★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」-「日英同盟はなぜ結ばれたのか」①1902(明治35)年2月12日付『英タイムズ』『大英帝国と日本、重要な協約』(日英同盟の締結)
2016/12/01
「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」
「日英同盟はなぜ結ばれたのか」①
1902(明治35)年2月12日付『英タイムズ』
『大英帝国と日本/重要な協約』(日英同盟の締結)
昨日議会報告書(日本1902年第1号)が発行され,その内容は,東京のイギリス公使に対し, 以下の送達文書とともに,大英帝国と日本の間で1902年1月30日締結された協約を送付したものだ。
外務省 1902年1月30日
拝啓,私は本日,日本公使との間で,英日間の協約を締結したが,そのコピー1通を本送達文書に同封する本協約は,過去2年間に極東で起こったできごと,および英日両国がこれらに対処するにあたり果たした役割の結果と見な
すことができよう。
義和団事件の勃発と北京の外国公使館への攻撃に端を発した中国における紛争と事変を通じ,両国は密接かつ絶え間ない連絡を保ち,似たような意見のもとに行動してきた。
両国はそれぞれ,中国の保全と独立を維持すべきであり,中国内部またはその隣接地域の領土的現状を乱すべきでなく.すべての国が,同地域および中国の境界の内部で,商工業を発展させるため均等な機会を与えられるべきであり,また,平和を回復するだけでなく,将来にわたり維持すべきであると望んできた。
両国政府は頻繁に意見交換を行った結果,また両者の極東政策に相違がないことを認めた結果,双方とも,その共通の政策を拘束的な効力のある国際協約に表明すべきであるとの希望を表明するに至った。
われわれは協約書の前文に.すでに触れたような両国の共通政策の主な目的を記録するのが望ましいと考え,第1条において,ともども,中国においても,朝鮮においても,侵略的な意図は一切持たない旨をうたっている。
しかし,上記のような両締約国の利益が脅かされることがあれば,いずれの側も,それらの利益を防護するのに不可欠と思われる措置をとることが許されようとの,両国の見解を記録にとどめることも必要であろうと考え,
また,こうした予防措置が必要となり,また正当に実施し得るのは,第三国による侵略的行為ないし実際の攻撃があった場合だけでなく,いずれかの締約国がその国民の生命,財産を守るため,介入することを必要とするような性格の騒乱が起こった際も同様である旨の文言が加えられた。
締約国が相互に負う主たる義務は.そのいずれかが戦争に入った際は厳正中立を守り,またいずれか一方が2か国以上の敵を相手にした際は,他方に援助を行うというものである。
協約のその他の条項においてはいずれの締約国も,相手と協議することなく,協約に記載された利益を損なうような取決めを第三国と結ばないこと,また,それら利益が危険にさらされた場合には,双方は必ず十分かつ率直に連絡し合うことを約束している。
最終条項は協約の期限についてで,5年を経過した後は,いずれの締約国も,1年間の予告をもって,これを終結させることができる。
イギリス政府をしてこの重要なる協約締結を決意せしめるにあずかって力あったのは.同協約が,その適用地域において,侵略的ないし利己的な傾向と見なされ得る条項を含んでいないとの確信である。
これは純粋に予防措置として結ばれ,いざという場合に,イギリスの重要な利益を防衛するため発動されるものだ。それは他の諸国の現在の立場や正当な利益をいささかも脅かすものではない。
その反対に,締約国のいずれかに相手を援助する義務を負わせている部分が作用するのは,一方の締約国が双方に共通の利益を守るため戦争をせざるを得なくなったとき,同国が戦争に至った状況が自ら紛争を求めたためではないことが確定したとき,
さらに,同回が自衛の交戦において1国でなく,敵対的な国家連合に脅かされたときだけである。
イギリス政府は,協約が英日両国の相互の利益になるものと,また,平和の維持に寄与し,平和が不幸にして破られた場合には,戦争の範囲を限定する効果を持つものと信じている。
敬具
ランズダウン
―――――――――――――――――――
1902年2月12日『英タイムズ』―『日英同盟への経過、解説』
英日間の重要な協約の全文が,その中に表明された両国政府の共通の政策を提示したランズダウン卿の東京註在英公使あて送達文書とともに.咋夜遅く発表されたが,わが国はこれを大いなる満足をもって迎えるだろう。
前文は,英日両国が共に,すぐれて平和的かつ保守的な目的を志向していることを短く説明してし、る。前文は.両国の動機まひたすら「極東の現状および全般的平和を維持し」また「中国と朝鮮の独立と領土保全を維持するとともに,両国においてすべての国に商工業の均等な機会を保障する」ことに両国が持つ特別の利益を防護したい願望であると宣言している。
第1条は,中国,朝鮮のいずれにおいても侵略的な傾向を持つものではないと断った上で,両締約国の特殊利益の相互承認を盛り込んでおり,大英帝国のそれは主として中国に関するものであり,日本については,同国が「中国に有する利益に加え,朝鮮において,政治,商業,工業的に,特殊に利益を持っている」と述べている。
この状況下では,英日いずれも,それらの利益が.外部の侵略によるか,内部の騒乱が自国民の生命財産を危険にさらすかして,脅かされるのに備えて,保護する措置をとることが許されよう。
第2条と第3条は.いずれかの当事国が,こうした利益を守るためある1国と戦争に巻き込まれた場合には厳正中立を維持し,またいずれかが2国以上の敵に立ち向かわれた場合には相互援助を行うことを定めている。
第4条では,両国は協議なしに,第三国と別個に,上記の利益を損なうような取決めを結ばないことに合意しており,第5条では,それら利益が危険にさらされたときはいつでも十分かつ率直に連絡し合うことを約束している。
最後の条文は,協約が調印(1月30日に行われた)とともに発効し,同日から5年間有効とすると規定している。
いずれか一方が期限満了の1年前に終了を通告しない限り,協約は同様の終結通告集件のもとに1年ずつ更新するものとし,また,期限満了日になったとき,いずれかが実際に戦争を行っている場合は,同盟は,自明のこととして,和平が締結されるまで存続するものとする。
この協約と,それに伴う責任の重要性は,議論の余地がない。またそれが防護する利益の大規模なことも,言うまでもない。現在.世界中で中国以上に,われわれのこの偉大な商工業帝国の維持に不可欠な平和的活動の,無尽蔵の場を見いだし得るところはない。
中国の排外の壁を最初に破ったのは大英帝国であり,中国の海岸と河川に担って繁栄する条約港の基礎作りに最も大義な役割を演じたのはイギリスの先駆者の努力だったし,その繁栄はすべての国の利益になっている。
イギリスの貿易,産業,海運が中国の対外開放からあげた利益は多大であるとはいえ,第1世代の先躯者の努力と中国に投下された莫大なイギリス資本も,まだ種に過ぎず,それが大収穫をもたらすのは,中国がその膨大な天然資源を自由な開発に供するときだ。
現在.中国は運命の転換点にある。もし義和団事件の惨めな結果の教訓が実を結んだのなら,もし宮廷が最良かつ最も進歩的な中国人役人の進言に従うなら,まじめに懸命に内部の粛正を試みるなら,中国はまだ自己救済を成し遂げられるか’もしれない。
中国の弱さは,武力による近道でその潜在的な富を独占できると想像する列強にとって大いなる誘惑となってきたし,今後ともそうなりかねず,外部からいかに支援をつぎ込もうとも,中国自身が弱ければ,長い目で見れば,その帰結から中国を守ることはできまい。
だがもし,われわれが望むように,中国自身の中に,国の活力を回復することができる勢力があるならば,彼らに時間を与えて能力を発揮させることが最も重要だ。
この見地から,英日協約は必ず両国の北京に対する進言に重みを加えるだろうから,中国情勢に最も好影響を及ぼすものと推測される。
ランズダウン細が指摘するように,英日両国は,義和団事件の結果2年前に起こった紛争を通じ密接に絶え間なく連絡を保ち,一貫して意見を同じくして行動してきた。北京の公使館の防衛と救援においても,両国の協力は親密かつ心がこもり,これはその後の北京の難交渉の際も変わらなかった。
一部の中国人の地方高官の扇動により,無防備のヨーロッパ人の,ほとんどが宣教師の男女と子供が無残に虐殺された事件で.これら高官の処罰を列強が要求したことに関し.日本がとった行動ほど.同国の文明の高度の利益への忠誠をいみじくも示した例をあげることはできない。
当時日本もロシアもともに中国の宮廷に接近を図っていたが,これは李鴻章とロシア公使館がまとめた満州協定の批准を,後者は確保し,前者は防止しようとするためだった。
ロシアは独自の目的から,この件で列強の協調から脱過し,ラムスドルフ伯爵はイギリス大使に,宣教師の殺害はロシアの関心事ではないと公然と表明した。
日本は名目的にすらキリスト教を標ぼうしていない国として,同様の態度をとっても許されただろう。
だが日本は,問題が国際的な誠意だけでなく.中国における外国人の安全という問題全体にかかわることを理解し,中国の宮廷の反感を買う危険を冒して,
イギリス公使が公使会議を代表して起草した要求に全面的な支持を与え続けたのだ。
英日のこの意見と行動の一致は.交渉のほぼすべての段階で明らかだった。そこで,ランズダウン卿が言うように「両国政府は頻繁に意見交換を行った結果,また両者の極東政策に相違がないことを認めた結果,双方とも,その共通の政策を拘束的な効力のある国際協約に表明すべきであるとの希望を表明するに至った」のだ。
この協約の目的は,両国に共通の願望の達成を保障することで,それは「中国の保全と独立を維持する,中国またはその隣接地域で領土的現状を乱さない,それらの地域内および中国の境界内で,すべての国に
商工業発展の均等の機会を与える,平和を回復するだけでなく,将来にわたり維持する」ことだ。
この政策はだれをも脅かすものでなく,まさに,すべての大国が公に順守を誓約した諸原則を盛り込んだものに過ぎない。この政策が今や英日協約で厳粛に
確認されていることを最も歓迎するのは合衆国だろうとわれわれは信じており.最近の中国の事変における合衆国の態度は一貫して,英日両国を動かしたのと同じ考えから発していた。
その他の国においても,同協約が誤って解釈される理由はない。中国においてイギリスとフランスの利益に重大.な相違はなく,両国は中国で一再ならず密
接な同盟のもとに協力してきた。1900年の英独協約も,より範囲が限定されているとはいえ,同じ基本原則に基づいている。
イタリアとオーストリア=ハンガリーの極東における関心は政治的というより商業的なものだが,両国においても,すべての国に門戸開放を保障することを明確に意図した協約が好感をもって迎えられないはずはない。
ロシアについては,同国の政治家が折に触れはっきりと述べているように,そ
の関心は若干の面で性質が違うが.英日協約におけるように,わが国の政策を明白に確固と表明することで,長い目で見れば,まずまずの理解が促進されていくに違いない。
ロシア政府がくり返し侵略的意志なしと否定しているのに,ありという必要はない。しかし,近年イギリスの極東政策にあまりにも頻繁に見られたように,態度が定まらず,確固とした目的を欠くことほど,ときにロシア外交の特徴である冒険活動の気分を助長し,それを思いもよらぬ混乱を招くような企図に誘い込むものはない。英日協約は.わが国の政策の実体について一切の誤解の可能性を排除するとともに,ロシアであれ,その他いかなる国であれ,わが政策に筋の通った異議を唱えられないことを示すものでもある。
したがってわれわれは,英日の政策の保守的な目標を正確に定義し,両国の北京に対する影響力を合体,教化することにより,同協約は極東と全世
界の平和保全に役立っと主張してやまない。しかし両締約国の平和的意図に背くような万一の事態が起こるなら,西と東の2つの島国のこの防衛同盟から予想すべき結果に,われわれは信頼をもって期待することができる。
日本の海軍と陸軍が最近の北部中国の作戦で示した武勇,能力、人道性のため,万一必要とあれば,イギリスの兵士は安心して日本の同盟軍を味方と頼んでよく.これと肩を並べて戦うことを誇りとするだろう。
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