日本リーダーパワー史(283)大隈重信の伊藤博文論―『外交手腕のない国内政治家は第一流の政治家ではない』
日本リーダーパワー史(283)
<伊藤博文のリーダーシップー
世界の中の日本に一番必要なのは国際政治家であり、
外交能力のある宰相である。>
大隈重信の伊藤博文論―
『今日の世の中では、いかに政治家として国内法制の上に
働く能力ありといっても、世界に向って働く外交の手腕が
なかったならば、第一流の政治家たることは出来ない。』
『今日の世の中では、いかに政治家として国内法制の上に
働く能力ありといっても、世界に向って働く外交の手腕が
なかったならば、第一流の政治家たることは出来ない。』
前坂 俊之(ジャーナリスト)
『日本政治沈没の原因は・・現在の日本政治だけでなく、大正以後の日本政治に欠けていたものは外交能力に長けた、タフネゴシエーターの総理大臣がいなかったことである。そして、現在は民主も自民も維新も、外交能力のあるトップリーダーは1人もおらず、『内向きの』の国内最優先の地方宰相・ローカル政治家ばかりで日本沈没は一層不可避の情勢にあるのだ。
明治・大正・昭和三代にわたり、文明批評家として、傑出していた三宅雪嶺は「西郷、大久保、木戸が維新三傑とならび称されているが、そのあとの第二の三傑をえらぶとして、伊藤、大隈は動かぬところとし、のこる一人は山県か、井上か、松方か、大山か、きめるのに苦しむ」と書いている。
また、中江兆民は「伊藤、大隈の差は紙一重である。しかも伊藤は才子の最高なるもの、大隈は英雄の最底なるもの、ちがいはその本質に存する」と指摘している。伊藤、大隈とも大久保に可愛がられて出世して、互いにライバル関係にあった。
1881年の明治十四年の政変で、ビスマルク憲法か、英国流の議院内閣制かで大論争になって、大
隈は伊藤、井上に追われて野に下り、その後、終生のライバル、政敵となるのである。その大隈は伊藤を「外交能力ばかりか、財政経済能力も高く評価し、第一等の政治家とほめている。明治日本の発展はこうしたトップリーダーがゴロゴロいたのである。
隈は伊藤、井上に追われて野に下り、その後、終生のライバル、政敵となるのである。その大隈は伊藤を「外交能力ばかりか、財政経済能力も高く評価し、第一等の政治家とほめている。明治日本の発展はこうしたトップリーダーがゴロゴロいたのである。
今の民主党だけでなく、自民党も含めて宰相たるものの一番必要な条件は外交能力、国際交渉力である。外務大臣の重要性を認識せず、外交音痴の歴代総理大臣がいかに多かったか、外交能力のない日本政治がー日本沈没の原因なのである。
明治の政治家が偉かったのは伊藤、大隈のように外交能力のある人間が宰相になったことであり、国際社会に仲間入りした明治の小日本にとって、外国との交渉が最重要課題であったことを、国難に遭遇していた政治家1人1人が自覚していたことである。それが明治の突破力になったのである。
伊藤博文を大隈重信が語る。
(以下は「大隈伯百話」江森泰吉編、1909明治42年刊から)
(以下は「大隈伯百話」江森泰吉編、1909明治42年刊から)
名山の真相は遠く望め
名山は遠く望まないと、よくあらわれない。「来て見ればさほどでもなし富士の山」で、余り近く側に寄ると、群山に抜きん出て、不動の姿で雲表にそびえ立っている雄姿がとうてい満足に分るものではない。わが輩も、伊藤博文公には、余り近付き過ぎているから、かえって遠い方の人から観た方が、公の真面目を、発揮することが出来るかも知れない。
藤公(伊藤博文のこと)という富士名山
外国人が日本にくると、何を一番喜ぶかといえば、日本の山々、峰々を代表した富士の山で、航海者が遥かな海面から、蒼天にそびえる芙蓉峰を見た時の喜びは、言語に尽くされないのである。これとひとしく、外国人から、日本の人たちを見たならば、凡俗を超脱した偉人、群山を眼下に見下した伊藤公という富士の名山が、海外列国人の眼光に映っていることは、何人といえども、疑いの無いところであろう。
人物地図の長州系山脈
伊藤公という富士の名山は、海抜3500メートル、これにたいして、3000メートル前後の名山大嶽が、前後左右に連なっている。これがすなわち、日本人物地図における、長州系(山口県)の大山脈である。
長州系の大山脈と相対して、薩州系(鹿児島)の大山脈があるが、これは薩長と並び称せられ余程大きな大山脈であったが、不幸幸にして、西郷隆盛や大久保利通の噴火山が、噴火しおえて、わずかに煙の残っているのが、大山公(嚴)といい、松方侯(正義)という。
いずれも3000メートル前後の名山大嶽ではあるが、薩州山系の噴火は、概して止まろうとしているにかかわらず、長州山系の噴火は、今なお盛んに活動している。なかんずく、伊藤公という富士山のごときは、その噴火山中の大きくすぐれたものである。
日本一の富士活噴火山
以上の状態が、遠く海外から望めば一日ではっきりとして、伊藤公の富士の名山、海抜3600が薩長並びつらなる各山脈のそびえる群山連峰を圧している。
これは遠ければ遠いほど、極めて明白にわかるのである。しかるに新聞屋先生(マスコミ)などが、どうかすると、富士登山を企てて、其の中腹などを駈けずり廻わって、ここにこういう不格好なものがある、あそこにあぁいう噴火口があると、ややもすれば、近寄り過ぎた近視眼をもって、伊藤公たる富士山を、かれこれ評するがごときは、その批評たるや決して伊藤公の真面目を発揮し得たものではない。
ともかくも、伊藤公は日本第一の富士の活噴火山で、薩州其の他の山脈におけるがごとき、死噴火山ではない。
第一流の日本の政治家
伊藤公は、日本の人物地図中における、長州山脈系の富士山であるとして、さてその伊藤公の富士の山に、いかなる特色異彩があるかといえば、政治外交である。
財政経済である。立憲法治国において、為政家の技量を、縦横無尽に発揮するの能力は、日本の為政家中、いかにしても、伊藤公を第一に推さねばならんが、今日の世の中では、いかに為政家として国内法制の上に働く能力ありといっても、世界に向って働く外交の手腕がなかったならば、第一流の為政家たることは出来ない。
群為政家に卓絶のゆえん
現時列国が、各自その軍備にきゅうきゅうとしているのも、皆外交あるが為めで、外交がなければ内乱に備えるだけの兵力で沢山である。内乱がほとんど其の跡を絶った今日、国費の約三分の一を軍備に費やすのは何のためか。
外交あって、国防を厳にするの必要があるためで、世界列国が、人道主義から平和会議などを起しても、世界絶対の平和は、いまだ容易に望むことが出来ない。果してしからば、今の世に為政家たるもの、外交の大手腕を備えなければ、到底大為政家たることは出来ない。
しかるに為政家としての伊藤公は、この外交を以て、最も得意の長所となす上に、為政家に無くてはならぬ、財政経済の学と才を兼備しているのであるから、公の群為政家に卓絶するゆえんは全くここにある。
伊藤公の財政の大才幹世間は余り知らぬが、わが輩の眼から見れば、日本の財政家というものは、伊藤、井上馨、松方正義の三人である。
松方侯は長い間の実験家。井上侯は困難紛糾の際に処して、ほとんど不抜の忍耐勇断を以て一種応変の才略を揮う怪腕を備えているが、伊藤公に至っては、松方侯の実験もなければ、井上侯の怪腕も示す機会がないため、財政家としての公の手腕は、世に認められないが、公は無論経済学者ではないにせよ、学問論理の才に長じて、事起れば平和の時にも、混雑の場合にも、学術的に研究し、組織的にこれを処理する才幹をもっている。
わが輩はかって財の局に当って、伊藤公、井上侯、松方侯の助けを受けたことがあって、よく三人の財政家たる技量を認めている。
生存財政家中の優秀者
松方侯は前述の実験家。井上侯は応変の電光石火的技傾。伊藤公は学術的組織的の才幹。
三者三様の相違はあるが、とにかく、日本生存の財政家中、その優秀なものを求めれば、伊藤、井上、松方の三人であるにかかわらず、伊藤公の、財政の技価を知らない人の多いのは、これを松方、井上両侯に任せて、自己は最も得意の外交方面に向われたからで、公が財政家でないのは、出来ないのではなく為さないのである。財政を知らずして、第一流の為政家たることは断じて出来ない。
三者三様の相違はあるが、とにかく、日本生存の財政家中、その優秀なものを求めれば、伊藤、井上、松方の三人であるにかかわらず、伊藤公の、財政の技価を知らない人の多いのは、これを松方、井上両侯に任せて、自己は最も得意の外交方面に向われたからで、公が財政家でないのは、出来ないのではなく為さないのである。財政を知らずして、第一流の為政家たることは断じて出来ない。
公の第一流の政治家たるは、全く外交財政の才幹を兼ねているが為めで、わが輩が伊藤、井上、松方の三者を、日本財政家中の、優秀なる者というゆえんである。
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