「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日本の新聞が伝えた日英同盟」④桂首相、小村外相か貴衆両院で報告〔明治35年2月13日 時事〕●『『東洋の平和と清国、朝鮮領土保全のため』〔明治35年2月13日 時事新報社説〕』
2016/12/15
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」-
「日本の新聞が伝えた日英同盟」④
桂首相、小村外相か貴衆両院で報告〔明治35年2月13日 時事〕
日英協約全文 昨日、桂総理大臣は貴族院に於いて、小村外務大臣は衆議院に於いて報告したる日英協約の全文、左のごとし。(全文は官報の通り)
桂総理大臣の演説
本大臣は今日この議場に於きまして、国際上重大なることを諸君に御報告を致しますのは、本大臣の光栄と致す所でござります。
そもそも政府は、東亜の事局に鑑み、帝国の利害を慮りまして、帝国と利害をする所の与国と、緊切なる関係を結ぶことを有益なりと認めました故に、昨年来、英国政府としばしば交渉を重ねました結果、英国政府と協商を締結することを得ました。
故に勅裁を経まして、本年一月三十日、倫敦(ロンドン)に於きまして、帝国の全権委員をして英国の全権委員と全合し、共に協約書に調印致しました。
ここに、その条約の全文を朗読致します。
これが今度英国と締結になりました条約でござります。そもそもこの本条約の目的は、全然平和に致しまして、その両国に於ける清国の権利、及び韓国を擁護するに在るのでござります。
しかして清国の領土保全は、確かに列国の是認する所でございまして、ここ締盟をなすに外ならぬのでございます。故に本条約は列国に於きましても、決して異議を挟むことはなかろうと信ずるのでございます。(拍手起る)
右終わり、近衛議長より更に特別委員選定の氏名を報告し、散会を告げたるは午前十一時五十分なりき。
小村外務大臣の演説
今回、帝国政府と英国政府との間に成立致しました協約の件に関して、その顛末を諸君に御報告するのは、本大臣の光栄とする所でござります。
政府は東亜の事局に鑑み、帝国の利益を慮り、帝国と利害を同じくする与国と、緊切なる関係を結ぶことは有益なりと認めましたるにより、昨年以来英国政府と数次交渉を重ねましたるが、
その結果として、両国政府の意思幸いに一致致しましたるにより、勅裁を経て、本年一月三十日、我が全権をして英国の全権委員と会同し、共に一の協約に調印致させました。ここにこの協約の全文を朗読致します。
本協約の条文は只今朗読致した通りでござります。
この協約の目的は、全く極東の平和をますます軍国にし、同時に清韓両国に於ける帝国の利益、及び権利を擁護すると云うのでござります。
また清国の領土保全、門戸解放等は、列国のことごとく是認する所でありますからして、本協約は、必ず列国の異議を招くようなことはなかろうと信じて居ります。(拍手喝采起る)
外務大臣の演説了り、日程に人らんとするや、竹内正志氏は、軍人分捕り問題に関する質問に対する政府の答弁なきは、議院を侮蔑するの意か、事件を軽視するか、二者その一にあらん、本日中何分の確答を求むと述べ、それより日程に入る。
『東洋の平和と清国、朝鮮領土保全のため』〔明治35年2月13日 時事新報社説〕
日英協約 我が帝国と英国との観に締結せられたる日英協約は、昨日を以って発表せられたり。
その全文は別に記載したるごとく、極東の現状及び平和の維持を希望するがために、清韓両国の独立と領土保全とを維持すること、及び該二国に於いて各国の商工業をして均一の機会を得せしむることに関し、日英両国の間に利害関係を同じうするを以って、六個条の協約を締結したるものなり。
すなわち第一条は、締盟両国は清韓の独立を承認したるを以って、右二国のいずれに対しても、全く侵略的趨向に制せらるることなきを声明すれども、両国共に清韓に特別の利益を有し、
殊に日本は韓国に於いて政治上及び商業上に格段の利益を有するを以って、両国はその利益が他国の侵略的行動もしくは清韓二国内の騒擾のために侵害せられたる場合には、
その利益を擁護するため必要なる措置を執り得べしと規定して、両国共に清韓に於ける或る場合の自由行動を承認し、
第二条は、両国の中の一方が、前記の利益を防護するために或る他の別国と戦端を開きたる場合には、一方は厳正申立を守り、併せて他国の交戦に加わるを妨ぐることに努むべしと規定
第三条に於いては、更に一歩を進めて、右の場合にもし他の一国もしくは数国が交戦に加わるときは、他の締盟国は援助を与え、協同してその戦闘に当り、講和もまた相互合意の上に於いてすべしと規定したるは、
かの欧洲に於ける独、墺、伊の三国同盟が、もしも同盟中の一国が露国と戦端を開きたるときは、三国協同してこれに当り、露国外の他国と交戦の場合は中立を守るべしと規定したると、ほぼ精神を同じうすれども、
彼はもっぱら露(ロシア)の一国を目的としたるに反し、これは敢えて或る一国を目的としたるにあらず、殊に厳正中立を守るの一事のごとき、彼に見ざる所にして、この協約の性質の平和に在るを知るべし。
第四条に、両国は他の一方と協議を経ずして、上記の利益を害すべき別約を他国となさざるを約したるは、もとより至当の個条にして、
また第五条に、両国に於いて上記の利益が危殆に迫れると認むるときは、相互に充分にかつ隔意なく通告すべしと規定したるは、この協約が真実両国相互の同情、同利害に出でたるを表するに余りあり。
協約の趣旨、目的は右のごとくにして、思うに、今の列国にして東洋に利害の関係なきものはあらざれども、なかんずく最大の利益を有すると同時に、最大
の勢力を有するものは、日英の両国を推さざるを得ず。
今この二大国が、清韓の独立保全と各国の商工業に均等の機会を得せしむるを目的として、ここにこの協約を結ぶに至り、しかもその協約たる、もっぱら平和を旨として、かの三国同盟のごとく、単に攻守を目的とする秘密的のものにあらずと云う。
いやしくも東洋に利害の関係ある列国にして、これに同意を表せざるものなかるべし。この条約に対しては、満世界いずれの国に於いても異議なきは、我輩の信じて疑わざる所なれども、
もしも万々一これに異議を唱え、清韓の独立を危ううし、もしくは特殊の利益を護んとする者もあらんか、その同盟の力を以ってすれば、東洋は勿論、世界に於いても最有力の地位に立つ日英両国を敵とせざるべからず、
否、東洋平和の維持を目的とする世界の列国を敵とせざるべからず。天下広しといえども、かかる無智無謀の挙動を敢えてするものあるべしとは、ほとんど想像の及ばざる所なれば、
東洋の平和は、この協約と列国との同情によりて、今後永久に維持せられ、清韓の領土保全は申すまでもなく、各国の商工業も均等に保護せられて、ますますその発達を見るや疑うべからず。
我輩は日本国民として協約の成立を喜ぶのみならず、世界の平和、進歩のためにこれを祝せんとするものなり。
しこうして、更にこの協約の締結せられたる次第をいかんと云うに、我が国の主義が東洋の平和、清韓の保全に在るは、今更言うをまたざる節なれども、今の世界に立ちて実際にその主義を実にせんとするには、孤立独歩以って目的を
遠すべきにあらざれば
「必ずや利害関係を同じうする他の強大国と歩趨を共にして、協同提携、事に当るめ覚悟なかるべからず。
すなわち同盟の必要なる所以なれども、同盟はなお結婚のごとし、一方に於いては充分の意あるも、他の一方に於いて充分にこれを信じて、終身の歓を共にするの決心あるにあらざれば、行わるべからず。
日清の戦争以来、我が国人が日英同盟の必要を認むると同時に、英国に於いても往々その事を唱うる者なきにあらず。
双方の間に自ら一点の情恩の相通ずるものありながら、実際になお協約の成立を見ざりしは、我が国力に対し、未だ充分の信用を措かざるの意味もありしならん。
しかるに爾来、我が商工業の発達日に著しく、殊に海陸の軍備ますます完備を加えて、次第に国の重きを成し、一昨年の北清事件のごとき、その実力を世界に発表して、列国をして実際にこれを認めしめたるは、協約の成立を速やかならしむるの動機たりしや疑いを容れず。
すなわち英国のごとき、従来外交上に独立独歩を旨として、他国と同盟したるの例ははなはだ稀れなるに、今や我が国に対し思い切ってかかる協約を結ぶに至りしは、時勢の必要に出でたりとは申しながら、自ら我が国力に重きを置き、
これに信頼したるの実を知るに足るべし。
されば今回の協約は、もっぱら平和の目的に外ならざれども、もしも我が国民にしてひたすらこれを頼みにして、日英同盟既に成立したる上は、天下また思うるに足るものなしとし、事を処するに軽忽に失し、或いはかりそめにも軍備の用意を等閑に付することもあらんか、実際に同盟の効力を空しうするの成り行きあるべし。
いかんとなれば、両国の同盟は互いに相依り相助けて、双方の、利益を全うするの目的にこそあれば、もしも軽率事を誤るの挙動あるか、または自立自衛の計を疎にして、単に他に頼らんとするときは、他の一方に於いては、毫もこれがために利する所なければなり。
すなわち同盟の成立に就いては、我が国民たるものは、商工に軍備にますます国力を発達発輝せしむるに、勉むるの責任を加重したるものと心得、勤勉奮励、大いにその本を務めで、同盟の効力幸水久に収むるの覚悟こそ最第一の要務なれ。
協約の第六条に、本協約は五個年効力を有す云々の規定あれども、日英両国の利害と東洋の平和のために謀れば、この協約の効力は自ら永久に持続するの必要あるや疑うべからずとして、終わりに臨み、更に1言すべし。
今回の協約は、両国の合意に成りたるに相違なしといえども、かくまでに運びたる当局の苦心経営は尋常ならずして、局外に於いて容易に解すべからざるの苦衷を存したることならん、
我輩のひそかに察する所にして、現当局者は勿論、倫敦註割の現任公使及び前任公使の功労は、国民の大いに記憶すべき所なると同時に、我が国が外国と同盟の約を結びたるは、立国以来実に空前の事柄にして、
日本が一大強国たるの実はここにいよいよ確かめられ、文明富強世界第一の称ある英国と相提携して、以って東洋平和の事に当るべしと云う。
我が国民たるものは、ますますその責任の重きを体し、全力を挙げて前途の経営に従事すべきものなり。
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