世界/日本リーダーパワー史(929)-『トランプ大統領が招く「米国孤立」と世界経済の混迷、世界恐慌の悪夢』(上)『米中関税戦争が本格化!』★『北朝鮮に完全非核化の意思なし』
2018/08/29
トランプ大統領が招く「米国孤立」と世界経済の混迷―
世界大恐慌による「経済ブロック化」の悪夢の教訓(上)
前坂俊之(静岡県立大学名誉教授)
米国と中国の世界の2大経済大国が、制裁と報復を繰り返す「貿易戦争」をエスカレートさせている。互いに譲らず、いつ終わるとも知れない不毛な争いは、世界大恐慌に発展するのか。
1930年代のアメリカウオール街の株式大暴落に端を発した「世界大恐慌」が世界貿易をマヒさせ『各国の経済ブロック化』生み、ヒットラーのナチズムやファシズムが勢力を拡大、第2次世界大戦の原因となった歴史の悪夢がよみがえる。11月の米中間選挙の結果が世界の未来を決める。
- 米中貿易戦争のエスカレートはどこまでいくのか
8月3日、米国は中国の知的財産侵害に対する制裁関税の第2弾を発動した。半導体や化学品など中国からの輸入品160億ドル(約1兆8千億円)、279品目に25%の関税を上乗せした。これで第1弾と合わせて500億ドル分で、中国からの輸入品全体の1割に相当する。
一方、中国も、米国と同額の160億ドル分に25%の報復関税を課して対抗した。トランプはさらに第3弾として総額2000億㌦規模の中国製品に税率を従来の10%から25%に引き上げるよう指示、報復合戦がエスカレートしています。米国のクドロー国家碇済会議(NEC)委員長は「中国はトランプ大統領の徹底的にやるという決意を過小評価もない方が良い。人民元安については「為替操作だ」と強くけん制した。
(結局、このトランプ政権の司令塔はナヴァロ大統領補佐官で、その「ナヴァロペーパー」(31P)によるもの。ピーター・ナヴァロ・カルフォルニア大学教授(当時)は2016年、大統領選挙からの政策アドバイザーで、筋金入りの中国脅威論者です。『米中もし戦わば――戦争の地政学』文藝春秋、2016年)を出版した。その後、ホワイトハウス国家通商会議議長(NTC」に就任、トランプの中国作戦の参謀です。
この「ナヴァロペーパー」(トランプ氏の経済政策の評価)は『米中もし戦わば――戦争の地政学』の圧縮版であり「世界貿易はペテン師にやり込められている。中国は最大のペテン師で、米国にとって最大の貿易赤字国でもある」「トランプ政権は我慢しない。貿易の不正が続くなら、防御的な関税を課す」と宣言しており、米貿易赤字の構造問題では①相手国の為替操作②相手国の重商主義と不正貿易③米国の貧相な貿易交渉が年5000億㌦もの貿易赤字の要因だと分析する。
赤字解消に「あらゆる手段を用いる」と宣言しているのです。また、ナヴァロ氏は「中国は話し合いをしても自説を曲げない頑固な国で、対話を繰り返しても意味がない。圧力をかける続ける以外にない」という超強硬主義者です。トランプはこのペーパーに従って攻撃している」
11月の米中間選挙が近づいており、トランプ氏は精力的に各地を遊説し、自らの減税政策でGDP(4-6月)は4,1%と好調なことをアピール、『中国への輸入関税は正しい。2020年も大統領に再選してほしい」と訴えている。
トランプ氏のフェイクニュース(偽情報)」、ツイッター癖はますますこうじている。米ワシントン・ポスト紙によると、大統領就任以来この7月末までの558日間に、虚偽、または誤解を招く主張を合計4229件も流した。とくに、首脳会談が多かったこの2ゕ月間では978件と急増している。しかし、共和党支持層による大統領の支持率は90%に迫る。米調査機関は昨年l月の政権発足時から全体で40%近くの水準をぴたりと保つトランプ大統領の支持率を「異例の安定ぶり」と評する」(日経8月8日付)」
一方、中国側はメンツ重視の権威主義国家なので、早速、報復対抗にでたが、第3弾4弾の打つ手は、だんだん限られてきている。
トランプ政権の制裁対象は第1~3弾を合わせて2500億㌦。中国からの年間輸入総額(約5千億㌦)のまだ半分で、余力を残している。
ところが、中国の制裁対象は計1100億㌦で、米国からの輸入総額(約1300億㌦)の8割を超した。中国側の弾が底をつき始めている。
- 中国の打つ手は限られている
「中国側がこのタイミングで報復措置を発表した背景には、習近平国家主席が共産党の幹部や長老らと重要課題を話し合う「北戴河会議」(8月中)が開催されることです。ここで習近平の国家主席の任期制限を撤廃し、2期10年を超える長期政権も視野に入れた永久独裁化、習近平賛美のメディアキャンペーン、米中貿易戦争の拡大、「1帯1路」計画への周辺国からの反発などで批判されるのではないかと恐れて予防措置の手を打った。習近平が米国に何の対抗策も打ち出せなければ、「弱腰」との批判もでる。習近平はそれを避けるために「弾切れ」を覚悟のうえで反撃に出たとの見方もです。
「中国側の報復項目に、米国から輸入の液化天然ガス(LNG)に25%の関税をかけたのが注目される。石油輸出国となった米国は液化天然ガスを資源輸出の武器にしており、中国はメキシコ、韓国に次ぐ3番目の輸入先だが、この報復関税は中国の断固たる反対姿勢を示したものだ。さらに、最大の輸入の大豆にも25%かけたので、米国の大豆農家、畜産農家に大きな打撃を与えているようです。
(A)「確かにそうですね。米国から中国への農産物輸出は、年間約二百億ドルにのぼり、その半分以上が大豆で、米南西部の小麦農家や畜産業界への打撃は大きい。このため、米政府は「総額百二十億ドルの緊急農業支援を行う」と緊急発表した。しかし、米国内産業での農業離れは深刻で一九五〇年代に五百万以上だった農家の数は、二〇一二年に二百十万まで半減し、日本の農家の数とほぼ同じ。 農家の収益総額は、昨年は約六百億ドルとでこれまたピーク時の半分です。移民制限と中国との貿易戦争のダブルパンチでトランプ、共和党支持者の多い農家は悲鳴を上げている」
今回の報復措置をみると、中国の今後の対抗策には限界が見え始めている。そのため関税以外の措置で➀米製品の不買運動②中国での米企業の投資規制や、認可先延ばし③米国債の大量売却や購入規模の大幅減額、などが考えられる。特に中国の米国債保有額は5月末現在で約1兆1800億ドルと外国勢トップ(日本は2位)で、大量売却で米経済は衝撃を受ける。ただし、これは人民元相場も不安定化させる“もろ刃の剣”にもなるので、そのあたりで中国側は苦慮しているかもしれませんね」
毎日新聞(7/28)によると、これまで中国側の人権状況にくちばしを余りはさまなかったトランプ政権が貿易戦争と並行して中国新疆ウイグル自治区のイスラム教を信仰する少数民族ウイグル族をめぐり「中国当局がテロ対策を名目に数十万人を拘束している。数十万、あるいは数百万とみられる人たちが、再教育施設に移され、政治教育を強制されている」と非難した。漢民族優先主義の習近平思想は周辺異民族ヘの帝国主義的、植民地主義的な弾圧を加えている。日本もこの人権問題に目をつぶるべきではないね。
- 米朝会談の行方は?、日朝会談はまだまだ先・・
米朝首脳会談(6/12)については「トランプ氏の大失敗、金正恩の大成功、中国の大喜び、一番割を食ったのが日本」などと世界メディアは酷評してた。その後、2ヵ月間経過したが、「非核化」については進んでいない。当初、トランプは全面的で不逆的な非核化(CVID)という言葉は北朝鮮を刺激するために使わな」と指示していたが、北朝鮮の態度に業を煮やして8月3日、北朝鮮の違法な資金取引に関与したとして3団体とl個人を新たに制裁対象に加えた。
翌4日開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議でボンベオ米国務長宮は「北朝鮮の非核化に関する具体的な動きがないとして、制裁継続の必要性を強調した。
これに対して、同会議で北朝鮮側の李容浩外相は「米国は制裁を声高に主張し朝鮮半島の平和実現の最初の一歩となる(朝鮮戦争の)終戦宣言に後ろ向きだ。米国がわが国の懸念を払拭する強い姿勢を示さなければ、われわれが一方的に非核化の取り組みを進めることはない」と強く反発した。これまで通りの展開「早く分け前をよこせ」(北朝鮮)、「非核化を実行するまでは一切やらない」(米国)というかけ引き、押し合いが今後も続くのです。
8月11日のCNNの報道では、 北朝鮮の非核化をめぐる交渉で、米国が再三にわたり北朝鮮側に提案を伝えているものの、いずれも拒否されている。米国側は「完全に検証された非核化という終着点」に至る道筋について具体的な提案を行ったが、北朝鮮側は「強盗的」だとして、提案をすべて拒否したという。
それみたことかと言いたいね。結局、トランプの独断で進めた米朝首脳会談で,あいまいな、どうにでも解釈できる協定を結んだのが原因です。米国側は再び非核化(CVID)で仕切り直しのですが、トランプは中間選挙に頭がいっぱいで、それどころではない。金正恩のやりたい放題を許す失敗外交の繰り返しとなるのか。
そのためか、制裁逃れのための北朝鮮船舶が海上で船を横付けして石油精製品を移し替える違法な「瀬取り」も増えている。国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会・専門家バネルの報告書では「瀬取り」による石油や石炭の密には大幅に増え船舶40隻や130社が関与した、安保理決議で全面禁輸となっている鉄・鋼鉄は、昨年10月から今年3月の間に、中国やインドなどに1400万ドル(15億5700万円)近くを輸出した。シリアの武器密売人を通じて、北朝鮮製の通常兵器や弾道ミサイルがイエメンやリビアの武装集団に渡っていた、などの調査結果が報告されている。このため安倍首相は8月8日、グテレス国運事務総長と首相官邸で会談し、北朝鮮の違法な「瀬取り」を防ぐための国際的な包囲網を呼び掛けた。
日朝会談は見通したたず
ところで、まだ日朝会談は見通しがたっていませんね。河野外相は8月4日のボンベオ米国務長官との会談で、拉致問題は「日本独自が北朝鮮と直接協議し、あらゆる手を尽くす決意だ」と述べた。そのために、ASEANの会場で、李外相を追いかけて初めて接触したが、日本メディアは外相同士が会談と報道じた。これなどはほんのわずかのあいさつ程度の立ち話で、北朝鮮は会談とはとみなしていない。つまり、日本側の会談をあせった前のめりの行動です。こうしたお願します、話し合いたいという態度が舐められるのです。トランプ、金正恩の恫喝、怒鳴り合いのケンカ外交と比較すれば、あまりにおとなしい。昭和戦前の軍部の強硬外交にはもちろん賛成できませんが、相撲でいえばでつっぱっ押しまくり、最後に引いて投げ飛ばす「押してもダメなら引いてみよとのかけ引きも重要だよ」(笑)
また、韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使は7月25日、
民衆蜂起による金政権の崩壊もありうる。北内部で政権に対する反感が高まっている。住民は政権の宣伝運動に耳を貸さない。確実に金正恩の時代は終わる」と語った。
『ベルリンの壁』の崩壊から20年。今やインターネットやテレビをいくら情報を遮断しても、韓国、日本、中国の豊かで自由な生活ぶりが大量に流れているので北朝鮮の国民をだまし続けることはできませんよ…
「ルーマニアで24年間にわたって独裁者として君臨したチャウシェス元大統領がなぜ倒されたか、自分はサッカー大好き人間で、CNNや国境を超えるテレビで見ながら、国民には情報の自由を一切禁じて、「情報封鎖国」にしていた。
これに怒こった民衆の革命で倒され、処刑されたのは『ベルリンの壁』の崩壊の1ヵ月後のことですよ。いかなる独裁者も「情報の国境をこえる自由な流れ」をストップすることはできない。20年後の飛躍的に進歩したインターネットSNS,youtubeをストップすることはなおさら不可能です。金正恩は遠からず同じ運命となることでしょうね。」
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