軍閥研究―『陸軍工兵の父と言われる』-上原勇作陸軍大臣の誕生と上原閥の形成について
2015/01/01
前坂俊之
ちょうど、在任10年に及んだ寺内正毅陸相が明治44年8月に辞任後から、大正7年9月に、田中義一陸相が就任するまでの約7年間は、長州閥の空白期間であったが、この間に、薩摩閥とみられていた上原が陸相に抜擢された。
その陸相時代はわずか8ヵ月と短かかったが、抜群の工兵・軍事技術の知識に秀でて、政治力も兼ね備えていた上原は長州閥に恩を売って、山県、桂らの長洲閥の凋落のあとに元帥となって陸軍に君臨し、新たに強力な上原閥を築き上げた。
当時の工兵の教練といえば、徒歩教練をしたり、編束物などを作ったりで、技術教練は低レベルであった。野戦構築や小河の架橋などがせいぜいで、大陸での戦争に備えて大河渡河作戦などは考慮されていなかった。陸軍の歩兵、騎兵、砲兵に、他兵科に比べて、技術的にも、将校の質の点でも大きく見劣りしていた。フランス式の工兵学を学んだ上原はこれを一挙に改革していった。
その後、参謀本部将校として、工兵会議議員、鉄道会議議員、港湾調査委員等を兼ねて、インフラ整備にあたり、33年7月に陸軍少将に任ぜられ、砲工学校長、参謀本部第三部長兼任。34年7月には「工兵トップ」の工兵監となった。ここで、一切の兼務を解かれもっぱら工兵全般の充実、改善に全精力を注ぎ、来るべき日露戦争に備えた。
高島鞆之助、野津道貫がそのあとを引き継ぐが、長閥をおさえて、薩閥の団結を堅持していた。その後は陸軍きっての大物といわれた川上操六がトップとなり、その実力で、長洲軍閥を大きくリードし、陸軍を押さえきっていた。
永年、寺内の側近として次官を務めてきた点が買われたのである。ところが、石本は在任わずか8カ月で、明治天皇の崩御(45年7月)に先立ち、同年4月に急死してしまった。この後釜は、当然、長閥の木越安綱が座ると見られていたが、いざ、ふたをあけてみると、飛ばされて宇都宮にいた上原勇作に白羽の矢が立った。
これに対して、「ロシアの報復」を恐れた海軍は山本権兵衛、斎藤実、加藤友三郎の強力トリオで、六・六艦隊から八・八艦隊完成の動きを示し、陸軍も負けじと、平時25師団、戦時50師団編成の軍備増強を国策とし当面、朝鮮への二個師団増設を強く要求していた。石本陸相、桂太郎内府(内大臣)、枢密院議長・山県と田中義一軍務局長が一体となって政府に圧力をかけていた。
大正元年11月22日の閣議で上原は正式に2個師団増設案を提出したが、同30日の閣議で否決された。上原は山県に相談して辞任を決意し、内閣更迭に持ち込む策に出た。12月2日に西園寺首相を無視して、即位間もない大正天皇に「増師の否決は国防の無視である」と前代未聞の単独帷幄奏上を行い、辞任してしまった。
その才を惜しんだ山県元帥、次の楠淑幸彦陸相、寺内朝鮮総監らが引き止め、上原も再起を期して第3師団長に転出した。しかし、すぐ病気になり待命、これで終わりかと思われたが、また復帰して大正3年4月には教育総監に返り咲いた。同4年2月に大将に,同12月には長閥の長谷川好道にかわって参謀総長に栄転するという三段とびである。大正12年3月までの都合8年以上も参謀総長のイスに座ることとなった。
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