『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉝総理大臣を入れない「大本営」、決断力ゼロの「最高戦争指導会議」の無責任体制➁
2021/07/26
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉝
『来年は太平洋戦争敗戦から70年目―
『アジア・太平洋戦争全面敗戦の原因はー総理大臣
を入れない「大本営」、決断力ゼロの「最高戦争指導会議」
の無責任体制にあるー現在も
「この統治システム不全は続いている➁』
前坂 俊之(ジャーナリスト)
<以下は小磯国昭 「葛山鴻爪」(丸の内出版、918-921P)より>
小磯国昭大将が朝鮮総督在任中で敗戦丸1年前の昭和十九(1944)年七月十八日に大命降下があった。戦局は敗退の色濃く六月中旬には既にサイパン陥落していた。東条内閣が退陣し、その後釜に小磯が選ばれたのである。
陸海軍がことごとく対立し、作戦も分裂、2元的なバラバラな戦争遂行をなんとか一元的にせよという天皇の「米内海軍大将(副総理)との連立内閣」と「戦争完遂内閣」という指示であった。
もともと日本の戦争遂行の中軸である「大本営」は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%9C%AC%E5%96%B6
陸軍および海軍を支配下に置く戦時中の天皇直属の最高統帥機関である。
日清戦争(これには伊藤博文も例外的に列席した)、日露戦争(同じ)から、太平洋戦争での大本営の組織は、統帥部である陸軍参謀本部(大本営陸軍部)と海軍軍令部(大本営海軍部)のメンバーからなり、大本営会議には参謀総長、軍令部総長、参謀次長、軍令部次長、第一部長、作戦部長、作戦課長によって構成された。「統帥権の独立」により、内閣総理大臣、外務大臣も参加を許されない、陸海軍大臣は列席できたが、発言権はない。また、天皇も聞くだけで発言しなかった。
国家総力戦、国民総動員体制の戦争で、一国の総理大臣も、陸海軍大臣も関与できないという信じられない組織が全面的に作戦を仕切るという旧態依然、国家総力・叡智を結集できない明治以来の時代遅れの体制であった。
これが「統帥権の独立」をタテにした暴走した軍部ファシズムの病巣であり、軍国主義のガン細胞である。
その結果、統帥部の独走を許す、下剋上を引き起こすきわめて硬直した機能不全の体制となり、
当然起こるべくして起こる「大本営」の作戦失敗と誤判断の連続が
アジア、太平洋戦争の敗戦、終戦につながったのである.
全面敗北の中で大命が降下した小磯はこの組織弊害に気づいていた。
作戦に関して国務と統帥との統合・調整を計ることが絶対必要として、梅津美治郎参謀総長
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%85%E6%B4%A5%E7%BE%8E%E6%B2%BB%E9%83%8E
に対して
① 現行大本営命を即時改正しその編制内に総理大臣を加えること。
② この要求が不可能ならば即時単行軍令を以て今回の戦争間に限り総理大臣を大本営の編制に加えること。
③ 以上が承認せられない場合は、これと同様の効果を発揮し得るような権威ある特別の臨時機構を設定すること。
を要求してその回答を待ち組閣の態度を決定したいとしていた。
これに対しての陸軍側は①➁は拒否したが小磯新首相の要望に応じ得るよう善処する用意があるーと回答した。
その結果できたのが「最高戦争指導会議」なるものである。
このメンバーには総理大臣、陸軍大臣、海軍大臣、参謀総長、軍令部総長、外務大臣を以て構成員とする。また参謀次長、軍令部次長は随時本会議に出席し得ることとし、内閣書記官長及び陸海軍両軍務局長の三者を幹事として事務機関とした。
この新制度は、従来の「政府大本営連絡会議」に比べると、少し前進したものではあったが、肝心の作戦のことについての総理の立場は従前とあまり変らなかった。作戦に関しては、総理大臣にも知らせなかったのである・もちろん、外務大臣にも。
一体何たる組織か、コミュニケーションの不在、これでリーダーシップの発揮や情報の統合が図れるわけはない。「最低戦争指導しない、ただの小田原会議」だったのである。
ただし、小磯総理は軍人出身で、構成員の中でも陸軍の大先輩であった関係で、この会議にはもともと議長は置かないのであるが、実際には総理が進行係りということで事実上議長の役を勤め、発言内容も相当思い切ったことを言ったという。
これに対し秦秦 彦三郎参謀次長らは「小磯総理は会議で余計なことをいう。そんな古臭い知識や時代遅れの感覚は近代戦の役に立たぬ」と反発していた。
小磯首相の方針は『一撃論』で一度は勝機をつかんで何とか局面打開をしたい一心で、レイテ作戦
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%86%E5%B3%B6%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
を決定した。ところが、この重大な決定を統帥部は首相も陸相も知らせずルソン作戦
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%B3%E5%B3%B6%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
に切り替えて、結局、失敗に終わったのである。
これには小磯総理も激怒して参謀総長と軍令部総長にねじ込んおで、「大本営入り」を再び強く要求した結果、両総長は陳謝した。
さらに、天皇から特別の勅語(二十年一月)「大本営に在って終始作戦用兵の状況を審かにし陸海軍大臣及び大本営幕僚長とともに戦争指導の議に参画すべし」によっての総理大臣の大本営入りの宿願を果したが、時すでに遅かったのである。
つづく
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉜
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