前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(3)記事再録/日本国難史にみる『戦略思考の欠落』③「高杉晋作のインテリジェンスがなければ、明治維新も起きず、日本は中国、朝鮮の二の舞になっていたかも知れない」

      2019/08/26

 

   2015/11/22 日本リーダーパワー史(607)

日本国難史にみる『戦略思考の欠落』③

「高杉晋作のインテリジェンスがなければ、明治維新も起きなかった。

日本は中国、朝鮮の二の舞の植民地になっていたことだろう

         前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)

西郷隆盛、高杉晋作のインテリジェンス、と突破力がなければ、明治維新も実現できなかった。日本は中国、朝鮮の二の舞の西欧列強の植民地になっていたであろう、と前回書いた。その理由を1つ上げる。高杉晋作のインテリジェンスについてである。

高杉は文久2年(1862)5月に同藩の許可を得て植民地となった上海に渡った。そこで目にしたのは西欧人から奴隷扱いの中国植民地の惨状で「シナ人はほとんど外国人の使用人。日本もこんな運命に見舞われてはならない」(上海日記)と危機感を募らせた。この時、中国での太平天国の乱で身分や職業に関係ない国民軍が活躍していたことに奇兵隊創設のヒントをつかんだのだ。

これは幕府の上海調査団というべきもので各藩から参加し、長州藩は高杉、鍋島藩は中牟田倉之助(後の海軍軍令部長)らが200年以上の鎖国が解けて、初めて外国に行った。  文久2年(1862)5月6日一行を乗せた「千歳丸」(蒸汽船)は1週間かかって長崎から上海についた、これよりほぼ2か月間、高杉は上海の植民地の状況を調査する。その時の調査日記が「遊清五録」などで鋭く中国人の置かれた状況をとらえており、そのインテティジェンスの高さがうかがえる。その日記、記録を他の参加メンバーのものと合わせて見てみよう。

上海の港に近づくと、多くの外国商船や軍艦で埋まって、煙突や帆柱が林立、埠頭には、城郭のような高層建築がずらりとならび、アジアではなくヨーロッパそのものの都市が建設されていたのに、一行は度肝を抜かれた。

 

「上海の実情と奴隷状態の中国人」ー表面はイギリス,フランスの

植民地の威容、一歩裏に入ると塵糞の山、

黄浦江には動物,人間の死体が浮いている酸鼻極まる」

 

以下、大宅壮一の「炎が流れる②」文芸春秋藉、1964年)の中からの要点抜粋である。

『「千歳丸」が波止場にくると、中国人が大勢見物にやってきた。そして日本人が町を歩くと、あとからゾロブロとつきまとった。中国人がまず驚いたのは、日本人の頭のマゲで、これを指さしてわらいこけたが、日本人のほうでも、中国人は「頭に50㎝以上のしっぽをたれ(弁髪のことをいう)、その姿に腹を抱えて笑いあった」という。

上海を豪壮だといっても、それは表通りだけで、ちょっと裏衝に入ると「塵糞うずたかく、足をふむところなし。人またこれを掃(はらう)うことなし」というありさまである。

一行がいちばん困ったのは水である。黄浦江はきたなく濁っていて、イヌ、ウマ、ヒツジなどの死体が浮かんでいるが、これに人間の死体もまじっている。しかも中国人はこの水をのんでいるのだ。当時、上海にはコレラがはやっていて、日本人のなかからも三人の死者が出た。死体はムシロに包んで道ばたにすてられていて、炎暑のおりから「臭気鼻をうがつばかり、清国の乱政、これをもって知るべし」と書いている。

ところで、高杉らは、上海滞在中には精力的にあちこち見学してまわった。

町を歩いていて、西洋人が向こうからやってくると、中国人はたいてい道をゆずっているのを見て、高杉は憤慨した。租界地には柵があり『犬と中国人は入るべからず」の看板があった。ここは、植民地なのである。

「ここは中国の土地であるが、実質はまったくイギリス、フランスの属国である。もっとも、首都北京は遠く離れているから、あるいは中華の美風が残っているのかもしれないが、しかし、これは中国だけの問題ではない。いまに、日本もこの国の二の舞いをふむことになりそうだから、ゆだんは禁物だ」と高杉は日記に書いている。

上海の城壁は、高さは約五メートルくらい、周囲が約6キロ、ヤグラには清国旗がひるがえり、大砲をそなえつけているが、城門を守っているのは、英仏の軍隊である。そこにいあわせた中国人たちに向かって、高杉と同行したサムライが「中国では、どうして外人に城を守らせているのか」ときくと、みんなだまりこんだ。そのうち、一人が答えた。

「この前、〝長髪賊″(大平天国の乱)が攻めこんできたとき、李鴻章はこないし清国軍は遠くはなれたところにいたので、やむをえず英仏の力を借りたのだ」という。

「それにしても、どうして外人のバッコをおさえないのだ。これでは、かえって清朝が外人におさえられていることになりはしないか」これにたいして、だれも答えるものはなかった。

別な日に、城内を見物してかえろうとすると、すでに城門がしまっていた。しかし、フランス人たちは日本人と見て、門を開いて通してくれた。すると、土人(中国人)がこれに便乗して通ろうとしたが、許さなかった。ちょうど、そこへ中国の役人が外からカゴにのってやってきて、フランス人が制止するのもきかず、通りぬけようとしたので、仏人はムチでたたきのめし、ひききがらせた。これを見みた高杉は「ああ清国の衰弱ここにいたる。嘆ずべきことなり」

と書いた。上海で高杉らの見たものは、日本にせまりつつある運命であった。

日本への侵略に危機感を一層募らせたのである。

高杉の上海滞在は約2ヵ月に及んだが、帰国すると『政治、軍事対策の報告書』を長州藩庁に提出している。

  • ①西欧の近代的な軍隊組織、兵器、訓練を、清国軍や〝太平天国軍〃と比較して、日本軍の方が強いと結論しているが、このままでは日本軍といえども、西欧の軍隊に歯がたたないから、兵器ばかりでなく、軍隊組織そのものにも大改革の必要がある。
  • ②新しい陸軍とともに、強力な海軍を持たねばならぬ。鎖国以後、日本には、幕府や各藩にも海軍がなかったので、そのあいだに世界の海軍は異常な進歩を示している。
  • ③ 〝長髪賊〃【太平天国の乱】をめぐる内乱の実態と、西欧のアジア侵略との関係を研究し、近い将来に迫りつつある日本の姿をそこに見た。内乱をおさえるのに、外国の経済的、軍事的援助を求めるというのは、結局、国を滅ぼすもとだということを痛感した。

この『外国の経済的、軍事的援助を求めことは国を滅ぼす』-との「自立,自尊,独立」「他力本願ではなく自力本願」「知合合一の吉田松陰,松下村塾の革命思想の実践」という高杉のインテリジェンスこそが明治維新のトリガーとなり、日本の植民地化を防いだのである。

高杉はこの上海旅行で得た結論を、長崎で即実行した。

上海港で、英仏の大砲をのせて蒸気で走る軍艦の威力を目の当たりにした高杉は、外国船との海戦では、これがなければ太刀打ちできないと、藩庁の了解もとらず12万3千ドル(日本金にて約7万両)もする蒸汽船を独断で買いつけてしまったのだ。これには藩庁も唖然として、どこにそんな金があるのか、とかんかんに怒り高杉に破約を命じたが、高杉は、「破約せよというなら、腹をきるほかない」といって断固拒否、抵抗した。

この件で長州藩でのオオモメの事情を知ったアメリカ商人は驚き、自から破約を申し出たので、この取り引きは破棄されてしまう。

ところが、その後、日本を取り巻く軍事的な事態は一層切迫し、長州藩も横浜の英国商「1番館」を通じ、15万ドル(約8万両)を投じて、300馬力のものを一隻購入した。これが「壬戎丸」で、その幕府軍を倒すことに成功するのである。

高杉のインテリジェンスと先見の明、それに大胆不敵な行動力と突破力がなければ、維新の回天はあり得なかったのである。

                                                                     つづく

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
知的巨人の百歳学(121)-「真珠王・御木本幸吉(96歳)の長寿、健康訓」★『エジソンは人工真珠の発明を世界一と高く評価した』★『70歳のころの生活からたとえば九十歳頃の朝食は・・』

日本リーダーパワー史(714) <記事再録>百歳学入門(69)2013年3 …

no image
「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓併合への道』㉑ 「伊藤博文統監の言動」(小松緑『明治史実外交秘話』)⑥『伊藤はハーグ密使事件は韓帝の背信行為と追及』

「 英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が 報道した「日韓併合への道 …

no image
日本リーダーパワー史(655) 『戦略思考の欠落』(48)日清戦争敗北の原因「中国軍(清国軍)の驚くべき実態ーもらった「売命銭」分しか戦わない➡中国3千年の歴史は皇帝、支配者の巨額汚職、腐敗政治で「習近平政権」も続いている。

日本リーダーパワー史(655) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(48)   …

『Z世代のための百歳学入門』★『ブリヂストン創業者 ・石橋正二郎(87歳)の『「よい美術品を集める」「庭を作る」「建築設計をやる」この3つの楽しみを楽しむことが私の健康法』★『 石橋の経営名言20選『遠きを謀る者は富み、近きを謀る者は貧なり』

2015/08/19  知的巨人たちの百歳学(115)記事再 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ(93)』「意地の張り合いの中で、日本人の戦闘機パイロットは中国人パイロットと対峙している ”」「ニューヨーク・タイムズ」(3/8)

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(93)』 「In a Tes …

『オンライン動画』★『鎌倉稲村ケ崎サーフィンGoGo!(2021/5/14am730)ー富士山、江の島をバックのこの「サーフィンパラダイス」は最高だよ、台風シーズンに突入、ビッグサーフィン開幕へ。

     

no image
 日本リーダーパワー史(831)(人気記事再録)『明治維新150年』★『日露戦争勝利の秘密、ルーズベルト米大統領をいかに説得したかー 金子堅太郎の最強のインテジェンス(intelligence )③』★『ル大統領だけでなく、ヘイ外務大臣、海軍大臣とも旧知の仲』●『外交の基本―真に頼るところのものはその国の親友である』★『●内乱寸前のロシア、挙国一致の日本が勝つ』

2011年12月18日<日本最強の外交官・金子堅太郎③> ―「坂の上の雲の真実」 …

no image
日本リーダーパワー史(93)尾崎行雄の遺言・日本の派閥政治を叱る、『元老は去れ,政権を返上すべし』

日本リーダーパワー史(93) 尾崎行雄の遺言・日本の派閥政治を叱る、元老は去れ …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(147)』『アブーバクル・バグダディの「イスラム国宣言」についてーイスラム国自称カリフーを読み解くー「イスラム主義のグローバル化が進行し、民主主義、世俗主義、国民国家との戦いが これから延々と続く。

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(147)』 「イスラム主義の …

「今、日本が最も必要とする人物史研究②」★『日本の007は一体だれか』★『日露戦争での戦略情報の開祖」福島安正中佐②』★『日露戦争の勝利の方程式「日英同盟(日英軍事協商)」締結への井戸を掘った』

2015/03/10  日本リーダーパワー史(552)記事再録  前坂 …