『リーダーシップの日本近現代史』(62)記事再録/『金正男暗殺事件にみる北朝鮮暗殺/粛清史のルーツ』福沢諭吉の『朝鮮独立党の処刑』(『時事新報』明治18年2月23/26日掲載)を読む➀『婦人女子、老翁、老婆、分別もない小児の首に、縄を掛けてこれを絞め殺すとは果していかなる国か。』『この社説が『脱亜論」のきっかけになり、日清戦争の原因ともなった
日本リーダーパワー史(767)
『朝鮮独立党の処刑』『時事新報』明治18年(1885年)2月23、26日掲載
この社説が福沢諭吉の「脱亜論」(3月16日)のきっかけとなった。
社説『朝鮮独立党の処刑』(明治18年(1885年)2月23、26日掲載)➀
朝鮮国民は数百年来、支那(中国)の儒教主義に心酔してすでに精神の独立を失い、これに加えて近年はその内政外交の政治においても支那の干渉をこうむって独立の国体を失い、有形無形百般の人事は支那の風を学び、支那人の指揮に従い、朝鮮人が自身を知らず、朝鮮国を知らずますます野蛮国に退歩している。
1884年(明治17)十二月六日京城の変乱(甲申事変)以後、朝鮮の政権は事大党の手に帰して政府はあたかも支那人の後見をもって存立し、政治、刑罰一切は支那人の意向によることは広く世界中の人の知る所となった。
甲申事変の大臣で独立党の名ある朴泳孝、金玉均等の諸士はかねて国王陛下の信任を得て国事の改革を謀り、一たん事を挙げて失敗し、俗にいわゆる負けて国賊の身となり、その死生、行方さえ分からない、現政府はこれをきびしく捜索する最中に、まずその朝鮮独立党のメンバーを処分するとし明治16年一月二十八日、二十九日の両日に大規模な処刑を行い、金奉均、李喜貝、申重摸、李昌奎の四名は謀叛、大逆、不道の罪を以て死刑に、その父母、兄弟、妻子は皆、絞刑に処した。
・李点乭、李允相の二名は謀叛不道の罪をもって西小門外に斬に処し、その家族の男は奴(奴隷)となし女は婢(下女、女中)とした。
・徐載昌、南興喆、崔興宗、車弘植、崔英植の五名は情を知って告げざる罪をもって当人のみ死刑に処して家族は無罪。
・英昌摸は既に死後に付きその罪を論せず。
・洪英植は孥戮(どりく、妻子まで罰する刑)の典を追施す
・また金玉均、徐載弼、徐光範の父母妻子は二月二日をもって南大門に絞罪に処せらる
右は本月十六日『時事新報』の朝鮮事件欄内に掲載したるものなので読者も知っておられるだろう。
そもそもこの刑戮(死刑)は国事犯に起こったもので事の正邪は我輩(私)の知る所ではない。死刑に処せられた者と処した者といずれが忠心で、いずれが反賊かも私の関心外のことだが、今の事大党政府の当局者がよく人を殺して残忍無情な点は実に驚くほどだ。
現に罪を犯したる本人を刑することは国事に妥当なことだけれども、右犯罪人の中で、車弘植の場合は徐載弼の下僕で、事変の夜、提灯を携へて主人の供をしたるまでの罪で死刑を免れなかった。
婦人女子、老翁、老婆、分別もない小児の首に、縄を掛けてこれを絞め殺すとは果していかなる国か。
壮大の男子を殺すのは、なお忍んだとしても、心身柔弱なる婦人女子と白髪半死の老翁、老婆を刑塲に引出し、東西の分別もない小児の首に、縄を掛けてこれを絞め殺すとは果していかなる心の持ち主か!。
なお一歩を譲り、老人婦人のように、分別の精神あれば身に犯罪の覚なき場合も、我子、我良人がかかる身となったために、我身もかかる災難に陥るものなりと、冤罪ながらもその冤罪を自覚して、処刑されていった自覚の念があって死んでいったのであろうが、三歳五歳の小児等は父母の手を離れても泣き叫ぶのが常なので、荒々しき獄卒の手に掛り、雪霜吹き晒らしの城門外に引摺られて、細き首に縄を掛けらるるその時の情はいかなるものか、
唯、恐ろしき鬼につかまれた心地がするのみで、その索が窄られ呼吸の絶えるまでは殺されるものとは思わず、唯父母を慕ひ、兄弟を求め、父よ母よと呼び叫び声を限りに泣入り、絞索ようやく窄まり、泣く声が漸く微(かすかになり)にしてついに絶命したことであろう。
人間娑婆(しゃば)世界の地獄は朝鮮の京城(ソウル)に出現した。私はこの国を目して野蛮と評するよりも、むしろ妖魔悪鬼(悪魔悪鬼)の地獄国と言いたい。この地獄国の当局者は誰ぞと尋ねると、事大党政府の官吏で、その後見の実力を有する者はすなわち支那人(中国)なり。
私は千里遠隔(遠く離れた)の隣国(日本)におり、もとよりその国事に縁なき者なれど、この事情を聞いて唯、悲哀に堪えず、今、この文を草するにも涙落ちて原稿紙を潤おすをほどである。
事大党の人々はよくも忍んでこの無情な事をおこない、よくも忍んでその刑塲に臨監(臨んで、監督する)したものだ。文明国の人間の情においては罹災(朝鮮で災難にあった人)の不幸を哀むかたわら、また他の残忍を見て寒心戦慄(ゾッとする、戦慄する)するのみ。
そもそも一国の法律はその国の主権に属するもので、朝鮮にいかなる法を設けていかなる惨酷を働くも他国人のあえて喙(くちばし)をいれるべきものではない、私はこれを知らなくはないが、およそ各国、人民の相互に交際するのはただ条約の公文(条約文)にのみ依頼すべものではなく、双方の人情が相通じなければ友好も外交も貿易もほとんど無益になるのは古今の歴史、事実が証明している。
しかし今、朝鮮国の人情を察するに、支那人(中国)と相通じて、その殺気の陰険(戦争)なること実に、我々日本人の意想外(予想外)に出ることが多い。ゆえに私は朝鮮国に対し条約の公文上には、対等の交際を行い、他にはないといえども、人情の一点に至っては、その国人(朝鮮人)が支那の覊軛(きゃく、〔牛馬をつなぎとめる「羈おもがい」と「軛くびき」の意から〕 束縛すること)を脱して文明の正道に入り、有形無形一切の事につき、我々と共に語りて相驚くことのない場合に至らなければ、気の毒ながらこれを同族視するができない。
条約面では対等で尊敬を表するも、人民の情交においては親愛を尽すことはできない。西洋国人が東洋諸国に対し宗旨(主義・主張・嗜好)が相異なるために、双方人民の交際が微妙の間に往々言ってはならない言葉が出ることがある。今、私は日本人民も朝鮮国に対しまた支那国に対して、自から微妙の辺に交際の困難を感じるのは遺憾に堪へない(残念である)。
この事大党衆が支那人の後見に依頼して、かくも無残によく人を殺すのは必ずしもその殺気の活発(殺意に満ちている)なのではなくて、殺すべきの機会に逢って一時その政治上の怨恨を慰めるのと、また独立党の遺類(親類縁者、支持者、一派)を存在させていると後難を恐れて、この機に乗じて禍根を断絶する心算なのであろう。
ここに一国あればその国人に独立の精神を生ずるは自然の勢で、これをとどめようとしても止めることはできない。ゆえに、今度、幸にして独立党の人を殲滅(せんめつ)しても子供まで殺しても人を殲滅したのみ、精神は殲滅できない、数年ならずして第二の独立党が誕生するのは自明なり。第二、第三、朝鮮国のあらん限りはこの独立党の断えることはなく、今度の折角の惨殺も無益の労に過ぎない。
結論をいう、韓国宮廷の事大党、国に独立党の禍があるのを恐れるならば、早く固陋なる儒教主義を一洗して西洋の文明開化を取り、文明の文に兼ぬるにその武(軍備)を拡張し、国の独立を万々歳に堅固にすべきである。既に文明の強あり、外患尚且恐るれるに足らず、いわんや内国政治の軋轢等においてをや。いかなる変乱(事変、クーデター)あってもこれを制することは易し、いわんやその変乱の際に無辜(無実の人々)を殺して禍根を断たんとするような卑怯策を行うにおいてをや。ただ無益なるのみならず、自から発明して自から恥入るの日あるべきなり。
つづく
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