世界/日本リーダーパワー史(964)ー2019年は『地政学的不況』の深刻化で「世界的不況」に突入するのか』➂『●ファーウェイ事件で幕を開けた米中5G覇権争い』
2019/01/15
世界/日本リーダーパワー史(964)
●ファーウェイ事件で幕を開けた米中5G覇権争い
前坂俊之(ジャーナリスト)
「ファーウエー」(「華為技術」中国深圳市の通信機器メーカー、1987年創業の非上場)については少し解説しないとよくわからないと思う。同社は5G、スマホの世界トップ企業です。
現在の世界標準は4Gの通信規格ですが、今年から始まる5Gの通信規格は4Gの100倍もの超高速、大容量、同時多接続ができて、超高画質動画、AR/VR、人工知能(AI)技術、車の無人自動運動、ロボット技術、遠隔医療、スマート交通などの本格的なサービスが加速する。IOT(モノのインターネット)のネットワークでつながり、すべてのモノ、インフラ、医療介護、産業交通、商業サービス、教育、政府、軍事までドッキングして新しい産業、社会が実現する。その5G、スマホのトップ企業がファーウェイというわけです。
同社は世界30社以上の通信事業者と5G実証実験を実施。スマホの世界シェアでは1位サムソン、2位ファーウェイ、3位アップル。モバイルインフラ市場ではトップで28%を占め。2位エリクソン、3位ノキア、4位が中興通訊(ゼット)。
米国はファーウェイの何を恐れているのかというと、同社が昨年開発した世界最先端のCPU「 Kirin980」(回路線幅7ナノメートル)はAIの要となる機械学習や画像処理能力が世界最高で、一方、消費電力は最小クラス。このCPUを軍事転用して中国のこれまたトップシェアを握る自律攻撃型ドローンなどに組み込めば、大群衆の中から特定の個人を見つけ出して暗殺する自律攻撃型ドローンなど簡単にできてしまう」という。つまり、今後、劇的に進む「戦争のデジタル化」で同社の開発力に対抗できるメーカーがもはや米国には存在しないない」(「月刊「選択」2019年1月号」)
同社は世界全体で18万人の従業員を抱え、その約半分が研究開発スタッフだ。年間の研究開発投資は売上高の15%前後で、一七年には一兆四千億円を研究開発に投じた。その大部分が半導体と5G通信、AIに使われており、インテル、クアルコムなど米半導体業界全体の研究開発投資をファーウエー一社で上回る。研究開発予算の比較では米アマゾン、米アルファベットに続く世界3位。日本トップのトヨタ自動車の1.5倍に上る、けた外れのIT企業です。
すでに世界の5G市場の主導権を握っており、これまで米国が独占していたハイテク、IT,4Gの世界が脅かされており、もし同社がICT(情報通信技術)を駆使した兵器開発や生産に乗り出せば、対抗できる軍需メーカーは米国にはない。このため危機感を募らせてファーウェイの排除に向けて米国は猛反撃しているわけです(同前掲書」
2018年7月26日、米下院は2019年予算年度の国防予算の大枠を決定する国防権限法(NDAA)を可決した。その内容は米国の対中戦略であり、「ファーウェイ、ZTEが製造する危険な技術を米国政府の省庁が使用することを禁止する」1項目を盛り込んだ。
「この2社は民間企業という体ですが、設立当初から中国共産党と人民解放軍との密接な繋がりが指摘され、米政府の内部文書でも、「中国はファーウェイが国外で同社製品の導入契約を推進するよう、融資額の限度を1000億ドルに拡大している」とある」
ファーウェイ副会長の逮捕と中国系米大学教授の自殺の因果関係?
昨年十二月一日、ファーウェイの副会長がカナダで逮捕されたが、この同じ日に、米スタンフォード大学の張首晟(ジャン・ショウチャン)が飛び降り自殺していた。張氏は米国籍ながら、習政権が推進する「中国製造2025」計画やそのために海外ハイレベル人材の獲得を進めるプログラム「千人計画」のリーダー的存在だったといわれる。
上海出身の張氏は、神童をうたわれ、九三年からスタンフォード大学教授となり、「量子スピンホール効果の新概念の発見」で、毎年のようにノーベル物理学賞の有力候補と目されてきた。張氏は中国当局に米国の先端科学技術の資料を提供したなどの疑いで、米FBIから調査の対象となっていた。CIAは中国政府に協力的な中国系学者や「千人計画」のメンバーを捜査して少なくとも四人が逮捕、起訴されている、という」(「選択1月号」
ハーウエーや政府は米国側の批判を全面的に否定しているが、中国が政府、軍、企業、大学が一致協力して「サイバーセキュリティ―軍民統合推進計画」をすすめていることは、ニューズウイーク日本版」(11月27日号)は「東京五輪を襲う中国ダークウエーブー」で明らかにしている。
それによると、2018年9月、中国の政府系機関「中国サイバースペース管理局」は「サイバーセキュリティ―と情報化における軍民統合推進計画」をまとめた。「人民軍が未来のサイバー戦争に勝つための民間の協力分担」を行うことになり、人民解放軍は「ZTE」や「ファーウェイ」のような企業とのパートナーシップを強化し、大学との連携も推進した。この結果、20年前に初めて登場した中国のサイバー民兵は、今では1000万人を突破したという。中国政府は、毛沢東の「人民戦争論」を引き継いで「情報戦争では軍民の統合が必要である」として「サイバー民兵」「電子的民兵」を大量育成、動員する戦略なのだ」と書いている。
結局、習近平主導の「一帯一路」計画(世界経済圏構想)の情報インフラ整備はファーウェイなどが担当、グーグル、アップルなどの外国勢は一切排除し、中国13億人を中心にヨーロッパ、アフリカ、親中国と連携して、米国の覇権にに対抗している構図です。中国共産党1党支配を維持するためにスマホ、監視カメラ、顔認証システム、5Gを利用して、キャッシュレス社会を構築、すべての個人情報収集して、個人を格付けする独自の「超監視社会」をつくり、新疆ウイグル地区のイスラム教徒らを弾圧している。」
では米中貿易戦争はどうなるのか
トランプ政権、議会が一体となった総攻撃に対して、習近平氏は防戦一方ですね。十二月末に、米国からの輸入車や自動車部品に自動車部品など二百十一品目にかけている報復関税を一九年一月一から三カ月間、停止すると発表した。さらに『中国製造2025』の見直しに着手、1品目ごとに国産比率の数値目標を設けていたが、これを取り下げて、外国企業の参加を認めるなどの修正案をつくっているという。苦境に立たされた習氏は10月下旬に広東省を視察した際、「毛沢東のスローガンの自力更生の精神で奮闘せよ」と企業にハッパをかけており、果たして3月1日までに米国を満足させられるかどうかです。
とにかく中国は人口、国土面積、歴史もまるで世界一の異形国家です。経済規模(GDP)は、2017年の時点で、米国の63.2%で、このペースで行くと、2023年から2027年の間に、中国はアメリカを抜いて、世界ナンバー1の経済大国となる見込みです。
中国は2050年の共産党100周年では「中国の夢」世界の覇権国を夢見ています。しかし、その前に「中国の夢」は失墜するでしょう。
国連の統計では、2050年の中国の60歳以上人口は約5億人、80歳以上の人口は1億2千万人で現在の日本人の総人口とほぼ匹敵する。2050年の日本の「高齢無子社会」(8千万人)の何倍という恐るべき中国超高齢社会が到来する。現在の中国には介護保険もないし、国民健康保険すら、十分に整備されていないのにです。
トランプが仕掛ける「中国包囲網」によって中国の成長率が6%台からさら鈍化が予想される。中国的な旧弊な行動形式の変えなければ、「未富先老(未だ富まないのに先に老いていく)は一層早まる可能性が高い。
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