなければ日本の友人も日本人自身も.ヴィリアーズ氏の描く血も凍るようなサムライの話を読んで涙が出るほど笑ってそれで済んだかもしれません。
これらの狂信的サムライが,血気にはやって慈愛豊かな皇帝の名を汚すこと
のないよう勅命で軍隊から締め出され,流血を求める性癖を満足させるために苦力の身分で軍に加わったというお話です。彼らが軍隊付苦力の着る青い木綿の服を身にまとい.わが特ダネ屋(新聞記者)の鋭い目に見破られているとはつゆ知らず刀をボロ布でくるんで・もっと高等な獲物がいないのであちこちで豚や犬を刺し殺しながら満州各地をふんぞり返って歩いていく姿が目に見えるようです。
この話に地方色を添えている「katangs」という単語(日本語正しくはkatna,剣の意)には画竜点晴の趣があります。塗り鴇と書いているところからしても・ヴィリアーズ氏は実際に古い日本の刀を見たことがあるようです。
サムライ苦力が背負っているボロ包みの先からのぞいているのを見たか.満州の豚のほとんど切断された頭に突き刺さっているのを見たれそれとも博物館の陳列ケースの中にかかっているのを見たかしたのでしょう。
しかし-日本のサムライの本当の気質と強さを知っている者,過去何百年と変わらず今日も日本の頭脳であり.剣であり,世界史上でもめったに類例を見ない愛国心と知恵と勇気と忍耐心を発揮して,国全体を中世から19世紀へまるごと引き上げたこの階級を見守ってきた者にとって,見識ある有力紙の通信員によるこのようなサムライの描写は笑いごとではすまされません。
それが無知から出たことであるなら,その無知は非難されてしかるべきです。それが単なる想像の産物であるなら,いっそう厳しくとがめられるべきです。そのいずれであるにせよ,1つの点に関して周知の権威ある情報筋と比較すればはっさとわかる大間違いをしていることで,その点を読んで理解した人の心の中では,ヴィリアーズ氏の言うところの「旅順の真相」は大いに信用を落としてしまっているのです。
アリス・メイベル・ベーコン ヴァージニア州、ハンプトン1985年3月23日
関連記事
-
『オンライン講座/日本興亡史の研究⑦』『児玉源太郎の電光石火の国難突破力➂』★『早期開戦論に反対した伊藤博文元老、山本権兵衛海相を説得』★『伊藤博文は、世界に対して大義名分が必要、戦を好まない日本帝国が、万止むを得ずして自衛の手段に訴えて戦争に立ち上がらされたことを示さなければならん』
2017/05/28 日本リーダーパワー史(8 …
-
世界リーダーパワー史(937)ー『トランプ大統領の弾劾訴追の可能性は?』★『弾劾訴追と上院、下院の関係の手続きはこうなる』
世界リーダーパワー史(937) ★弾劾訴追と上院、下院の関係の手続き …
-
『リーダーシップの日本近現代史』(119)/記事再録☆<日本は21世紀の新アジア・グローバル主義のリーダーをめざせ>★『 アジアが世界の中心となる今こそ,100年前に <アジア諸民族の師父と尊敬された大アジア主義者・犬養毅(木堂)から学ぼう』★『亡命イスラム教徒を全面的に支援した唯一の政治家』★『藩閥、軍閥と戦い終始一貫して『産業立国論』を唱えた政治家』★『最大の功績は中国革命の父・孫文を宮崎滔天を中国に派遣して日本に亡命させ匿い全面支援した、いわば中国革命を実現したゴッドファーザーこそ犬養木堂なのだ』
2015/01/21日本リーダーパワー史 …
-
『Z世代のための昭和100年、戦後80 年の戦争史講座』★『「元寇の役」はなぜ勝てたのか⑸』★『当時の日本は今と同じ『一国平和主義のガラパゴスジャパン』★『一方、史上最大のモンゴル帝国は軍国主義/侵略主義の戦争国家』★『中国の『中華思想』『中国の夢』(習近平主義),北朝鮮と『核戦略』に共通する』
2017/12/01日本の「戦略思想不在の歴史」⑸ 記事再編集 クビ …
-
『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか、真の民主主義国家になれないのか>の講義③<日本議会政治の父・尾崎咢堂が政治家を叱るー『明治、大正、昭和史での敗戦の理由』は① 政治の貧困、立憲政治の運用失敗 ② 日清・日露戦争に勝って、急に世界の1等国の仲間入り果たしたとおごり昂った。 ③ 日本人の心の底にある封建思想と奴隷根性」
2010/08/06 日本リーダーパワー史(82)記事再録 &nbs …
-
イラク戦争報道―米軍前線指令本部の発表はどうだったのか 03 年8月
n1 ――太田阿利佐・毎日新聞サイバー編集部記者に聞く‐‐ 前坂 俊之 今回のイ …
-
『オンライン/日本政治リーダーシップの研究』★『日本の近代化の基礎は誰が作ったのか』★『西郷隆盛でも大久保利通でも伊藤博文でもないよ』★『わしは総理の器ではないとナンバー2に徹した西郷従道なのじゃ」
2012/09/09   …
-
オンライン講座/『終戦70年・日本敗戦史(135)』★『昭和史の大誤算を振り返る』★「国を焦土と化しても」と国際連盟脱退した荒木陸相、森恪、松岡洋右のコンビと、それを一致協力して支持した新聞の敗北』★『日本は諸外国との間で最も重要な橋を自ら焼き捨すてた」とグルー米駐日大使は批判』
2015/08/17&nbs …
-
日本リーダーパワー史(709 ) 『日中韓150年史の真実(12)記事再録★『明治のトップリーダー・川上操六参謀次長のインテリジェンス、情報戦略,ロジスティックスに学べ』
日本リーダーパワー史(709) 日中韓150年史の真実(12) < …