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日本リーダーパワー史(845)★記事再録『伊藤博文の『観光立国論』ー『美しい日本の風景・文化遺産こそ宝』<百年前に唱えた伊藤首相のビジネス感覚を見習え>

      2017/09/24

日本リーダーパワー史(845)

     2010/12/08の記事再録日本リーダーパワー史(108)

伊藤博文の『観光立国論』―

『美しい日本の風景・文化遺産こそ宝』

 <百年前に唱えた伊藤首相のビジネス感覚を見習え>

           (前坂俊之・ジャーナリスト)

 

以下で紹介するのは昭和11年版『伊藤博文直話』(千倉書房)=(2010年、復刻・前坂俊之編、新人物文庫収録)の中の伊藤の講演『名所古墳の保存』である。

日本では今年10月にやっと観光庁が発足して観光立国を掲げて、外国人観光客を増やそうと躍起になっているが、なんと遅いことか。いかに政府や官僚、国民も含めて世界の中で日本の良さを自覚していなかったかの証明でもある。

100年以上前に国際人・伊藤博文はその豊富な海外旅行体験から日本の地政学的、自然的な特徴からいって世界的な観光地になれるとみて、『観光立国』を力説していた。

外国人を親切にもてなすことこそ、異文化コミュニケーションを理解することこそ観光ビジネスの基本となることをその鋭いビジネス感覚、国際感覚で見抜いていた、歴代総理大臣と比較してみても驚くべき先駆的であるので、ここで紹介する。

『名所古墳の保存』について

 東洋諸国(アジア)のありさまを見ると、支那(中国)を中心として北は朝鮮、南は安南(ベトナム)・東京・シヤム(タイ)・南洋諸島であるが、南のほうは熱帯に属していて非常に暑い。

支那(中国)も夏は思いのほか暑い所であって、風景なども奥のほうに入ればずいぶん大きな風景もあるが、海岸を見まわして見たところでは、ほとんど風景として見るべき所はない。朝鮮などもやはり同様である。

今は朝鮮・支那・南洋の諸島から印度(インド)地方にまで各国の人が出かけて行って、頻りに貿易を営んだり、他の各種の事業に関係をしたりしているが、夏の暑さや、土地の不清潔にして流行病や何かの常に多い所から、夏は日本を天国のように考えて、多く日本に避暑に来る。

避暑に来ても、ひと所でただ安坐して、涼しくさえあれば楽しいというわけのとものではなく、日本の地をだんだん旅行して歩いて、風景のいい所に足を駐め、そこで遊んで楽しむというようなわけである。

 この数年の間に、日本へ来遊する者の数がだんだん増してきている。来遊する者は支那・朝鮮・南洋諸島・印度地方にいる者ばかりかというと、そうではない。ヨーロッパまたはアメリカの各地方からも、日本の風景や気候のいいことを聞いて、旅行をしてくる人間が、年々殖えてきている。

 日本に来遊する者は、日本に来て貿易を営む人々などとは違って、みな資産に余力のある人間ばかりであって、銀行に為替を付けて金を持ってくるか、あるいは自分のカバンの中に入れて持ってきて、その金を使って日本の各地に遊んで身心の楽しみを買い、耳目の楽しみを買うというのが目的である。

外国人は日本を世界に比類なき名所として見物にくる

大きな風景は、ヨーロッパにもアメリカにもその他の大陸にもずいぶんあるが、日本の風景とは大いに異なっている。日本の風景は小さい区域において多いのであって、小さい区域において風致をなしているものは誠に美しい。

その美しい風景を見るのを楽しみ、清潔なる場所を好んで、外国人は日本を世界に比類なき名所として見物に出掛けてくるのである。   

 例えば厳島(いつくしま、広島)のごときも、自然に資本を持っているようなものである。ここに目をつけて、風致を保存するとともに、その地の繁栄を図る工夫をしなければならない。

その土地が繁栄すれば、従って風致もますますその美を加えていく。また保存にも力を致すことが出来る。いかにいい風致があっても、掃除や多少の人工を加えなければ、その秀麗を保つことが出来ない。

 自然の風致に人工を加えるから、その景色がさらに増すのである。故にその風景を十分に保たしめ、さらにその美を加えしめようというには、どうしてもその地を富まさなければ出来ることではない。

将来は、各国人のこの土地に来遊する者に対して、十分便利を与える方法を考え、そうして彼らを満足せしめ、従ってその土地の利益になるように努められるが必要であると思う。

いずれの国においても、自然の風致のある所は、多く各国の人を導いて来遊させ、かつ、なるべく永く足を駐(と)めしむるようている。他国の人をして、なるべく金を多く落ときしめようと図っている。

フランス)のパリは打ちゃっておいても、自然に人のふくそうする所である。イギリスのロンドンも世界の大都で、自然に人が往来する所である。

しかし瑞西(スイス)の山中は夏でも雪がチラついて、湖水の数は数え尽くされぬほどであるが、山の上には鉄道を敷き、旅館なども造り、いろいろ工夫をして他国の客を引いて、それより得たる利益をもってその国の利益とするようにしている。独り瑞西のみでない。世界至る所、争ってこういうような方法でやっている。

日本は風景の美を自然の資本として持っていて、これに多少の人工を加えれば、人が金を投じて遊びに来る所である。


故に少し工夫を加えさえすれば、人をして喜んで金を遣わせることは決して難しいことではない。厳島の一島のみではわずかなものであるが、日本全体にわたって、今申すような仕掛けにすると、なかなか大きなことになる。

私は一昨年、欧羅巴(ヨーロッパ)に参って、帰りがけに加奈陀(カナダ)から飛脚船に乗ったが、これに乗り込んでくる旅客を調べてみると、日本の風景を見物に来る客が少なくない。

そうして、その来遊客はいずれも有福な人たちで、あるいは家中の者もあれば兄弟連れもあり、また友達連れの者もあって、日本へ到着するまでの船賃その他の旅費等を別にして、いずれも一人が日本で使う金が平均五百円である。今のところでも、そういう来遊者が年々に使い捨てて行く金額の総体は、たいがい五、六百万円から、一千万円に近い。

 故に、もし、日本各地の風景のいい所に旅行等の便宜をつけておけば、その利益は非常に殖えて行くであろう。利益が殖えれば土地の繁昌を助けるに違いない。ことに本年からは、改正条約も実施されるのである。

旅行ビザの問題

 今までは日本に来て居住する外国人は、願書を出して旅行免状を受けなければ日本国中を旅行することが出来ず、旅行免状を持っていたにしても、行く先々で、巡査なぞから旅行免状を出して見せろと言われるような面倒があった。

もう旅行免状も要らないから、面倒も何もなしに勝手次第にいずれの所に旅行することも出来れば、いずれの所で家を借りることも出来、いずれの所へ行って泊ることも、いずれの所へ行って土地を借りることも、また、いずれの所で商売することも、日本人と連帯組合で商売を起こすことも、または一人立ちでやることも、いずれも自由に出来る。

 そうなると、日本に居住している外国人はもちろん、他の外国人もだんだん出かけて来る。来れば必ず金を落として帰るから、ただこれまで通りに日本人の見物客や参詣人ぐらいに目をつけずに、世界各国より来る旅行人のために便宜を図るようにしたならば、その土地の繁昌は容易く出来ることと考える。外国人の待遇については、よく心を致さなければならぬ。外国人は至って待遇のしやすいものである。

ホテルでの外国人の扱いは簡単

 例えば宿屋をこしらえて泊らせるにしても、日本人と違って、食事をする時も決まっておれば、起きるにも寝るにも時が決まっている。日本人などは夜半時分に帰って来て、熱い汁でなければ飯を食わぬなどというように、時ならぬ時分に急なことをいって困らせることがあるが、欧米人はそういうことはない。

故に食事の時にチャンと手当てさえすれば宜しい。もし時ならぬ時分に食事を求めたら、その用意がしてないといって断っても、先方で不足はいえぬ風習になっている。誠に待遇は容易い。ただ親切に、何事も欺かずして信用を得るようにさえすればよろしいのである。

 これは何人に対してもそうなければならぬ。殊に彼らに対しては、この点に注意しなければならぬ。

 日本に来遊する外国人に対しては、旅行案内が出来ている。その旅行案内にはどこそこはどういう風景である。何処其処にはどういう宿屋がある、其処には通弁(通訳)がいるかいないか、旅龍屋(ホテル)の一人前の宿賃がいくらぐらいで茶代(代金)がいくらぐらいであるか、何処から何処まではドンナ鉄道があるか、あるいは人力でなければ行かれぬなどということが委しく書いてある。

これは、彼らの来遊に至極便利を与え、かつ遊意を惹起する種となるのである。

異文化への寛容な心をもて

今日の世の中は、昔と違って、伊勢の神廟(しんびよう)=伊勢神宮=といえども外国人が参拝出来る。徳川氏時代には日光では大名でも廟所の前に行って、遠方からお辞儀しか出来なかったのである。

今は如何なる外国人でも近くに行って、その結構を見ることが出来る。また富士山なぞは、修行者でなければほとんど行かれないことになっていたが、今では女でも上られる。各地ともに、そういうことになっている。

故に、わけも分からぬ癖に、宗教的観念などをもって土地の繁昌を妨げるようなことはさせぬようにせんといかぬ。如何に他国の人だからといっても、何も日本で尊敬するものを汚そうと思う者はありはしない。

 しかし物を知らぬと、知っている者に不敬をしたという観念を起こさせるようなことをするかも知らぬが、それは冤罪というものである。日本人で西洋に旅行する者もたくさんある。それらが西洋に行ったとて、耶蘇(キリスト教)の教堂などにおけるお辞儀の仕方を知ろう道理がない。

中には外国の目から見たらば随分不敬なことをしないとも限らぬ。けれども決してそれを咎める者はない。風習が違うから、分かろう道理がないといって恕(ゆる)しているのである。

 それで、外国人を親切に丁寧に世話をしてやれば、その親切なる仕方に感心して、先方もまた丁寧になるのである。日本の壮士の肩をいからして兵児帯(へこおび)を結び、妙な下駄を穿いて目を怒らし人が通れば肩で突き当たるというがごときは、甚だ見苦しいのみならず、人たる者のなすべからざることである。ややもすると、田舎の物の分からぬ者を、そういう風習に誘導するような風が近頃見える。甚だよろしからぬことである。

 本当の愛国心とか勇気とかいうものは、そのような肩をそびやかしたり、目を怒らしたりするようなものではない。日清戦争の時に、日本の兵士は勇気を出して働いたが、ああいう勇気を出すべきところに出すのが本当の勇気である。みだりにこれを出すと効能を失って他に卑しめられる。

彼らは決して故意に霊地を汚そうと思って来るのではないから、もし彼らが間違いをしたならば、日本の風習はこういうものであるといって教えてやりさえすればよろしいのである。

自分の国に金を落とさせる仕組みを考えよ(すごいね、この発想)

 今日は経済的の観念をもって、その土地の繁栄を心がけなければならぬ時である。
今、各国が互いに争っているのは金儲けであって、自分の国に金を落とさせる仕掛け方法を争ってやっている。豪らそうなことをいってみたところが、算盤を持ってみると、年が年中、損をしているようなことでは役に立たぬ。

金を儲ければ、その結果として軍艦も出来れば、大砲も出来、砲台も出来れば、水雷もまた出来る。これに反して、金がなければ今日は何も出来ぬ。
学校を起こして教育を施すこともできない。このような仕掛け、方法で日本に金の落ちる高は外国との貿易の算盤には乗ってこない。

外国貿易の計算は海関税の調べで分かる。如何なる物がいくら入ってその代金がいくらで、それに対する税金がいくらで、また外国に出た物がいくらで、その価がいくら、その税金がいくら、というように、勘定がそのまま分かるが、旅行に来た者がわが国に落としていく金の勘定は、海関税では分からない。

しからば何に因って分かるかというと、外国と取引をしている銀行の為替を調べてみると、およそ分かる。


外国人が旅行をして日本に来ると、たいがい金を為替で取り寄せる。こちらにある西洋の銀行か、あるいは日本の銀行に宛てて為替を振り出す。日本の
銀行は正金銀行一つしかないが、向こうから派出してある銀行はいくつもある。その君の書付も、条約改正が実行せられればみな分かる。

また外国人は、自分で持ってきた金を銀行に預け入れをして留めおくから、為替の金や、預け入れの金を銀行について調べてみると、日本にはいくらこの種の金が入ってきたかが分かる。

貿易外収支となる

その金は、実にエライ額であろうと思う。各国においても始終、そこへは眼をつけている。仏蘭西(フランス)や英吉利(イギリス)は物産の製造が非常に盛んな国で、装飾や芝居なども非常に盛んな所であるから、世界中の人がみな遊びに行って、そこに落とす金額は非常なものである。貿易では負けても、落ちる金が非常に多いから、差し引いてみると、やはり勝っていることになる。 

外国から物を余計に買っても、金の出し入れの上からみると、負けてはいない

のである。国の繁昌を図るには、なるだけそういう仕掛け方法にして、余計金の落ちる工夫をしなければならぬ。
それも風土も悪く景色も悪いというような所では、来いといっても人が来やしない。

日本は先刻から述べたように、全国を挙げて大いなる庭園で、四方は海をもって取り巻いている。
空気の流通はよし、経緯度のからみても熱帯地方や支那などに較べると、暑くなく寒くなく天然の資本を持っている。天然の風景によって金を余計に儲けることが出来るようになっている。就中(なかんずく)、厳島のごときは、昔から日本三景の一つといわれ、かつ水は清潔である。

水は人の健康上には非常な関係がある。水のみでなく、土地も清潔であるから、計るべからざる利益が備わっているのである。
腐敗した水が多いとか、あるいは悪水の掛け方が悪いとかいうような所には、ややもすると悪疫が流行る。本土のごときは右のような虞はさらにないから、健康上からみても便宜である。

かような土地柄であれば、その土地の繁昌を図ることはさほど難しくはないと思う。ただ、みなの目のつけどころが改まってゆきさえすれば、利益を図ることが出来るのである。

利益を図る結果、その土地が富み、その土地の富む結果、日本の富を増すのである。保勝は自分も賛成をし、かつ望んでいる事柄である。で、諸君へご注意のために、そのことをお話ししておく次第である。

                         おわり

 - 人物研究, 現代史研究, IT・マスコミ論, 湘南海山ぶらぶら日記

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