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アジア太平洋戦争(1941-1945)-日本の新聞社は<どのような「戦時外地新聞」を発行しのたか>➂

   

  

アジア太平洋戦争(19411945)で日本軍が占領したアジア各国で、日本の新聞社は<どのような「戦時外地新聞」を発行したか>

ー占領地におけるメディア政策について(新聞の役割と

実態メディアの戦争責任)③  

 

               前坂 俊之(ジャーナリスト)

 

 ●現地での役割は不分明

 

 実際に現地でどういう役割をこのような占領地新聞が果たしたのかという前に、日本語の「マニラ新聞」とか「ジャワ新聞」はあくまで在留邦人を目的としたものであります。

現地語の新聞はどのような内容の報道であったのかということを調べる必要があると思うのですが、残念ながら現地語の新聞の研究、その保存が十分でありませんので、そこまで進んでいないのが実情です。

 

 肝心の占領地新聞が現地でどのような役割を果たしたのか、というのは現段階ではまだはっきりわからないということです。軍の政策、新聞の内容、新聞の行間を読むことによって、その狙いとか真実が何かということを見抜いていく。

 

大本営発表は水増しされて全くの虚偽のものだったわけですから、行間を読むという作業が中心になると思いますが、そのあたり今後の課題ではないかと思います。

 

 ●敗戦と同時に消滅

 

 敗戦後、こういった新聞がどうなったかといいますと、例えば、「マニラ新聞」 の場合、マッカーサーが上陸しまして、「マニラ新聞」関係者は最後までマニラに残り、その一部は山の中に逃げながら新聞を発行し続けていきます。毎日新聞から派遣された人間は五三人が死ぬという状況になっております。米軍と直接戦闘状態がなかった場所では、関係者はそのまま現地で収容されたりしております。

 

例えば、インドネシアの場合、結果としてそういった状況になったわけですが、戦時中オランダ語の新聞を一切敵性語として廃止しておりましたので、その間インドネシア語や、現地語の関係者を登用したということで、そういった人々が新聞製作に精通したということがあります。

 

こうしたことが、その後、インドネシアの独立運動の後押しの役割を果たしたということを言われておりますが、それはあくまでも結果の話であります。占領中、日本が出しておりました邦字の新聞、現地の新聞も敗戦と共になくなっております。

                        

 ●新聞発行の責任は不問

 

 では戦後、占領地新聞を発行し、また、戦争中の報道に対して新聞社はどのような責任をとったのかという問題があります。当時「ビルマ新開」の経営は読売新聞が行っております。代表者は務台光雄さんですね。務台さんはその

後の読売社長でありますし、読売が朝日を抜いてトップに立った「販売の神様」と言われた人です。

このように、当時の

新聞の幹部、中枢的な人が占領地新聞にたくさん出向しています。占領地新聞の経営は一種の利権獲得といいますか、陸軍の方から、さきほど申しました担任地域の分担というものが来る前に、毎日の場合はこれを先取りしていってい

ち早く獲得競争を行っています。まさしく、新聞社の南方進出の役割を果たしているわけです。

 

 読売の場合は、ビルマが大東亜共栄圏内では利権の少ないところではあるといった内容を社史に書いています。大東亜共栄圏で各新聞がこういう現地の新聞なり施設を接収して、それが利権として取り扱われたのではないか、また経営面で見た場合、当初、考えていたより立派な施設がそろっておりまして、経常面でうま味があった点も指摘できると思います。

 

 ●国内の新聞政策は

 

 占領地新聞と同時に日本の国内で新聞はどうであったのかに触れたいと思います。占領地新聞のやり方そのものが国内での新聞政策とダブっているわけです。例えば、一九三七年(昭和十二年)、日中戦争が始まった段階で、日本の新聞は全国で一四四二紙というたくさんの数がありました。

 ところがこれが統合撤廃の対象となりまして、一挙に減っていきます。

 さらに、戦争が始まった昭和十七年には一県一紙体制、現在もこの体制が続いているわけですが、一四〇〇余りあった新聞がわずか五五紙に統合撤廃されたわけです。全国紙というのは朝、毎、読、日経と産経は業界紙として残されまして、ブロック紙、それに一県一紙というふうに統合されていきます。このやり方を占領地の現場でも踏襲してやったわけです。

 

 ●統廃合の結果、経営は安定

 

 その結果、自由な言論というものはなくなりましたが、新聞経営上はですね、それまで弱小の新聞が乱立していたために、統合されることによりまして、経営面では非常に安定する。新聞界の一部、特に地方紙はこれを歓迎しております。太平洋戦争中は経営が安定して、新聞統合を歓迎しておったといえると思います。逆に、記者の方は登録制になっておりまして、国、政府の方から一人一人登録して認められて、初めて新聞記者になるという制度になっていました。

新聞界は言論の自由がなくなっても、戦争に協力する代償として、経営も安定したわけですが、占領地でも同じ方式を採用し、現地の新聞を統廃合し、日本の新聞に肩代わりさせて経営を委託したわけです。では新聞の戦争責任の問題ですが、新聞は戦後どのように総括したのか、最後に触れてみたいと思います。

 

 ●「被害者であり、資任はない」と認識

 

 敗戦後、日本の新聞界の代表的な人物が「新聞協会報」に「新聞に戦争責任はあったか」という上下の連載をやっています。

第一点は、新聞は戦争を挑発したのか、第二は新聞が嘘っぱちの記事を書いた原因は何であったのか、三番目は新聞は言論統制、弾圧になぜ反抗しえなかったのか、という三つの問いを立てて書いています。

この新聞人は新聞は戦争を挑発していない。これは発表したものを書いているわけですから、自らは煽動したり、挑発してはいないと。第二点は新聞への言論抑圧が強烈にあったこと、軍部、政府、右翼その他からの抑圧があって、自分の本意ではなくて、無理やり書かされたわけですから、新聞自体は被害者であり責任はないと述べています。

 

三番目は、新聞の抵抗についてですが、第一期、第二期、第三期と分けた場合、二 二六、日中戦争ころまでは抵抗しておったんですが、そのうちに法律的にがんじがらめになって真実は一切書けない状況になった、新聞は太平洋戦争に入った時点で、良心的な負担の面では逆に軽くなったと書いています。

 

戦争に入った段階では、どこの国でも検閲、言論抑圧という問題があります

から、良心的に軽くなったと書いています。こういった考え方が今も新聞に営々として続いていると思います。

 占領地でのマスコミが果たした問題というのは、まだ未開拓の分野ですし、今後も継続してやるべき非常に大切な問題であると思います。以上で雑駁ですが、私からの報告を終わりたいと思います。

 

注①     

 南方陸軍軍政地域新聞政策要領

 

二内地新聞社の総 (支) 局、もしくは通信部の設置については、陸軍省においてこれを統制する。

 

二、南方における邦字新聞社は、東京日日 (大阪毎日)、朝日、読売報知の三新聞社、並びに同盟通僧社及び数新聞社の合同提携によるものとして、現地軍の管理下にこれが設立経営を行はしめる。

 

三、現地に設立せらるべき新聞社の担任地域は、左の通りである。

(イ)東京日日(大阪毎日)新聞社-比島(フィリピン)

(ロ)朝日新聞社-ジャワ

(ハ)読売報知新聞社―ビルマ

(ニ)同盟通信社その他の提携による新聞社-マレー、昭南島(シンガポール)、スマトラ、北ボルネオ。

 

四、既存邦字新聞は、逐次前記四社に包括せしめらる。

五、各種の土語及び英語その他の外字新聞の指導運営については、現地軍においてその方針を決定するが、或いはこれを独立せしめ、また前項邦字新聞社をして、これが運営に当らしめる等一に各地域の実情に基き処理する

 

注②

 占領地軍政下発行紙誌状況

 

●担当地域 

 

         陸軍軍政地     海事軍政地

 

毎日新聞     フィリピン     セレベス

朝日新聞     ジャワ       ボルネオ

読売新聞     ビルマ      セラム

同盟通信等    マレー

         北ボルネオ

         スマトラ

         昭南島

  

 ●各社発行の新聞雑誌の紙誌名と使用言語一覧

 

●毎日新聞

 

 〔フィリピン〕

 マニラ市=マニラ新聞(日本語) TheTribune (英語)→ALHBA(タガログ語) LA ⅤANGUARDIA (スペイン語) LIWAYWAY(タガログ語) 華文馬尼刺新聞(中国語)

 セブ市=VisayanShimbun (セブ・英語)

 ダバオ市=ダバオ新聞(タガログ語)

 レガスピー市=Bic01rald(タガログ語)

 イロイロ市=Panay Times (タガログ語)

〔セレベス (現インドネシア)〕

 

 メナド市=PEWARA CELEBESメナド版(マレー語) セレベス新聞メナド版(日本語) コドモシンプン・メナド版(日本語)

マカツサル市=PEWARA CELEBESマカッサル版(マレー語) セレベス新聞(日本語) コドモシンブン・マカッサル版(日本語)

 毎日は以上の他、軍政地ではないが、占領地としては、パラオ諸島のコロール島で海南新報(日本語)を、海南島で海南迅報(中国語)、光報(中国語)、海南新聞(日本語)を、台湾の台北市で台湾新報(日本語)を発行していた。

 

●同盟通信

 

 〔昭南(現シンガポール)〕

 昭南市=昭南新報(日本語) shOungShimbun (英語)昭南画報(中国語) 同(英語)

 〔マレー(現マレーシア)〕

 クアラルンプール市=馬来新聞(英語) 同(中国語)

 マラッカ市=マラッカ新聞(中国語)

 ペナン市=彼南新聞(英語) 同(中国語) 同(マレ―語)

 タイピン市=馬来新聞(日本語)

 〔スマトラ(現インドネシア)〕

 メダン市=北スマトラ新聞(マレー語) 同(中国語)

 パダン市=パダン日報(マレー語) スマトラ新聞(日本語)

 パレンバン市=パレンバン新聞(インドネシア語)

 〔ボルネオ (現マレーシア)〕

 アピ市=北ボルネオ新聞(日本語)

●朝日新聞

 〔ジャワ (現インドネシア)〕

 ジャカルタ市=ジャワ新聞(日本語) ジャワ・パルー

(日本語) アジアエフヤ (マレー語)

 〔ボルネオ (インドネシア)〕

 バンジャルマシン市=ボルネオ新聞中部版(日本語、マレー語)

 パリックパパン市=同東部版(同)

 以上のほか軍政地ではないが、香港で香港日報(日本語)、同(中国語)、同(英語)も同社は発行していた。

 

●読売新聞

 

 〔ビルマ〕

 ラングーン市=ビルマ新聞(日本語) グレーター・アジア (英語)

 〔バリ島(インドネシア)〕

 デンパサール市=バリ新聞 (マレー語)

 〔セラム島(同)〕

 アンボン市=セラム新聞(日本語) シナル・マタバリ

(マレー語)

 

■質疑応答

問 三つほどあります。一つは植民地とか、占領地とかの新聞もそうなんですが、メディアの研究というのが非常に遅れている、ほとんど手つかずの状況になっているというのは何が原因なのでしょうか。

 もう一つは、植民地におけるメディアと、占領地におけるメディアとで若干形態が違うように思えるんですが、その違いはどういうところにあるのか。それから三つめは、多少細かいことになると思うんですが、占領地の日本語の新聞というものはだいたい在留邦人を対象にしたものであると思うんですが、しかし「ニッポンゴ」ですか、マニラで出されていたウィークリーの新聞ですが、これは必ずしも、現地の在留邦人を対象にしたものではないように思わ

れるんですけど、日本語が非常に大事なものであるということを、周知させるものであったように思えるんですけど、そのへんはどうかということです。

 

前坂 まず一点目ですが、植民地の研究というものは、何もメディアだけでなく岩波書店から昨年ですか、全五冊の植民地の研究というものがやっと出たくらいで、三〇年、五〇年という時間の経過がないと、関係者がまだまだ現存

しているという段階では難しいのが実情です。ドイツとは大違いで、日本の場合は五〇年くらいの冷却期間が必要なのかなという気がします。メディアの場合全く始められていません。

やっと、占領地新聞の復刻がぼつぼつ出るという段階で、新聞学会でもマスコミ学会でも東南アジアからの留学生には関心のあるテーマなんですが、日本の研究者には一番遠いテーマである気がします。アジアに対する差別というのですが、それは戦前も戦後も変わっていないのではないかと感じます。

 朝鮮とか台湾とか満州でどういう植民地の新聞政策がやられておったのかという研究は、私の不勉強もありますが、少ないと思いますね。従来からの日本の植民地と占領地でメディアの政策なり新聞があったのかという、この部分もほとんど手つかずであります。

 それから「ニッポンゴ」という新聞ですが、これは在留邦人ではなく現地人、現地の子供向けの新聞です。

 

問 メディアの戦争責任ということで来たんですけど、私の場合、軍歌、歌詞が歌えるということがあるんです。ラジオを通じてそういったニュースが流れる、臨時ニュースが流されると思うんですけど、ラジオの場合も新聞と同じくらい効力があったんでしょうか。

 

前坂 その放送といいますか、ラジオの役割の方がインパクトは大きいということで、例えば、フィリピンの場合などは、ゲリラがラジオの放送をするんですが、それに対して日本の方ではラジオの販売を日本語チャンネルに限定したものを販売する。それを壊した場合には厳罰にするという警告がマニラ新聞に何回も載っています。

現地の人たちは日本の宣伝放送ではなくて、ゲリラの放送を一生懸命聞いており、ラジオを改造してそれを聞いておったわけです。それに対して日本軍がそのラジオを発見した場合、持っていた人を即処刑しています。

ゲリラの新聞が奪い合いという状況だったんですが、持っていると即銃殺ですね。たぶん、メディアではラジオの方がリアルタイムに、ゲリラ側の放送とか、米軍の放送が流れて、それを聞いていたと思うんですが、そのあたりは調査できていません。マニラ新聞にはラジオの改造を禁じるというのがたびたび載っております。そういう人間が処罰されたというニュースも載っています。

                              おわり

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