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『リーダーシップの日本近現代史』(241)/★『1945年(昭和20)8月、終戦直後の東久邇宮稔彦首相による「1億総ざんげ」発言の「 戦争集結に至る経緯,並びに施政方針演説 』の全文(昭和20年9月5日)

   

 

   『昭和史キーワード』記事再録

稔彦、先に組閣の大命を拝し、国家非常の秋に方り重責を負うことになりました、真に恐懼感激に堪えませぬ

茲に第八十八回帝国議会に臨み、諸君に相見え、今次終戦に至る経緯の概要を述べまして、現下困難なる時局に処する政府の所信を披瀝しますことは、私の最も厳粛なる責務であると考えます、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、昨日開院式に親臨あらせられ、特に優渥なる勅語を賜わりました、洵に恐懼感激に堪えませぬ、私は諸君と共に有難き 御聖旨を奉体し、帝国の直面する現下の難局を克服し、総力を将来の建設に傾け、以て 聖慮を安んじ奉らんと存ずるのであります

諸君、先に畏くも大詔を拝し、帝国は米英ソ支四国の共同宣言を受諾し、大東亜戦争は茲に非常の措置を以て其の局を結ぶこととなりました、征戦四年、顧みて萬感交〃至るを禁じ得ませぬ、併しながら既に大詔は下ったのであります、我々臣子と致しましては飽くまでも承詔必謹、大詔の御精神の御諭しを体し、大御心に副い奉り、聊かも之に外れることなく、挙国一家、整斎たる秩序の下に新たなる事態に処し、大道を誤ることなき努力に生きなければならないと思います

此の度の終戦は一に有難き御仁慈の大御心に出でたるものであります、至尊御自ら祖宗の神霊の前に謝し給い、萬民を困苦より救い、萬世の為に太平を開かせ給うたのであります、臣子として、宏大無辺の大御心の有難さに、是程の感激を覚えたことはないのであります、我々は唯々感涙に咽びますると共に、斯くも深く宸襟を悩まし奉りましたことに対し、深く御詫びを申上ぐる次第であります

恭しく惟いまするに、世界の平和と東亜の安定を念い、萬邦共栄を冀うは、肇国以来帝国が以て不変の国是とする所、又固より常に大御心の存する所であります、世界の国家民族が、相互いに尊敬と理解を念として、相和し、相携えて其の文化を交流し、経済の交通を敦くし、萬邦共栄、相互いに相親しみ、人類の康福を増進し、益〃文化を高め、以て世界の平和と進運に貢献することこそ、歴代の 天皇が深く念とせられた所であります、洵に畏き極みでありますが、天皇陛下に於かせられましては、大東亜戦争勃発前、我が国が和戦を決すべき重大なる御前会議が開かれました時に、世界の大国たる我が国と米英とが、戦端を開くが如きこととなりましたならば、世界人類の蒙るべき破壊と混乱は測るべからざるものがあり

、世界人類の不幸之に過ぐることなきことを痛く御軫念あらせられまして、御自ら 明治天皇の「よもの海みなはらからと思ふ世になと波風のたちさわくらむ」との御製を高らかに御詠み遊ばされ、如何にしても我が国と米英両国との間に蟠まる誤解を一掃し、戦争の危機を克服して、世界人類の平和を維持せられることを冀はれ、政府に対し、百方手段を盡くして交渉を円満に纏めるようにとのご鞭撻を賜わり、参列の諸員一同、宏大無辺の大御心に、粛然として襟を正したと云うことを漏れ承って居ります、此の大御心は、開戦後と雖も終始変らせらるヽことなく、世界平和の確立に対し、常に海の如く広く深き 聖慮を傾けさせられたのであります、此の度新たなる事態の出現に依り、不幸我が国は非常の措置を以て、大東亜戦争の局を結ぶこととなったのでありますが、是れ亦全く世界の平和の上に深く大御心を留めさせ給う御仁慈の思召に出でたるものに外なりませぬ

至尊の聖明を以てさえも尚お今日の非局を招来し、斯くも深く宸襟を悩まし奉りましたことは、臣子として洵に申訳のないことでありまして、民草の上を是程までに御軫念あらせらるヽ、大御心に対し、我々国民は御仁慈の程を深く胆に銘じて自粛自省しなければならないと思います

敗戦の因って来る所は固より一にして止まりませぬ、前線も銃後も、軍も官も民も総て、国民悉く静かに反省する所がなければなりませぬ、我々は今こそ総懺悔し、神の御前に一切の邪心を洗い浄め、過去を以て将来の誡めとなし、心を新たにして、戦いの日にも増したる挙国一家、相援け相携えて各〃其の本分に最善を竭し、来るべき苦難の途を踏み越えて、帝国将来の進運を開くべきであります

征戦四年、忠勇なる陸海の精強は、冱寒を凌ぎ、炎熱を冒し、具さに辛苦を嘗めて勇戦敢闘し、官吏は寝食を忘れて其の職務に盡瘁し、銃後国民は協心戮力、一意戦力増強の職域に挺身し、挙国一体、皇国は其の総力を挙げて戦争目的の完遂に傾けて参りました、固より其の方法に於て過ちを犯し、適切を欠いたものも少くありませぬ、其の努力に於て悉く適当であったとは言い得ざる憾みもあります、併しながら凡ゆる困苦欠乏に耐えて参りました一億国民の此の敢闘の意力、此の盡忠の精神こそは、仮令戦いに敗れたりとは言え永く記憶せらるべき民族の底力であります

然るにガダルカナル島よりの後退以来、戦勢は必ずしも好転せず、殊にマリアナ諸島の喪失以降、連合国軍の進攻は頓に其の速度を加うると共に、我が本土に対する空襲は次第に激化し、其の惨害は日を逐うて増大して来ました、既に海上輸送力の低下に依って相当の影響を受けて居りました軍需生産は、斯くの如き戦局の、一段の急迫と共に、本年の春頃よりは愈〃至難を加え、一方戦争の長期化に伴う民力の疲弊亦漸く顕著ならんとし、終戦前の状況に於きましては、近代戦の長期維持は逐次困難を加え、憂慮すべき状況になったのであります、

茲に其の概要を述べますれば、即ち本年五月頃の状況に於きまして、汽船輸送力は、船舶喪失量の増大と、数次に亙る船腹の南方抽出等に依りまして、開戦当初の使用船腹の概ね四分の一程度を保持するに過ぎませぬでした、而も液体燃料の不足と、連合国軍の妨害激化等に依りまして、運航能率は著しく阻碍せられ、殊に沖縄戦の終末以来、連合国軍航空機の威力の増大に伴い大陸との交通すらも至難の状態となり、一方機帆船の輸送力も燃料不足と連合国軍の妨害に因って急激に減少し、新船の建造及び損傷船舶の補修亦意の如く進捗せず、海上輸送力の斯くの如き機能の低下は、戦力の維持に甚大なる影響を與うるに至りました

鉄道輸送力の方面に於きましても、車両、施設等の疲弊に加えて、相次ぐ空襲に依り逐次に其の機能を低下し、動もすれば一貫性を失う傾向すらありまして、全体としての輸送力は本年中期以降に於きましては昨年度に比し、各般の努力に拘らず尚お二分の一以下に低減するを免れないものと予想せらるヽに至りました

斯くの如き輸送力の激減に伴いまして、石炭其の他工業基礎原料資材の供給は著しく円滑を欠くのみならず、南方還送物資の取得も殆ど不可能となり、之に加えて空襲に依る生産施設の被害の増大と作業能率の低下は、各産業に深刻なる影響を與え、工業生産は全面的に下向の一途を辿り、軍官民の努力にも拘らず是が速かなる改善は望み難き状況となったのであります

鉄鋼の生産は開戦当初に比し約四分の一以下に低下し、鉄鋼に依存する鋼船の新造補給も爾後多くを期待し得ざる状況となりました、又所在資材の活用戦力化も、小運送力の低下、配炭の不円滑等の事情に依り、減退の一路を辿るようになりました

石炭に付きましても、出炭実績は益〃悪化するに加えて、陸海輸送力の大幅低下に依り、供給は逐次減少し、是が為め中枢地帯の工業生産は全面的に下向き、本年中期以降是等の地帯に於きましては相当部分運転休止を見るが如き由々しき事態の発生をすら予想せらるヽに至ったのであります

又大陸工業塩の還送減少に伴い、ソーダ工業を基礎とする化学工業生産は加速度的に低下するの已むなきに至り、是が為め本年中期以降に於きましては、金属生産は固より、爆薬等の供給にも支障を生ずる虞なしとせざる危機に瀕したのであります

液体燃料に於きましても、既に日満支の自給力に依存するの外なき状況にありましたが、而も貯油の払底と拡充の困難に伴い、アルコール、松根油等の生産増強に異常なる努力を傾けましたにも拘らず、航空機燃料等の減少は、遠からざる将来に於て戦争の遂行に重大なる影響を及ぼさざるを得ない状況に立至ったのであります、一方航空機を中心とする近代戦備の生産も亦空襲の激化に因る交通及び生産施設の破壊と、各種材料、燃料等の不足に因り、従来方式に依る大量生産の遂行は遠からず至難を予想られるヽに至ったのであります

斯くの如く我が国力は急速に消耗し、本年五、六月の交に於きましては、近代戦を続行すべき物的戦力の基盤は極度に弱められ、軍官民相協力して凡ゆる対策を講じ、国力の恢復に異常なる努力を捧げましたが、近き将来に於て物的国力の徹底的転換を図ることは、漸く至難なるものあるを思わしむるに至りました、殊に沖縄戦の終末以来形勢は全く重大化するに至ったのであります

加うるに長期に亙る戦争の結果、国民生活、特に食料の面に於ける苦難は益〃増加すると共に、インフレーションは逐次一般に浸潤せんとし、戦力の現況は戦争の前途に対し深甚なる考慮を要するに至りました

此の間我が特別攻撃隊は悲愴極りなき盡忠の精神を発揮して赫々たる偉勲を樹て、硫黄島、フィリピン、沖縄島等に於ける陸海の将兵亦一丸となって奮戦力闘、克く進攻の連合国軍に甚大なる出血を強要する等、我が陸海の精鋭は大東亜全戦域に亙り、一死以て皇国防護の大義に生くる伝統の勇武を発揮し、一億国民亦来るべき本土決戦に完璧の防衛態勢を以て、一挙に上陸連合国軍を撃滅すべく軒昂たる意気を示したのであります、

併しながら長期に亙る数々の決戦に於て、其の都度連合国軍に至大なる損害を與えたりとは言え、此の間皇軍の被りました創痍も亦決して少い数字ではないのであります、御手許に配付致しました表に依って御覧の如く、海軍力および航空勢力の消耗は甚大なるものがありました、何れも戦争遂行上重大なる影響を與え、而も前述の如く国内生産の現状に於きましては、是が補充は意の如くならず、又陸上兵力に於きましては、大東亜各地に亙り作戦を続けて来たのでありますが、其の装備は漸く十全を期し難く、終戦時に於ける皇軍の物的戦力は逐次低下するの已むなきに至りました、之に対し厖大なる資源と工業力とを有する連合国側の軍需補給力は愈〃増大し、特に欧州に於けるドイツの屈伏後は、戦勝の余勢を駆って全戦力を帝国の周辺に集中し来り、物的方面に於ける彼我戦力の相対的比率は、急速に均衡を破るに至りました、国力の現状は以上の如く、陸海の戦備も亦斯くの如く低下を見るに至りましては、徹底的勝利の確信も理論上に於ては遺憾ながら其の根拠を減少し、戦争の継続は正に容易ならざる段階に到達したのであります

一面連合国航空機に依る我が本土の空襲は愈〃甚だしく、大都市は申すまでもなく、中小の諸都市は次々に壊滅し、戦災に因り家屋の焼失せるものは二百二十萬に達し、負傷者は数十萬を以て数え、戦災者は一千萬に垂んとするの惨状を呈しました、而も八月に入りまして連合国軍は新たに原子爆弾を使用するに至り、其の攻撃を受けました広島、長崎両市の惨状は、眼も当てられぬ悲惨なものであります、其の残酷なる非人道的なる災禍の及ぶ所、延いては我が民族の滅亡を来し、世界の人類の文明も為に破壊に陥るを憂えしむるに至りました、加うるにソ連は突如として我が国に宣戦し、国際情勢亦最悪の事態に到達したのであります

是より先、米英支三国はポツダムに於て帝国の降伏を要求する共同宣言を発し、諸般の情勢上、帝国は一億玉砕の決意を以て死中に活を求むるか、然らざれば終戦かの岐路に立ったのであります、日本民族の将来と世界人類の平和を思わせられた大御心に依り、大乗的 御聖断が下されたのであります、即ちポツダム宣言は原則として 天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含し居らざることの諒解の下に、涙を呑んで之を受諾するに決し、茲に大東亜戦争の終戦を見るに至ったのであります、帝国と連合各国との間の降伏文書の調印は、本月二日横浜沖の米国軍艦上に於て行われ、同日御詔書を以て連合国に対する一切の戦闘行為を停止し、武器を措くべきことを命ぜられたのであります、

顧みて無限の感慨を禁じ得ませぬと同時に、戦争四年の間、共同目的の為に凡ゆる協力を傾けられた大東亜の諸盟邦に対し、此の機会に於て深甚なる感謝の意を表するのであります、連合国軍は既に我が本土に進駐して居ります、事態は有史以来のことであります、三千年の歴史に於て、最も重大局面と申さねばなりませぬ、此の重大なる国家の運命を担って、其の嚮うべき所を誤らしめず、国体をして弥が上にも光輝あらしむることは、現代に生を享けて居りまする我々国民の一大責務であります、一に懸って今後に処する我々の覚悟、我々の努力に存するのであります

今日に於て尚お現実の前に眼を覆い、当面を糊塗して自ら慰めんとする如き、又激情に駆られて事端を滋くするが如きことは、到底国運の恢弘を期する所以ではありませぬ、一言一行悉く 天皇に絶対帰一し奉り、苟くも過たざることこそ、臣子の本分であります、我々臣民は 大詔の御誡めを畏み、堪え難きを堪え、忍び難きを忍んで、今日の敗戦の事実を甘受し、断乎たる大国民の矜持を以て、潔く自ら誓約せるポツダム宣言を誠実に履行し、誓って信義を世界に示さんとするものであります

今日我々は不幸敗戦の苦杯を嘗めて居りますが、我々にして誓約せる所を正しく堂々と実行するの信義と誠実を示し、正しきと信ずる所は必ず之を貫くと共に、正しからざる所は速かに之を改め、理性に悖ることなき行動に終始致しまするならば、我が国家及び国民の真価は必ずや世界の信義と理性に愬え、列国との友好関係を恢復し、茲に萬邦共栄の永遠の平和を世界に現わし得べきことを確信するのであります、今後に於ける我が外交の基本も、正しく之に存するのであります、畏くも 大詔に於きましては「世界の進運に後れさらむことを期すへし」と御示しになって居ります、

私共は維新の大業成るに当り、明治天皇御自ら天地神明に誓わせられました所の五箇条の御誓文の御精神に復り、此の度の悲運に毫も屈することなく、自粛自重徒らに過去に泥まず、将来に思い迷うことなく、一切の蟠りを去って虚心坦懐、列国との友誼を回復し、高き志操を堅持しつヽ、長を採り短を補い、平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄與するの覚悟を新たにせんことを、誓い奉らなければならぬと存じます

組閣の大命を拝するに当りまして、畏くも 天皇陛下に於かせられましては私に対し、「特に憲法を尊重し、詔書を基とし、軍の統制、秩序の維持に努め時局の収拾に努力せよ」との有難き御言葉を賜わりました、私は此の有難き 大御心に副い奉ることを唯一の念願として、之を施政の根本基調として、粉骨砕身の努力を致し、国民の先頭に立ち平和的新日本の建設の礎たらんことを期して居ります、国民諸君も亦畏き 聖慮の存する所を再思三省され、心機一転、溌刺清新の意気を以て、新たなる御代の隆昌に向って勇往邁進して戴きたいのであります

是が為には特に溌刺たる言論と公正なる與論とに依って、同胞の間に溌刺たる建設の機運の湧上ることが、先ず以て最も重要なりと信ずるのであります、私は組閣の初めに当りまして建設的なる言論の洞開を促し、健全なる結社の自由を認めたき旨意見を表明する所があったのでありますが、政府と致しましては、言論の尊重、結社の自由に付きましては、最近の機会に於きまして言論、出版、集会、結社等臨時取締法を撤廃致したき意向であり、既にそれ等の取締を緩和致しましたことは先に発表致しました通りであります、苟くも国民の能動的なる意欲を冷却せしむるが如きことなきよう、今後とも十分留意して参る所存であります、特に帝国議会は、国民代表の機関として名実共に真に民意を公正に反映せしめ得る如く、憲法の精神に則り正しき機能を発揮せられんことを衷心より希望するものであります

戦争の終結に伴いまして、軍事上、産業上の復員が行われ、今後多数の同胞は各〃其の家郷に、或は又旧の職場に復帰して参ります、又大東亜各地に配備せられて居ります多数軍隊の内地帰還は真に容易のことではありませぬ、相当の年月を要する処があるのでありますが、是等の任務を解かれた軍人及び産業要員の就職、授産等の援護厚生に付きましては、政府と致しましても固より萬全の準備を盡して遺憾なきを期する所存でありますが、同胞諸君に於かれましても、傷き破れた是等の人々に深き思いやりを致され、温き同胞愛を以て抱擁して戴きたいのであります、特に特別攻撃隊の勇士を初め、壮烈護国の華と散られました幾多の将士の盡忠に対しましては、私は諸君と共に謹んで敬弔の誠を捧げます、又戦陣に傷き病んだ将兵各位に対し深甚なる同情の意を表し、其の速かなる再起を衷心より希望して居るのであります、政府と致しましては軍人遺族並に傷痍軍人の上に寄せさせ給う有難き 大御心を体し、其の援護厚生に今後特段の努力を傾け施政の萬全を期したき考えであります

又第一線の将兵と変ることなき危険を冒し、幾多の尊き殉職者を出しつヽも、敢然として長期に亙り海上輸送の完遂に撓まざる努力を示して参りました船員諸君に対し、更に空爆下一身の安危を顧みず増産増送の職場を守り抜き、遂に職域に殉じた同胞諸君並に皇国の大義に生くる行学一致の学徒動員に、真に目覚ましき働きを示しました学徒諸君に対しましては、私は諸君と共に心から敬意を表しますると共に、空爆に因り非命に斃れ、家を失い、職を離れた同胞諸君に対し深甚なる同情の意を表するものであります、是等殉職者、戦災者の援護に付きましては、今次の 御詔書に於きましても洵に有難き 御聖慮を拝して居るのでありまして、政府は今後とも全力を傾注致したき考えであります、戦災者諸君に於かれましても、悲運に屈することなく、速かに溌刺たる意気を以て建設に奮起して戴きたいのであります

今や歴史の転機に当り、国歩艱難、各方面に亙る戦後の再建は極めて多難なるものがあります、戦いは終りました、併しながら我々の前途は益〃多難であります、詔書にも拝しまする如く、今後帝国の受くべき苦難は蓋し尋常一様のものではありませぬ、固より政府と致しましては衣食住の各方面に亙り、戦後に於ける国民生活の安定に特に意を注ぎ、凡ゆる部面に於いて急速に萬全の施策を講じて参る考えであります、併し戦争の終結に依って直ちに過去の安易なる生活への復帰を夢見るが如き者ありと致しますならば、思はざるも甚だしきもので、将来の建設の如きは到底期し得ないのであります、

特に外地、満州等よりの輸移入に差当り多くを期待し得ませぬ今日に於て、食糧対策は極めて多難重大であります、隨て今後政府、国民一致して全力を盡して是が解決を図らねばならぬことは勿論でありますが、政府と致しましては、特に復員に依る多数の軍人や産業要員の食糧生産部面への転進に依って、既耕地の集約強化は固より戦災地、未墾地の積極的開発を行い、又水産の劃期的振興に努めたき考えであります、国民諸君も凡ゆる地力を利用して食糧の自家生産に努め、農民諸君は食糧の供出に従来以上の熱意と努力を示し、又一般消費者に於ても食生活に付き一般の工夫を凝らされんことを期待する次第であります、斯くして今後仮令外地、海外より食糧の輸移入が困難なるが如き事態となりましても、国内に於てなし得る限り自給し得べき方途を講じて行きたいと思って居ります

次に住宅の問題に付きましては、相次ぐ戦災に因って家屋の焼失致しましたものは極めて莫大な数に上って居るのでありまして、是が復旧は一刻も忽せにすることが出来ない重大なる問題であります、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、戦災復興のことを痛く御軫念あらせられ、過日特別の思召を以て木材百萬石を下賜あらせられます旨の有難き御沙汰を拝しました、政府と致しましては 聖慮の存しまする所を奉体し、大量の簡易住宅を急速に建設する等萬般の対策を講じて、速かに住宅問題の安定解決を期したき考えであります

衣料の問題に付きましても、特に今後冬に向って戦災者の衣料寝具等の対策は極めて深刻なるものがあります、而も繊維製品の在庫の払底、原料の取得困難なるに加えて、其の生産設備は戦争中概ね軍需生産方面へ転換せしめられました為め、国民に対する繊維製品の供給は当面相当困難なるものがあります、勿論政府と致しましては、今後速かに生産設備の復旧を図る等諸般の方策を講じ、為し得る限り衣料品の供給を図りますと共に、戦災を受けなかった人々の衣料を、同胞愛に依りまして戦災者に分配することに依って、多少とも当面の困難を緩和致したいと思って居ります

戦災其の他の影響に依り我が国が蒙りました打撃は極めて甚大でありまして、経済各般の状況を詳かに検討致しまするならば、インフレーションの潜在的原因が内面的には逐次醸成せられつヽありますことは否み難き所であります、而も戦後処理等今後の事態に想到致しまするならば、我が国経済の負担は終戦に依り却て益〃加重せられるのであります、若し戦後に於ける国民の覚悟に弛みを生じ、政府の施策にして適切を欠くものありと致しまするならば、インフレーションの恐るべき惨害は、遂に収拾すべからざる破壊と混乱に導かれなければならぬのであります、政府と致しましては全力を挙げてインフレーションの防遏に努め、是が施策に萬全を期する考えであります、固より国民全幅の協力に依って、初めて能くなし得るものでありますことは申すまでもありませぬ

軍隊の復員、軍需生産の停止転換等に伴う軍人及び産業要員の就職、授産等のことが戦後の処理に於て極めて重要な問題でありますことは只今も申述べた通りであります、今後に於きましては相当の失業者を出すことも予期せねばなりませぬ、随て政府と致しましては、戦後対策としての失業問題の処理に付きましては、国民生活の安定と共に、特に施設の重点として是が施策の萬全を期して居る次第であります、差当り農業増産の部面に是等の人々の労力を極力活用するの方途を講じたき考えで居ります

新しき教育文化の建設、産業の転換復旧固より大事業であります、其の他終戦に伴う当面の難問は今や山積して居るのであります、是等の問題を誤りなく速かに処理し得てこそ、新建設への基は開かれるのでありまして、我々の今後の努力は又容易ならざるものがあります、政府と致しましては、固より全力を挙げて是が迅速なる処理解決に邁進する覚悟でありますが、是等戦後対策が円滑的確を期し得ますると否とは、全国民が乏しきに耐ゆる生活の裡に、能く建設の覚悟を示し得るか否かに懸ること甚大なるものがあります

我々の前途は遠く且つ苦難に満ちて居ります、併しながら 御詔書にも御諭しを拝する如く、我々国民は固く神州不滅を信じ、如何なる事態に於きましても、飽くまでも帝国の前途に希望を失うことなく、何処までも努力を盡さねばならぬのであります

畏くも 詔書には「朕は常に爾臣民と共に在り」と御示しになって居ります、此の有難き 大御心に感奮し、我々は愈愈決意を新たにして、将来の平和的文化的日本の建設に向って邁進せねばならぬと信じます、全国民が一つ心に融和し、挙国一家、力を戮せて、不断の精進努力に徹しますならば、私は帝国の前途は軈て洋々として開け輝くことを固く信じて疑わぬものであります、斯くしてこそ初めて、宸襟を安んじ奉り、戦線銃後に散華殉職せられましたる幾十萬の忠魂に応え、英霊を慰め得るものと固く信じます。

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