現代史の復習問題/「延々と続く日韓衝突のルーツを訪ねるー英『タイムズ』など外国紙が報道する120年前の『日中韓戦争史②<日清戦争は朝鮮による上海の金玉均暗殺事件で起きた』
2019/02/13
2011年3月4日の記事再録
日清戦争の2ヵ月まえに金玉均が上海で暗殺された。これが戦争の1つの原因にもなっている、と外国紙は次のように報道している。
英国『タイムズ』(1894(明治27)年5月21日付)
『上海の政治的暗殺事件』
3月27日午後.上海で発生した朝鮮の元首相・金玉均の暗殺事件にまつわる事情はこの事件が政治的暗殺事件史上たとえ東洋においてもまれに見るものであることを示している。
今からおよそ10年前,この人物の経歴ならびに.彼の突然の失脚と祖国からの亡命を招いた一連の異様な事件について.本紙で取り上げたことがあった。
しかし.すでに時が経過したので.先ごろ発生した悲劇を説明する上で.当時の経緯をここにもう1度要約しておきたい。
1884年12月4日夜、朝鮮の郵政局総弁は,ソウルに開設された郵政局の開設記念晩餐会に自国の全閣僚のみならず.各国の公使、領事を多数招待した。午後10時ごろ,会場に閲入してきた男が,外で火事が発生していると通報した。権勢を誇る閔氏一族の有力者の1人が.招待客に心配させまいとして様子を確認すべく席を立った。そして建物の外の通りに出たたとたん刀を持った暗殺者の一団に襲われ,重傷を負った。
招待客は混乱のうちに散会しその夜のうちに朝鮮の大臣7人が暗殺された。
その後.直ちに発足した新政権の首班がこのほど暗殺された金だった。その翌晩、中国の駐在官とその軍勢の扇動、支援を受けたといわれる民衆が新内閣を打倒し,数人の大臣を殺害した。
金と2人の大臣は日本の協力を得てソウルの港,済物浦に逃れ,日本へ渡った。国王に支援を求められて宮廷を占拠した日本軍は暴徒や中国兵に包囲され,かろうじて自国の軍艦の待機する済物浦にたどりついた。
その後の外交交渉に関してはすでに周知のとおりだ。この血なまぐさい争いは.表向きは金と.そして権力の座にある閔氏一族との閥でくり広げられたものだが.実際に敵対していたのは.使節として東京に派遣されたことのある金を支援する日本と閔氏の後ろ盾となった中国だった。
問題は,朝鮮の野望に燃える両勢力のいずれが権力を掌握するかということではなく、中国と日本のどちらがこの朝鮮半島で優位に立つかということだった。結果は,朝鮮の激動の歴史に残る前回の事件と同様にこの事件でも中国とその恐るべき駐在官,袁世凱が勝利を収めた。
金は亡命者として日本にとどまり日本政府の扶助を受けていたが,政府にもてあまされるようになってからは.当時.日本に併合されたばかりのポニン【小笠原】諸島と呼ばれる太平洋のはるか沖の孤島に追放されていた。
今から数年前.東京に戻ることを許されて後は.比較的ひっそりと暮らしてきたが.今回の悲劇で再び世の注目を浴びることになった。
今となってみれば,彼は常に暗殺の危険にさらされていることを自覚していたものと思わわれるが.日本政府当局による保護態勢が整っていたことからすれば日本にとどまっている限り、少なくとも命が保証されていたことだけは確かだ。彼がなぜ中国訪問の誘いに乗ったのかは判明していない。
一説によると、東京で知り合った李鴻章の息子の招きで中国旅行に出たという。
いずれにせよ,金は3月26日、日本から汽船で上海に到着した。彼に同行したのは,長年.行動を共にした日本人の従者と東京の中国公使館通訳の呉.そして洪という名の朝鮮人だった。一行は皆日本名をかたって旅し上海の大きな日本旅館に投宿.洋装の日本紳士風で,いかにも親しげにしていたという。
3月27日の午後、呉が宿を離れると、洪は日本人の従者を使いに出した。こうして金と浜の2人が後に残り,金はベッドに横になっていた。このとき洪は拳銃を抜いて発砲したものと見られる。
鏡弾は金の左頬の上部に入り込み、なにごとかとベッドから振り向いたとおぼしき金は腹部に2発目を浴びた。このとき彼は廊下伝いに逃げようとしたようだが.あとを追いかけられて3発目を左肩甲骨の下に浴びた。金は階段の上で倒れ・銃声を蘭きつけ璃け上がってきた人々に血だまりの中で発見された。
洪はその間に逃走していた。殺害された人物と殺人犯の着衣の取り調べから.彼らの身元が判明した。翌日,外国人居留地の警察が,汽船で逃亡してきたものと思われる洪を上海川河口の呉松(ウ―スン)で逮捕した。その懐中から彼が普通の犯罪者でないことを示す多くの文書が発見された。
洪は数年間.パリのセルバントルホテルに滞在し著名人とも手紙のやりとりをしていたようだ。ヤサント神父や身内からの手紙が発見されているが,そのうちの1通,1893年7月22日付のものには次のように書かれている-「親愛なる友よ.どうか楽しい船旅を。あなたがたに神のご加護のあらんことを祈ります」。
また.フランス当局と取り交わした紹介状も何通かあり.どうやら.昨年7月マルセイユから東洋へ向けて出立したものと見られている。洪は逮捕されると金の殺害を速やかに認め.それが朝鮮国王の明白な命令を受けての犯行であることを明らかにした。
そして,自らの行動についても包み隠さず自供し.殺害後に逃亡したのは,金の日本人従者の仇討を恐れたからだと説明した。
その取調べの臥日本人従者が不審な動きと犯人に対する激しい憎悪を見せたために警察の手で犯人から遠ざけられたところを見ると.
その言い分もあながちでたらめではなかったようだ。浜は後に,ロシアや日本と通じていた金を殺害した者には国王から報奨が与えられることになっていたと言明した。
また.上海に到着するまで計画を実行せずにいたのは.金から可能な限りの情報を引き出すためと説明したが・実際は金の友人の多い日本で殺害することを恐れたものと思われる。
また.金を日本から中国へおびき出したのは.当局からの共感を得やすい土地で殺害するためだったとも考えられる。洪には豊かな資産のあったことが判明した。イギリスのソヴリン金貨14枚を所持していたほか.祖国の銀行にはおよそ5000ドルの預金があった。
彼は1884年,暴徒に八つ裂きにされ.その家族も毒殺された同姓の朝鮮政府高官の一族と見られている。
金の日本人従者は,遺体に防腐処置を施した後日本に運んで埋葬することを望んだが.中国は朝鮮当局の要請に応じ.
洪の身柄と金の遺体を引き渡した。殺人犯とその犠牲者の遺体は中国の軍艦で済物浦に護送されたが.最新情報によると.
犯人は英雄として出迎えられたものの.遺体の方は寸断された上でさらしものにされたという。
この事件が東洋全体にこれほど大きな波紋を投げかけることになったのは.事件にまっわる異常かつ不可思議な経緯と波乱万丈
の血なまぐさい生涯に劇的結末がつけられたことによるものと言えるだろう。
ドイツ紙『フランクフル夕―・ツァイイトゥング』夕刊(1894(明治27)年6月11日付)
『朝鮮について』
朝鮮で勃発した蜂起は,中国と日本の対立の故に.また朝鮮がロシアに隣接しているが故に.国線的な重要性を有している。ロシアは長い間.朝鮮半島奪取の意志を有すると考えられてきた。朝鮮は,端的にいえば.『極東の病人』だ。国王はほとんど権力を持たず.宮廷は全アジアのうちで最も不遺徳で最も腐敗している。
陸軍は全く価値がなく.また金がないので海軍は存在しない。朝鮮はその地理的な位置のためにのみ重要性を有している。中国は朝鮮を属国とみなしており.したがって蜂起を鎮圧するためすでに中国軍が派遣された。
しかし日本も,日本公使館と領事館を保護するため兵員を朝鮮に派遺した。というのも日本は条約でその権利を持っているからだ。ロシアは朝鮮西海岸にウラジオストクよりも良い港を獲得しようとし.他方.巨文島という海軍拠点を獲得しているイギリスはこの3国に朝鮮を気前よく与える気はない。
1884年のソウル王宮での大虐殺で指導的役割を演じた金が.政府の委託により上海で暗殺された。その暗殺に関する朝廷および政府高官の側の措置が.今回の蜂起の直接のきっかけを作ったと言われている。
金の暗殺のためか祭が催され,彼の遺体はソウル到着後、柩から引き出され.斬首にされ、その後八つ裂きにされた。手足は1つ1つ首都のさまざまな地区のさらし台の上につるされた。
これが政府の敵対者を奮起させ.全羅道で蜂起が勃発し.1万人が参加した。3人の政府高官が殺害され全羅道の米穀官はなんとか逃げ出し一命をとりとめた。
政府の穀物貯蔵庫一一全羅道は朝鮮の穀倉地帯である-は暴徒により略奪され焼き払われた。反乱鎮圧のため派遣された軍隊は全く不十分で撤退せざるを得なかった。
オストアジアティツシェ・ロイド紙によれば,日本政府はソウルの公使に訓令を発し,朝鮮政府に次の質問を提出させたと言われている。
金は日本政府の保護下に置かれていたのになぜ朝鮮王は臣下に金殺害を命じたのか?なぜ東京駐在朝鮮公使は,
日本政府に自己の行動を通知することなく突然日本を離れ、朝鮮に戻ったのか?もしこの2つの質問に満足し得る回答が得られない場合.日本公使は朝鮮との国交を断絶するよう訓令を受けている。
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