日本リーダーパワー史(702) 日中韓150年史の真実(8)山県有朋首相は『国家独立の道は、主権線(日本領土)を守るほかに利益線(朝鮮半島)を防護すること」と第一回議会で演説したが、これは当時の国際法で認められていた国防概念でオーストリアの国家学者・シュタインの「軍事意見書」のコピーであった。
日本リーダーパワー史(702)
日中韓150年史の真実(8)
「福沢諭吉の「日中韓提携」はなぜ「脱亜論」に一転したか」⑨
<山県有朋首相は『国家独立の道は、一つは主権線
(日本領土)を守る、
もう一つは利益線(朝鮮半島)を防護する」と第一回議会で
演説したが、これは当時の国際法で認められていた
国防概念で、オーストリアの国家学者・シュタイン
の「軍事意見書」のコピーであった。
前坂俊之(ジャーナリスト)
オーストリアの国家学者・シュタインの国際法で認められた説を援用する。
この朝鮮への『利益線』の確保は、日本独自の朝鮮侵略の第一段階と思われがちだが、それは違う。これは当時の万国法・国際法に照らして、山県の指令で『陸軍参謀本部』(川上操六参謀本部次長)の福島安正少佐らが慎重に極東地域紛争の原因、歴史、将来の見通しのシュミレーションを行った結果の戦略分析からまとめた国防計画の一環であり、山県首相(禅陸軍参謀総長、陸軍大将)が国家危機管理を演説したものであった。
その根拠になったのはローレンツ・フォン・シュタイン(1815-1890)で、オーストリアの国家学者であり、専門は歴史法学だが、国民経済学、財政学、行政学なども修めた碩学である。シュタインは憲法調査の目的でヨーロッパに滞在した伊藤博文が、約2ケ月にわたりシュタインに師事したことで知られる。
以下は『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.5, 100-111 (2004) 明治期日本における
国防戦略転換の背景 -朝鮮を「利益線」とするに至るまで-
村中 朋之 日本大学大学院総合社会情報研究科』の論文からのも孫引きである。
村中氏に感謝する。
http://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf05/5-100-111-muranaka.pdf
大山梓『山縣有朋意見書』(原書房、1966 年)の『斯丁氏意見書』などを参考にすると、
伊藤は斯丁氏(シュタイン)に心酔し、彼を明治政府の最高顧問として日本に招聴しようとした。明治16年10月、シュタインは在墺太利日本公使館付として日本政府に雇い入れられ、山県有朋も明治21年12月から翌年10月まで、地方制度調査の目的でヨーロッパ諸国を外遊中にシュタインのもとを訪問して、教えを乞うた。
この際、山県が『軍事意見書』を求めたのに対してシュタインがこれに応えたのが『斯丁氏意見書』である。この2人の間を通訳したのは当時、ドイツ領事館駐在武官をしていた福島安正少佐であった。福島は山県の伝令史(通訳兼情報参謀)であり、超機密情報は文書ではなく、口頭で山県と川上操六に報告していた参謀本部きっての情報将校であった。
。山県の「利益線」概念はこの時のシュタインの意見にある「利益疆域」概念のコピーしたものであった。
シュタインは「権勢彊域」(主権線)と「利益彊域」(利益線)とを、こう定義した。
『凡ソ何レノ国ヲ論セス又理由ノ如何ヲ問ハス、兵力ヲ以テ外敵ヲ防キ以テ保護スル所ノ主権ノ区域ヲ権勢彊域、ト謂フ、又権勢彊域ノ存亡二関スル外国ノ政事及軍事上ノ景状ヲ指シテ利益彊域、ト云フ故二軍事ノ組織ハ二個ノ基礎二根拠セスンハアル可ラス、即チ第一自国ノ独立ヲ保護シ自己ノ権勢彊域内二於テ他人ノ襲撃ヲ排除セサル可ラス、第二危急存亡ノ秋二際シ万己ムヲ得サルトキハ兵力ヲ以テ自己ノ利益彊域ヲ防護スへキ準備ナカル可ラス(前掲村中論文)
シュタインは、当時の国際法によってこの「権勢彊域」(主権線)と「利益彊域」(利益線)の概念は認められているものだという。
『既に日本は西欧国際秩序という近代国際社会に身を置いた以上、例え自国の主権の及ばぬ領域であっても、その領域の動向が自国の独立にとって脅威となる場合は、自らその領域を「利益彊域」として兵力を以て防衛しなければならないという新たな国防概念であり、それは「外交上の干渉」と並び「軍事上の干渉」として当時の国際法が認めているものである』という。
その上に、日本の「利益彊域」(利益線)は「朝鮮」にあると述べた。これは山県をはじめ日本陸軍参謀本部の国防概念と同じ論理である。
『日本ハ其地形上ヨリ論スルトキハ、東亜二於テ陸戦ヲ為ス者アルモ又ハ大陸上所有主ノ更迭スルコトアルモ又、言ヲ換ヘテ言へハ露国ガ満州二進ムモ又ハ一時「ペトヂチ」湾二田ルモ、又ハ清英合シテ海陸トモニ露ト戦フモ我重大ノ目的ト為ス所二変更アルニアラサレハ、痛痒相関セサルカ如シ其目的トハ則チ朝鮮ノ占領是レナリ(前掲村中論文)
また、朝鮮の重要性についても、
『日本ノ外交利益士二於テ最モ重要ナルハ則チ比点二在ルコトヲ一言セサル可ラス、即チ愚考二拠レハ日本二於テ朝鮮ヲ占領スルニアラスシテ、各海陸戦闘国二対シ朝鮮ノ中立ヲ保ツヲ必要トス、蓋シ朝鮮ノ中立ハ日本ノ権勢彊域ヲ保全スルカ為メニ生スル所ノ総テノ利益ヲ満タスモノナリ、若シ一朝朝鮮ニシテ他国ノ占有二ナルトキハ日本ノ危険言フ可ラス故二、日本ノ利益彊域ハ朝鮮ノ中立ヲ認ムルニ在ルヲ以テ雖モ、之ヲ妨害セントスル者アルトキハカヲ極メテ之ヲ干渉セザレ可ラス(前掲村中論文)
これを、見てもシュタインの『軍事意見書』の通りの『山県外交政略論』が発表されたのである。このシュタインの意見書、山県の政略論の執筆者は山県本人ではなく。福島安正少佐が執筆し、山県が手を加えたものであろう。
以上、『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.5, 100-111 (2004) 明治期日本における国防戦略転換の背景 -朝鮮を「利益線」とするに至るまで- 村中 朋之 日本大学大学院総合社会情報研究科』の論文
http://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf05/5-100-111-muranaka.pdf
に大幅に依拠した『福島の知られざるインリジェンス』である。この国防概念の実行によって「日露戦争」の勝利をつかむことが出来たのである。
つづく
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