『ガラパゴス国家・日本終戦史⑦「再録ー迫る国家破産と太平洋戦争敗戦(2011/03/08)ロジスティックで敗れた太平洋戦争➁
2015/01/01
1年間連載開始―『ガラパゴス国家・日本終戦史⑦
<再録―日本リーダーパワー史(130) 『自滅国家日本の悲劇』
ー迫り来る国家破産と太平洋戦争敗戦(2011/03/08)
ジャック・アタリ『国家債務危機』(作品社、2011年)によるとー
世界史の法則とは―覇権国家は必ず財政破綻に陥る
900兆円を債務を抱いて日本は10年後の展望ができるのかー
3つの選択肢は(A)極端な緊縮財政(B)国家破産(C)最悪の場合は戦争
結論は(B)か(C)。
リーダーシップのない日本は(A)をやり切るパワーはない。
前坂 俊之(ジャーナリスト)
ロジスティックで敗れた太平洋戦争➁
ミクロな複合的な敗因も積み重なって、大敗北へとつながった
以上のマクロな敗因が決定的に重要だが、これに日本の伝統的な作戦・戦術の失敗、戦略的欠陥というミクロな複合的な敗因が積み重なって、大敗北へとつながったが、そのミクロな要因とは次のようなものである。
① 大艦巨砲主義、艦隊決戦による短期決戦型をめざした山本五十六らの連合艦隊と永野修身軍令部総長らの長期持久戦、前線拡大主義(絶対防空圏など)など、海軍部内の戦略、作戦の不一致、混乱、対立、それに山本の作戦も矛盾、齟齬していた。
② 戦後、瀬島龍三(元大本営参謀)は、「当初、太平洋戦争での作戦は大艦巨砲による艦隊決戦によって決まり、陸軍兵力を必要としないと判断した。ところが、米軍の反攻は航空兵力を基幹とする陸、海、空、海兵、四軍の統合戦力による島づたいの躍進で、各地で陸戦が大規模に行われた」と判断の誤りを認めている。
③ もう1つの大きなミスは大艦巨砲・艦隊決戦重視からくる空軍力の欠如、さらには防衛、補給、輸送船などロジステック(補給、物流)の軽視、不足である。
ガダルカナルをめぐる攻防、玉砕はこの最たるものであり、広大な太平洋海域に兵員をばらまいて、絶対防空圏を設定、長期持久戦をとりながら、延びきった補給線の安全確保、輸送船、タンカーなどの増船、輸送船の警備が間に合わず、大本営の目論みは開戦わずか1年で破綻してしまう。
開戦前に、鈴木貞一企画院総裁は「南方諸地域は占領後、半年ほどで石油、アルミニューム原料、ニッケル、生ゴム、スズなどの取得が可能で、2年目からは完全に活用できる」とはじいていた。
米軍の反攻は18年中期以降と予想していたのが、17年5月の珊瑚海海戦に続いて、6月のミッドウェー海戦へと発展して、早くも日本の大敗戦となった。ガソリン、飛行機製造には不可欠のアルミ、スズの輸送に早くも赤ランプがついたのである。
開戦1年間で日本が失った船舶は総計約98万3千トンである。昭和17年8月から約4ヵ月のソロモン海戦では43万3582トンを失い、これに17年12月から2ヵ月間のガダルカナル戦とその撤退までの間の喪失総トンを加えると67万トンにものぼる。開戦以来では実に全体の70%を超えるという一大消耗戦となった。
陸軍の参謀たちは、ガダルカナル島の名前もどこにあるかも知らず、米軍をあなどり「戦力の遂次投入」の失敗を繰り返した。輸送船、食糧不足で、20隻の駆逐艦が「円タク」がわりに、同島の1万5千の将兵に食糧の運搬を行ったり、延べ38隻の潜水艦も輸送専用に使われるという惨状だった。
戦線を拡大しすぎてロジスティックを無視した「攻勢終末点を超越する」戦略ミスを犯したのである。ガ島での戦没者は合計2万人にのぼったが、戦闘で死亡したものは5,6千人に対して、餓死、病死したのもが全体の7割以上に上るという惨々たる結果となった。
同時に、この間に失った虎の子の飛行機は893機、搭乗員も2362人という大きな犠牲をともなったのである。
輸送・補給作戦
もともと、海軍は伝統的大艦巨砲主義から、敵味方を問わず商船を軽視し輸送・補給戦の海上警備ということは頭になかった。開戦前に急遽、対数カ国同時作戦の「海上護衛戦」を想定したが、護衛艦の絶対的な不足と水中探信機などのないお粗末な輸送船の装備、訓練不足の乗組員の問題を克服できなかった。
それなのに、広大な太平洋に防空圏を設置して、輸送、海上護衛、ロジスティックを必要とする作戦を取ったことが、そもそも矛盾していた。
この絶対国防圏のとてつもない延長で陸海軍の作戦用の船舶と艦艇が増える一方、国力造成上重要な民需船は削減され、輸送船の新造船もすぐには追いつかず、海上護衛艦艇も増強されないという負のサイクルに陥った。
特攻や玉砕戦法と同様、護衛なき裸の商船、輸送船を敵の制空、制海権下に航行させることで、自滅を急ぐ結果となった。
太平洋戦争期間における軍人軍属の戦没率は、陸軍が8%、海軍が3%に対して商船乗組員は46%という驚くべき高率で、実に2人に1人は帰らぬ人になったのである。
防衛庁編の「戦史叢書・海上護衛戦」(昭和46年、朝雲新聞社)によれば、太平洋戦争中の「海上護衛戦」の期間を四期に分けている。
第一期は1941年12月から42年10月までで、輸送船団当たり護衛艦艇数は1隻が多く、護衛のつかない丸裸の船団も少なくなかった。ただし、この間は幸運なことに米潜水艦などの攻撃はほとんどなく、被害は少なかった。
第2期の42年10月から、44年10月まででは、護衛艦艇はこの間の936全船団数の66%につけられたが、残りの34%は相変わらず丸腰の船団だった。この期間もまだアメリカ潜水艦の活動も活発ではなく、船団の被害隻数は全体の〇・五%しかなかった。この頃から、米軍の航空機、潜水艦によると日本の輸送船への攻撃が熾烈化してくる。米国は丸腰の資源輸送船団を攻撃して日本経済の動脈を切断する戦術を取り始める。
第3期は44年10月から45年8月の敗戦までで、やっと海軍が海上護衛に本腰を入れ、大船団主義(従来は5隻程度だったのが、6、8隻に増えて輸送船団を組んだ)を採用した。それでも、護衛率は70%で、依然として30%は無防備だった。
ここにきて、米側の潜水艦、航空機による攻撃が一挙に激しくなった。輸送船団は44年5月は39%、6月は52%、8月には125%と倍増して、米潜水艦に攻撃されるケースが激増、護衛が手薄なために犠牲がますますえた。これに、制空圏も完全に奪われ、米軍機の攻撃も激増し、太平洋は輸送船の墓場と化していった。
開戦前、日本側は、沈没船と新造船の数について、3年間は輸送船の実質的な増減はないと踏んでいた。ところが、米軍による沈没が予想の五倍以上の883万トンにのぼったのに対し、新造船は397万トンしかなく、差し引き486万トンの減となって、日本にとって生命線ともいうべき「輸送動脈」は切断されていった。
南方の占領地域で開発、貯蔵された血の一滴の石油も、これではタンカーで日本まで輸送することができない。航空機の原料のアルミニウム・ボーキサイトも運送できなくなってしまった。
昭和20年(1945年)に入ると、事態は、文字どおり絶望的となり、日本の海上交通路は本土沿岸を除いて全く消滅、連合軍による海上封鎖が完成し戦争経済は、戦争への物資輸送の血液は完全に止められてしまった。海外にある資源を確保するために始めた戦争が、せっかく資源を確保できたのにその輸送力不足、ロジスティックの失敗によって、ジリ貧からドカ貧におちこんで、日本は崩壊していったのである。
もう1つ敗因に輪をかけたのは、太平洋戦争の全期を通じ、陸海軍の確執、対立、抗争である。
輸送船やタンカーの奪い合いから、輸送の警護を海軍に依頼せず、陸軍は自ら船舶輸送部隊を創設したり、海軍も陸上輸送のため自動車部隊
を組織するなど陸海軍の対立し、軍需工場の物資の争奪から労務者の奪合いまでにエスカレートし、死に物狂いで競い合っていた。
馬鹿馬鹿しいことに戦闘地域も陸海軍で二分したため、海軍は陸戦隊を創設せざるを得なかった。ガダルカナル島での失敗やこれに続くブーゲンビル、ギルバート諸島など南方の島々での敗因も守備に当った海軍陸戦隊の戦力、練度の不足からであった。
国家総力戦とは言いながら、直接敵と戦うものはあくまでも陸海軍である。それがもともと勝てる見込みの少ない超大国・米国と戦いながら、やれ陸軍だ、海軍だと、ことごとく角を突合せ、飛行機や軍事物資の奪い合いや縄張り争いと続けて、一致結束して一丸となって戦わないのだから、戦争に敗れるのは当然である。
陸海軍部内での派閥争い、下克上、統制の乱れの中で、猪突猛進型の「敵を知らず、己も知らぬ」威勢のいい強硬論を吐く参謀たちが勇者とみられて、逆に「敵を知り、己を知る」慎重論者たちは臆病者として、解任され、はずされていった。この向う見ずな強硬論者に陸海軍とも引き摺りまわされて墓穴を掘っていったのである。
<出典・森本忠夫著『魔性の歴史』光人社NF文庫>
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