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★『2017年は世界大乱、アジア激震の幕開け』-『トランプ大統領誕生で『日本沈没は加速されるか』、「しぶとく生き抜くか」の瀬戸際』(上)

      2016/12/15

 

トランプ大統領誕生で『日本沈没は加速されるか』「しぶとく生き抜くか」の瀬戸際(上)

 

前坂俊之(静岡県立大学名誉教授)

 「トランポリズム(Trumpolism/トランプ政策を指した俗語)

はどこまで実行されるのか、世界をかたずを飲んで見守っている。(1)

                                              月刊『公評』82017年1月号)掲載

 

(以下の原稿は11月20日までの情勢を分析して書いたものです)

トランプ氏当選に世界は震え、おののいた。

この恐怖は「Brexit」(英国のEU離脱)に次ぐ、グローバリズムに対してイギリス、アメリカが「NO!」を突き付けたものであり、時代潮流へ「棹をさした」逆転現象である。

グローバリズムをいいかえるとその対立―「国際化対孤立化」、「知性主義対反知性主義」「白人対有色人種」「難民、移民受け入れ対拒否」「自由貿易対保護主義」「人権尊重対差別」「平和対戦争」「理想対現実」「革新対保守」「老人対青年」などのさまざまな矛盾、2律背反で、世界は四分五列の分裂の危機に直面しているといえる。

 

イアン・ブレナー(国際政治評論家)は「パックス・アメリカーナ(米国の力による平和)」は1945年に始まり、2016年の米大統領選で終わった」と語るように、これまでの国際秩序が崩壊し、リーダー不在の「Gゼロ」の世界となるのか。

トランプ大統領が正式に誕生する2017年1月20日のことだが、「トランプ旋風」の行方はどうなるのか、 2017年の国際政治の日程ではEUのイタリア、フランス、ドイツ、などで国政選挙があるが、これにどう跳ね返るのか。 世界はかたずをのんでその行方を見守っている。

この原稿の執筆は11月20日までのもので、この間にも、トランプ陣営の政権具体化は混乱しながらもすすんでいる。 トランプ氏が公約のトップに掲げた過激な「不法移民のカベを築いてシャットアウトする」計画では、まず「犯罪歴のある200万人以上の不法移民の強制退去」や「テロ発生地域からの移民の一時停止」を就任初日に実施すると述べている。

医療保険制度改革(オバマケア)は即時廃止を明言していたが、11月11日のオバマ大統領との会見後は、「再検討する」と柔軟な姿勢に変化した。 また13日には大統領首席補佐官にライアンス・プリーバス氏(44)=共和党全国委員長=を起用する人事を発表した。 本誌の発売(12月15日)には確定している事項には触れず、今後、大きな問題となりそうな「日米同盟」の行方と「TPPなどの経済問題」について、どうなるのか考えていきたい。

「自由貿易主義」対「保護主義」の行方はどうなるのか

 

トランプ次期大統領が公約通り、NATOや日米同盟関係を見直し、TPPや貿易協定を破棄すれば、間違いなく、アメリカは孤立主義へ大きく転換し、国内経済優先の保護主義的な傾向がまし、『経済のブロック化』が進み、世界経済に大きく影響を与えることは間違いない。

しかし、これは、共和党、民主党、世論の多くが「トランプ政策」に異議をとなえて、反対しているためで、大統領になったトランプ氏が公約をどこまで実行されるかは、いまのところ不透明である。 ただし、トランプの『孤立主義』がここまで支持をあつめたのは、米国の伝統的な『孤立主義』が再び、よみがえってきたといえる。

トランプの「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」は「モンロー主義」(第5代モンロー大統領の唱えたものアメリカの孤立主義の別名)への回帰である。 もともと、米国の伝統的な『孤立主義』はワシントン初代大統領以来のもので、英国、フランスなどの欧州各国との独立戦争によって多くの犠牲者を出したことから、ヨーロッパ各国とは相互内政不干渉を宣言して1823年に「モンロー主義」に閉じこもった。

 

米国を決定的に変えたのが、1914(大正3)年の第一次世界大戦で、ウィルソン大統領がそれまでのモンロー主義を捨てって参戦し、約210万の兵力を欧州の戦場に派遣して米国主導で、ドイツなどに勝利した。 大戦後、ウイルソンは1920(大正9)年、世界最初の国際平和維持機構「国際連盟」の設立にリーダーシップを発揮したが、「モンロー主義」に固まった米議会は国連加盟を否決、米国抜きのスタートになった。

経済ブロック化が第2次世界大戦の引き金になった。

この時、国際連盟の当初の常任理事国(英、仏、日本、イタリア)4か国。『武士道』の著者・新渡戸稲造が事務次長の1人になったのは学校の教科書で習った通りである。 この時点で、日本は先進国の仲間入りを果たして、国際協調主義を進んだ。

一方、米国はドイツ抜きの「米英仏伊日」の5ヵ国同盟関係を築きながら、言い出しっぺのアメリカは一転して『モンロー主義(一国平和主義)』に閉じこもってしまった。 アメリカが世界最大の経済大国(GDP)になったのは1904(明治37)年のこと。

フォードに象徴される自動車産産業が発展し、石炭、石油などの資源も豊富な米国は移民増、生産人口増、消費増によって一早く工業大国にのし上がり空前の繫栄にわいた。アメリカ黄金時代である。

ところが、1929(昭和4)年10月24日の「魔の木曜日」のウオール街の大暴落,その後の世界大恐慌によって、世界のブロック経済化が一層進んだ。 「資源、エネルギーのない、国土の狭い、人口増に悩む」日独イタリアでは植民地獲得のため軍国主義ファシズム勃興する。 この「経済ブロック化」からはじき出された結果、日本は満州事変(1931年昭和6)、満州国独立(1932)、日中戦争(1938、同12)、太平洋戦争(1941、同16)と米国との全面戦争への道を歩んだ。

 

アメリカは、19世紀後半から一貫して「中国市場の開放」をスローガンにしており、満州事変には、国際連盟と共に日本の侵略行為と非難し、日本は国際連盟から脱退し、「世界の孤児」と化した。 石油、鉄鉱石などを米国からの輸入に頼っていた日本は米側の経済制裁、経済封鎖によって「窮鼠猫をかむ」ように、真珠湾攻撃(1941年12月)に踏み切った。わずか70年前の苦い歴史である。

結局、超大国アメリカの「モンロー主義」「1国平和繁栄主義」『経済のブロック化』が世界大恐慌、第2次世界大戦の引き金となった。 米国は1939年(昭和14)に、ヒトラーのポーランド侵攻による第2次世界大戦が勃発しても、モンロー主義で動かず、イギリスがナチドイツの猛攻で敗北寸前になって、チャーチル首相からの強い要請があっても、米国は参戦しなかった。

この「巨人の眠り」を覚ましたのは日本の真珠湾攻撃の一撃である。

アメリカの戦後70年の軌跡は「戦争の歴史」その巨大なツケが来た・・

2001年の9・11(アメリカ同時多発テロ事件)の段階でアメリカ国民が真珠湾を思い出したという指摘は、このような歴史的な背景がある。 逆に言えば、真珠湾攻撃が「孤立主義」から米国を国際政治へと覚醒させて「世界の警察官」「ナンバーワン・スーパーパワ―(覇権国)」にのし上げた。

その後の米国は欧州再建のための「マーシャルプラン」(1944年創設、国際通貨基金共に、第2次世界大戦後の金融秩序制度の中心を担う)、「国際連合創設」(1945年10月)、「世界銀行」と矢継ぎ早に立ち上げた。 米国が孤立主義からの脱却と国際政治における「米国の世紀」をスタートしたのは、トルーマン大統領による決断である。

米国は1949年には北大西洋条約機構(NATO)を創設、50年には国連軍を率いて朝鮮戦争を戦った。 日本とも安全保障条約を結び、米軍は欧州と日本、韓国に駐留し続けた。 その後のソ連・中国共産国家との冷戦、ベトナム戦争、湾岸戦争、2001年の9・11からの中東へのコミット、イラク戦争、アフガン戦争から、対テロ戦争と『底なしのドロ沼の戦争』に足を取られ、70年が経過した。

この間の巨額の戦費の負担、財政赤字、米国の巨額の富の喪失を招き、その余りのツケに嫌気をさしたアメリカが『孤立主義』へUターンしたのである。 いずれの国家にも興亡のサイクルがある。 コンドラチェフのサイクルではないが約50-70年おきのサイクルである。

19、20世紀で見ると、「ソ連崩壊」は70年、「大日本帝国の興亡」は70年、「ヒトラーナチ帝国」は25年、中近東、アジア、中南米の独裁政権の場合はせいぜい2,30年である。 今回の「トランプ・サプライズ」は米国の1国覇権主義の終わりの始まりともいえよう。このトランプ『孤立主義』はどこに向かうのか、目を離せない。

当初、「泡沫候補」とみられていたトランプ氏は、なぜ当選できたのか。

今回のトランプの支援者には多くの退役軍人が参加しており、票を入れたので当選したといわれる。 ちなみにイラク戦争、テロとの戦いでの米兵戦死者は約7000人、戦傷者は10万人に上り、この戦費、戦傷者のその後のケアーを加えると300兆円を超え、国家財政破たん寸前となった。

それに、金融危機以降に、上下の格差はいつそう拡大した。移民流入で、職を奪われた白人中流、下流階層、労働者の不満が鬱積し、世論調査でとらえられない隠れトランプ支持者が増えていたという。          

つづく  

 - 人物研究, 現代史研究

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