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『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑪『英ノース・チャイナ・ヘラルド』/『日露開戦半年前ーさし迫る戦争 それを知る者より』●『日本の忍耐が限界に近づいていることは.1度ならず指摘している。満州撤兵の約束をロシアに守らせるというのは,イギリスやアメリカにとっては元のとれる仕事かどうかの問題に過ぎないが,日本にとっては死活問題なのだ。

      2016/12/30

 『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑪

1903(明治36)年7月24日 『英ノース・チャイナ・ヘラルド』

『さし迫る戦争 それを知る者より』

 

この数日,満州のロシア陣営に大きな変化 が起こっている。ロシアの陸軍大臣クロパトキン将軍が満州を訪れた結果,きたるべき戦争への準備が全土で急いで整えられたのだ。

新たな軍隊とあらゆる補給物質.それに兵士や大砲や小銃や銃弾を満載した列車が続々と陸路運び込まれ,海路からは石炭を積んだ貨物船が集まった。 旅順の陸地側では新しい要塞の突貫工事が進められているが,これは陸軍大臣と,旅順総督アレクセーエフ提督,中国駐在公使レッサー氏,朝鮮駐在公使パヴロフ氏,ド・ウォガク将軍,ネチウォロドフ将軍,デッシノ将軍等との会談で決定されたことだった。

会談の 結論は,戦争が間近に迫っている,したがって一刻の猶予も許されないというものだった。

 

ロシアはこれまでの引延ばしによって得た時間を有効に活用してきた。 満州のロシア陣営の様相は,3週間前と今とではまるで比べものにならない。旅順は要塞化されて久しいが,ここのところの増強で,海からの攻撃に対しては第1級の要塞となった。

陸からの攻撃に対する防備はまだ十分ではないが,数日のうちには整うことだろう。 名高いHsinhanchen陣地(203高地)は今や強力な砲兵隊を擁する支隊に固められ.これは宣戦布告と同時にステッセル将軍指揮下の独立軍団となる手はずだ。

アレクセーエフ提督は旅順の防衛および艦隊の指揮に当たる。艦隊は58隻の軍艦から成り,これに4隻の潜水艇がすぐにも増援されることになっており,そうなればロシアは潜水艇を持たない日本に対して大いに有利な立場に立つことになる。 また各6門の速射砲を持っ12個砲兵中隊が上陸の予定だが.この速射砲は有名なシュナイダー社で,毎分30発撃つことができるものだ。

現在満州に配置されているロシア軍の総数は約8万だが,ザバイカル地区とイルクーツク地区にはおよそ25万の兵がいて,即座に満州へ移送することができる。いや,おそらくすでに移動中だろう。

さらに,ロシアは中国のPan将軍の古参兵や紅頼子【馬賊】など6万以上も訓練してきた。 彼らも立派な銃を持ち,ロシア将校や教官の訓練を受けているから,補助部隊 として使えるはずだ。

合衆国と大英帝国の参戦はないと考えられる。なぜなら,合衆国の場合,ロシアとの戦争にかかる人的、金銭的費用に見合うほどの利益が問題になっているわけではないからだ。

大英帝国も,戦争によって得るものは少なく,失うものばかり多いからであり,またフランスとの新しい友好関係が失われる危険もあり,さらに恐ろしいのは,インドの反乱を招く恐れがあるからだ。

今やロシアはインドのすぐ入口まで鉄道で軍隊を運ぶことができるし,長年にわたってロシアのスパイたちは,イギリスの支配者を追放すればさまざまな利益を得られるからと, インドで反乱の種をまき,ロシアによる侵略の道をつけてきたのだ。

ロシア人たちの考えでは,イギリが満州のことで金や人命を賭してロシア戦って,いったい何の得になるか,ということになる。合衆国公使やイギリス代理公使も同じ意見だと,北京のロシア人たちは言っている。

 残るは日本だが,日本中が戦争熱に浮かされている。 日本政府ははっきりと,戦争が近いと見ている。満州でも朝鮮でも,日本とロシアの利害がことごとく対立している以上,非常に近い将来に戦争は避けられなくなると見ているのだ。

  ロシアを今の陣地から撤退させ,中国,満州.朝鮮といった極東問題で主導権を握ることは,日本にとってきわめて重要なことなのだ。今,主導権を握っているのはロシアだ。 満州を完全に掌握し,朝鮮も一部手の内にある。これが戦争を引き起こす原因となろう。

鴨緑江と義州のロシア軍はきわめて数が少ない。釜山と元山と済物浦とソウルは私服を着た日本軍人であふれている。いったん戦いが始まれば,朝鮮はたちまち4万から4万5000の日本兵に占領されてしまうだろう。

日本海軍は118隻の艦船を持っているが,そのうち戦聞用艦艇は92隻だけだ。 日本の戦艦は構造も武装もロシアの戦艦よりすぐれている。日本陸軍は3日以内に45万まで増強することができるから.当座は日本の方が有利だが.あまり手間どると日本の優位も崩れるだろう。

1か月でロシアの方が優勢に転ずることだろう。

ある情報通の日本の将軍が確信するところによると,日本の国民はロシアとなんとかはっきり決着をつけたいと熱望しており,政府がこの問題をあまり長引かせると深刻な事態が生じるだろうという。

この2週間,日本政府はロシア政府に対抗して,戦争の準備をしてきた。開戦は何週間先かではなく,何日先かという問題になりつつある。   宣戦が布告されてまず日本軍がとる行動は,満州沿岸に日本軍が上陸するための道を確保することに違いない。そのためには,日本軍はロシア艦隊を戦闘不能にすることが必要だ。

日本艦隊は力も数もまさっているから,日本軍が優勢な場合.ロシア軍は外洋で戦うような危険は冒さないだろう。その場合には旅順港内で行われるはず で,そうなれば.どちらかが一方的に有利ということはなくなる。

日本の軍艦の方が強力で数も多いが,ロシアには堡塁や潜水艇の援護があり,これが大きくものを言う。というわけで,どちらが勝つか予断を許さないのだ。 外洋上の戦いなら,日本が勝つ。旅順湾内なら,桔栗は分からない。

日本が 勝つかもしれないし,負けるかもしれない。日本が負けて.艦隊を失うようなことがあれば,日本の立場は大変苦しくなり,露日戦争は第2段階へ突入することになるだろう。   イギリスは同盟国として,日本の援助に躯けっけることになるかもしれないが,そうなると,露仏同盟に従って,フランスもロシア側について戦わなくてはならないことになり,その先はどうなるか予測がつかない。

だが,もし日本がロシア艦隊を撃滅あるいは捕獲することに成功すれば,事態 は全く違ってくる。

日本軍が海から旅順を攻撃することはまずないだろう。要塞はきわめて堅固で,ここを攻撃するのは危険過ぎるし.日本軍は多大な痛手を被ることになるからだ。それより,ロシア艦隊を戦闘不能にしてから,要塞も貧弱で,攻撃されたら機雷や魚雷に頼らざるを得ない大連湾を襲う方を選ぶのではないだろうか。

大連湾を攻め落としてから,陸軍部隊を上陸させ,陸側から旅順を攻撃するのだ。だがロシア側が急きょ要塞化したHsinhanchen高地(203高地)を避けては通れないし,そうなると,激しい戦闘を覚悟しなければならない。

もし日本がこの陣地を攻め落とすことができれば,旅順は彼らの思いのままだ。陸上の他の壁塁はことごとく弱過ぎて,とても日本軍を阻止することはできないからだ。旅順さえ落とせば,南満州の全土が日本の手中に入ることになる。

(中略)

日本の忍耐が限界に近づいていることは.われわれ自身,1度ならず指摘している。満州撤兵の約束をロシアに守らせるというのは,イギリスやアメリカにとっては元のとれる仕事かどうかの問題に過ぎないが,日本にとっては死活問題だということも言ってきた。

もしロシアにこのまま満州を併合し,朝鮮を支配するようなことを許せば,日本の未来は取返しのつかない危険にさらされることになるのだ。        

 - 戦争報道, 現代史研究

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