『リーダーシップの日本近現代史』(14)記事再録/『第3の敗戦を迎えた今、政治家に告ぐー150年前の「岩倉遣米欧使節団」の国家戦略と叡智に学べ
日本リーダーパワー史(322)
前坂 俊之(ジャーナリスト)
① 明治維新後の「岩倉遣米欧使節団」による対外国家戦略の立案、実行が「明治国家」を発展、成功させたのである。
② 超大国英国は野蛮、弱小国日本の「岩倉遣米欧使節団」の派遣を高く評価し、最高待遇で歓迎した。外交力を磨き、外交通になれ
③ 対外外交とはいかにおこなうべきかー19世紀の世界覇権国イギリスはそれをよく知っていた。鎖国を脱し未知の国際社会の仲間入りした未開国日本のトップリーダーたちの見識の高さを『英タイムズ』は中国のトップと比較して激賞している。
④ 一四〇年前のことである。三千万人の高齢人口の突破した日本にとっては七十歳の人間のわずか二世代前のことなのである。
⑤ 栄枯盛衰は世界の習い、リーダーは特に歴史的な叡智を養わねばならない。
⑥ この『英タイムズ』をよむと、いかにグローバルに物を考えて、利害得失を深く考えているか、インテリジェンスの高さを感じる。
⑦ 日本の政治家、外交官、メディアもすでに明治維新から150年経つたのにこの叡智と大人の見識、マナーができていない。
⑧ 中国の排外意識、文化的な野蛮性は140年、あまり進歩してないことを今回も世界に恥をさらした。
「中国:日本関連書籍の出版・販売を禁止 北京市当局が通知」http://mainichi.jp/select/news/20120923k0000m030088000c.html
<『英タイムズ』で読む日本近現代史の方がよくわかる③>
『1872年―岩倉遣米欧使節団がロンドンに到着
(英タイムズ1872年8月20日記事)
①イギリスは中国と日本をどのように見ていたか
②排外的態度における日本人、中国人の差
③明治維新後にその見方は日本重視になぜ変わったのか、
④中国人と日本人の異文化受容の態度と変化について、150年前に
すでにここまで客観的にみているアングロサクソンのインテリジェンス
能力には舌を巻く
すでにここまで客観的にみているアングロサクソンのインテリジェンス
能力には舌を巻く
日本の外交使節団のイギリス到着が昨日発表されたが,重要な事柄だけに,たまたま都合の悪い時節とはいえ,それにふさわしい応対が望まれよう。
日本はつい最近まで,イギリスの事業のみならず西洋思想全般に対しても徹底した鎖国状態にあったため,つい11年前に前回の使節団が訪英した際には,一行に対して好奇心以外の感情を呼び起こすことは,まずなかった。
日本人は中国人以上に,排外的で特異かつ従順性に欠けた性格を持っていた。われわれは.日本の偉大な人物とはどのような人々かを知りたいとは思っていた。
しかし,日本と日本国民はおよそわれわれにとって,無縁のものだった。しかし,11年前の当時ですら,このような心理状態は恥ずべき無知と無関心さの表れにはかならず,最近の日本史における注目すべき事態の進展はともかくとして,詳しい情報がわずかに広まるだけでも,現時点で使節団一行を尊敬をこめて受け入れようという世論を喚起することは十分にできる。
われわれは今日,中国と日本において起こっている重要なできごとを正しく理解しうる域に達している。
例えば,われわれが中国人に同情を寄せはしないにしても,中華帝国が世界で最も驚嘆すべき現実の1つであることに変わりはない。何世紀にもわたって.世界人類のほぼ3分の1を占める3億7000万の国民が1っの政府,したがって1つの文明によって統合されてきたのは確かなのだ。その理由はともかく,この事実は驚くべき政治的実績を示すものである。
それは,さまざまな民族で構成された国民の側の独特な従順さか,あるいは統治者の特異な能力か,どちらかを示唆するものだ。中国は,ほんとうのところ評価対象としてあまりに広大すぎる。
一方日本は,われわれの評価可能範囲内に納まっているし,イギリス人にとってはとりわけ興味深い存在であると言える。日本も島国王国であり,イギリスよりはかなり大きい。最近の国勢調査によるグレートブリテン・アイルランド連合王国の人口は3100万人,1平方マイルあたり平均265人である。日本の全人口は3500万人で,同じく229人と推定される。
しかも,イギリス文明がヨーロッパ文明と似ていながら,一般的に排他主義と保守主義に傾きやすいとみなされるある種の島国根性を持っていると同様に,日本も中国文明の影響を受けているにもかかわらず,排他的かつ半封建的性格をより強く備えている面がある。
この東洋のイギリスが,並外れた政治的成功のもとで統一されたことは確かである。日本政府と日本文明とがどのようなものかについては,今日でこそ熟知している向きはあるにせよ,かつてはそれを知る外国人はごくまれであった。
だが,極めて強力な政府と非常に練り上げられた文明,そして端的に言えば高度に発展した体制が日本に存在していたということは,長年にわたる紛れもない事実だったのである。その後これに付け加えられるべき重要な事態の進展がたとえなかったにしても,そのような事実にわれわれは多大な関心を払うようになった。
3500万人の人口を擁する文明化した王国に対して無関心であることは,同国が東洋にあるとか,文明がヨーロッパに属さないといった口実をもってしても,今日許されることではない。
しかし,過去4年間における異常な事態の推移が,日本に対する関心を促す結果となった。イギリスの商人たちは,かなり以前から,日本との間に自由な通商関係が確立されるならば,日本の需要がイギリスに大きな海外市場を提供し,また同国の産業発展がイギリス企業に広く活動の場を与えることに気づいていた。
だが,一部の港が門戸開放されたものの,イギリスと日本の通商関係は遅々として進まず,われわれは日本の排他主義はその社会秩序がなんらかの形で崩壊するのを待って初めて克服されるのではないかと考え始めざるをえなかった。
しかし,日本はもう1つの点でイギリスと似た特性を持っていることが分かった。彼らは,どのようにすれば社会的,政治的体系の安定を損なわずに,抜本的な革命を実行に移せるかを心得ている。1868年初めに,日本の行政府-当時,将軍に行政権が授けられていた-は倒された。
古代からの君主制が再び覇権を唱え,新たな階層を形成することになる古代以来の貴族階級が実権を握った。日本の諸制度は事実上そのまま存続された。
前政権が外国列強に対してとった措置は否定されなかったし.同国の社会組軌ま以前と同様に安定が保たれた。それでいて,新政府の性格はこれまでとは全く様相を異にしていた。
新政権を構成する人たち-天皇の貴族たち-は,何世紀にもわたり,すべての公職から隔離されていたのだが,問題処理能力に秀でた人物数人が輩出すると同時に,その息を吹き返した。これらの人物は,1つの特性を発揮した。それは,高度の政治力を示す確かな証拠であった。彼らは,自らの判断で西洋思想の侵入を希望していたかどうかは不明にしても,とにかくそのような事態が不可避であることは認識していた。
しかも,その必要性を認めるとともに,もし可能であれば,新しい文明を日本の社会秩序にとっての敵ではなく友人として受容しようと決断するだけの勇気を持っていた。
中国の官吏のように光に逆らって,夜明けに差し込む光線の1条1条を国民に迷信的恐怖感をいだかせるような衣で覆い隠そうとすることなく,彼らは直ちに排他主義を捨てた。そして全国民に対して,ヨーロッパが差し出そうとするものはなんでも受け入れ,それを自国の利益のために役立てるようしむけた。
このような政策方針を推進した政治家たちの功績は,特に評価されるべきだが,これらの政治家には日本の持つ1つの極めてすぐれた性格が投影していたように思われる。
日本人には際だった知的ならびに道義的勇気が備わっているように見える。日本の歴史や伝説は,彼らが見習うべきモデルとして,兼ね備わった勇敢さと誠実さを物語っているのだが,これらの性格はヨーロッパにおけるある種の最も質の高い道義に匹敵すものがある。
このような特性が政治行動の面に反映するのも当然と言えよう。とにかく,対外障壁は完全に破られて,ヨーロッノ1の生活様式に同化する作業との真剣な取組みが開始された。某通信員の最近の報道も伝えたように,イギリスの機械,イギリスの造船,イギリスの鉄道,イギリスの電信,イギリスの鋳貨,イギリスの建築,イギリスの鉱業,イギリスの医薬そしてイギリスの衣服,イギリスの言葉すらもが,日本で急速に市民権を得つつあるのだ。
現在ロンドンに滞在中の外交使節団の全権らは,日本の政府と国民の「先進諸国によって享受されている最高の文明の果実を手に入れようとする」希望を表明している。彼らは「前進の過程における新たな刺激を得るため」に,そしてまた「1周を果たした地球から新しい
知識の宝を収集すべく」訪ねてきたとも述べている。
日本国民は,われわれの科学知識と機械技術を十分に理解する能力のあることを自ら証明した。彼らには政治的手腕の面で,われわれと優劣を競い合う能力がないなどと考えるならば,それはわれわれの大きな過ちとなるであろう。
このような時期に,このような国からの使節団を迎えるには最高度の配慮が常に要求されるものだが,使節団に選ばれた有力者たちの顔ぶれは,一段とこの要請に拍車をかける。使節団長は天皇の宮廷における最高位の貴族の1人であり,先に述べた印象的な革命では他のいかなる人物よりも大きな役割を果たした。彼は今日,日本の次席総理大臣であり,同国駐在の各国代表の間ではすぐれた知性と教養の人物として,衆目が一致している。
一行のうちおもだった同僚には,枢密顧問,大蔵大臣と公共事業大臣らがいる。しかも,金曜日付の官報は,もう1人の日本人の有力者である外務次席大臣の女王への信任状捧呈を発表したが,彼は「特命全権公使」として,イギリスに常駐することになる,と言われている。
これらの人物はイギリスよりも歴史が古い王国における偉大な官吏,偉大な貴族というだけではなく,自国にとって重要かつ極めて有益な革命を自らの命を掛ナて成功させた政治家でもある。
彼らの発揮する権力は,よきにつけ悪しきにつけ,われわれの通常の理解を超えた影響力を持っ。過日,日本政府は新しい宗教儀式の公布方針についてこわれわれには奇異に感じ
られろ発表を行ったが,これなどは彼らの影響力の度合を示す明確な1つの例であ
る。
日本におけるイギリスの事業活動,そして日本文明の将来展望すらもが,この精神力,知性,権力を持つ人物たちの間に,われわれが育て上げていく諸関係によって,計り知れないほどの大きな影響を受けるに違いない。
外交使節団一行の訪英は,端的に言って,一行の受入れにかかわるあらゆる層による最善の応対体制を要請している。使節たちは,少なくとも多くのヨーロッパ王国代表に対するのと同様な尊敬に値するものだが,彼らの習慣からそれ以上のことが期待されるだろうことは,念頭に置いておくべきである。
エディンバラ公が近年訪日した際には,最高の接遇を受けたのだから,今回はわれわれがそれにふさわしいお返しをする機会でもある。イギリスの抜きがたい生活習慣のために王室および政府関係者のかなり多くが不在の時期に使節団がわれわれの地を踏むのは極めて遺憾なことであり,さらにそれに加えての不幸は,ロンドンがこの季節にしても異例な
ほど人影がまばらなことである。
このような状況を使節団に十分に説明し,かりそめにも王室やロンドンのものうげな雰囲気が一行に対する欠礼を示唆するといった印象をいだかれないようにするのが.使節団の接遇に当たる関係者の義務であろう。
イギリス国民がいだいている感情というのは,旧世界における最も注目すべき民族の1っに対する心底からの関心なのであり,わが政府がこの国民感情を適切に伝えるものと信じている。
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